異世界の剣聖女子

みくもっち

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第2部 消えた志求磨

44 関所

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 ミリアムはわたし達に加わり旧王都へ行くことになった。

 しばらく休み、地上へ戻ろうと階段をおりようとした時だった。
 
「わたしは行かないよ。ビノッコがまだ動けないし、その人……どうも信用できないんだよね」

 日之影宵子ひのかげしょうこだ。タバコを咥え、火をつけながら続ける。

「その人、もともとは敵だったんじゃん。わたしもこんなところに閉じ込められたしさ。もし罠だったら旧王都で袋のネズミ。一網打尽で全滅だよ」

 いや、捕まったのは己の行いのせいだろう……。
 ミリアムはたしかに敵だったが、その人物自体は決して悪人ではない。アルマのこともずっと気遣っていたし……。

 わたしがミリアムをかばおうとする前に、ミリアム自身が口を開いた。

「ええ……無理もありません。わたくしが2年前にしたことを考えれば。……でも、信じてください。今回の華叉丸かしゃまるの件はこの世界の存続に関わること。それを止められるのは、あの方すら倒すことができた由佳さんなのです。もちろん、《神医》日之影宵子。あなたの力も必要なのです」

 だが、宵子は手をプラプラと振るだけで背を向けた。
 
「ナギサくんには会いたいけどね。やっぱ今回はパス。アンタがどうこうってより、なんかヤな予感しかしないから。美少年よりまず自分の命ってね」

 宵子はそう言ってビノッコを休ませている部屋へ。
 わたし達は仕方なく、3人だけで塔をおりて地上へ。

 外へ出ると──おや、2体の巨大ロボットはそのままだ。戦いは終わったのか。
 近くに突っ立っている《ガマゾン》に聞いてみる。

「ガウッ、全然勝負がつかないから、みんなロボットからおりた。いまは《アライグマッスル》が1対1で戦っている」

 勝負がつかない……当然だ。《アライグマッスル》の能力でここいらの戦闘はすべて茶番と化す。ロボットからおりたところでそれは同じだと思うが。
《ガマゾン》が指さす先にはふたりの男が対峙していた。

 ひとりは《赤いほうき星》ゾア大佐。手にはフェンシングの剣を持っている。
 もうひとりはもちろん《アライグマッスル》。こちらも同じ剣を持っている。

 ふたりはその剣で戦いだす。ガガッ、キィンッ、となかなか緊迫したシーンだが……これも意味がない。ダメージを与えられないから勝負がつかないだろう。

 ふたりは同時に剣を突き出した。
 ゾア大佐の剣は《アライグマッスル》の肩に刺さり、《アライグマッスル》の剣はゾア大佐のヘルメットを貫いた。
 そして勢いあまってふたりの頭がぶつかる。ビカアッ、と謎の光と効果音が発せられた。

 お互いに負傷(したように見える演出)。ここで《ガマゾン》が飛び出した。

「ガウッ、もう十分だっ! 引き分けだ!」

《アライグマッスル》は肩を押さえ、ゾア大佐も仮面ごしに血を流している(演出的に)。

「そうだな……《アライグマッスル》。これ以上戦っても埒があかない。ここはアルテ……いや、《ガマゾン》の言う通り、引き分けとしよう」

 ゾア大佐がそう言って剣を引き、《アライグマッスル》も頷いて剣をすてた。

「うむ。敵ながら見事。今度会うときまで勝負はお預けとしよう」

 ふたりはガシッと固い握手を交わす。なんなんだコレ……。

《アライグマッスル》と《ガマゾン》は変身を解いてわたし達に合流。
 ゾア大佐もミリアムに気付き、何やら話し込んでいる。

 どうやらミリアムはこの塔の管理をゾア大佐に任せるようだ。
 ゾア大佐は敬礼し、再びサイクロプスZに乗って塔の中に戻っていった。

「むう、どうやら真の巨悪は旧王都にいるようだな。大吉、我らが先行して向かうぞ」

「ガウッ、わかった」
 
 巨大ロボ、アライグレッサーをもとのスマホサイズへと戻し、御手洗剛志みたらいつよし山中大吉やまなかだいきちはドドドドと走っていった。なんとも騒がしいヤツらだ……。
 
「我々も行きましょう」

 ミリアムが先頭に立ち、旧王都の入り口である関所まで来た。

 さっそく御手洗剛志と山中大吉が関所の兵士ともめている。

「どうしてわたし達が通れないんだっ! わたしは正義のために旧王都へ行かなければならないんだっ! なにィ、わたしを知らないだと。この正義と筋肉の使者《アライグマッスル》を知らないだなんて……」

 何やってるんだ……。ミリアムがいるからここは顔パスだろう。先に行くからこうなるんだ。

 だがミリアムはその騒ぎを止めようとしない。足早にその脇を通り過ぎていく。

「この周辺の兵はすべてカネツキ・ゴーンの息がかかっています。わたくしは監視対象なので普段は通れないのですが……今のうちに」

 なるほど……ここは思わぬところで御手洗剛志たちが役に立った。
 わたしとアルマもミリアムに続き、何くわぬ顔で関所の門をくぐり抜けた。
 
 
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