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 「君たち、ちょっと」

 廊下でオットー先生に捕まった。先生は胸ポケットから封筒を取り出して俺たちに手渡した。何か高そうな封筒…あ!封蝋までついてる。ひょっとして…
 「『彼』からのお手紙です。次の休日に打ち合わせをしたいので塔まで来るようにと。確かに渡しましたからね。絶対忘れないように」
 俺の顔をそんなに見つめなくてもいいじゃないか。『忘れる訳ない』と言いたいが『絶対大丈夫』とも言い切れなかったので口ごもる。それを見たルドルフが
 「大丈夫です。必ず2人で伺います」
 「…君に任せてしまって申し訳ないがよろしくお願いします」
 
   そんなに信用ないか俺?


 次の休日の早朝
 コンコンコンとやや控え目なノックの音がしているのに俺は気がついた。
 「誰だこんな朝早く…今日は休日だよ」とベットでうとうとしながら応えると
 「…まさか忘れてる?『彼』に呼び出されてるだろう?早く起きて着替えて」

 あー忘れてた!慌てて身支度をしドアを開けるとそこには隙のない身だしなみのルドルフが少し呆れ気味に立っていた。
 「リュ1人のお呼び出しはやめた方がいいとお伝えしておくよ。忘れてすっぽかしかねない」

 そうしてください。言い返す言葉はありません。


 眠い目をこすりながら塔に向かう。
 「何故こんな朝早いんだ?年寄りだからか?」
 「…言葉に気をつけた方がいいよ。私たちの塔への出入りを他の人に見られたくないからだろう」
 塔の扉の前に来たが、錠前がかかっている。…ん?こんな錠前この間なかったぞ。この間は確か副学園長の持ってる鍵を扉の鍵穴に入れるだけだったのに…今回は錠前が扉を開かないようにしている…鍵穴も無い。試しにつついてみると
 「冷たい!氷で出来てるぞこの錠前。しかもガチガチに硬いな。どうする?何か手紙に書いてある?」こんな物初めて見たよ。
 ルドルフはオットー先生から渡された手紙を取り出し、端から端まで読んで顔を曇らせた。
 「特に鍵の事は書いてない。時間までに学園長室に来るようにしか…時間まであと少ししかないんだけどどうしようかな。大声で呼ぶ訳にもいかないし」
 「ふーん。じゃ身体強化で錠前壊そう。扉を壊すわけじゃないからいいだろう。時間厳守が優先だ」
 「えっ!それは……バキッ!「はい。壊れたー。扉も開いたー。他の人が入れないように内側の閂だけはきちんと閉めとこうかな。さあ行こう。時間ないんだろ」

 まだルドルフはしのごの言ってはいるがこれ以上手の打ちようがないのは明らかだと思う。

 
 学園長室の前にたどり着いたのは時間ギリギリだった。優雅な動きでルドルフがドアをノックした。
 「ルドルフとリュが参りました」
 「どうぞお入り」
 入ってすぐ俺たちはあの最上級の礼をした。今回は俺もきちんとできたと思う。すると学園長は
 「この間も言ったけど私に王族としての礼は要らないよ。あくまでも学園長として君たちの前にいるつもりだからね。オットー先生にするのと同じくらいの礼儀で大丈夫だから。座って」とにこやかに言った。
 そんな言葉にもルドルフは姿勢をくずさずに
 「…先程塔の扉についていた氷の錠前を壊しました。時間通りに参上する為とはいえ申し訳ございません」
 あーそうだった。俺も慌てて「申し訳ご…」
 
 「あれ壊せた?ノラ先生の言う通りリュ君の魔力の量は多いんだね。壊せなくて下から呼ぶかと思ったんだけど、すごい、すごい」
 …壊せるか試す目的であれ作ったのか?謝って損した。
 「壊せました。あの氷の錠前は学園長が作ったんですか?」礼をやめ、勧められるままソファに座って俺はこう聞いた。
 「そうそう。フルパワーで頑張ったんだよ。あれが壊せるのか…じゃあ次は何か別の…」
 『この人ある意味おかしな人かも』俺が小声で言うと
 ルドルフは『シッ』とは言ったもののと呆れているようだった。
 「まぁそれはおいおい考えるとして。ルドルフ君」
 「はいっ!何でしょうか?」急に名前を呼ばれて声がちょっと裏返ってるぞ。
 
 「君、仮面を外してみて」

 「「えっ?」」
 
 俺まで声が出てしまった。魅了も試してみたいのか?

 「しかし、魅了が…」逡巡するルドルフ。

 「大丈夫大丈夫。何かあったらリュ君が止めてくれればいいし。ね?」

 何が『大丈夫』なのかさっぱりわからないけど、まぁ止める事はできる。…でも王族の身体って俺が触っていいのか?

 再三お願いされたルドルフは意を決した様に仮面を外し始めた。俺は学園長がおかしくなったら止めるべくソファからこっそり腰を浮かした。

 カラン…存外軽い音がして、仮面はテーブルの上に乗せられた。素顔が晒される。

 固唾を飲んで学園長を見つめる…が何も起こらない。
 
 「やっぱり大丈夫だったね。その魅了って『エルフの祝福』でしょ?エルフの血の濃い自分には効かないと思ったんだ。リュ君も魅了が効かないから別の『エルフの祝福』持ちかな?どんな祝福か聞いても?」
 「うっそれは…」困った。おばばから口止めされてるし、どう言い逃れよう…
 「あっはっは、ごめん。口止めされてるよね。聞いた私が悪かった」
 え、口止めされてると知ってる?何故?
 「聞いているかも知れないけど、昔、私率いる調査隊が、エルフの魔力が今尚残るあの村を調べに行ったんだけど、隊員の1人が村人を馬鹿にしたんだよね…それ以降どんな調査であっても一切協力してくれなくなって…馬鹿なのはその隊員だし、その隊員を選んでしまった私も馬鹿なんだから仕方ない」

 おばばの言ってた調査の人たちって学園長たちだったんだ。しかしかなり昔の事なのにすっごく悔しそう。
 

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