怪談レポート

久世空気

文字の大きさ
上 下
119 / 254

№119 生活音

しおりを挟む
 息子が小学校高学年になったので私も働きに出ることになりました。
 息子が1時間ほど先に帰宅することになりますが、もう一人でも大丈夫だろうということで、鍵っ子になってもらいました。息子は夫に似て何かに没頭すると周りが見えなくなる性格なので、家で一人の時間があるのがうれしかったようです。
 しかし、1年くらいして息子が
「早く帰ってこれない?」
 と言い出すようになりました。親子三人で話し合いしたところ、息子は
「誰かが来る」
 と。訪問販売とかではなく、誰かが家の中に入ってくると言うんです。扉が開く音がして、私が早く帰ってきたのかと思って自室を出ても誰もいない。鍵も閉まっているので気のせいかと思いまた自室に戻るとトイレを流す音がする。でも誰もいない。居間のテレビがついた音がする。すぐに居間に戻っても、テレビはついていないし誰もいない。
 怖いんだと息子はいいました。それは私か夫がいるときは気配を感じないそうです。話し合いが終わった後、夫は
「きっと寂しいんだろう」
 と結論づけましたが、私は違う気がするんです。だって1年くらいの間、息子は私が帰宅しても自室から出てこないで、私が声をかけてようやく
「あ、帰ったんだ」
 という感じでした。それなのに最近になって音に反応するのは不自然な気がしたんです。
 私は有休を取って、息子が帰ってきてから息子の部屋で一緒に過ごすことにしました。息子は
「俺の部屋じゃなくても良いじゃん」
 なんて言ってましたが、少し安心しているようでした。
 家に帰ってすぐ、息子はおやつを食べながら宿題を始め、私は横で静かに雑誌をめくっていました。思ったより静かで、本当に寂しくて変な音を聞いた気がしただけかも、と思い始めたとき突然扉が開きました。私はすぐに見に行きましたが、チェーンも鍵もかかっていましたし、誰もいません。扉の近くのトイレや棚を恐る恐る調べてみましたが、やはり何もいません。息子もドアの音を聞いて反応していたので幻聴ではないはず。
 私が一通り調べ終わった時、息子が
「お母さん!」
 と大声を出しました。私は走って声の方に行きました。息子はベランダの前に立ち尽くしていました。振り返って私を見ると、わっと泣き出し抱きついてきたんです。
 何があったのか聞くと、私が部屋を出てしばらくすると廊下をトトトと早足で歩く音が聞こえ、私が通り過ぎたのだと思った息子は部屋を出たそうです。その足音は居間に向かい、ベランダを開け、私の後ろ姿がベランダから身を乗り出して飛び降りた、と息子は震える声で言いました。
 あの後ろ姿は確かに私だったと。すぐに確認しましたが誰も居ませんでした。うちはマンションの5階です。落ちたら無傷では済まないでしょう。息子はそれ以来精神的に不安定になったので、一時期私の実家に住まわせ、その間に夫を説得してマイホームの計画を早めています。
 もちろん息子のためでもありますが、私も、このままあのマンションに住んでいたら……と思うと怖くてしょうがないんです。

――この怪談の謝礼金は不足のマイホーム資金に充てると東田さんは力なく笑った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

隠せぬ心臓

MPE事業部
ホラー
これは江戸川乱歩の命名の元にもなったアメリカの作家 エドガー アラン ポーの短すぎる短編 The Tell-Tale Heart をわかりやすい日本語に翻訳したものです。

ゴーストバスター幽野怜Ⅱ〜霊王討伐編〜

蜂峰 文助
ホラー
※注意! この作品は、『ゴーストバスター幽野怜』の続編です!! 『ゴーストバスター幽野怜』⤵︎ ︎ https://www.alphapolis.co.jp/novel/376506010/134920398 上記URLもしくは、上記タグ『ゴーストバスター幽野怜シリーズ』をクリックし、順番通り読んでいただくことをオススメします。 ――以下、今作あらすじ―― 『ボクと美永さんの二人で――霊王を一体倒します』 ゴーストバスターである幽野怜は、命の恩人である美永姫美を蘇生した条件としてそれを提示した。 条件達成の為、動き始める怜達だったが…… ゴーストバスター『六強』内の、蘇生に反発する二名がその条件達成を拒もうとする。 彼らの目的は――美永姫美の処分。 そして……遂に、『王』が動き出す―― 次の敵は『十丿霊王』の一体だ。 恩人の命を賭けた――『霊王』との闘いが始まる! 果たして……美永姫美の運命は? 『霊王討伐編』――開幕!

507号室

春くる与
ホラー
半分実話。

オーデション〜リリース前

のーまじん
ホラー
50代の池上は、殺虫剤の会社の研究員だった。 早期退職した彼は、昆虫の資料の整理をしながら、日雇いバイトで生計を立てていた。 ある日、派遣先で知り合った元同僚の秋吉に飲みに誘われる。 オーデション 2章 パラサイト  オーデションの主人公 池上は声優秋吉と共に収録のために信州の屋敷に向かう。  そこで、池上はイシスのスカラベを探せと言われるが思案する中、突然やってきた秋吉が100年前の不気味な詩について話し始める  

白いワンピースのお姉さん

Saki
ホラー
白いワンピースのお姉さん、その存在は主人公に何をもたらす?

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

短な恐怖(怖い話 短編集)

邪神 白猫
ホラー
怪談・怖い話・不思議な話のオムニバス。 ゾクッと怖い話から、ちょっぴり切ない話まで。 なかには意味怖的なお話も。 ※追加次第更新中※ YouTubeにて、怪談・怖い話の朗読公開中📕 https://youtube.com/@yuachanRio

処理中です...