怪談レポート

久世空気

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№16 雨宿り

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雨が降っていますね。

――高原さんはため息混じりに呟いた。前髪から覗く目は曇天のようによどんでいる。

 最初は小学生の時でした。下校途中で雨が降りだして、家まではまだかなりあったので、目に入ったコンビニの軒先……といっていいんでしょうか? それを借りることにしました。お金もないので中に入るのは憚れて……。雨足は弱くなることはなく途方にくれました。
 ふと横に誰かいることに気付きました。同じように雨宿りをしている人がいたのです。いや、最初はいなかったはず。そして後から来たなら、雨の様子を見ていたのでわかるはず。いつからいたのだろうと首をかしげました。髪の長い女性でした。俯いた顔は髪で隠れて見えません。赤い折れた傘を両手で握っていました。その時、私を呼ぶ声がしました。コンビニから出てきたのは隣に住む奥さんでした。傘を持っているからついでに送ってくださるとのことでお言葉に甘えました。コンビニを去るときに振り返ると女性は微動だにせずたたずんでいます。それだけなのですぐ忘れました、その時は……。

 雨宿りすることなんてあまりないと思います。天気予報は毎日見るし、折り畳み傘は大抵鞄に入っています。でも何年かに一回くらい不運にも雨で途方にくれること、ありませんか? 私はあの後、中学生、高校生のとき1度ずつありました。そしてどちらにも現れたんです。あの女性が。はい、顔は見ていません。でも折れた赤い傘を持って、気が付いたら横に立っているんです。

 つい先日です。ゲリラ豪雨に遭いました。就活中でスーツだったので慌てて近くの喫茶店に入りました。コンビニで傘を買うことも考えましたが、慣れないパンプスで疲れた私は少し休むことにしました。向かい合わせの二人席に腰を掛け、暖かいコーヒーを頼み一息ついたところで、その女性は現れました。私の向かいの席にいたのです。初めて見た正面の顔はとても綺麗でした。肌は白くて鼻は高くて、神秘的な瞳をしていました。
 突然陶器が重なる音がして、私は我に返りました。店員が私の前にコーヒーをおいたのです。瞬きした瞬間に女性は消えていました。

 私は、彼女に会いたくてたまらない。最初会ったときから全く姿が変わらないし、人間ではないと解ってるんです。でも会いたい。わざと傘を持たずに雨宿りしたり、持っていた傘を壊したりもしましたが、彼女は現れませんでした。偶然でないと、会えないのかもしれません。

――高原さんは謝礼を受けとるとそそくさと立ち去ろうとしたので、私は傘をお忘れですよと声を掛けた。高原さんは私を軽くにらんで帰っていった。 
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