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第3部 君は僕を捨てないよね

76.帝都の男をかき集めろ! part1

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 皇女様のお誕生日パーティーの招待状をもらってから数日あまり。

 私はリリーナ姫から受けたある指令のために奔走する日々を送っていた。

「帝国のプリンセスを祝福する、またとない一大イベントよ! この間のように、何の準備もせずに失礼極まりない男に大恥をかかされるのは、ごめんですわ。今度は事前にパートナーを念入りに選んでおかないと」

 そう、前回のジョナスン皇太子様のご帰還パーティーで、彼女は会場でたまたま見つけたダンス相手が一瞬目線をそらせたというだけで大激怒。
 そのせいで大恥をかかされたと主張なさっていた。

「女騎士、お前も一応、帝国貴族の令嬢なのよね? なら、見知った帝都の男の1人や2人いるでしょ。その男たちの知り合いでも何でもいいから、プリンセスのバースデーまでにかき集めてきなさい!」

 早速こんなことを、皇女様から招待状を受け取ったその日に、姫は言い始めたのだった。

 こないだ決めた私の労働条件には、姫から無理難題を言われても、条件に合ってない内容ならお断りしてOKってことだったので、クロリラさんに伝えれば取りやめてもらう事も契約上はできるんだけど……

 これにはオイシイ話も付いてきてて、それは彼女の大好きなエステタイム、私がなーんにもする事が無いこの時間を、指令をこなすために使って良いっていう姫からのお墨付きをもらってるってこと。

 つまり、指令さえこなせば、あとは私の自由にしてもいい時間って事なのだ!

 彼女はとっても気まぐれなので、日によって前みたいに6時間コースでやったり3時間だったり、全然エステをやらない日もあったりする。

 そして、指令を受けた翌日は2時間のコースを受けることになった。

 姫のおそばから解き放たれた私は早速、自分が見知ってる帝都の男ってやつを思い浮かべて見たんだけど……

 1.アルフリード
 2.お兄様
 3.ヤエリゼ君

 ……こ、これくらいしかいないよ。

 アルフリードは珍しく姫と敵対しちゃってるし、1人は結婚してるし、1人は彼女ちゃんがいるし、もう無理だよね?

 でも、姫からの指令をよく思い出すと、その知り合いでも何でもいいって事だから、とりあえずこの3人に当たってみるしかない!

 ってことで、訪れたのは皇城。
 目的はアルフリードにこの件を話すため。

 だけど、彼は皇太子様の側近という、とっても忙しいお立場。

 こんなくだらな……じゃなくて、個人的な話のために公務のお邪魔をする訳にもいかないから、時間を割いてもらえるか分からないけど……

 皇城のメインの建物に入ると、以前は皇女様のだったけど今は皇太子様の執務室を訪れた。

 そこには前に来た時ほどではないけど、皇城で役職に就いているような男の人達がたくさん列をなしていた。

 どうしよう、またこの列の後ろに並ばなきゃいけないのかな……
 そう思って、皇族騎士さんがガードしている扉を指をくわえて見ていると、ギギッとタイミングよく扉が開いて、中からエリーナさんが話している声が響いてるのと同時に目に入ったのは、なんとアルフリード!

「あれ…… エミリア!? どうしたの?」

 彼は扉を後ろ手で閉めると、私の腕に手を添えて、人目につかない廊下の角に連れて行った。

「アルフリード、実はお願いがあるんだけど……今、どこかに行こうとしてたんじゃないの? 忙しいでしょ?」

 私が上目づかいでそーっと尋ねると、彼は微妙な笑みを浮かべて、少しだけ溜め息をついた。

「いや、ね。そこに並んでる人達はみんな、エリーナ姫と話をするのが目当てなんだよ」

 アルフリードは、皇太子様がエリーナさんにするみたいに、私の耳元でささやいた。

 えっと、つまり……皇太子様の聖女のごとく可愛らしい婚約者さんが、皇太子様の言ってる事を必ず通訳してくれる。

 それは漏れなく、誰でも、ここに並んでお仕事の話をすれば、エリーナ姫とお話するチャンスがあるってこと。

 え……皇城にお勤めしてる方々って、そんな下心を持った人達だったっけ?

 皇女様があのお部屋の主だった時はむしろ、皇女様よりアルフリードと好まれてお話してたように見えたけど……

 私が疑わしげな顔をしていると、彼はさらに話を続けた。

「それに、彼女は大学を出ているだけあって、頭がいいんだ。初日は僕やソフィアナがサポートしてあげてたけど、この数日は分からない事は直接、話に来た人に聞いて理解してしまうから、僕もソフィアナもやる事がないんだよ」

 そ、そんな……それって、つまり……?

「つまり、僕の役目は彼女に取られちゃってる、と言うことになるかもね」

 ーー!!

 これは、これは非常にまずいよ!

 ついに、皇太子様とアルフリードのりが合わなかったっていう、原作の秘密が解き明かされてしまったってことだよね!?

「アルフリード、そ、それじゃダメだよ! 何とかしないと……」

 私がタジタジしながらそう言うと、彼はグイッと顔を寄せてきて、私の目を見つめてきた。

「まあ、ここ何日もの間ずっと忙しかったし、ゆっくりする時間が増えたと思って前向きでいるけどね。ところで、僕に何か頼み事があるんでしょ? 何かな?」

 彼は、大して気にしてないという態度で、ものすごーく私と距離の近い所にいる。

 彼がこのまま皇太子様の側近から離れて皇城での力を失ってしまうような事態に陥らないように、対策を練らなきゃいけないのに、全っ然集中できない!

 もう、この事は置いておいて、まずは姫からの指令である、あの用件を伝えてしまおう。

「あの、実は……リリーナ姫が皇女様のお誕生日パーティーのパートナー選考会を開催することになったの。それでアルフリード、誰か知ってる人を何人か紹介してもらえないかな?」

 そう私が告げた途端だった。

 優しげで甘い眼差しだったのが、瞬時に眉間にシワを寄せた険しくて、とっても近寄り難い感じのものに変わってしまったのだ。

 こんな顔、ちょっと初めて見たよ……皇女様と手合わせしてる時や、狩りをしてた時に殺気立ってたのより、もっとあからさまで、気分がご不調だというのが、ストレートに伝わってきます。

「姫のその選考会には女騎士の君も、もちろん同行するんだよね? そんな男が何人も集まるような場所に無防備な君を投げ込む事なんか、出来る訳ないだろ!?」

 彼はそばにあった壁をドンッ! と拳で叩きつけた。

 へえぇ……怖い、怖すぎるよ、アルフリード!
 そんなに怒るなんて、これじゃあ姫のご機嫌まで損ねちゃうし、私は2人の板挟みでどうすればいいの?

 私はマジで怯えて、瞳に涙が滲んできたのが分かった。

 そんな私を見て、彼はハッと目を見開くと、私の頭を撫でた。

「ごめん、ごめん、エミリア。君の事情もかえりみないで、困らせるような事を言って。そろそろ、昨年の狩猟祭から1年たつから、一緒だったチームメンバーで同窓会じゃないけど集まろうかって話が出てたんだ。彼らにその選考会の事を話してみるよ」

 そうして正気を取り戻したらしい彼は、私の頭を撫で続けた。

 狩猟祭とは、18~20歳の帝国貴族の子息が強制参加となる、3年に1度開かれる伝統的サバイバルゲームのこと。
 チームメンバーとは、昨年3日3晩、山奥でぶっ通しで行われたそのイベントにより、生死を共に彷徨さまよったクジ引きで同班にされた仲間4人のことだろう。

 私が彼らを見たのは、その伝統行事から生還した時のボロボロの様子だったから、普段はどんな感じなのかは、よく知らない。だけど、普通に考えて高貴な貴族のご令息れいそくなのだから、普段はとっても小綺麗で凛々しい若者たちであるに違いない。

 よしっ! 4人確保!

「うん、これくらいだな」

 すると、アルフリードは撫でていたはずの私の頭を何度か角度を変えて、両手で抑え始めた。

「何してるの?」

 涙の引っ込んだ私が、彼に聞いてみると、

「君が姫に同行するのは仕方ないから、顔を隠しちゃえばいいかなって思って。かぶとを作ろうと思うんだ」

 彼は、さっき測っていた私の頭の大きさを自分の手で再現していた。

 兜! あの頭に被る、はがねで出来てるヤツね!

「皇族騎士団の制服が出来上がるなら、そっちに合わせて作った方がいいかな? 兜も貸し出しはしてもらえるけど、やっぱりこんなに小さい頭のサイズは特注しないと無いだろうからね」

 そっか……兜もXSサイズになるって訳か。

 うわぁ、でもなんかカッコいいかも。
 ……また彼の天然の好意に甘える形になってしまっていて、自分が嫌になるけど、これは少し楽しみかもしれない。

 今日はこんな事をしていて時間が無くなってきたので、姫の所へ戻ることにした。

 姫はエステが終わると、長くてカラフルなネイルを爪に施してもらってなんかもしていた。

 おそらく、また近いうちに長時間なエステタイムが始まるはずだから、次はお兄様とヤエリゼ君を見つけてきて、帝都中の男の人をかき集めるための協力を得なければだ。


 だけどアルフリード、エリーナさんに皇太子様の側近ていう立場を取って代えられちゃって、大丈夫かな……?

 彼はまだ余裕な感じではあったけど、原作を知る者としては、彼が皇城にいずらくなったりなんかしたら、耐えられないよ……

 これも、皇太子様が人前でお話することが出来ない=アルフリードと直接お話出来ない、それでもってエリーナさんが間に入らないといけない、って構図が問題だと思うんだよねっ!

 なんとか、なんとか、皇太子様とアルフリードが直接コミュニケーション取れるようにはならないの……?
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