やさしい夜明け

蒼唯ぷに

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第2話

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浅木さんが俺にとって特別な存在になっていると自覚して数日。
ヘルスの仕事を続ける苦しみが増してしまった。

そうならないために、住む世界の違う浅木さんにのめり込まないようにと、一線を引いていたつもりだったのに…。
浅木さんのペースにまんまとは乗せられて、流されて、ときめいて、芽生えてしまった気持ちに正直になってしまった。
この募る気持ちを認めるしかなかった。

浅木さんとの時間を、とてつもなく恋しく思う。
早く、会いたいと思う。

あの人にとって、俺はただの練習相手だとわかっていても。
ツライ恋を再びすることになったと知っても。



「あ…れ?」


その日の俺は、珍しく昼の街を歩いていた。
底をつきそうになった食料を買うためにだ。

商店街を歩いて、交差点で信号待ちをしていた俺の目に、見覚えのある顔が映る。

ただ、スーツを着ていたから本当にそうなのか最初は確信が持てなかったけど…


「浅木さんだ…」


交差点の横断歩道を挟んで反対側にある証券会社のビル。
その通用門から出てきた浅木さんの姿を見ることができた。

なにやら職員らしき人と話をして、ペコペコとお辞儀をして営業スマイルを見せていた。

そっか…、仕事中…か。

ビシっとキメたオシャレなスーツに、控えめで実直そうに見えるネクタイ、ツヤツヤの黒い革靴に、片手に収まる程度のスマートなカバン。

俺と会うときは、別室で服を脱いでガウンに着替えて個室で待機しているから、浅木さんのスーツ姿を見るのは初めてだった。

俺とは違う世界で生きる人ということが、よくわかった瞬間だった。

俺にはこの昼の世界が眩しすぎる。

当然、昼の世界に生きる浅木さんに、こんな薄汚れた俺が声をかけるなんてできなかった。
夜の世界に生きる者が、昼の世界で生きる客に声をかけるのがご法度という事は暗黙のルール。当然だ…闇に紛れて秘密の性処理をしているのだから。

スーツ姿の浅木さんをカッコイイと思いつつも、あまり長いこと見つめちゃマズイと思って、俺はその場から立ち去ろうとした。

浅木さんに背を向けて、元来た道を帰ろうとしたら…


「ノエル!」

「え…」


後ろから声をかけられ、振り返った視線の先にいたのは浅木さん。

背後の横断歩道の信号が点滅していて、赤に変わった。

すこし息を上げて立っていた浅木さんを見るかぎり、向こう側から走ってきたんだとわかった。


「やっぱりノエルだ!買い物?」

「え、あ…うん」

「俺今から昼飯なんだ。ノエルは?もう食べた?」

「えと、いや、さっき起きたとこだから、まだ…」

「よかった。せっかくだからさ、一緒に昼飯どう?俺次の営業先まで時間あるからさ」

「え……」


爽やかな笑顔でそういう浅木さん。

お、俺が浅木さんと外で食事…?
うそだろ。ありえない。






「何にする?決めた?」

「俺は…コーヒーだけでいい」

「え?なんで?食べてないんでしょ?ほら、デミハンバーグとかどう?キライ?」

「好きだけど…」

「じゃあそれにしよう。すみませ~ん、ハンバーグランチ2つ!あ、一つはライス大盛りで」

「あ……」


なんでこんな状況に…、と思っているうちにメニューが決まってしまった。

賑やかな喫茶店。
周りはサラリーマンやOLでいっぱいだ。

みんな昼休みなんだな。
新聞読んだり、パソコン覗いたりしながら珈琲飲んで、片手でピザトーストかじったり。
小さな皿にオシャレに盛られたパスタを食べながら談笑している。

賑やかだ。
煩いくらい…。

俺、こんな場所にいていい人間じゃない。
きっとこの場所で浮いている…。
居心地が、悪い…。


「ノエルってさ、この辺に住んでるの?」

「……う、うん」


俯いてそんなことを思っていると、浅木さんがお構い無しに話しかけてきた。


「なんだ。じゃあ俺ん家も近くだよ」

「へぇ…そうだったんだ」

「今日は仕事休み?」

「ううん。休みなんてないよ。毎日出てる…」

「働き者だな」

「……」


うん、そうだよ。毎晩身体を汚してるよ…。

窓側の席で、向かい合って座る俺達は、外から丸見えなのかな。

変じゃないかな…、ヨレヨレの私服の俺と、スーツ姿の浅木さん。

綺麗な浅木さんと、汚い俺…

いいのかな…。

浅木さん、俺と飯なんか食ってていいの?

俺なんかと…、いいの? 





「おまたせしました」


ワンプレートのハンバーグランチがテーブルに運ばれてくると、浅木さんは嬉しそうに両手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。

俺の手がなかなか皿に伸びないのを見て、「食べなよ。ここの美味いんだよ」って優しく笑った。

そういわれて、ようやく口にした。


「……うまっ」

「だろ?炭火焼きハンバーグいけるでしょ。マスターがこだわって作っててさ。夜もやってるんだよ。夜なら酒も飲めるよ。ノエルは酒いけるクチ?」

「それなりに」

「この通りにも、美味い店あるんだよ。鶏専門だけど、鍋がめちゃくちゃ美味いんだ。で、シメがラーメン。これがまた鶏出汁に絡んで最高なんだよ~」

「浅木さんて、グルメなんだな」

「いや、そんなことないよ。ガッツリ食いたいだけ」


いまハンバーグ食べてるのに、浅木さんは鍋の話してる。
そしてニコニコ笑いながら、美味しそうに食べる姿につい笑ってしまった。


「フフっ。ていうか浅木さん、それ一口で食べれんの?ナイフの意味ないじゃん」

「え?そう?――モグ」

「ふはっ」


浅木さん、ハンバーグをナイフで切ったのはいいんだけど、一口のサイズがデカすぎる。
口に入りきれない一切れを、無理矢理押し込んで、ほっぺたまんまるくさせて。リスかよ。

映画のワンシーンに出てくる紳士のように、かっこよくスーツ着こなしてるわりに、ナイフとフォークの使い方が不器用ってなんだか可笑しくなった。

この人の、見た目は完璧なのに中身がちょっと残念なところ、可愛いよな。

居心地が悪いと思った数十分前とは変わって、
気付けば浅木さんとのランチ、周りも気にせずはしゃいでいた。

自分が夜の人間だということも、ちっぽけで汚い人間であることも忘れて笑っていた。

温かい昼の陽差しの中で、美味しい食事。

浅木さんの声。浅木さんの眼差し。
浅木さんの笑顔。浅木と過ごす時間。

どれも贅沢すぎた。

俺には、すべてが贅沢すぎたんだ。












その夜、いつものように俺は店にいた。
昼間の浅木さんとの時間が、あまりに現実とかけ離れていて、夢でも見ていたのかと思う。

夢だと思いたくない。
夢だと思うのならば、むしろ

今俺がここにいる現実を、夢だと思いたい…。


「この野郎っ、歯立やがったなっ…っ!」

「す、すみません…っ」


身の入らない仕事…、「仕事」なんて誇らしく言えるモンではない。
もともと俺は、この仕事に対しては「無」だった。

なのに、今の俺はどうだろう。

この日俺は、うっかり客を怒らせてしまった。
たまにあるから、今更驚く事も怯むこともないんだけど…。

― バンッ

「っ痛っ―――っ」

虫の居所が悪かったのもあるだろう。
追加料金を払ってフェラを要求した客を怒らせた俺は、客に髪を引っ張られ、床に顔を叩きつけられた。

「このっ!クソッタレがっ!」

―― バンッ ガンッ ――ガンッッ

「――っっ」

気が済むまで、数回俺の顔を床に叩きつけた後、客はタバコに火をつけてあぐらをかいた。

俺は頭を下げたまま、正座をして上体を起こす。
すると客は言う。

「上には言うなよ?わかってるよな?」

「はい。――追加料金は要りません。どうぞ、僕を好きにしてください」

「ヨシヨシ、いい子だ」

「……」


本当は、歯なんて当たらなかったのかもしれない。

でも、そんなこと考えても仕かた無い。

だって、俺はそういうこと言える立場じゃないし
この仕事にちゃんとしたルールなんかなくて
働く俺がこの仕事場の人間に守られることもないし

現場で起きてることは現場で処理して
稼げるときはどんな手段を使ってでも稼ぐだけだし

個室の中は無法地帯だ。

ただ言えるのは
この狭い箱の中で、俺はただの犬でしかなく
力のある主人に当たった日には、言いなりになるしかないという事。

「オラっ、もっとケツ締めろやっ」

「っふ、あっ!」

俺の話すことをちゃんと聞いてくれて
店のルールに従ってくれて

俺を一人の人間として扱ってくれて
俺を「働き者だな」なんて一端の社会人みたいに言ってくれて
俺に優しく微笑みかけてくれる人なんて

浅木さんくらいしかいないよ。浅木さんだけだよ。浅木さんの方が、変なんだよ。

そうだよ
俺のいる場所は現実。ここが現実なんだ。

浅木さんのいる場所は夢の世界。俺が行ける世界じゃない。

俺はいつまでたっても、ここから抜け出すことはできない。

淡い期待を抱いてはいけない。
夢をみちゃいけない。

もう、とっくに解ってたはずなのに。
希望なんて抱かないって、もうずっと前に決めたのに。

浅木さん

あなたに会えて

俺は再び夢を見てしまった。

あなたと過ごす時間に

希望を抱いてしまった――――





その客との時間が終わっても、俺にはまだ指名客が残っている。
次から次へと、男の相手をする俺。
だから、いちいち済んだ相手のことを引きずることもない。

今までならそうだった。
なのに今じゃ…

汚れた身体を更に汚してく感覚に襲われて…
塗り重ねられる、男の体臭と肉欲に嫌気がさす。

― シャァアア…

次の客を迎えるため、シャワー室に入る。

「臭い…」

全身から悪臭がする。しみついて、洗っても洗っても取れない。
それは俺が今まで重ねてきた男たちの、汚らしい汗と精液と欲の臭い。

自分の身体が、心が、朽ちていく臭い…。

「臭い…、汚い…っ!!」

シャワーを流しっぱなしで、頭からお湯をかぶったまま、何度も何度もスポンジで身体を擦った。
赤く腫れ上がるまで、何度も何度も。

「いやだ、いやだ…もう嫌だ、もうっ、いやだっっ!」

泣いちゃだめだ。
今を拒絶しちゃダメだ。

じゃなきゃ、心が折れる。
なんとか繋いでいた心が折れてしまう。

泣くな、俺。
無になれ…
いつもの俺に、もどるんだ。

いつもの俺に。


―――…。


…いつもの俺って、なんだ?


「ふっ、…ふぅうう、っふぅ、くっ」

俺、なんでこんなことしてるんだ?
借金があるから?
昔のオトコにバカみたいに溺れた自分を戒めるため?
自虐することで、俺は自分を救えたのか?

本当にそれでいいのか?
その選択は正しかったのか…?

俺はこの世界で、ひっそりと生きて
ウジムシのままでいいのか?

そうして生きるしかないって、自分で決めたのは

誰のため?自分を納得させるため?

それで自分が救われたの?

だったら、どうしてこんなに苦しいの?


そんなの決まってる。


「いやだ、いやだっ、……こんなとこで一生を終えるなんてっ…やだよぉぉ……」


シャワーのお湯が排水口へ流れていく様をただ見つめながら、本音が漏れた。


俺の本心
それは

ここから 抜け出したい―――― 










そんな俺に、現実は待ったをくれなくて。
いつものように指名客の待つ個室へと向かった。

午前0時。

この時間は、浅木さんが来ることがある時間。
淡い期待で、個室の扉を開ける。

―― コンコン カチャ


「こんばんは…」

「ノエル!お昼は付き合ってくれてありがとね。来ちゃった」

「浅木さん…」


個室で待っていたのは浅木さん。

ああ、浅木さんだ…
そう思って安堵したんだろう。

俺の折れてしまった精神が、目頭を熱くさせた。
けれど、バレないように涙を呑んで込み上げる感情を抑えた。


「ノエル?どうした?」

「…え…」

「おでこ、赤くなってる…ぶつけたのか?」

「あ、これ…は」


すると浅木さんがすぐに俺の異変に気づいた。
それはさっき客から受けた暴力によってできた傷のこと。


「あ、うん…転んで、ぶつけた」


そういって俺はしゃがんでローションを手に取った。
そんな俺を、黙って見ていた浅木さん。

視線を感じていたけど、こちらから話をふることはしなかった。


「大丈夫なの?それ…」

「なに?大丈夫だよ、転んだだけだし」

「それにしては、不自然じゃないか?」

「…しつこいなぁ。転んだって言ってるのに…、―――!?」


なのに浅木さんは急に俺の腕を引っ張って…


「な……」


引き寄せられた俺は、浅木さんの腕の中にすっぽり収まる。
そして浅木さんの唇が、俺のおでこの傷に触れた。


「!?」

「痛かったんだろ…?」

「え……」

――チュ

「っ!」


再び傷に触れる、浅木さんの唇。

なんで?
何してんの、浅木さん?
キス…なんて、なんで?

俺、一体、浅木さんになにされて……


「痛みが飛んでくおまじない。ガキのころ、ばあちゃんがしてくれた」

「…あさぎ、さ」

――チュ


そういって浅木さんは、俺のおでこに何度も何度も、そのふっくらとした柔らかな唇を優しく落した。

背中を抱いて、俺の頬を撫でる浅木さんのあたたかくて綺麗な手。

途端に、涙が溢れてきた。
止められなくなってしまった。


「―――っ~~!!」

「ん、痛かったな、もう大丈夫。すぐ治るよ」

「ふっ、~~~っう、うっ…っ」


キスで傷が治るわけじゃない。俺も浅木さんもわかっている。
これは、俺の心の傷を癒すために、してくれたんだ。
浅木さんはこの怪我が、他の誰かによってつけられたとスグに見抜いた。

なんだよ。なんでだよ。

ヘタレのくせに…。
俺に扱かれると、すぐにイっちゃうくせに…。

なんで、こんなに優しいんだよ。
どうして、俺にこんなことするんだよ。

俺は浅木さんの胸に甘えたくなってしまうよ。

浅木さんには恋人がいるのに。
浅木さんを、どこまでも愛してしまいそうになるよ。

この人のそばに、あたりまえに存在したくなる。
それを望んでしまう。

俺の終わった未来に、希望を抱いてしまうよ…。 





「ノエル、今日のランチ、ノエルと一緒にできて楽しかったよ。ノエルは?楽しかった?」

「ん、うん…楽しかった」

「そっか、よかった」


俺が泣き止んでも、浅木さんは俺の身体を離してくれなくて。
せっかく来たっていうのに、シャワーも浴びずに、俺をちょこんと膝に乗せたまま、俺を後ろから抱きしめるだけで何もしない。

時々俺の手を握ったり、指を摩ったりするだけ。
それだけで、楽しいのかな、このひと…。

でも、落ち着く。
あったかい…。


「ノエルの笑ってる顔、なんだか新鮮だった」

「そう?いつもそれなりに笑ってたとおもうけど、俺」

「いや、昼間のノエルは、ここにいるときのノエルと違った」

「…自分じゃわかんないけど」

「仕事じゃないノエルと過ごせて、嬉しかったな」


そういう浅木さんは、また眠りそうな低い声。
少しだけ背中にズシっと重みを感じた。


「浅木さん?眠いの?」

「んん、そんなことないよ」

「ちょっと重い。俺、つぶれちゃう…」

「ははは。ノエル、細くてホント華奢だよな。でもこの包める感じがいい…」

「抱き枕かなんかだとおもってる?」

「そうかも。抱き心地いいから。すごく」

「…じゃ、抱いてみる?」

「え?」


浅木さんとの甘い空気。
その流れに任せて、俺は自ら本番を要求するような発言をした。

まったりした空気が一瞬にして弾けた。
浅木さんはおっとりした表情から一変、面食らったような顔してる。

俺がこんなことを言ったのは、単純に浅木さんに抱かれたいと思ったから。
このぬくもりを、もっともっと感じたくなったからだ。

客である浅木さんに特別な感情を抱いた俺が、その感情を浅木さんに隠したまま繋がるための手段として。

浅木さんはどう答えるかな…。
でも、浅木さん、結局これが目的だったもんな…。
恋人を抱くために、ここにきて、俺で練習しようとしてたんだもんな…。

断らないよね、浅木さん。

ホラ…浅木さんの目、欲に濡れて揺らいでる…。
シたくなってる…。


「ランチのお礼もあるし。今日はサービスするから」

「……ノエル」

「抱いてみる?俺と、本番、してみる?」


抱いて欲しい。
浅木さんの腕に、この身も心も預けたい。

たった一度でもいい。
お金の関係でもいい。
誰かの代わりでもいい。

二度と恋はしないと決めた俺が
恋した相手だ。

きっとこれが本当に最後の恋。

どんな経緯で、どんな関係でも
ただ、好きになった浅木さんに抱かれたい。


「ね?浅木さん」

「……」


浅木さんの肩をグッと押して身体を引き離し、俺は羽織っていたガウンを脱いで裸になった。

誘うような表情を作って、煽るように自分の指を舐め、マットレスの上に四つん這いになった俺は、自分の尻を割開いてソコを浅木さんに見せつけた。


「浅木さん、女は抱いたことあるんだろ?同じようにして。ココに、挿入れて…」

「ノエル……」

「ちゃんとリードするから。ね、男の抱き方、教えるから」


ローションをたっぷり塗りつけた自分の指を、その穴に突っ込んで見せる。
ぐちょぐちょと音を立てて解せば、使い慣れたソコはすぐにでも挿入できる準備が整う。

口を半分だけ開けて見ていた浅木さんが、ゴクリと唾を飲み込んだ。

ああ、身体ってホント正直だよな…。
浅木さんのデカイ竿が、触れてもいないのにガウンの裾を持ち上げ勃っている。
ヒクンと揺れて…すごい…。いつもよりおっきくなってる…。


「浅木さん、勃ってるね。俺のナカに挿入たいんだ…?」

「っ…、……ハァ」

「ガマンしなくていいよ。ほら、ココ、柔らかくなってるから、浅木さんのモノすぐ挿入るよ」


浅木さんの着ているガウンをめくり、そこで主張する肉棒をローションの付いた手でなぞるように扱き上げる。

「うっ…っ」

ビクンと跳ね上がり尿道がパクと開いて雫が溢れる。
ああ…そんなに欲しいの?浅木さんのチンコはせっかちだね。
こんなに固く熱くなって…。はち切れそう…

挿入れたいんでしょ?浅木さん。
先走り液がヨダレみたいに垂れてるよ…
すぐに、全部飲み込んであげるからね…

――ツプ

「っく―――っ!」


浅木さんのいきり勃った陰茎を誘導し、俺の穴に押し当てるとすぐに亀頭を咥え込んだ。


「っあ、っく」

「ほら…先ッポ、入った…」

「は、キツ……っ」

「そこからもっと、奥まで挿入ってきて」

「っは、ほんとに、こんなキツいとこ入れて…いいのか?痛くないのか?」

「痛くないよ。浅木さん、おっかなびっくりやらないで、一気に入れてよ。ホラ」

ズチュッッー

「っく!うっ、――― っうあ」

「ぁぁ、そこ、そう…そうだよ、あっん」


躊躇っている浅木さんに向かって、俺は尻を突き出し自分から呑み込みに行く。

俺の中に浅木さんの熱い肉棒がすべておさまると、ナカでビクンビクンと強く脈打つのが腸壁から伝わってきた。


「あっ、あ、ノエル…ぁあ、すご、ぁ」

「ああ、まって、まだ、イかないで、浅木さん、堪えて?」

「はっ、無理だよ、こんな…ノエル、締め付けられ…たら、はっ、あ…」

「そこで動いて、動いて浅木さん…」

「はぁ、はっ、ノエル…」

「突いて、激しく…、激しくしていいから」

「っは、あっ、うっ」 


四つん這いの俺に導かれるまま、立ち膝をついて後ろからゆるゆると腰を動かす浅木さん。
一生懸命刺激に耐えているのか、あまり激しく動いてはくれない。
それともバックは好みじゃないのか?

太腿をビクビクと痙攣させる浅木さんが、あんまりにも頼りないから、一度抜きとって今度は浅木さんをマットレスに寝かせた。

ドサー…


「はぁ、は…ノエル…?何を…」

「何って、浅木さんが動かないから、俺が上になるよ」

「えっ!?それってどういう…」

「ふふ、入れるのは浅木さんだよ。仕かた無いから俺が動いてやるよ」


仰向けになった浅木さんの天を仰ぐペニスにローションをボタボタと垂らし、ヒクつく俺の入り口をあてがい勢い良く腰を降ろした。

――ズプププ…パチュンッ―

「―――~~っく!」


その刺激で浅木さんの腹部に力が入ったのがわかった。
歯を食いしばって、刺激に耐える浅木さん。


「っはああ…浅木さんの大きい…、すごい…奥までアタる…」

「――っ、ノ、っう、ノエル…っ」


そんな浅木さんの、快感に耐える表情に、ゾクリとした欲情を覚える。
そのままゆっくりと上下に動いてみせた。

―ズチュ プチュッ…プチュッ


「~!!あ、っく、っっあっ…っ」

「あぁぁ、浅木さん、擦れる、ナカぁ」

「っあ、っは、はっ、ノエ…ル、っあっ…く!」

「まだだよ、もっと動くからね浅木さん。ちゃんと耐えて、ね?」

「っく、あっ、う…あっ」


パチュンーパチュッー バチュッー

肌の打ち付け合う音と、結合部のグチョグチョといった粘質な音が狭い個室に響いた。

たっぷり垂らしたローションが手伝って、浅木さんの腹の上で滑るように抵抗なく快楽を生む。


「はっ、はっ…あ、っく」

「浅木さん、少しは、動いて…」

「っく、動いた、ら、出ちまう…」

「だらしない」

「っく、う、――っ」

「我慢するのに、必死だね…っは」


―パチュッ パチュン …パチュンッ

繋がったそこは、どんどん熱を増して蕩け、動きは加速する。

俺は浅木さんの上で、ただひたすら上下に腰を打ち続けた。

貪るように、搾り取るように、浅木さんを腹の底から欲しがった。


「はっ、っは、っ、あ、ノエル…っ」

「ああ、あさぎさ、あ、ああ…っあっ、あっ」


熱い…。
俺のナカに、浅木さんがいる。

膨れ上がった浅木さんのペニスが、射精したくて何度も奮えているのがわかる。
俺に感じているんだ、浅木さん…。早く出したい…中にぶちまけたい…って、そう言ってるみたいだね。


「ノエル、ノエル…っ、あ、っはっっ」

「あっ、ん、っ、んっ、んあ」


嬉しい…。
浅木さんと繋がってるのが、嬉しくて堪らない。
嬉しいよ浅木さん。


「だめ、だ、ノエル、もう耐え…っく、っう」

「あさぎ、さん、あっ、いいよ、ナカに」

「はぁ、ぁっ、あっ、ノエ…ル」

「ナカに出して、あっ、あっ、イイから、全部だし、てぇ」

「あああ、ノエルっ、もう、…っう、――っっ、くっっ!!!」

―ドク…ッン―

「っふぁ、ああ…あ」


もう、これだけで、俺には十分だよ。

何も望まない。
もう、なにもいらないから。


浅木さんを好きだという気持ちに、気づかないで過ごしていたかった。

浅木さんには、俺がこんな浅ましい想いを抱いていると知られたくない。

このまま浅木さんは、俺の客として始まって、客のまま終わってよ。

全部、俺がみた夢だったと思うことにするから。


ありがとう浅木さん。

こんな俺に、優しくしてくれて、ありがとな。

恋人と、仲良くしろよ…。
ちゃんと、上手に抱いてあげろよ? 










「どう?初めてのゲイセックスを終えて。抱き方わかった?」

「あ――うん、なんとか…」

「とりあえずローションあればほぼイケるよ。相手ゲイなんだろ?彼氏のほう、受け入れ方知ってるって」

「う~ん…」


浅木さんとの本番を終えて、俺は浅木さんの身体を洗ってやる。
狭いシャワールームの中で、浅木さんの顔を見ると、まだ不安そう。


「浅木さん?どうしたの、ちゃんと前立腺の場所まで教えたのに、なにが不満なんだよ」

「いや、不満じゃないけどさ…」

「けど?」

「なんか、あいつさ、ちょっと違うっぽいんだよな」

「は?あいつって、恋人?」

「うん、なんつーか、昨日、ちょっと、イイ雰囲気になって」


俺は気持ちを切替え、浅木さんの話に付き合う。

浅木さんに抱かれた…っていうには、自分から押し倒した感じだから、カウントしにくいかもしれないけど、まあ、好きな人と最後にヤれたことはいい思い出にできるだろう。

浅木さんへの恋愛感情は一旦抑えて、話に付き合うと、なにやら問題があるようだ…。


「仕事終わりに飲んで帰って、あいつの家寄ったんだけど…俺、なにか勘違いしてたかもしれない」

「勘違いって?」

「いや、その…もしかして、俺、オンナ側っつーの?いきなりその…押し倒されて…ケツに指突っ込まれて…」

「はぁ??それって、彼氏タチなんじゃねぇの?」

「え?なに?タチって、なに」

「あ~…そっか、浅木さん、ノンケだもんな…」


あちゃ~。
ここにきてなんだよ、この展開。

浅木さん、タチ相手に初めてのタチセックス練習してたとかって、可哀想すぎる…。


「浅木さんが掘られる側だよ、それ。浅木さんはその彼氏を抱くことはできないってこと」

「うそだろ!マジかよ!」

「ていうか、そもそも浅木さんには、その彼氏を抱きたいって感情あるわけ?」

「………」

「なんで無言?」


わしゃわしゃと浅木さんの股間を泡まみれにして洗ってやっていると、さっきまで泡と俺の手に反応していたチンコが、急にフニ…って萎れた。

…わかりやすい…。


「……勃たねぇんだよな」

「は?」

「あー…だから、俺あいつに対して、勃起しないの!」

「ちょ、それ、問題だろ。恋人だろ?」

「だから、俺焦ってんじゃん!」

「はぁ、意味わかんね…」

「ノエル、本当に俺、あいつを抱けないの?」

「いやいやいや、無理でしょ。相手タチだわ、アナタ勃たないわじゃ…」

「……そうなんだ…、はぁ~~~」


なんて残念な人なんだ、浅木さん。

恋人を前に勃たないなんて、それって恋人の意味あんの?
だいたいなんで付き合ってんだよ。好きなんじゃねぇの?


「おかしいよな。なんなんだろ、俺」

「ん?浅木さん?あれれ、また勃ってきた」

「うん。ノエルには勃つのにね。ははは」

「―――っ!」


やめろよ。

ずるい。

恋人に勃たないなんて言っておきながら、俺には勃つとか…
そんなこと言われたら、俺、糠喜びするからさ。

本気で浅木さんと、どうにかなれるなんて期待しちゃうから。

本気でここから抜け出せるなんて、思っちゃうから。


浅木さんと共に
日の当たる世界で、堂々と生きる自分を、夢見てしまうから…。



「じゃあね、ノエル」

「ん。おやすみなさい」


そう言って個室を後にした俺。

この日、浅木さんは「また来るね」とは言わなかった。

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