怪談レポート

久世空気

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№99 虫の標本

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 祖父が他界した後、維持が大変な別荘や祖父の邸宅は処分することになりました。邸宅の方は祖父が終活をしていたおかげで、さっさと片づいたんですが、別荘は祖父の趣味で山の中にあり、父や叔父、私や従兄たちが皆で片づけに行きました。
 祖父は趣味のものを別荘に置くようにしていたようで、邸宅よりもごちゃごちゃとしていました。釣りの道具や、虫取り、標本、彫刻刀や彫りかけの仏像、あと油絵の道具や、いろんな国のお土産物。本もたくさんありました。
 別荘には何度か泊まったことがありましたが、祖父の趣味の部屋は立ち入り禁止だったので、こんなに多趣味だったのかと驚いたものです。
 親たちの掃除を手伝いながら、私たち孫世代はお宝探しをしていました。私はオルゴールや天然石なんかを見つけて喜んでいたんですが、従兄たちはネットで売れそうなものを探していたようです。古いものばかりで、価値のあるものはなさそうでしたが。
 従兄たちは少し飽きてきたらしく、悪戯をしてきました。標本にされていた虫をケースから出して、私の顔の前につきつけてきたんです。私は驚いて手で払いました。手は虫に当たったらしく、チクっと痛みました。従兄は笑いましたが、私は頭にきて大喧嘩になりました。父たちが気づいて止めに来たときには、もう少しで手が出るところでした。
 叔父は従兄を叱り、一件落着となりましたが、標本を片付けようとした従兄が首を傾げました。私が払った虫がいないのです。そこそこ大きな虫だったようです。カブトムシのような甲虫ではないようでしたが、羽があって、羽が体を覆っているような姿をした、白い虫だったと。標本箱を見ても、ラベルには採取した日付と場所しか書いてありませんでした。虫の死骸に時間を取られるわけにいかないので、その件はうやむやになり、その日は別荘に泊まりました。
 その夜、私は変な夢を見たんです。白い大きな虫が私の体を這いずりまわっている夢。何度払っても取れないんです。

 次の日から私は人の倍食べるようになりました。それなのにまったく太らないんです。その他、暗いところですごく感覚が研ぎ澄まされるようになりました。人の体温とかちょっとした振動とかがわかるんです。それとちょっとした予知能力でしょうか。何かしようとすると皮膚が波打つ感覚がするんです。どこかへ行くのに道を変えたり、電車を見送ったりすると、それが事故にあったり、トラブルが起きたりするんです。
 あの虫、あれからいろいろ調べたんですが、わかりません。もしかして、標本の虫が、あり得ないとは思いますけど、私に、寄生してるんじゃないかって。寄生している私を生かすために超能力みたいなことしてるんじゃないかって……そんな気がするんです。

――勢野さんは話しながら、細い腕をさすっていた。その腕に時折二つのガラス玉のような目が見えた。
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