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№89 キャンプ場の猿
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――江渕さんには3歳年上のお兄さんがいるらしい。
私が小学生の時で兄が中学生の時です。家族で毎年キャンプに行ってました。毎年同じキャンプ場で近くに川も山もあって虫取りも魚釣りも一緒に楽しんでいました。それなのに私たちは遭難してしまいました。
最初に兄が猿を見つけたんです。兄が指さした先、高い木の上に小学校低学年くらいの大きさの猿がいました。二人とも興奮し、猿が木から木へと移動し始めたので、私たちは思わず後を追ったんです。上を向いたまま走っていて、あっという間に迷いました。
たぶんこっちだとか勘で動いていたら、私が崖から落ちました。高さは2メートルくらいだったと思います。足から滑り落ちた感じで、足首をねん挫してしまいました。崖の上の兄は「ちょっと待ってろ」とのぞき込んでいた顔を引っ込めました。そのとたん急に不安になったのを覚えています。立ち上がると痛いし、どう考えても崖を上ることはできない。
そもそもこんな崖があるなんて知らない。ここはきっと初めて来る場所で、両親もわからないだろう。
木漏れ日がオレンジ色になってきたころ、兄が帰ってきました。私は泣きながら怒りましたが、兄は私が怪我しているのに気付いて、おぶっても崖の下から上に行ける道を探してくれてたそうです。めちゃくちゃに罵倒した私に、ちょっとすねながら兄は私をおぶってくれました。ほっとしたものの、帰れるのかという不安は残っています。
私が兄に聞こうとしたとき木の上からがさがさと大きな音がしました。見上げると猿がいました。でも一匹じゃないんです。10匹ぐらいが群れを成して、しかもこっちを見て、兄の歩く速さに合わせて木から木へと移動しているんです。
「あれ、猿、おかしくない?」
と私は兄に聞きました。兄は前を向いたまま、
「あれ、猿じゃない」
と言いました。そして歩く速度を速めました。私は怖くて兄の背中で泣いていました。たまに上から「キキキ」という鳴き声か笑い声かわからない声が聞こえました。もし兄がこけてしまったりしたら、一斉に襲ってくるんじゃないかという気がしていました。
しかし兄は一度も迷うことなく山の外に出ました。もう真っ暗でしたが、キャンプ場の近くの道に出たんです。兄は私を下ろし、親を呼んでくると一人で行こうとしました。その時はもう猿の姿はなかったんですが、私は一人になりたくないと駄々をこねました。
でもよく見ると兄は傷だらけで、たぶん脇目もふらず逃げていたから木の枝とかに引っかけて怪我をし、私を背負うのも限界なんだとその時は思いました。兄がキャンプ場に入って数分で懐中電灯を持った地元のお巡りさんが私を見つけました。すぐに両親と兄の所に連れていってくれて、その時には子供が山で遭難したと騒ぎになりかけていたようです。
どうやって崖の下から出てきたのと聞かれたので、兄が負ぶってくれたと言いました。すると周りがなんか戸惑うのがわかりました。兄は、私が崖から落ちた後、すぐに両親に助けを求めに行ったそうなんです。でも崖の場所がわからず通報したと。確かにキャンプ場で待っていた兄はそれほど怪我をしていませんでした。
それ以来、あのキャンプ場には行ってません。でもあの偽兄にはお礼を言えたらなぁと思っています。
私が小学生の時で兄が中学生の時です。家族で毎年キャンプに行ってました。毎年同じキャンプ場で近くに川も山もあって虫取りも魚釣りも一緒に楽しんでいました。それなのに私たちは遭難してしまいました。
最初に兄が猿を見つけたんです。兄が指さした先、高い木の上に小学校低学年くらいの大きさの猿がいました。二人とも興奮し、猿が木から木へと移動し始めたので、私たちは思わず後を追ったんです。上を向いたまま走っていて、あっという間に迷いました。
たぶんこっちだとか勘で動いていたら、私が崖から落ちました。高さは2メートルくらいだったと思います。足から滑り落ちた感じで、足首をねん挫してしまいました。崖の上の兄は「ちょっと待ってろ」とのぞき込んでいた顔を引っ込めました。そのとたん急に不安になったのを覚えています。立ち上がると痛いし、どう考えても崖を上ることはできない。
そもそもこんな崖があるなんて知らない。ここはきっと初めて来る場所で、両親もわからないだろう。
木漏れ日がオレンジ色になってきたころ、兄が帰ってきました。私は泣きながら怒りましたが、兄は私が怪我しているのに気付いて、おぶっても崖の下から上に行ける道を探してくれてたそうです。めちゃくちゃに罵倒した私に、ちょっとすねながら兄は私をおぶってくれました。ほっとしたものの、帰れるのかという不安は残っています。
私が兄に聞こうとしたとき木の上からがさがさと大きな音がしました。見上げると猿がいました。でも一匹じゃないんです。10匹ぐらいが群れを成して、しかもこっちを見て、兄の歩く速さに合わせて木から木へと移動しているんです。
「あれ、猿、おかしくない?」
と私は兄に聞きました。兄は前を向いたまま、
「あれ、猿じゃない」
と言いました。そして歩く速度を速めました。私は怖くて兄の背中で泣いていました。たまに上から「キキキ」という鳴き声か笑い声かわからない声が聞こえました。もし兄がこけてしまったりしたら、一斉に襲ってくるんじゃないかという気がしていました。
しかし兄は一度も迷うことなく山の外に出ました。もう真っ暗でしたが、キャンプ場の近くの道に出たんです。兄は私を下ろし、親を呼んでくると一人で行こうとしました。その時はもう猿の姿はなかったんですが、私は一人になりたくないと駄々をこねました。
でもよく見ると兄は傷だらけで、たぶん脇目もふらず逃げていたから木の枝とかに引っかけて怪我をし、私を背負うのも限界なんだとその時は思いました。兄がキャンプ場に入って数分で懐中電灯を持った地元のお巡りさんが私を見つけました。すぐに両親と兄の所に連れていってくれて、その時には子供が山で遭難したと騒ぎになりかけていたようです。
どうやって崖の下から出てきたのと聞かれたので、兄が負ぶってくれたと言いました。すると周りがなんか戸惑うのがわかりました。兄は、私が崖から落ちた後、すぐに両親に助けを求めに行ったそうなんです。でも崖の場所がわからず通報したと。確かにキャンプ場で待っていた兄はそれほど怪我をしていませんでした。
それ以来、あのキャンプ場には行ってません。でもあの偽兄にはお礼を言えたらなぁと思っています。
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