怪談レポート

久世空気

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№54 おんぶ

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 あなたは幽霊とかが見える人ですか? ああ、見えても何も言わないでください。とにかく、話します。誰にも理解されたことはない話ですが……。

――久遠さんは体を丸くかがめたような姿勢でソファに腰掛けて話し始めた。

 私には10歳の娘がいました。妻に似て可愛い女の子です。活発で好奇心が旺盛で……。
 5年前、家族3人で遊園地に行きました。地元の小さな遊園地です。その日は祝日で、思ったよりも来園者が多く、また、暑かったこともあり娘はいつもよりも遊び疲れてしまったようでした。だから閉園より早く帰ることになり、妻が土産物屋でお菓子を買いに行きました。これは毎回のことで、娘には好きなキャラクターがいて、遊園地に来るたび、そのスナック菓子をいつも家に帰って食べていました。

 妻が買い物に行っている間、私と娘はベンチに座って休んでいました。娘は私に寄りかかっていましたが、ふと「ママの所に行きたい」と言いました。娘を見るとくりくりした目で私を見上げています。見た目よりもしんどいのだろうかと思い、私は背負って妻のもとに連れていこうと思いました。娘は私が背中を向けると「やだぁ」と照れて笑っていましたが、すぐに私の肩に手がかかり、背中にずっしりと体を預けてくれました。こんなに大きくなったんだなと少し嬉しい気持ちになったのを覚えています。

 土産物屋の前で、出てきた妻に会いました。妻は
「何してるの?」
 と驚いた顔をしました。
「ママの所に行きたいっていうから……」
「娘はどこ?」
「背中にいるだろ」
「いないけど……」
かみ合わない会話に混乱した私は背中を振り向きました。重みは確かにあります。しかし、娘はそこにいませんでした。私は何もいない背中を丸めて何かを背負っていたのです。

 妻は小さく悲鳴を上げて元のベンチに戻りました。そこで娘はぐったりと横になっていました。すぐに救急車が呼ばれ、近くの病院に搬送されましたが……。
 妻は私を責めました。妻は私がふざけて娘を置き去りにしたと思っています。私は得体のしれない何かのせいだと確信していますが、それを妻に言ったところで娘が戻ってこないのはわかりきっています。

 ……それでもあの時からずっと、私は背中に何かをおぶってるんです。重みがあるんですよ。肩も背中も負担が大きく、体が始終痛みを覚える為大した仕事もできません。妻は出て行きました。一度、親切心で拝み屋のようなやつを連れてきた友人も居ました。拝み屋が「娘の霊が……」なんて言いだした時点で殴って追い返しました。

 娘のわけがないんです。だっておぶった時点ではまだ娘は生きていた。だからこれは別の何かなんです。言わなくていいですよ。これが何かなんて。もしそれがわかってしまったら、私はきっと……。
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