怪談レポート

久世空気

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№74 壁顔

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――伏木さんの通っていた小学校には所謂七不思議というものがあったそうだ。

 俺のいた小学校の七不思議は本に載っているようなものではなく、代々語り継がれているものでした。大袈裟と思いますか? 俺の学校、戦前からあってかなり歴史が古く、その頃から語られてるんでまさに「代々」なんですよ。しかもエピソードの詳細は違えど、昔生徒だった先生に聞いても七不思議が変わらないんですよね。まぁ、ほとんどは花子さんや二宮金次郎像のようなベタな物ですが。

 でもひとつだけ他では聞かないのがあるんです。それが「壁顔」です。文字通り壁に顔があるんですよ。それは突然校舎の壁に現れます。外壁だったり教室だったり廊下だったり。お面のような顔が壁面を動き回って、壁の中で生きている。それを見たら寿命が1年縮むとか、不幸になるとか、食べられて壁顔の仲間になるとか、色々言われていました。

 ある日、俺は水泳部で掃除当番に当たっていました。更衣室の簀の子を上げてブラシでこすって、ロッカーを一つ一つ拭いて、と結構ハードなんですよね。終わったころにはほとんど日が傾いていました。
 そろそろ帰るかと思ったときに視線を感じたんです。とくに何も思わずに振り返ると、そこに顔がありました。そう、壁顔です。コンクリートむき出しの更衣室にそのままコンクリート色をしたお面のような顔が張り付いていたんです。寝ているように見えました。
 これ、誰に話しても上手く伝わらないんですけど、これだけですごく怖くなったんですよ。すぐにドアノブに手をかけたんです。でも、動かないんです。鍵は俺が持っていますし、外から閉められたとしても内側から開けることが出来るんです。でもどうしたって開かない。壁に一体化したみたいに。

 その時気づいたんですけど、壁顔が移動してるんですよ。ずずっずずって。近づいてきてるんです。それまでロッカーの上にあったのが、そのまま移動して、ドアに近づいてきて、ドアの上まで来て。それまでドアを蹴ったり殴ったりして何とか開けようとしてたんですが、真上まで来たときもう無理って急いでドアから離れました。
 今にしてみれば意味が分からないんですけど、その場で土下座しました。床にはいつくばるような感じで。しばらくそうして視界に入れないようにしていたら、あれ? 幻? って気になってくるんですよね。それで思い切って顔を上げようとしたんです。

 あげる前に床の顔と目が遭いました。壁顔が床の俺の傍まで来てたんです。それまで眠ったように目をつむっていたのに、目が見開いていて、視線があって、そいつ、ケタケタ笑いだしたんです。それで俺、気絶してしまったらしくて記憶がありません。
 低体温で病院に運ばれたくらいで、ちゃんと生きてますが、あれ以来プールに行けなくなりました。
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