怪談レポート

久世空気

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№126 公衆トイレ

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――六ツ美さんの住む周辺は最近開拓された住宅地だ。

 私もマイホームを建てて引っ越ししてきました。新しい町だから道や公園が全体的にきれいで、そもそも近くの商店街やら公共施設も活気があってこれから子供を作ることも考えている私たち夫婦にとって多少無理してでもほしい場所でした。職場から少し遠くなりましたが、電車の乗り換えがないので逆に楽になって良いことづくめ……と、思ったんですけどね。

 先日仕事から帰るのが夜中近くになることがありました。ろくに夕食も食べれず、電車に乗る前に腹の足しにとスポーツドリンクをペットボトルで一気飲みしました。そのせいで、家に着く前に尿意に耐えきれなくなっていました。
 帰宅を急ぐより駅のトイレに行けば良かった、と後悔しました。ですが、ふと近所の公園に公衆トイレがあることに気づきました。ちょっと怖かったんですが、ズボンを濡らして歩くわけにはいきません。公園に駆け込みました。
 新しい公園なのでトイレもきれいでほっとするくらい明るい場所でした。急いで入るとなぜか小便用のトイレがなく、仕方なしに二つある個室の一つに入りました。後で確認したら、間違えて女性用に入ってたんですよね……。
 用を足していると隣のトイレから水音がしました。誰か入っていたのかと思いましたが戸が開いているのは見てるんですよ。戸の後ろに誰か隠れていた? と、考えてぞっとして思わず息を止めました。そんなことをしても、こちらのことは気づいているでしょう。隣の水音はだんだん大きくなって最終的には荒波のようにばしゃんばしゃんという音とともに戸の下の隙間から水が流れ込んできたんです。
 下のモノをしまうことも忘れて私は縮こまっていました。私のズボンの裾がぐっしょりと濡れた頃、隣の個室の水音はようやく止まり、ぺたぺたと人の足音が遠のいていきました。
 しばらく息を殺していましたが静かで何の気配もなくなったので私はそっと外に出ました。水を踏んだ裸足の足跡が道にできていました。その先に、髪の長い女の後ろ姿がありました。私はそれをあまり直視しないように、そして気づかれないようにそっと逆方向に歩き、徐々に足を速め最後に飛び込むようにして家に入りました。
 多分気づかれていないと思いますが体はガタガタ震えていました。もちろん妻にも話しましたが
「あの公園が曰く付きってあり得ないと思うよ。新しいところだし」
 と半信半疑でした。あれはトイレから出てきたんでしょうか。あのトイレはどこかに繋がっている? それとも悪いことがあった街だった? 何にしろ、幽霊とかおばけとかって新しくて活気のある場所にも出てくるんですね。しばらく一人でトイレに行けそうもないです。
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