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第2部 消えた志求磨
39 名探偵ジョナン
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わたしは塔の中──もといた場所へと戻っていた。
やった。ヤツの、南神夜の能力を打ち破ったぞ。
アルマとビノッコも正気を取り戻している。
わたしはアルマに近づき、頬の涙を指でぬぐう。
「アルマ、大丈夫か? どこも痛くないか?」
「……うん。ちょっとだけ昔のことを思いだして」
アルマの目はまだ潤んでいる。許さん、アルマに悲しいことを思いださせやがって……。
わたしは柄に手をかけ、南神夜に向き直る。ヤツは──あれ、なんかヒザをついて震えている。その背中を死神のジュークさすっている。
「ううっ、ふぐぅっ、なんて可哀想な話だっ。せつ……由佳はそのあとどうなったんだ。おい、ジューク。どうして顔をそむけるんだ」
「あ~、あの有名な話の続きだろ? たしか死んじまったよな。病気かなんかで。気の毒だがよ」
「!──うぶぅっ、あんなに小さい子がっ! どうして……どうしてなんだ、教えてくれジューク……」
南神夜は涙と鼻水、ヨダレを垂らしながら泣きじゃくっている。
コイツにも幻想の世界が見えていたのか。わたしと御手洗剛志の演技によっぽど感動したらしい。やっぱりコイツ、アホだ。
「僕の負けだ……先へ行くがいい。だがな、次の階……7階でお前らは全滅する。これは確実なことだ。覚悟するんだな」
南神夜はジュークに支えられ、フラつきながら下の階へおりていった。
わたし達は7階へと進む。
おや、この階にも扉がある。ここも囚人を閉じ込めているフロアなのか。
む、中央にいるのはちっこい小学生ぐらいの男子。
青いジャケットに赤の蝶ネクタイ。メガネ。
チャラチャ~チャ~と聞いたことのあるBGMが流れ、わたしの頭の中にダダダダと文字が打ち込まれた。
《たったひとつの真実見抜く、見た目は坊や、頭脳はとっつあん。名探偵》ジョナン。
長ぇ二つ名だな……。ジョナンはわたし達が近づくと、大きな声で止まれ! と叫んだ。
「現場を荒らすんじゃない……! ここは僕らテンプルナイツの待機部屋がある場所だ。今さっきここで連続殺人事件が起きた」
連続殺人事件……そりゃ物騒な話だが、わたし達に関係あるのか。
「このフロアにある部屋は全部で8部屋。そのうち待機していた3人が各々の部屋で殺されていた。犯人を目撃した者はいない。第1発見者はかくいう僕なんだけど」
ジョナンは部屋のひとつのドアを開ける。
部屋の中には卓球のラケットを握ったまま倒れている少年……あ、以前戦ったことのある《天才卓球少年》橋本君だ。首から血を流して死んでいる……。
そしてジョナンはもうひとつの部屋へ。
そこには着物姿の少女が口から血を吐いた状態で死んでいた。これは……サーブルで戦った《恥獄少女》天魔まいだ。
ジョナンは3つめの部屋のドアを開ける。
そこには人はいない。縦長の大きなモニターがあるだけだ。
ただ画面は真っ暗。中央に拳大の風穴が空いている。これってもしかして……。
「《元祖Vチューバー》ヒグマアイだ。これで3人目。いずれも特殊な能力を持つ願望者だが、短時間に連続で殺されている」
3人ともわたしが大苦戦した相手だ。それを短時間で……? にわかには信じられない。
突然、ジョナンから願望の力がぐわっと発せられてフロア中を覆った。
「そしてこれは僕の能力。この殺人事件の謎を解かなければここから先へ進むことも戻ることもできない。さあ、僕と一緒に謎を解くんだ!」
……結局こうなるのか。でもこの3人がやられたというのも気になる。それほどの使い手が近くに潜んでいるということだ。
「……わかった。で、まずどうすればいいんだ」
「3人の死因を調べてみる。何か共通点があるかもしれない。はじめに橋本君を調べてみよう」
ジョナンを先頭に橋本君の倒れている部屋へ。
部屋の中は特に争ったような形跡はない。
橋本君……卓球でポイントを入れる度に絶叫するウザイヤツだったが……この変わり果てた姿には同情する。
わたしは手を合わせ、黙祷した。
「橋本君の首の傷……鋭利な刃物で切られたようだ。他に傷はない。この一撃が死因とみていいな」
ジョナンがそう言ったが、ビノッコはその一部を否定した。
「いや、これは……それがしには分かる。素手の攻撃だ。達人による恐ろしい切れ味の手刀に間違いない」
「手刀……なるほど、犯人は武芸の達人というわけか。これでひとつ手がかりをつかんだ」
ジョナンは次に天魔まいの部屋へ。わたし達もあとに続く。
天魔まい……わたしにありとあらゆる恥をかかせた憎たらしい相手だ。ここに乗り込んだときは必ずやり返してやろうと思ってたが……死者に罪はない。わたしはまた手を合わせて黙祷する。
「血を吐いているが、特に外傷が見られない……。いや、これは……」
天魔まいの長い黒髪に隠れて見えなかったが、首のうしろにアザのような痕があるのを見つけた。
「む、いかん。それに触れるな、毒だ」
ビノッコがアザに触れようとするジョナンを止めた。
「毒? だとすればこれが死因か。犯人は毒物を使う……これも手がかりになるな」
ジョナンはふむふむとメモを取る。おい、大丈夫なのかコイツ。的確な推理はビノッコがしているように見えるが……。
やった。ヤツの、南神夜の能力を打ち破ったぞ。
アルマとビノッコも正気を取り戻している。
わたしはアルマに近づき、頬の涙を指でぬぐう。
「アルマ、大丈夫か? どこも痛くないか?」
「……うん。ちょっとだけ昔のことを思いだして」
アルマの目はまだ潤んでいる。許さん、アルマに悲しいことを思いださせやがって……。
わたしは柄に手をかけ、南神夜に向き直る。ヤツは──あれ、なんかヒザをついて震えている。その背中を死神のジュークさすっている。
「ううっ、ふぐぅっ、なんて可哀想な話だっ。せつ……由佳はそのあとどうなったんだ。おい、ジューク。どうして顔をそむけるんだ」
「あ~、あの有名な話の続きだろ? たしか死んじまったよな。病気かなんかで。気の毒だがよ」
「!──うぶぅっ、あんなに小さい子がっ! どうして……どうしてなんだ、教えてくれジューク……」
南神夜は涙と鼻水、ヨダレを垂らしながら泣きじゃくっている。
コイツにも幻想の世界が見えていたのか。わたしと御手洗剛志の演技によっぽど感動したらしい。やっぱりコイツ、アホだ。
「僕の負けだ……先へ行くがいい。だがな、次の階……7階でお前らは全滅する。これは確実なことだ。覚悟するんだな」
南神夜はジュークに支えられ、フラつきながら下の階へおりていった。
わたし達は7階へと進む。
おや、この階にも扉がある。ここも囚人を閉じ込めているフロアなのか。
む、中央にいるのはちっこい小学生ぐらいの男子。
青いジャケットに赤の蝶ネクタイ。メガネ。
チャラチャ~チャ~と聞いたことのあるBGMが流れ、わたしの頭の中にダダダダと文字が打ち込まれた。
《たったひとつの真実見抜く、見た目は坊や、頭脳はとっつあん。名探偵》ジョナン。
長ぇ二つ名だな……。ジョナンはわたし達が近づくと、大きな声で止まれ! と叫んだ。
「現場を荒らすんじゃない……! ここは僕らテンプルナイツの待機部屋がある場所だ。今さっきここで連続殺人事件が起きた」
連続殺人事件……そりゃ物騒な話だが、わたし達に関係あるのか。
「このフロアにある部屋は全部で8部屋。そのうち待機していた3人が各々の部屋で殺されていた。犯人を目撃した者はいない。第1発見者はかくいう僕なんだけど」
ジョナンは部屋のひとつのドアを開ける。
部屋の中には卓球のラケットを握ったまま倒れている少年……あ、以前戦ったことのある《天才卓球少年》橋本君だ。首から血を流して死んでいる……。
そしてジョナンはもうひとつの部屋へ。
そこには着物姿の少女が口から血を吐いた状態で死んでいた。これは……サーブルで戦った《恥獄少女》天魔まいだ。
ジョナンは3つめの部屋のドアを開ける。
そこには人はいない。縦長の大きなモニターがあるだけだ。
ただ画面は真っ暗。中央に拳大の風穴が空いている。これってもしかして……。
「《元祖Vチューバー》ヒグマアイだ。これで3人目。いずれも特殊な能力を持つ願望者だが、短時間に連続で殺されている」
3人ともわたしが大苦戦した相手だ。それを短時間で……? にわかには信じられない。
突然、ジョナンから願望の力がぐわっと発せられてフロア中を覆った。
「そしてこれは僕の能力。この殺人事件の謎を解かなければここから先へ進むことも戻ることもできない。さあ、僕と一緒に謎を解くんだ!」
……結局こうなるのか。でもこの3人がやられたというのも気になる。それほどの使い手が近くに潜んでいるということだ。
「……わかった。で、まずどうすればいいんだ」
「3人の死因を調べてみる。何か共通点があるかもしれない。はじめに橋本君を調べてみよう」
ジョナンを先頭に橋本君の倒れている部屋へ。
部屋の中は特に争ったような形跡はない。
橋本君……卓球でポイントを入れる度に絶叫するウザイヤツだったが……この変わり果てた姿には同情する。
わたしは手を合わせ、黙祷した。
「橋本君の首の傷……鋭利な刃物で切られたようだ。他に傷はない。この一撃が死因とみていいな」
ジョナンがそう言ったが、ビノッコはその一部を否定した。
「いや、これは……それがしには分かる。素手の攻撃だ。達人による恐ろしい切れ味の手刀に間違いない」
「手刀……なるほど、犯人は武芸の達人というわけか。これでひとつ手がかりをつかんだ」
ジョナンは次に天魔まいの部屋へ。わたし達もあとに続く。
天魔まい……わたしにありとあらゆる恥をかかせた憎たらしい相手だ。ここに乗り込んだときは必ずやり返してやろうと思ってたが……死者に罪はない。わたしはまた手を合わせて黙祷する。
「血を吐いているが、特に外傷が見られない……。いや、これは……」
天魔まいの長い黒髪に隠れて見えなかったが、首のうしろにアザのような痕があるのを見つけた。
「む、いかん。それに触れるな、毒だ」
ビノッコがアザに触れようとするジョナンを止めた。
「毒? だとすればこれが死因か。犯人は毒物を使う……これも手がかりになるな」
ジョナンはふむふむとメモを取る。おい、大丈夫なのかコイツ。的確な推理はビノッコがしているように見えるが……。
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