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第2部 彼を救うための仕込み
54.慣れと年に1度のアレと家族のこと
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何でもソツなくこなしてしまうアルフリードだったから、私も皇女様も王子様も、3日間ぶっ通しではあるけど、単なる木の実や果物狩りである伝統的サバイバルゲームなんか別にどうって事なく普通に帰ってくるでしょ、と思ってた。
だけど、後で話を聞いてみると、これはチーム戦によるもので、現地に集合してからくじ引きによって5人くらいの班に分けられる。
そして、この催しのために管理されている山奥に彼らは放たれて、より多くの実や果実を狩ったチームに栄誉が送られる。
実が多く取れる木やエリアは限られてくるため、そこにおいて領地争いがチーム間で勃発するのだ。
つまり、狩りの腕前はもちろんのこと、相手を欺き、罠を仕掛け蹴落とす頭脳戦も必要な、思った以上にハードなサバイバルゲームだったのだ。
そして山奥ってこともあり気候も安定しないので、急に嵐になったり、晴れて暑くなったり、夜は寒かったり、過酷な環境が彼らを待ち受けていた。
そんな中、アルフリードのチームは無事に帰還し、めでたく栄誉を受けたらしいのだが、
「ああ、エミリアの幻覚が見える……ここは天国かな?」
シェルラーゼを引っ張っていた私の目の前に現れた彼らは、会場だった山からさらに遠く離れた帝都まで自分達で戻ってこなきゃなんなかったので、その栄誉を堪能する余裕もないほどに疲弊しきっているようだった。
それに……イメージガタ落ちになってしまうので詳細は語れないんだけど、3日間も泥だらけでお風呂も入ってないし、髭も剃ってないし、髪の毛もボッサボサだし、服も所々やぶれてるし、言葉にし難いひっどい有様だった。
私は急遽シェルラーゼに乗って、公爵様や執事のゴリックさんに助けを求めて彼らは無事にお屋敷に搬送されていった。
「エミリア嬢、今日の所はもう帰りなさい。アルフリードのチームメートも体力が回復するまでウチにいることになったからな」
もともと男所帯のヘイゼル家にさらに4人ほどの男の人たちが転がり込むという、何ともムサい状況に公爵様に促されるまま、朝焼けを拝みに早くにやって来た場所から私はすぐさま自宅に退避したんだけど……
「やだやだ! 私とお腹の子を置いて逝かないでーー!」
戻ったエスニョーラ邸もヘイゼル邸の状況と大差はなかった。
イリスが泣き叫んでる中、お兄様のチームメンバーだったっていう人達が担架に乗せられて、初めて正しい用途で使われるのを見れそうな客間へ運ばれていっている。
「まったく、お前達は弱っちょろすぎる。私が参加した頃は猛獣との命の削り合いだったからな、もっと過酷だったんだぞ」
お父様はお屋敷の大騒ぎの様子を腕組みして、呆れたようにみやっている。
そうして、参加した貴族家の子息がほぼ壊滅状態となった狩猟祭からしばらくして、お疲れ様会を兼ねた舞踏会が懐かしの王子様の歓迎会で使われた、迎賓館で執り行われたのだった。
そして……
「エミリア! ごめん、ごめん、本当にごめん……」
今度は騎士服ではなく、ドレスでパートナーとして参加したその舞台でダンス後に起こったのは、もはやお決まりとなってしまったらしいアルフリードが正気を失ってしまう3度目の惨事。
以前、私を抱え上げて飛び出していった所から、今度は私を抱えて戻ってきたアルフリードに、“ヒューヒュー”とか、“早く結婚しちまえ”とか軽いヤジが聞こえてくる。
あの地獄の3日間で一致団結し、同じ死闘を繰り広げた者同士として、学生のノリ的なものが彼らの中に生まれているようだった。
そして、ホントだったら意識を失って、そんな声が聞こえてこないはずの私が何でそれを知ってるかというと……この時からもう彼から不意打ちされても、私も動じなくなってしまったらしいのだ……
忘れもしない、かすかな照明が当たっていた夜のヘイゼル邸の中庭のテラスで、あんなに取り乱しまくっていたのに、“慣れ”てしまうなんて、自分自身でも驚きだ。
だけど、それを悟られるのはいけない事のような気がして、私は気絶したフリをしていた。
それからはまた、淡々と日々が過ぎ、帝国民が大好きレモネードが似合うような暑い夏の日、
「エミリアちゃん、お誕生日おめでとう!」
皇女様と剣のお稽古が終わって執務室へ戻ると、王子様とアルフリードが紙吹雪みたいのを撒いてくれて、テーブルの上には豪華なケーキが置いてあった。
この日は私の15歳の誕生日。
つまり……アルフリードとの婚姻が決行されるまであと1年ということ。
皇城のパティシエさん特製のありがたいホイップクリームがたくさん付いているケーキを頬張っていると、
「はい、エミリア。プレゼントだよ」
アルフリードから渡された小さめの箱を開けてみると、そこにはキラキラとした輝くダイヤモンドが散りばめられてユラユラ揺れる感じの、イヤリングが入っていた。
「君たちのリフォーム計画みたいに、彼がイメージを起こして、私が詳細をデザインして帝都のジュエリーショップで加工をお願いしたんだよ」
つまり、アルフリードと王子様の共同作業によるプレゼント……!
うわぁ……じゃ、じゃあ、今度また舞踏会があったら着けて見ようかな……
「私からの贈り物はだな……」
剣のお稽古上がりだから、スラックス姿でいた皇女様は立ち上がって、執務机の引き出しから、やっぱり何か小さな箱を取り出した。
渡されてフタを取ると、金色のメダルに、エンジ色と紺色のラインが入ったリボンが縫い付けてある。
これは……?
「準女騎士の称号だ。まだ正式な騎士ではないがな、エミリア嬢の頑張りを認めての勲章のようなものだ。これからも励むのだぞ」
こ、皇女様~~!! なんと、なんとお優しい……
私、あなたに一生ついていきます! 馬車の事故からお守りした後も、女騎士としてお側にいさせて下さい!!
私は大切に、その二つの箱をアルフリードと一緒に前に帝都で買った伝統織りで作られたバッグにしまったのだった。
そんなこんなで夏が過ぎ、エスニョーラ邸の門前にある並木がイチョウみたいに黄色く色づいた頃。
私とお父様は居間スペースで立ったり座ったりして、落ち着かずにそわそわしていた。
お母様は1人優雅にソファに座ってお茶を飲んでいる。
「あなた達が心配しても仕方がないでしょ。知らせがくるのをゆっくり待ちましょう」
そして、
オギャア! オギャア!
「エスニョーラの皆様、男の子です! 若旦那様が取り上げられました!」
この日、我が家に待望の赤ちゃんが誕生したのだった。
何でも突き詰めてしまうお兄様は、産婦人科医さんと同レベルの技術を習得してしまって、お医者様とお産婆さんと共に現場に立ち会った。
家族みんなで見守っている、ベッドでイリスの腕に抱かれている産まれたてのベイビーちゃんは“リカルド”と名付けられた。
家族みんなのアイドルと化したリカルド坊やが、揺りかごに揺られてスヤスヤ寝ているのを見ていたら私も眠くなってきてしまった午後のこと。
自室へ戻った私はふと、そのドアに掛けられているアルフリードのお母様が愛用していた香りの芳香剤を手に取った。
それはもう気付けば匂いがしなくなっていたんだけど……
「やったね、エリック! いっぱい、いっぱい咲いたね!!」
ヘイゼル邸の中庭は今、オレンジ色のアエモギの花だらけになっていた。
これだけあれば、花びらが木箱に7、8個くらいは溜まりそう!
この花を増やすためにずっと手伝ってくれていた庭師のエリックも、静かに頷いてくれている。
私はアルフリードと手を繋いで神聖パワーをもらいながら、未だリフォームが着手されていない薄暗い主人の居室の廊下を歩いた。
そして彼の手を離れてクロウディア様の居室に入ると、タンスの引き出しを開けて中を探らせてもらった。
そして見つけた。前にルランシア様が手に取っていた空の香水のビンを。
今年の王子様のワークショップはすでに満席になってしまってたので、私はそのビンと大量のオレンジ色の花びらの入った木箱を引き連れて、使用人の館にて厨房をお借りして、香水作り再チャレンジへと突入した。
*****
もう少し一つ一つのエピソードを丁寧に書きたい気もするのですが……話が全然進まないので、いつか外伝とかで書きたいです^^;
だけど、後で話を聞いてみると、これはチーム戦によるもので、現地に集合してからくじ引きによって5人くらいの班に分けられる。
そして、この催しのために管理されている山奥に彼らは放たれて、より多くの実や果実を狩ったチームに栄誉が送られる。
実が多く取れる木やエリアは限られてくるため、そこにおいて領地争いがチーム間で勃発するのだ。
つまり、狩りの腕前はもちろんのこと、相手を欺き、罠を仕掛け蹴落とす頭脳戦も必要な、思った以上にハードなサバイバルゲームだったのだ。
そして山奥ってこともあり気候も安定しないので、急に嵐になったり、晴れて暑くなったり、夜は寒かったり、過酷な環境が彼らを待ち受けていた。
そんな中、アルフリードのチームは無事に帰還し、めでたく栄誉を受けたらしいのだが、
「ああ、エミリアの幻覚が見える……ここは天国かな?」
シェルラーゼを引っ張っていた私の目の前に現れた彼らは、会場だった山からさらに遠く離れた帝都まで自分達で戻ってこなきゃなんなかったので、その栄誉を堪能する余裕もないほどに疲弊しきっているようだった。
それに……イメージガタ落ちになってしまうので詳細は語れないんだけど、3日間も泥だらけでお風呂も入ってないし、髭も剃ってないし、髪の毛もボッサボサだし、服も所々やぶれてるし、言葉にし難いひっどい有様だった。
私は急遽シェルラーゼに乗って、公爵様や執事のゴリックさんに助けを求めて彼らは無事にお屋敷に搬送されていった。
「エミリア嬢、今日の所はもう帰りなさい。アルフリードのチームメートも体力が回復するまでウチにいることになったからな」
もともと男所帯のヘイゼル家にさらに4人ほどの男の人たちが転がり込むという、何ともムサい状況に公爵様に促されるまま、朝焼けを拝みに早くにやって来た場所から私はすぐさま自宅に退避したんだけど……
「やだやだ! 私とお腹の子を置いて逝かないでーー!」
戻ったエスニョーラ邸もヘイゼル邸の状況と大差はなかった。
イリスが泣き叫んでる中、お兄様のチームメンバーだったっていう人達が担架に乗せられて、初めて正しい用途で使われるのを見れそうな客間へ運ばれていっている。
「まったく、お前達は弱っちょろすぎる。私が参加した頃は猛獣との命の削り合いだったからな、もっと過酷だったんだぞ」
お父様はお屋敷の大騒ぎの様子を腕組みして、呆れたようにみやっている。
そうして、参加した貴族家の子息がほぼ壊滅状態となった狩猟祭からしばらくして、お疲れ様会を兼ねた舞踏会が懐かしの王子様の歓迎会で使われた、迎賓館で執り行われたのだった。
そして……
「エミリア! ごめん、ごめん、本当にごめん……」
今度は騎士服ではなく、ドレスでパートナーとして参加したその舞台でダンス後に起こったのは、もはやお決まりとなってしまったらしいアルフリードが正気を失ってしまう3度目の惨事。
以前、私を抱え上げて飛び出していった所から、今度は私を抱えて戻ってきたアルフリードに、“ヒューヒュー”とか、“早く結婚しちまえ”とか軽いヤジが聞こえてくる。
あの地獄の3日間で一致団結し、同じ死闘を繰り広げた者同士として、学生のノリ的なものが彼らの中に生まれているようだった。
そして、ホントだったら意識を失って、そんな声が聞こえてこないはずの私が何でそれを知ってるかというと……この時からもう彼から不意打ちされても、私も動じなくなってしまったらしいのだ……
忘れもしない、かすかな照明が当たっていた夜のヘイゼル邸の中庭のテラスで、あんなに取り乱しまくっていたのに、“慣れ”てしまうなんて、自分自身でも驚きだ。
だけど、それを悟られるのはいけない事のような気がして、私は気絶したフリをしていた。
それからはまた、淡々と日々が過ぎ、帝国民が大好きレモネードが似合うような暑い夏の日、
「エミリアちゃん、お誕生日おめでとう!」
皇女様と剣のお稽古が終わって執務室へ戻ると、王子様とアルフリードが紙吹雪みたいのを撒いてくれて、テーブルの上には豪華なケーキが置いてあった。
この日は私の15歳の誕生日。
つまり……アルフリードとの婚姻が決行されるまであと1年ということ。
皇城のパティシエさん特製のありがたいホイップクリームがたくさん付いているケーキを頬張っていると、
「はい、エミリア。プレゼントだよ」
アルフリードから渡された小さめの箱を開けてみると、そこにはキラキラとした輝くダイヤモンドが散りばめられてユラユラ揺れる感じの、イヤリングが入っていた。
「君たちのリフォーム計画みたいに、彼がイメージを起こして、私が詳細をデザインして帝都のジュエリーショップで加工をお願いしたんだよ」
つまり、アルフリードと王子様の共同作業によるプレゼント……!
うわぁ……じゃ、じゃあ、今度また舞踏会があったら着けて見ようかな……
「私からの贈り物はだな……」
剣のお稽古上がりだから、スラックス姿でいた皇女様は立ち上がって、執務机の引き出しから、やっぱり何か小さな箱を取り出した。
渡されてフタを取ると、金色のメダルに、エンジ色と紺色のラインが入ったリボンが縫い付けてある。
これは……?
「準女騎士の称号だ。まだ正式な騎士ではないがな、エミリア嬢の頑張りを認めての勲章のようなものだ。これからも励むのだぞ」
こ、皇女様~~!! なんと、なんとお優しい……
私、あなたに一生ついていきます! 馬車の事故からお守りした後も、女騎士としてお側にいさせて下さい!!
私は大切に、その二つの箱をアルフリードと一緒に前に帝都で買った伝統織りで作られたバッグにしまったのだった。
そんなこんなで夏が過ぎ、エスニョーラ邸の門前にある並木がイチョウみたいに黄色く色づいた頃。
私とお父様は居間スペースで立ったり座ったりして、落ち着かずにそわそわしていた。
お母様は1人優雅にソファに座ってお茶を飲んでいる。
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オギャア! オギャア!
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この日、我が家に待望の赤ちゃんが誕生したのだった。
何でも突き詰めてしまうお兄様は、産婦人科医さんと同レベルの技術を習得してしまって、お医者様とお産婆さんと共に現場に立ち会った。
家族みんなで見守っている、ベッドでイリスの腕に抱かれている産まれたてのベイビーちゃんは“リカルド”と名付けられた。
家族みんなのアイドルと化したリカルド坊やが、揺りかごに揺られてスヤスヤ寝ているのを見ていたら私も眠くなってきてしまった午後のこと。
自室へ戻った私はふと、そのドアに掛けられているアルフリードのお母様が愛用していた香りの芳香剤を手に取った。
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「やったね、エリック! いっぱい、いっぱい咲いたね!!」
ヘイゼル邸の中庭は今、オレンジ色のアエモギの花だらけになっていた。
これだけあれば、花びらが木箱に7、8個くらいは溜まりそう!
この花を増やすためにずっと手伝ってくれていた庭師のエリックも、静かに頷いてくれている。
私はアルフリードと手を繋いで神聖パワーをもらいながら、未だリフォームが着手されていない薄暗い主人の居室の廊下を歩いた。
そして彼の手を離れてクロウディア様の居室に入ると、タンスの引き出しを開けて中を探らせてもらった。
そして見つけた。前にルランシア様が手に取っていた空の香水のビンを。
今年の王子様のワークショップはすでに満席になってしまってたので、私はそのビンと大量のオレンジ色の花びらの入った木箱を引き連れて、使用人の館にて厨房をお借りして、香水作り再チャレンジへと突入した。
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