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№50 形見の人形
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この人形、友達の手作りなんですよ。
――荏田さんが見せてくれたのは手のひら大の、布でできた犬の人形だった。
小学生の時から仲が良くて、毎日のように一緒に遊んでいました。中学校以降は別でしたが、休みの日とか予定がないと連絡を取ってお互いの家で遊んでいました。二人とも家で遊ぶのが好きで、この人形つくりもその延長でした。
あの子が死んでしまったのは大学卒業してすぐです。就職して、あの子は県外に就職してしまってそれまで以上にあえなくなったけど、連絡はずっと取り合っていました。あの子は事故で亡くなりました。お通夜にもお葬式にも参列しましたが実感がわかなくて、私はしばらくぼーっと過ごしていました。
四十九日を過ぎたころ、あの子の両親から連絡がありました。言われるがまま会いに行くと、この犬の人形を譲ってほしいとのことでした。私はその時までこの人形のことを忘れていましたが、思いだしても譲る気になりません。だって一応形見ですから。するとあの子の両親は渋る私に大金を出して、これでどうかと……。その時は恥も外聞も忘れてただただ早世した我が子の面影を追っているのだろうと同情しました。
そしてお金は受け取らずにこの人形をお渡しすることにしました。私とあの子には友達だった宝物のような時間がある。形見だって、今まで誕生日にもらったプレゼントがあるんだから……そう、自分を納得させて帰宅後、すぐに郵送しました。
届いてすぐにお礼の電話があったので、一度は二人の手元に行ったはずなんです。でも次の日、私が仕事から帰るとポストにこの人形があったんです。私はあの子の両親が返しに来たのだと思いました。せっかく決心して送ったのにと脱力しましたが、戻ってきたことは嬉しかったです。
しかし、その日のうちに二人から連絡があり、あの人形がそっちにいってないかと。人形が勝手に動くわけないのにと、私は納得がいきませんでしたが、また頼まれるまま彼らに人形を送りました。
まあ、結果はごらんのとおりです。
何度送っても、戻ってきます。ある時は私の部屋の箪笥の中にいました。きっとあの子はこの人形を私に持っていてほしかったんだって私は気づきました。
怖くはありませんよ。怖いのはあの子の両親です。日に何度も連絡があるので着信拒否にしたら、今度は家まで押しかけてくるようになりました。警察に相談しても「人形一つくらい上げたら?」「両親の気持ちになって」と話になりません。
今では直接の嫌がらせがひどくて。まるで私を泥棒か殺人犯あつかい。今思うと、あの子は両親の話をあまりしませんでした。ひょっとしたら、ああいう人たちだから私の所にこの人形が戻ってくるのかもしれませんね。
――荏田さんは謝礼を受け取ると大きなカバン一つと人形一つ持って去っていった。
――荏田さんが見せてくれたのは手のひら大の、布でできた犬の人形だった。
小学生の時から仲が良くて、毎日のように一緒に遊んでいました。中学校以降は別でしたが、休みの日とか予定がないと連絡を取ってお互いの家で遊んでいました。二人とも家で遊ぶのが好きで、この人形つくりもその延長でした。
あの子が死んでしまったのは大学卒業してすぐです。就職して、あの子は県外に就職してしまってそれまで以上にあえなくなったけど、連絡はずっと取り合っていました。あの子は事故で亡くなりました。お通夜にもお葬式にも参列しましたが実感がわかなくて、私はしばらくぼーっと過ごしていました。
四十九日を過ぎたころ、あの子の両親から連絡がありました。言われるがまま会いに行くと、この犬の人形を譲ってほしいとのことでした。私はその時までこの人形のことを忘れていましたが、思いだしても譲る気になりません。だって一応形見ですから。するとあの子の両親は渋る私に大金を出して、これでどうかと……。その時は恥も外聞も忘れてただただ早世した我が子の面影を追っているのだろうと同情しました。
そしてお金は受け取らずにこの人形をお渡しすることにしました。私とあの子には友達だった宝物のような時間がある。形見だって、今まで誕生日にもらったプレゼントがあるんだから……そう、自分を納得させて帰宅後、すぐに郵送しました。
届いてすぐにお礼の電話があったので、一度は二人の手元に行ったはずなんです。でも次の日、私が仕事から帰るとポストにこの人形があったんです。私はあの子の両親が返しに来たのだと思いました。せっかく決心して送ったのにと脱力しましたが、戻ってきたことは嬉しかったです。
しかし、その日のうちに二人から連絡があり、あの人形がそっちにいってないかと。人形が勝手に動くわけないのにと、私は納得がいきませんでしたが、また頼まれるまま彼らに人形を送りました。
まあ、結果はごらんのとおりです。
何度送っても、戻ってきます。ある時は私の部屋の箪笥の中にいました。きっとあの子はこの人形を私に持っていてほしかったんだって私は気づきました。
怖くはありませんよ。怖いのはあの子の両親です。日に何度も連絡があるので着信拒否にしたら、今度は家まで押しかけてくるようになりました。警察に相談しても「人形一つくらい上げたら?」「両親の気持ちになって」と話になりません。
今では直接の嫌がらせがひどくて。まるで私を泥棒か殺人犯あつかい。今思うと、あの子は両親の話をあまりしませんでした。ひょっとしたら、ああいう人たちだから私の所にこの人形が戻ってくるのかもしれませんね。
――荏田さんは謝礼を受け取ると大きなカバン一つと人形一つ持って去っていった。
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