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第2部 消えた志求磨
56 華叉丸を追って
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気が付いた時はベッドの上だった。
慌てて飛び起きる。ここは……病院みたいな所だろうか。わたしが寝ているベッドと同じものがずらりと並んでいる。
ベッドには仲間たちの姿……。
カーラさんがクレイグの左腕に杖をかざしている。
みんな無事なのだろうか。ベッドから飛び降りてカーラさんのもとへ。
クレイグの左腕……はっきりと覚えている。わたしが斬り落としたものだ。クレイグ自身は出血が多かったせいだろうか、現在意識はないようだ……。
カーラさんがふう、と息をついて杖を下ろし、こちらに顔を向ける。
「目が覚めたのね、由佳ちゃん。ああ、みんなの事は心配しないで。意識が無いのはわたしの治癒魔法を効きやすくするためだから。ただ──」
カーラさんが視線を下に落とす。
クレイグの左腕。カーラさんの魔法で繋がっていたが、赤い線が浮かび上がって血がにじみ出した。
「え、どうして……カーラさんの魔法で治るはずなのに」
「《断ち斬る者》の力ね。因果や時空すら断ち斬る……。わたしの治癒魔法を繰り返しかけているけど……完全に治すには時間がかかるわ」
「そんな……じゃあ、他のみんなも……」
「ううん。あなたが直接斬った相手だけ。クレイグにレオニード、ミリアム。《神医》日之影宵子に念話で連絡したから、彼女にも協力してもらうわ」
「アルマとナギサは?」
「あのふたりは比較的軽症だけど、数日は休まないと。それに、ここはカネツキ・ゴーンに監視されているわ。わたしがいるから踏み込んではこないようだけど。それより……」
カーラさんの紅い瞳に見つめられ、わたしは息をのむ。このなんでも見透かしていそうな瞳……。
じっと見られているとなんだかドキドキする。
「今、華叉丸を追えるのはあなたしかいない。あの魔王……アイスブランドはまだ完全に目覚めてはいないから。その前にあの男を倒さないと大変なことになるの」
そうだ。華叉丸……。アイスブランドのこともだが、志求磨を取り戻さないと。
でも仲間たちはわたしの暴走によって傷ついてしまった。
わたしひとりであの華叉丸やヤツの剣たちに勝てるだろうか。
「事態は一刻を争うわ。とにかく由佳ちゃんは華叉丸に追いついて足止めをしないと。ノレストまで逃げられたら手を出しにくくなるわ……ここでの治療が終わり次第、わたしもすぐに駆けつけるから」
悩んでいる場合じゃなさそうだ。
ヤツを逃がしてしまったのはわたしの責任でもあるし……。
わかりました、とわたしは頷き、眠っているアルマやナギサたちの顔をひとりづつ見てから出口へ向かう。
「カーラさん……。アルマたちのことを頼みます」
「ええ。由佳ちゃんも気を付けて。あ、ベルフォレ地方のセプティミアにも使いを出したわ。ここからじゃ念話が届かないから。彼女ならきっと強力な味方になってくれるはず」
げ……《サディスティックディーヴァ》セプティミア・ヨークか。
たしかに葉桜溢忌との戦いでは味方だったが……。それ以前は何度もやりあっている相手だ。
少なからずわたしや志求磨に恨みを持っているだろうし……大丈夫なんだろうか。なんかこっちの弱みにつけこんですぐに裏切りそうな気がする。
カーラさんにあとのことはまかせ、わたしは建物の外へ。
華叉丸の位置はカーラさんが把握しているようだ。
念話が通じる距離まではカーラさんがナビしてくれる。そこから先の追跡は自力でやらなければならない。
旧王都郊外の診療所。そこから移動をはじめると、すぐに尾行されている気配に気付いた。
カネツキ・ゴーンの手下か。
襲ってくる様子はないが、気に入らない。
カーラさんの話によると、華叉丸の襲撃で傷ついたナギサを助け、賊を撃退したのはカネツキの手柄だと噂が広まっているらしい。
ここでわたしやカーラさんがヤツを捕まえたり痛めつけたとしても、こっちが悪者になってしまう。
また、警備増強と称して旧王都中に配備された兵の大半がカネツキの息がかかっている。
これは旧王都の市民全てが人質に取られているようなものだ。
何かしら行動を起こすにしても、ナギサが回復してからだ。
わたしは尾行は無視して旧王都の外へ。
旧王都から出るとすぐに尾行の気配は消えた。やはり旧王都内での動きだけ警戒されていたようだ。
しばらく進むと、行きでは《アライグマッスル》御手洗剛志と《ガマゾン》山中大吉の騒ぎに乗じてこっそり抜けた関所が見えてきた。
今度はカーラさんから借りた通行証があるので問題ない。そういやあのふたりはどこ行ったんだ。いや、別にどうでもいいか。
さっそくカーラさんからの念話が入った。
華叉丸はまっすぐ北上すると思われたが、東のほうへ向かったらしい。
東はアトールと呼ばれる領地。
華叉丸のノレスト領とは以前から友好関係にあるらしく、ナギサ軍がノレスト領を攻めたときも直接援兵は送らなかったが、物資面での援護はひそかに行っていたようだ。
華叉丸は自領にまで戻らずに、そこで何かをしようとしているのか。
わたしは東の方角へ向けて歩きだした。
慌てて飛び起きる。ここは……病院みたいな所だろうか。わたしが寝ているベッドと同じものがずらりと並んでいる。
ベッドには仲間たちの姿……。
カーラさんがクレイグの左腕に杖をかざしている。
みんな無事なのだろうか。ベッドから飛び降りてカーラさんのもとへ。
クレイグの左腕……はっきりと覚えている。わたしが斬り落としたものだ。クレイグ自身は出血が多かったせいだろうか、現在意識はないようだ……。
カーラさんがふう、と息をついて杖を下ろし、こちらに顔を向ける。
「目が覚めたのね、由佳ちゃん。ああ、みんなの事は心配しないで。意識が無いのはわたしの治癒魔法を効きやすくするためだから。ただ──」
カーラさんが視線を下に落とす。
クレイグの左腕。カーラさんの魔法で繋がっていたが、赤い線が浮かび上がって血がにじみ出した。
「え、どうして……カーラさんの魔法で治るはずなのに」
「《断ち斬る者》の力ね。因果や時空すら断ち斬る……。わたしの治癒魔法を繰り返しかけているけど……完全に治すには時間がかかるわ」
「そんな……じゃあ、他のみんなも……」
「ううん。あなたが直接斬った相手だけ。クレイグにレオニード、ミリアム。《神医》日之影宵子に念話で連絡したから、彼女にも協力してもらうわ」
「アルマとナギサは?」
「あのふたりは比較的軽症だけど、数日は休まないと。それに、ここはカネツキ・ゴーンに監視されているわ。わたしがいるから踏み込んではこないようだけど。それより……」
カーラさんの紅い瞳に見つめられ、わたしは息をのむ。このなんでも見透かしていそうな瞳……。
じっと見られているとなんだかドキドキする。
「今、華叉丸を追えるのはあなたしかいない。あの魔王……アイスブランドはまだ完全に目覚めてはいないから。その前にあの男を倒さないと大変なことになるの」
そうだ。華叉丸……。アイスブランドのこともだが、志求磨を取り戻さないと。
でも仲間たちはわたしの暴走によって傷ついてしまった。
わたしひとりであの華叉丸やヤツの剣たちに勝てるだろうか。
「事態は一刻を争うわ。とにかく由佳ちゃんは華叉丸に追いついて足止めをしないと。ノレストまで逃げられたら手を出しにくくなるわ……ここでの治療が終わり次第、わたしもすぐに駆けつけるから」
悩んでいる場合じゃなさそうだ。
ヤツを逃がしてしまったのはわたしの責任でもあるし……。
わかりました、とわたしは頷き、眠っているアルマやナギサたちの顔をひとりづつ見てから出口へ向かう。
「カーラさん……。アルマたちのことを頼みます」
「ええ。由佳ちゃんも気を付けて。あ、ベルフォレ地方のセプティミアにも使いを出したわ。ここからじゃ念話が届かないから。彼女ならきっと強力な味方になってくれるはず」
げ……《サディスティックディーヴァ》セプティミア・ヨークか。
たしかに葉桜溢忌との戦いでは味方だったが……。それ以前は何度もやりあっている相手だ。
少なからずわたしや志求磨に恨みを持っているだろうし……大丈夫なんだろうか。なんかこっちの弱みにつけこんですぐに裏切りそうな気がする。
カーラさんにあとのことはまかせ、わたしは建物の外へ。
華叉丸の位置はカーラさんが把握しているようだ。
念話が通じる距離まではカーラさんがナビしてくれる。そこから先の追跡は自力でやらなければならない。
旧王都郊外の診療所。そこから移動をはじめると、すぐに尾行されている気配に気付いた。
カネツキ・ゴーンの手下か。
襲ってくる様子はないが、気に入らない。
カーラさんの話によると、華叉丸の襲撃で傷ついたナギサを助け、賊を撃退したのはカネツキの手柄だと噂が広まっているらしい。
ここでわたしやカーラさんがヤツを捕まえたり痛めつけたとしても、こっちが悪者になってしまう。
また、警備増強と称して旧王都中に配備された兵の大半がカネツキの息がかかっている。
これは旧王都の市民全てが人質に取られているようなものだ。
何かしら行動を起こすにしても、ナギサが回復してからだ。
わたしは尾行は無視して旧王都の外へ。
旧王都から出るとすぐに尾行の気配は消えた。やはり旧王都内での動きだけ警戒されていたようだ。
しばらく進むと、行きでは《アライグマッスル》御手洗剛志と《ガマゾン》山中大吉の騒ぎに乗じてこっそり抜けた関所が見えてきた。
今度はカーラさんから借りた通行証があるので問題ない。そういやあのふたりはどこ行ったんだ。いや、別にどうでもいいか。
さっそくカーラさんからの念話が入った。
華叉丸はまっすぐ北上すると思われたが、東のほうへ向かったらしい。
東はアトールと呼ばれる領地。
華叉丸のノレスト領とは以前から友好関係にあるらしく、ナギサ軍がノレスト領を攻めたときも直接援兵は送らなかったが、物資面での援護はひそかに行っていたようだ。
華叉丸は自領にまで戻らずに、そこで何かをしようとしているのか。
わたしは東の方角へ向けて歩きだした。
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