怪談レポート

久世空気

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№214 右腕

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――芽本さんは先日山で遭難し、九死に一生を得た。

 正確には遭難ではないんです。自殺しようとしたんですよ。大学進学をして、地元を離れて一人暮らしをしていたんですが、いろいろと細かいトラブルが重なって……隣人トラブルとか、勉強がついていけないとか、そういうのです……さらに父が仕事で不祥事を起こして解雇、実家から仕送りを止められました。

 死のうと思ったとき、死に方がわからないことに気付きました。何をしても人に迷惑をかけてしまうなって。
 そこで「失踪しよう」と考えました。実家や学校に「探さないでください」って手紙を送って、スマホや部屋は解約、僕自身は人が立ち入らない山や森の奥で練炭自殺する予定でした。事件性がなければ警察も捜索しないだろうし、親もある程度時間が経てば死んだと思ってくれるだろうと。今考えると勝手なものです。

 僕は樹海ほど有名ではないですが、毎年遭難者が出る山に向かいました。山に入って、どんどん道なき道を歩きました。
 どうせ死ぬんだと、周りをろくに確認せずに歩いたせいで、足を踏み外して川に落ちました。夕暮れ時で、夏でしたが川の水は冷たく夜になり体が冷えました。頑張って運んでた練炭も湿ってしまってすぐには使えなくなっていました。死ぬつもりだったので何の準備もしてこなかった僕はすぐに途方に暮れました。練炭が乾いても、その頃には低体温で動けなくなっていたら……とかテントを張りたかったんですが、事故の後あたふたしていたら真っ暗になり、買って一度も開いていないテントを作るのは無理でした。

 本当に何しているんだと。やっぱり何をしても中途半端なんだな。そう落ち込んでいると、明かりが遠くに見えました。僕は動けなかったのでじっとその光を見ていたら、まっすぐこちらに向かってきたんです。
 地元の人かと思ったんですが、近づくほどにそれが人間とは言えない物だとわかりました。二足歩行で、片手にたいまつは持っていました。服は着ておらず、体は赤黒く木の肌のように全身ひびが入ってささくれているように見えました。目はたいまつの灯が揺れるごとにキラキラと光っているんです。僕もその頃には朦朧としていて、変な物が来たとわかっていても動けませんでした。

 それは僕のすぐ近くに屈んで、じーっと僕を見つめてきました。大きな黒い目は人間のように知性があるようでした。だから余り警戒心が沸かなかったのかもしれません。ですが、次の瞬間そいつが僕の腕にたいまつを押しつけてきました。熱いと感じるまでに数秒かかりました。何をされているのか気づき、もげるような熱さに絶叫しました。

 気がついたときは病院でした。なんで助かったのかわかりません。地元の人が運んでくれたと聞きましたが、それが誰なのかもわかりません。

 これ、そのとき僕と一緒に運ばれた物です。見ます?

 右腕の骨です。歯形らしき物もありますし、焼いて食べたんだと思います。ね? 生きているのが奇跡ですよね。
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