上 下
11 / 169
第1部 隠された令嬢

11.ティールームにて 皇女様からのお誘い編 ※番外編つき

しおりを挟む
「ところで母君、侯爵様と兄上ですが、今日は陛下や皇女様から呼び出されるなどして忙しくされてました。きっと、落ち着いたら詳しく母君にも話をしてくれますよ」

 アルフリードはのんびりとした口調で話しながら、お茶を飲んだ。

 ああ…… 隠し子ならいざ知らず、まさか実子を陛下にまで隠していたなんて事が分かったら、これまで築いてきた忠誠にヒビが入るくらいの信用問題のはず。
 ましてや、その子どもがとんだ騒ぎまで起こすなんて。

 お父様もお兄様も無事に帰ってきている所を見ると、上手く収まったって事なのかな?

「奥様、旦那様が呼んでいらっしゃいます」

 ティールームに入ってきたメイドがそう告げた。

「お母様、きっと時間ができてお父様が気にかけて下さってるのよ」

 すっかり顔のツヤも良くなって元に戻ったお母様を見て、私は笑いかけた。

「そうなのかしら……まあいいわ。エミリアこんなに素敵な婚約者殿なら安心だわ。またいつでもいらして、わたくしのお話も聞いてちょうだいね~」

 お母様が出口の方に向かっていくのを、アルフリードは律儀に立ち上がって見送っていた。


 お母様が行ってしまうと、彼は私の方に向きを変えた。

「エミリア嬢、失礼」

 そう言って突然彼はかがみ込むと、私の頬に向かって手を伸ばしてきた。

 その指が私の口の端に触れたのに反応して体がビクリと震えた。
 彼は間近でほとんど黒に近い焦茶の瞳で私をじっと見つめながら、触れた指で頬を少し撫でるように動かした。

 離れていったその指先には白いムースがほんの少量だけ付いているようだった。

 夢中でケーキを食べていたから、食いこぼしが付いてたんだ。うう、恥ずかしい……

 そう思ったのもつかの間、彼はムースがついたままの指の先端をパクリと自分の口に含んで舐めとってしまった。

 やめて…… 不意打ちでそういう事をするのは、やめて下さい!

 カァっと真っ赤になっているだろう私の顔を見つめながらフッと得意げな笑みを残して、何食わぬ顔で彼は席に戻っていった。

 お母様この人、全然安心なんかじゃないよ……


「エミリア嬢、時間を取ってくれてありがとう。帰る前に1つだけ聞きたいことがあるんだけど、兄上から皇女のことは何か聞いてるかい?」

 アルフリードはテーブル越しに私の手を取って両手で挟んだ。

 お母様がいなくなった途端に、スキンシップの量が増えてるんですけど……

「いいえ、何も」

 お兄様からは勉強のことは聞いていても、皇女様のことなんか一言も聞いたことがない。

「そうか……」

 アルフリードは言い出しづらそうに、目線を逸らした。

 なんだろう、やっぱり私に怒り心頭で捕らえて目の前に差し出すように言われてるのかな。
 彼の態度を見るに、いい方向のものでは無さそうだけど……

「それが……皇女が君と仲直りしたいから皇城に招きたいと言っているんだ」

 え…… 嘘! そういう話だったの?

「でも、剣を抜いて君を脅そうとしたんだ。怖いだろうから無理にとはいわないよ」

 確かに、あの瞬間の事を思い出すと怖くないと言ったら嘘になるけど……

 皇女様を3年後の事故から守るには、少しでも近づけるなら、近づいておきたい。
 もう皇女様に会うのも無理だと思っていたのだから、これはチャンスでしかない。

 よしっ 俄然やる気が湧いてきた。
 2度目のチャンス、今度こそ絶対にものにして見せる!!

 でも女騎士の案は控えておいた方がいいかも。
 まずは一度、皇女様に会ってみてから策を練るしかないわね。

「行きます、行かせてください!」

 そうハッキリとアルフリードの目を見据えて言うと、彼は私からオズオズと目線を外して、不服そうな、納得いってないような、明るくはない反応を示した。

 やっぱり、本当は皇女様は怒っているんじゃないの……?
 本当は違う理由なのに私のことを騙して連れて行こうとしているから、良心が傷んでるとか?

 彼の反応はただただ私の不安をあおるばかりだった。




----<番外編>----

『9.お兄様vsアルフリード』で、
 アルフリードがティールームへ向かった後の2人

 ※こちら、ほぼセリフのみの構成となっております。ご了承くださいm(__)m



 執事に案内されてアルフリードが邸宅の中へ入っていった後、エスニョーラ侯爵はラドルフを玄関脇の隅へ引っ張っていった。

 ラドルフ「父上!急に後ろから口を塞いでくるとは何するんですか」

 侯爵「お前は昨日の彼の様子を見ていなかったから」

 ラドルフ「は?昨日?」

 侯爵「私と公爵がいる目の前でエミリアに恥ずかし気もなく言い寄ってたんだぞ」

 ラドルフ「……なんですって?」

 侯爵「あれは完全に周りが見えてなかった。邪魔して敵とみなしたら何をするか分からないパターンだ。だから彼には逆らわないで大人しくしてなさい」

 ラドルフ「父上も俺の評価を読んだでしょう。あいつは飽きっぽくて、しょっちゅうパートナーを変える、ふしだらなヤツなんです。うちの危機を救ってくれた家門としてもちろん感謝はしますが、エミリアに対する態度は信用できませんね」

 侯爵「ともかく……エミリアと婚約者殿の間には立ち入らないで、好きなようにさせてあげなさい。ところで、次はお前の番だな」

 ラドルフ「あーー、それは父上と母上に任せます。家の決定に従います」

 侯爵「実は、何年も前からお前の婚約者候補は決まってるから」

 ラドルフ「はい?」

 侯爵「今度、紹介するから楽しみにしてなさい」

 ~数十分後~

 自分の執務室に戻ったエスニョーラ侯爵。席に就いて仕事をしているとラドルフが入ってくる。

 ラドルフ「確かに言い寄られてましたよ」

 侯爵「そうだろ? もうエミリアしか……」

 ラドルフ「母上が」

 侯爵「……どういうことだ?」

 ラドルフ「あいつに手を取られてトロンとした表情で見つめていましたよ。俺の分析能力をあなどって父上もぼやぼやしてると、母上までヤツに取られちゃいますよ」

 侯爵「そ、それはダメだ! マルヴェナのところへ行ってくる!」


 そして、このページの一番上・お母様がお父様に呼び出されるシーンに繋がります↑↑
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...