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第六話 未来を告げる桜あんパン

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 翌日、四葉は学校をサボった。
 時間になっても起きてこないと賀来が声をかけてくれるのだが、今日はそれもなかった。
 遅めに起きて顔を洗い、冷めた朝食を食べてから私服のシャツワンピースに着替える。
 着替えと勉強道具をリュックに入れてきた翔太を迎え入れて、客間に案内した。
 助と翔太の二人には、ここで寝泊まりしてもらう。
 助は屋敷の周りを警戒している。賀来は監視カメラの番を入念にしている。
 二人で警備体制の計画を練るというので、四葉は翔太を連れてベーカリー白鳥に向かった。

「いらっしゃい」

 今日の分のパンを焼き終えた由岐が店内に立っていた。
 オープンから三カ月も経つと一過性の客が少なくなり、地元の常連が増える。家が近いといつでも来られるので、店は朝と昼近くに混み合うようになっていた。
 今は、惣菜系のパンが多めに並んでいた。
 トマトとバジルソースをのせたフォカッチャ。大きめの明太フランス。翔太から着想を得たゲンコツカレーパンは、四葉が取る前に売り切れてしまった。
 そんな中、客のほとんどがトレイに取る新商品があった。

「桜あんパン?」

「春に作った桜の塩漬けを使った。よく祝い事でお湯を注いで飲むあれだ。塩気が馴染んだ桜の花を、中央を凹ませたあんパンに載せて焼いてある」

「中身は?」

「つぶあん。お前は、そっちの方が好きだろ」

 由岐は店員用のトングを使って、四葉のトレイに桜あんパンを四つ載せてくれた。
 四葉と翔太と、助と賀来の分だ。

「最初はあまり売れなかったんだ。だが『角館の桜で作りました』って説明書きを値札に付けたら、飛ぶように売れ始めた。地元愛が深いからな、この辺は」

「ぼくのお父さんもです。『東北限定』に弱くて、珍しいビールが出るたびに六缶入りのを買ってくるんですよ」

 家計を任されている翔太は、無駄遣いしないでほしいと憤った。

「大目に見てやれよ。秋田の人間は食に関しての財布がゆるいんだ。日常的に美味しいものを食べる文化があるから、馴染みの店に何度も金を落とす。持ちつ持たれつの人情だ。そういう輪のなかに、この店も入れたらいいと思ってる」

「持ちつ持たれつ……」

 由岐に代金を支払って商品を受け取る四葉の横で、翔太は少年探偵がごとく眼鏡を光らせた。

「そうだ! 四葉ちゃん、上納金を集めるのにいい方法があるよ」

 翔太は、店のスツールに四葉を座らせて、防犯ブザーが搭載されたキッズケータイを駆使して調べ物をはじめた。
 四葉が覗き込むと、画面には様々なアイコンが並んでいて、達成率のバーと金額が表示されている。

「これはなに?」

「クラウドファンディングっていうんだよ。万人から資金を集めるサイト。たとえばスピーカーを開発したい場合、完成品を送る約束をして先にお金を払ってもらって、それを開発資金にするんだ。それ以外にも、自分でお店を持ちたいから定食の年パスと引き換えにとか、世界一周旅行に行きたいから旅先のお土産を送ります、なんてのもあるんだよ。これをここでできないかな?」

「極道が上納金集めをしたいって言っても、登録させてくれるサイトはないんじゃない?」

「ネット上じゃなく角館でやればいいんだよ。みんな黒羽組のことを知っていて、助けてもらった人も近くに大勢いるよね」

「大勢といっても、ずいぶん少なくなっちゃったよ」

 平成の大合併で、角館町は日本で一番深い田沢湖を擁する田沢湖町、直木賞作家の西木正明を輩出した西木町と合併して仙北市になった。
 一昔前は人口が三万人を割ると地方自治を保てなくなると言われたが、現在の市の人口は二、四万人。いずれ二万を割るとみられている。

「少なくても百人以上はいるわけだから、その人たちから一人当たり三万円を援助してもらおうよ。この桜あんパンを返礼品にして」

 翔太はキラキラした表情で、袋から桜あんパンを取り出した。

「黒羽組がこれからも地域を守っていくための資金です、って四葉ちゃんが説明したら、お金を出してくれる人はたくさんいると思うよ」

「シマの人達にそんなことしていいのかな? うちは、ただの極道一家だよ?」

「極道なんだから、あくどいことをしてお金を取る方法もあるんだよ。黒羽組は、そんなことはしないで町を守ってきたから話を聞いてくれるはず。必要なら、ぼくも一緒に頼むよ。この案はどうですか師匠?」

 客のとぎれた店内で、由岐は難しい顔で腕を組んだ。

「桜あんパンを拵えて無料配布するだけの資金や時間はうちにはない。それに、一人当たり三万も払える家は少ない」

「いい方法だと思ったんですけど……。難しいですね」

 しょんぼりする翔太の横で、四葉は必死に考えた。
 パンはパン職人と材料とオーブンや諸々がないと作れない。
 高校生の四葉では、由岐に依頼するのが精一杯だ。

(もっと原価を抑えた物を配布したらどうだろう。町の人が不幸を感じずに、これからも黒羽組を頼ってくれるような何か……)

 そのとき、カンカンと鐘を鳴らした消防車が店の前を走っていった。
 火事に気を付けるようにと注意喚起のパトロールをしているのだ。
 黒羽組もあんな風に宣伝できたらいいのに。
 もっと黒羽組を頼ってください。怖い組織ではありません。
 角館の住民を守るためにここにいます。そう表明できたら――。

「そうだ」

 由岐と翔太が今年の花火競技会に行くかどうか相談する横で、四葉は立ち上がった。

「商店街のみんなに力を貸してもらおう!」
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