怪談レポート

久世空気

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№111 家を取り壊したい

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 怖い話とはまた毛色が違うような……ただ、異常なことで理屈が通じないのは確かです。

――珀さんの実家を取り壊すことになった時のことだ。

 すでに5年ほど誰も住んでいません。5年前まで母が住んでいたのですが、高齢ということもありホームに移り住みました。
 簡単に言いましたけど大変だったんですよ。母は頭はしっかりしているんですが。腰が曲がって体力が落ちてめんどくさがりになっていました。それなのに頑固で……。
 家ってどんどんガタが来るじゃないですか。それなのに修繕しない。母自身では無理だと手を付けない。私が見たときには結構痛んでいるから、業者を呼ぼうとするけど嫌がられる。他人を家にいれるのが嫌なんです。まあ、無理矢理業者を連れてくるんですけど、それでも私だって何度も実家に帰れません。徐々に家は傾いていって、ほぼ廃墟みたいになっていました。
 私は取り壊そうと提案しますが、母は頑なで絶対首を縦に振りません。ホームにも誘拐かと思われるくらい強引に入れました。母はずっと家に帰りたいと言っていましたが、建て直さないことにはそれはかないません。それを何度も説得明日のですが絶対に立て直しに納得しませんでした。家も土地も母の所有物である以上首を縦に振らないことにはもはやどうにもなりません。
 施設に入れて2年後、母はぽっくりと逝ってしまいました。最期まで元気だったので驚きました。

 そう言うわけで3年前家も土地も一人娘の私が継いだんです。だから取り壊すことは簡単だったはずなんですが、どうしても出来なくて。母に悪いからとか、そういう感情的なものではありません。
 まず母の遺品を整理すると、異臭がするんです。何か腐ったのか、それとも動物が迷い込んだのか。とにかく匂いのもとを探るんですが何も出てきません。1週間くらいそれに悩まされたのですが、匂いは突然消えてしまいました。
 そして遺品整理の続きを始めると、今度はどこで聞きつけたのか着物やら貴金物やらを買い取る会社が何度も訪問するようになります。それもしつこすぎるくらいだったので、弁護士を雇ってどうにかしてもらおうと思った矢先にその会社が潰れて来なくなりました。

 ようやく家をつぶせる段階になっても、今度は台風や大雨で日程がずれ、さらに頼んだ業者が病気になったり、床下から遺跡のようなものが出てきて考古学者を名乗るものが取り壊しを止めてきたり……。
 呪われてるんじゃないかって、親戚に言われて祈祷師を呼んだんですが、「別に何もないよ」って言われるんです。そんなことってあります? 呼んでおいて言うのもおかしいですけど、ああいう人って何もなくてもあるふりをして、適当に呪文唱えて依頼主を安心させるものじゃないんでしょうかね。お金も取らずに帰っていきましたよ。
 なんというか、呪われていた方がましでした。いつになったら取り壊せるのか。
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