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第2部 消えた志求磨
75 パイ沢尚貴とカネツキ・ゴーン
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パイ沢尚貴の前で縛られ、ひざまずいているカネツキ・ゴーンがすごいしかめっ面で目をギョロッとさせながら喚いている。わたしにこんなマネをしてタダで済むと思っているのか、と。
おっと、こちらもダダダダがきた。
《コストカッター》カネツキ・ゴーン。
コストカッター? なんかリストラとか経費削減したりする人のことか。
そうやってカネツキは旧王都の財政を立て直したのか……仕方ないとはいえ、恨みを買いそうな役目だな。
「おい、これは一体なんの騒ぎだ? カネツキに用があるのは僕のほうだぞ」
ナギサがパイ沢尚貴の肩を掴む。
パイ沢は恐縮したようにババッと姿勢を正し、深々と一礼。そしてうやうやしく名刺を差し出してきた。
ナギサが受け取った名刺をのぞき込んで見てみる。
王都中央銀行融資課課長 パイ沢尚貴
へえ、この世界にも銀行ってあるのか。でも銀行員なんかがこんなところで何してんだ。
「失礼。当行はこの旧王都にカネツキを通して多額の融資をしていたのですが、以前カネツキの提出した返済計画に不審な点を見つけまして。わたしが独自に調査を行っていたのです」
パイ沢がいくつも書類を取り出し、ナギサに次々と見せる。
「なんだ……僕は知らないぞ。銀行からの融資だなんて。しかも領地の一部が担保になってるじゃないか。こんなこと許可する
はずがない」
「……やはり。カネツキが勝手に書いたものでしょう。しかもこちらの決算書も念入りに調べましたが……税収の過大計上、架空の収益、収益時期の繰り上げに損失の隠蔽……。まぎれもない粉飾決算の証拠。多くは華叉丸への支援金と自らの横領に当てられたもの」
ここでパイ沢はカネツキのほうを振り返る。
「もう言い逃れはできないぞ。ノレスト領主華叉丸の敗北を知り、ひと1人入れそうな箱に隠れて脱出しようとしていたようだが……甘かったな」
「……くそ、華叉丸が勝ってさえいれば……旧王都はわたしの物になっていたのに」
カネツキはあきらめたようにガックリとうなだれる。
「さて、当行が融資した銀貨5万枚……これは返せばよいと言う話ではない。ナギサ公、そして当行、この融資の責任者であるわたしへの裏切り……まずはいち個人としてきっちりと謝罪してもらいたい」
パイ沢はカネツキのうしろへ回り込み、縛っていた縄を解いて立ち上がらせる。
「さあ、ナギサ公とわたしに向けて最大限の謝罪を。土下座をして頂こうか」
タ~タララ~、タララ~タタ~、と聞いたことのあるBGMが流れてきた。
おお……土下座。あのパイ沢という男、容赦ないな。怒ってんのか笑ってんのかよく分からん表情のクセに。
「ぐ、ぬぬぬ……」
カネツキはぶるぶる震えながらなかなかヒザをつかない。いや、さっきまでヒザついていたからそこは意地張らなくていいだろ……。
「やれーーっっ! カネツキィッ!」
パイ沢の怒号。うわ、びっくりした。
いきなりデカイ声だすなよ。
カネツキは呻きながらヒザをつき、震えながら両手を地面につけた。
「ぐ……むむむ……ナギサ公、パイ沢殿……このたびは……大変……申し訳ありませんでした」
血でも吐くように苦しそうな声で頭を地面につけるカネツキ。なんかちょっと可哀想になってきたな。
「顔を上げなさい」
パイ沢の声に顔を上げるカネツキ。その顔にベチャアッ、と何かが投げつけられた。
真っ白な顔になるカネツキ。あれは……お笑い番組とかで投げるパイだ。
「……やられたらやり返す。パイ返しだ!」
パイ沢はさらに無数のパイを自身の周りに召喚──。それを一斉にカネツキへ。
ドチャドチャドチャとクリームまみれになるカネツキ。パイ沢は最後に自分が持ったパイを直接カネツキの顔に押し当て、塗りたくる。
カネツキはぐったりして動かなくなった。どうやら気を失ったようだ。
「……あとの処分はナギサ公にお任せします。それではわたしはこれで」
「あ、ああ。返済については僕が全責任を持つから安心してくれ。すまなかったな」
ナギサが言うとパイ沢は深いお辞儀をし、去っていった。土下座までした相手をパイまみれにするなんて……恐ろしいヤツ。
ナギサはそのまま宮殿に戻り、カネツキ一派によって混乱した旧王都の政務を執らなければならないという。
わたしとアルマはそこでナギサと別れ、とりあえずは郊外の診療所へ向かう。
そこにはカーラさんやミリアム達がいる。そういえば戻ってきたのにカーラさんからの念話がないのが気になるな。
あの《女神》が復活したっていう光のことも謎のままだ。今のところ、カネツキの騒ぎ以外は旧王都に変化はないように見える。
おっと、こちらもダダダダがきた。
《コストカッター》カネツキ・ゴーン。
コストカッター? なんかリストラとか経費削減したりする人のことか。
そうやってカネツキは旧王都の財政を立て直したのか……仕方ないとはいえ、恨みを買いそうな役目だな。
「おい、これは一体なんの騒ぎだ? カネツキに用があるのは僕のほうだぞ」
ナギサがパイ沢尚貴の肩を掴む。
パイ沢は恐縮したようにババッと姿勢を正し、深々と一礼。そしてうやうやしく名刺を差し出してきた。
ナギサが受け取った名刺をのぞき込んで見てみる。
王都中央銀行融資課課長 パイ沢尚貴
へえ、この世界にも銀行ってあるのか。でも銀行員なんかがこんなところで何してんだ。
「失礼。当行はこの旧王都にカネツキを通して多額の融資をしていたのですが、以前カネツキの提出した返済計画に不審な点を見つけまして。わたしが独自に調査を行っていたのです」
パイ沢がいくつも書類を取り出し、ナギサに次々と見せる。
「なんだ……僕は知らないぞ。銀行からの融資だなんて。しかも領地の一部が担保になってるじゃないか。こんなこと許可する
はずがない」
「……やはり。カネツキが勝手に書いたものでしょう。しかもこちらの決算書も念入りに調べましたが……税収の過大計上、架空の収益、収益時期の繰り上げに損失の隠蔽……。まぎれもない粉飾決算の証拠。多くは華叉丸への支援金と自らの横領に当てられたもの」
ここでパイ沢はカネツキのほうを振り返る。
「もう言い逃れはできないぞ。ノレスト領主華叉丸の敗北を知り、ひと1人入れそうな箱に隠れて脱出しようとしていたようだが……甘かったな」
「……くそ、華叉丸が勝ってさえいれば……旧王都はわたしの物になっていたのに」
カネツキはあきらめたようにガックリとうなだれる。
「さて、当行が融資した銀貨5万枚……これは返せばよいと言う話ではない。ナギサ公、そして当行、この融資の責任者であるわたしへの裏切り……まずはいち個人としてきっちりと謝罪してもらいたい」
パイ沢はカネツキのうしろへ回り込み、縛っていた縄を解いて立ち上がらせる。
「さあ、ナギサ公とわたしに向けて最大限の謝罪を。土下座をして頂こうか」
タ~タララ~、タララ~タタ~、と聞いたことのあるBGMが流れてきた。
おお……土下座。あのパイ沢という男、容赦ないな。怒ってんのか笑ってんのかよく分からん表情のクセに。
「ぐ、ぬぬぬ……」
カネツキはぶるぶる震えながらなかなかヒザをつかない。いや、さっきまでヒザついていたからそこは意地張らなくていいだろ……。
「やれーーっっ! カネツキィッ!」
パイ沢の怒号。うわ、びっくりした。
いきなりデカイ声だすなよ。
カネツキは呻きながらヒザをつき、震えながら両手を地面につけた。
「ぐ……むむむ……ナギサ公、パイ沢殿……このたびは……大変……申し訳ありませんでした」
血でも吐くように苦しそうな声で頭を地面につけるカネツキ。なんかちょっと可哀想になってきたな。
「顔を上げなさい」
パイ沢の声に顔を上げるカネツキ。その顔にベチャアッ、と何かが投げつけられた。
真っ白な顔になるカネツキ。あれは……お笑い番組とかで投げるパイだ。
「……やられたらやり返す。パイ返しだ!」
パイ沢はさらに無数のパイを自身の周りに召喚──。それを一斉にカネツキへ。
ドチャドチャドチャとクリームまみれになるカネツキ。パイ沢は最後に自分が持ったパイを直接カネツキの顔に押し当て、塗りたくる。
カネツキはぐったりして動かなくなった。どうやら気を失ったようだ。
「……あとの処分はナギサ公にお任せします。それではわたしはこれで」
「あ、ああ。返済については僕が全責任を持つから安心してくれ。すまなかったな」
ナギサが言うとパイ沢は深いお辞儀をし、去っていった。土下座までした相手をパイまみれにするなんて……恐ろしいヤツ。
ナギサはそのまま宮殿に戻り、カネツキ一派によって混乱した旧王都の政務を執らなければならないという。
わたしとアルマはそこでナギサと別れ、とりあえずは郊外の診療所へ向かう。
そこにはカーラさんやミリアム達がいる。そういえば戻ってきたのにカーラさんからの念話がないのが気になるな。
あの《女神》が復活したっていう光のことも謎のままだ。今のところ、カネツキの騒ぎ以外は旧王都に変化はないように見える。
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