上 下
21 / 169
第1部 隠された令嬢

21.披露会の準備&前日

しおりを挟む
「エミリア、エル様がいらしてるのよ!」

その日、皇城から帰った時のこと。
見慣れない馬車が玄関前に停めてあるな、と思いながら送ってくれたアルフリードと別れて邸宅に入って行ったら、お母様が駆け寄ってきた。

はぁ? 

「エル様って?」

「いつもワークショップが人気ですぐ予約で埋まってしまう、あのエル様よ!」

え、まさか王子様のこと?

「わたくしもお友達からお話を聞いて一度行ってみたいと思っていたけれど、うちから出れないエミリアを差し置いて遊び回るのは気が引けて、お会いするのはもう諦めていましたのよ……ともかくいらっしゃい!」

お母様は私の腕をほぼ無理矢理引っ張りながら、いつもは使われていない客間スペースへ連れて行った。

扉を開くと……

なに? すっごくまぶしいんですけど。
目がくらむほどのまたたきが見えて、顔を思わず背けてしまったけれど、なんとか目の上に手をかざして部屋の様子を見ようとした。

なんじゃこりゃ!!

徐々に見えてきたのは、部屋一面に並べ立てられた宝石類やネックレス、ありとあらゆるアクセサリー類だった。

あっけに取られて固まっていると、

「こちらにもあるのよ」

またお母様に引っ張られて、続き部屋になっている扉に向かっていくと、貸し衣装屋かっと思うほどの豪華なドレスがズラリと並んでいた。

これはまさか……あの王道展開じゃないの?
王子様が止めたって言ってたのに、王子様がこれを引き連れて乗り込んできたっていうの?

うああぁあ 分からん!

頭を抱えて唸りそうになっていると、どこからともなく、王子様がにこやかに登場した。

「エミリアちゃん、婚約式で着る衣装を選びにきたよ」

「なんでも、ここにあるもの全部、婚約者殿からのプレゼントなのですって!! しかもどれも、帝都の有名店のものばかり……さすが公爵家は気前がいいわ~」

お母様は全く何の疑問も抱かずに、目を輝かせてこの豪華で見るからに高級そうな品々を見回している。

「王子様……これはどのような事でしょうか? もう披露会で着るドレス類は侯爵家側で決めて、注文済みです!」

そう、今回のように重要な会で着るドレスはきちんと仕立てないといけないから、早い段階で採寸などをしてクチュールに依頼してしまっていた。

「大丈夫だよ、キャンセル料もヘイゼル家で持ってくれるから」

そういう事じゃないって!

「こういう事はやらないっておっしゃっていたのに……」

私は目線を落としてブツブツと文句を言った。

「時と場合があるってことだよ。なんでもない日にこんな贈り物されても戸惑うだろうけど、今度のは規模が違うじゃない。なんて言ったって、君の人生で一度きりの社交界初デビューでもあり、婚約を発表する場なんだから」

面白いことになるってこういう事だったのか。
くそっ、油断させて騙したな! この小悪魔系、美少女男子め。

アルフリードもさっきの馬車の中で全然、こういう準備をしていたなんて素振りも一言もなかったし。
もうこの人たち訳が分からない……


こうなってしまっては出ていってもらう訳にもいかないし、変わるがわる王子様が持ってくるドレスやアクセサリーの着せ替え人形と私は成り果ててしまった。

お母様はワークショップの予約もちゃっかり取って、王子様は遅い時間に皇城へと帰っていった。
無論、私も一緒に予約を入れられた。まぁ、行ってみたいと思っていたから、それはいいのだけど……


そして、いよいよ婚約披露会の前日となった。

「無事に出生届は届いたし、明日はまず皇帝陛下へ謁見する」

家族が集まった晩餐でお父様が明日のスケジュールの確認を始めた。

「公爵殿と子息とエミリアの4人でだな、正式に婚約が決まったとお伝えする。そのあと、準備を始めて、18:00から公爵邸で披露会だ」

皇女様の父上である皇帝陛下にお会いするのは初めてだ。
陛下は原作では病に伏せっていて、お元気な時の描写はなかったからどのような方なのか、よく分からない。
でも、帝国中の貴族の前でとんだ騒ぎを起こしたエスニョーラ家に対して、きついお咎めも一切なかったのだから、きっとお優しい方なのだろう。
それに、幼い頃から可愛がっていたアルフリードが婚約するとなるとお喜びになるだろうな。

でも、王子様に何かが起こった場合、独り身となってしまう皇女様を想い始めるだろうアルフリードのために、婚約破棄の機会を窺っている私としては、良心がチクリと痛む。

「エミリアは婚約者殿がお迎えに上がるから、一緒に行くこと。それから私とマルヴェナは同じ馬車で向かうとして、ラドルフは……あっ」

お兄様のところでお父様は言葉に詰まった。

「俺は一緒に行く相手なんかいないので、父上と母上の馬車に同乗しますよ」

確かに、お兄様にそういった相手がいることは聞いたことがなかった。
原作の3年後では、サブキャラだったので結婚してるかどうかの身辺情報すら言及されてなかった。

「あー、いや、すっかり忙しくて忘れていたというか。まあ、ともかく明日はエミリアの晴れの舞台だ! 無事に終わるように今日は皆、早めに寝て英気を養うように」

お父様は誤魔化すように、持っていた白ワインのグラスを一度高くあげると一気に飲み干した。


でも本当に、無事に終わってくれることを祈るしかない。
やっぱり初めて会う貴族の人達からの会話や質問が一番怖いかな……
きっと私はおかしな子だと思われているだろうし、力のある公爵家とはいえ尻拭いをされて、陰口を叩かれている可能性も……

私はもう一度、お兄様の作った問題集を復習し、不安な貴族に関しては分厚いマニュアル本で確認して、ベッドへ潜り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

旦那に浮気され白い結婚で離婚後修道院に行くと、聖女覚醒。今さら結婚のやり直しと言われても、ごめん被ります。

青の雀
恋愛
君のための白い結婚だったのだ! 前夫のベンジャミンはわめきながら、修道院へ迎えに来る。 わたくしたち夫婦は親同士が決めた政略で結婚したのだが、当時わたくしこと公爵令嬢のセレンティーヌは、12歳というまだ大人の女性体型ではなかったため、旦那は、外に何人も女を囲み、夫婦生活はゼロ。 3年後、旦那から離婚を切り出され、承諾後、修道院へ行くか、キズモノ同盟に入るか迫られたところ白い結婚から修道院が受け入れてくれることになる。 修道院では適性を測るため、最初に水晶玉判定を受けると……聖女だった!というところから始まるお話です。 あまりにもヒロインが出会う男、すべてがクズ男になります。 クズ男シリーズですが、最後には、飛び切り上等のイイ男と結ばれる予定ですので、しばらく御辛抱くださいませ。

【第一部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪
ファンタジー
―私達と共に来てくれないか? 帰る方法も必ず見つけ出そう。 平凡な中学生の雪谷さくらは、夏休みに入った帰り道に異世界に転移してしまう。 着いた先は見慣れない景色に囲まれたエルフや魔族達が暮らすファンタジーの世界。 言葉も通じず困り果てていたさくらの元に現れたのは、20年前に同じ世界からやってきた、そして今は『学園』で先生をしている男性“竜崎清人”だった。 さくら、竜崎、そして竜崎に憑りついている謎の霊体ニアロン。彼らを取り巻く教師陣や生徒達をも巻き込んだ異世界を巡る波瀾万丈な学園生活の幕が上がる! ※【第二部】、ゆっくりながら投稿開始しました。宜しければ! 【第二部URL】《https://www.alphapolis.co.jp/novel/333629063/270508092》 ※他各サイトでも重複投稿をさせて頂いております。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

疑う勇者 おめーらなんぞ信用できるか!

uni
ファンタジー
** 勇者と王家の戦い、これは宿命である。10回目の勇者への転生 **  魔王を倒した後の勇者。それは王家には非常に危険な存在にもなる。 どの世界でも、いつの時代でも、多くの勇者たちが、王や王子達に騙され殺害されてきた。 殺害されること9回、10回目の転生でまたもや勇者になった主人公。神はいつになったらこの宿敵王家との対決から彼を開放してくれるのだろうか? 仕方がないので彼は今回もまた勇者の宿命に抗う。  なんだかんだすらなく勝手に魔物の森に住み着きながら、そこが勝手に村になりながら、手下の魔人達と一緒に魔王と各国王たちを手玉に取ろうと、、、 (流行りの形式ではなく、スタンダードなコメディ系小説です。)

処理中です...