異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
158 / 185
第2部 消えた志求磨

50 望まぬ形での再会

しおりを挟む
 氷に閉じ込められた少女のいる地下の空間。
 カーラさんが少女を見ながらぽつりぽつりと話し出した。

「少しずつ、思い出してきたわ。彼女は……イルネージュは葉桜溢忌はざくらいつきの仲間だった。彼が心を許せる数少ない人物。だけど、彼女は凍獄魔剣アイスブランドに精神も肉体も乗っ取られてあんな姿に……」

「あの剣が魔王だったんですか? だったら、あの剣を破壊するか分離させれば……」

「葉桜溢忌が何度も試したわ。時間跳躍タイムリープを使って何度も、何百回も……でも不可能だった。ほんの少しだけイルネージュの意識を取り戻すことはできたけど、イルネージュは……自らの力を暴走させてあの状態に。あの氷漬けの姿は永久凍獄コキュートスといってわたしにもどうにもできない。葉桜溢忌も解呪の方法を探していたけど、結局は見つけられなかった」

「あの華叉丸はその方法を見つけたってことですよね。一体どんな方法で……」

 わたしの疑問にカーラさんは何か知っているような感じだが……どこか話すのをためらっているようにも見える。親指の爪をカリッと噛んだあと、重い口を開いた。

「その方法はあなたにも関係あること……落ち着いて聞いて。あなたの──」

「その先からは我自ら語るとしよう」

 突然の男の声。振り向くと、華叉丸が並ぶ台座のひとつの上に立っていた。いつの間にこの地下へ──。

「お前……ナギサやアルマはどうしたんだ」

「そなたらの仲間は我が剣が相手している。さて、由佳殿……この剣に見覚えがあるかな」

 華叉丸の背から1本の剣が現れた。白銀の光を放つ美しい剣だが──そんなもの、初めて見るに決まっている。

永久凍獄コキュートスはいかな術をもってしても解除できない特別な呪い……たとえそこにいるカーラの解呪ディスペルでも。だがこの剣……消失ロストの力を使えばそれが可能になる」

 今……なんて言った。
 消失ロストと言ったのか。
 願望の力を打ち消す消失ロストの技を使うのは──。

「そう。この白銀の剣がそなたが探し求めている志求磨しぐまが変化したものだ。この剣こそが魔王を解き放つことのできる唯一の鍵」

「お前っ!」

 カッ、と頭に血が昇る。志求磨──わたしの親友を返せ。

 刀を抜きながら跳躍、上段から振り下ろす。
 華叉丸は志求磨の剣で受け止めようと構える。

「!──くそっ」

 とっさに狙いを外す。あの剣を傷つけるわけにはいかない。

 空振りしたわたしに華叉丸は肩から体当たり。わたしはカーラさんのいるところまで吹っ飛ばされた。
 カーラさんはわたしを魔法の力で優しく受け止めてくれる。

「由佳ちゃん、下がってて。ここはわたしがなんとかするから」
 
「カーラさん、頼みます。志求磨を……あやを助けて」

 あんな人質みたいな状態では戦えない。でもこっちには無敵のカーラさんがいる。
 ギリギリと歯噛みしながら涙目で華叉丸を睨む。
 よくも……あんな親切にするフリして実は志求磨を捕まえていたなんて。その魔王の力を手に入れるためか。許さない。

「魔王の力……あの《覇王》や葉桜溢忌ですら出来なかった世界の変革が可能なのだ。たかだかひとりの願望者デザイアの安否で右往左往しているそなたには分からぬだろうが」

 華叉丸はその美しい顔に冷酷な笑みを浮かべる。

「もう目的を達成したような言い方ね。ここから無事に出られると思っているのかしら」

 カーラさんが杖の先を華叉丸に向ける。何気ないセリフに聞こえるが、わたしにはわかる。カーラさんも怒っているようだ。ビリビリと願望の力が高まっているの感じる。
 華叉丸は……ビビってるかと思ったが、涼しい顔でこちらを見下ろしている。

「《青の魔女》カーラ。たしかにそなたの力は最も懸念すべき脅威。だがすでに伊能から情報は得ている。この者どもを前にして平静を保てるか」

 華叉丸の背から2本の剣が飛び出した。ギュルルッと回転しながら交差し、台座の下でカッ、と光った。
 一体何が……剣があった場所には一組の少年少女。その姿を見たとたん、頭の中にダダダダと文字が打ち込まれた。

《バーニングサン》ヒューゴ・ミルズ。
《ファントムムーン》ネヴィア・ミルズ。

 ふたりともピンク色の髪で瓜二つの顔。双子……なのだろうか。年は小学生の高学年ぐらいに見える。
 男の子のほうは黒い学生服ふうの格好。左腕に青い腕章。
 女の子は赤ずきんみたいな格好で、赤いリボンの付いたショルダーバッグを斜めにかけている。こちらも左腕に青い腕章。

 華叉丸の能力で剣にされていたヤツらか。でもこんなチビッ子を呼び出したところでなんになるというのだ。

「あなた……達は……」

 カーラさんの様子がおかしい。あの双子を見て、あきらかに動揺している。こんなカーラさんを見るのははじめてだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

異世界大日本帝国

暇人先生
ファンタジー
1959年1939年から始まった第二次世界大戦に勝利し大日本帝国は今ではナチス並ぶ超大国になりアジア、南アメリカ、北アメリカ大陸、ユーラシア大陸のほとんどを占領している、しかも技術も最先端で1948年には帝国主義を改めて国民が生活しやすいように民主化している、ある日、日本海の中心に巨大な霧が発生した、漁船や客船などが行方不明になった、そして霧の中は……

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

処理中です...