異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

55 止まらない暴走

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 ギャアッ、とアルマたちの方に突っ込んでいく。
 止められない。アルマたちも異変を感じたのか、身構える。

「──由佳っ!?」

 アルマの二刀ダガーの上から斬りつける。
 一撃でガードを崩した。よろめくアルマに向けて追い打ちの斬撃。ダメだ──避けてくれっ。

 ギギンッ、と刀に衝撃。これは……銃撃だ。クレイグの銃弾がわたしの刀に撃ち込まれた。
 刀は手放さなかったが、そのスキにアルマはバックステップで距離を取る。

「おい、どうしたクソサムライ女。とうとうイカれちまったのか」

 ジャカッ、と二丁拳銃を向けながらクレイグが挑発。
 バカ、やめろ。刺激するな。
 わたしの身体はクレイグの方へゆらりと向きを変えた。
 ボッ、と爆発したように突進。クレイグの二丁拳銃が火を吹くが──すでに懐に潜り込んでいた。なんて速さだ。
 肩からの体当たり。そこからクレイグを押し倒し、ヒザで押さえつける。
 ジャキッと刀を逆手に持ちかえ、喉を貫こうとして──ぐわっと無数の黒い手が地面から伸び、わたしの腕と足を掴んだ。
 そのままクレイグから引き剥がされ、地面へ引っ張られる。今度はわたしが地面に押さえつけられる番だ。この技は……。

「由佳さん、その状態は……願望の力が暴走しているのですね。そのまま動かなければ時間経過で元に戻るかもしれません」

 ミリアムだ。いいぞ、このまま拘束されていれば、みんなを傷つけずにすむ。
 
「ああっ、があっ!」

 獣のように暴れるが、ギシギシと音をたてるだけで黒い手からは逃れられない。手足を押さえられてるから、さっきみたいに血で刀を作ることも出来ない。

──ブシッ、と口の中の激痛と広がる鉄の味。
 まさか……信じられない。舌を噛み切った!

 ブハッ、と吐き出した血で刀を形成。それを咥えて首を振る。
 黒い手を切り裂いてわたしは立ち上がった。
 咥えた刀を左手に持ち、再び二刀となったわたしはミリアムに襲いかかる。

「由佳っ! それ以上ムチャな戦い方はよせ!」

 立ちはだかったのはナギサだ。巨大斧を出現させ、盾代わりにしてわたしの斬撃を防いだ。

 ヒュヒュッ、と上から2本の矢。わたしの肩とふとももをかすった。
 とたんにガクンッ、とヒザをつく。これは……麻痺矢。レオニードか。

「あっぶねーな、その《断ち斬る者》は。仲間に襲いかかるだけじゃねえ。自分のダメージも関係ねーって感じだ」

 弓を担ぎながらレオニードが近付いてくる。
 わたしは口からダラダラと血を流しながら見上げた。

「由佳ちゃん、無理して動かないでね。いま傷を治すから」

 カーラさんがうしろから声をかける。魔法でわたしの舌は治った。これカーラさんがいなかったらどうなってたんだ……。

 他の仲間たちももう安心だと近くに集まってきた。
 さすがにこの暴走状態も終わりか。
 わたしもほっとした時だった。ゴッ、と自身の願望の力が高まる。
 
 立ち上がりざまの斬撃。レオニードの顔にバッ、と鮮血が飛び散る。

「ウソだろっ……俺の魔擶ませんを受けて……」

 崩れ落ちるレオニード。舌打ちしながらクレイグがショットガンを構えた。
 下から斬り上げ。銃身ごとクレイグの左腕を斬り飛ばした。

「このクソアマ──」

 腕を押さえ、うずくまるクレイグ。ああ、ダメだ──止まらない。殺してしまう。

「由佳っ、やめろ!」
 
 ナギサの巨大斧が振り下ろされる。手加減なしの本気の一撃だ。
 二刀を交差させて受け止める。凄まじい衝撃が全身を襲った。
 
「ぎいいいっっ!」

 叫びながらわたしは踏ん張る。ゴゴッ、とわたしとナギサの周りの地面が陥没。
 そこからドドドドッ、と無数の刀が飛び出した。土や岩の破片を変化させたもの──。

「うぅっ、ぐあっ」

 ナギサはとっさに巨大斧を盾にするが、防ぎきれない。
 何本もの刀に貫かれて仰向けに倒れた。わたしはそのナギサを飛び越え、ミリアムに飛びかかる。

 ミリアムは白い本をめくりながら後退。とあるページを引き破った。
 現れたのは日本刀。居合いの構えから抜刀──わたしの技、太刀風たちかぜだ。
 飛ぶ斬撃。わたしはそれを右の刀で難なく斬り落として霧散させた。
 そして踏み込みながら左の刀で刺突。ミリアムの脇腹を貫いた。

「由佳さん……あなたの意志の力はもっと強いはず。どうか元に……」

 ミリアムはわたしの頬に触れ、ゆっくりと倒れた。グンッ、と身体が一気に重くなる。カーラさんの魔法だ。

「由佳っ、これ以上はダメッ! 由佳を倒さないといけなくなる!」

 アルマが高速で移動。わたしの足元にババババ、と投げナイフを放った。
 氷属性のナイフ。わたしの足は地面に張り付いた。バチイッ、と背後から電撃。これもカーラさんの魔法だ。まだ加減しているのが分かる。本来のカーラさんの力なら一瞬で消し炭にできるはずだ。

「かああああっ!」

 咆哮。わたしは二刀を地面に突き立てて回転。足元の氷を砕き、地面をえぐる。
 氷と土の破片を刀に変えて、全方位へ放つ。カーラさんは魔法の壁で弾き飛ばせるので問題ない。
 アルマは……二刀ダガーでガードしながら前進。もちろんそんな程度で防げるものじゃない。
 身体のあちこちを切り刻まれるが、それでも向かってくる。ヤメろ、そんなムチャするな──。

「由……佳……元に……戻って」

 ついにわたしの目の前まで。わたしは刀を振り上げるが、倒れ込みながらアルマがふわりと抱きついてきた。

「あ……あ……」

 カラン、と両手の刀を落とす。血まみれのアルマを抱きしめ、わたしの身体は普段の《剣聖》の姿へと戻った。
  
  
 

  

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