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№148 あの家
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――小東さんが小学生の時に住んでいた地域には「近づいてはいけない家」があった。
普通に荒れた感じの一軒家の空き家でした。学校の怪談なんかでよくある「幽霊屋敷」とかいう噂ではありません。そういう怪談めいたものは聞いたことがありませんでした。ただ大人は口をそろえて「あの家に近づいちゃダメ」って言っていましたね。でも公園に行く近道を使うとどうしてもその家の前を通ることになるんです。親の心子知らず、というか「前を通るだけだし」と、子供はみんな通っていました。
その日、僕は弟と友達数人で公園で遊ぼうと近道を歩いていました。弟は前日にお祭りの屋台でもらったスーパーボールで遊びながら歩いていたのですが、それがうっかりおかしな方向に弾ませ「あの家」に入れてしまいました。
弟は大泣きし、友達は弟の心配をしつつもオロオロしてしまいました。僕は弟がスーパーボールをとても気に入っているのを知っていたので「取ってきてやるよ」と家の門を開けて入りました。後ろから友達が止める声がしました。弟の泣き叫ぶような声も追ってきました。
さっきも言いましたが「幽霊屋敷」ではなく「近づいてはいけない家」なので恐怖はありませんでした。タブーを犯している後ろめたさはあったので、さっさと出ようと急いでボールを探しました。幸いボールは派手な色をしていたので鬱蒼とした庭の中でもすぐ見つけることが出来ました。だいたい5分くらいだったと思います。その間もずっと友達や弟が「早く出てこい」「お兄ちゃんごめん! 戻ってきて!」とわめいていました。
大げさだなぁと笑いながら家を出ると、誰もいませんでした。それまで聞こえていた声も消え、僕は一人、「あの家」の前に立っている状況でした。理解できず呆然と立ち尽くしていると、近所のおじさん数人をつれた弟や友達が息せき切って走ってきました。弟は僕を見るとまたぎゃんぎゃんと泣き出し、僕たちは大人たちに怒られながらもその場を離れました。
もちろん公園への近道を通ることは禁止され、学校まで伝わり全校集会でも校長先生から注意事項として生徒全員に伝えられました。
なんでそんなに大事になるのかと思いますよね。でも僕が家に入った後のことを友達から聞いてさすがにぞっとしました。僕が塀の向こうに消えてすぐ、家の中から大柄のおじいさんが出てきたんだそうです。おじいさんはへらへらと笑い、僕が入っていった方の庭を指さし、声を出して笑いながら追うように走って行ったんだとか。友達はヤバいやつだと思い、慌てて大人の援軍を呼びに行ったそうです。
つまり一度も僕を呼んでいなかったんですね。ずっと聞こえていたんですけど。それに僕はおじいさんを見ていませんし、笑い声も聞いてません。
「あの家」は空き家なのは事実です。でも何かが住んでいたなら、僕はずっと見られていたのかもしれません。あの日だけじゃなく、家の前を通るときはずっと。
普通に荒れた感じの一軒家の空き家でした。学校の怪談なんかでよくある「幽霊屋敷」とかいう噂ではありません。そういう怪談めいたものは聞いたことがありませんでした。ただ大人は口をそろえて「あの家に近づいちゃダメ」って言っていましたね。でも公園に行く近道を使うとどうしてもその家の前を通ることになるんです。親の心子知らず、というか「前を通るだけだし」と、子供はみんな通っていました。
その日、僕は弟と友達数人で公園で遊ぼうと近道を歩いていました。弟は前日にお祭りの屋台でもらったスーパーボールで遊びながら歩いていたのですが、それがうっかりおかしな方向に弾ませ「あの家」に入れてしまいました。
弟は大泣きし、友達は弟の心配をしつつもオロオロしてしまいました。僕は弟がスーパーボールをとても気に入っているのを知っていたので「取ってきてやるよ」と家の門を開けて入りました。後ろから友達が止める声がしました。弟の泣き叫ぶような声も追ってきました。
さっきも言いましたが「幽霊屋敷」ではなく「近づいてはいけない家」なので恐怖はありませんでした。タブーを犯している後ろめたさはあったので、さっさと出ようと急いでボールを探しました。幸いボールは派手な色をしていたので鬱蒼とした庭の中でもすぐ見つけることが出来ました。だいたい5分くらいだったと思います。その間もずっと友達や弟が「早く出てこい」「お兄ちゃんごめん! 戻ってきて!」とわめいていました。
大げさだなぁと笑いながら家を出ると、誰もいませんでした。それまで聞こえていた声も消え、僕は一人、「あの家」の前に立っている状況でした。理解できず呆然と立ち尽くしていると、近所のおじさん数人をつれた弟や友達が息せき切って走ってきました。弟は僕を見るとまたぎゃんぎゃんと泣き出し、僕たちは大人たちに怒られながらもその場を離れました。
もちろん公園への近道を通ることは禁止され、学校まで伝わり全校集会でも校長先生から注意事項として生徒全員に伝えられました。
なんでそんなに大事になるのかと思いますよね。でも僕が家に入った後のことを友達から聞いてさすがにぞっとしました。僕が塀の向こうに消えてすぐ、家の中から大柄のおじいさんが出てきたんだそうです。おじいさんはへらへらと笑い、僕が入っていった方の庭を指さし、声を出して笑いながら追うように走って行ったんだとか。友達はヤバいやつだと思い、慌てて大人の援軍を呼びに行ったそうです。
つまり一度も僕を呼んでいなかったんですね。ずっと聞こえていたんですけど。それに僕はおじいさんを見ていませんし、笑い声も聞いてません。
「あの家」は空き家なのは事実です。でも何かが住んでいたなら、僕はずっと見られていたのかもしれません。あの日だけじゃなく、家の前を通るときはずっと。
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