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第2部 消えた志求磨
30 旧王都への道
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「由佳、今ならまだあたしの追跡のスキルで追いつけるかも」
アルマが走りだそうとしたのでその腕をつかんだ。
「いや、追わなくていい。楊は……洗脳されてるとか、そんな感じじゃなかった。アイツの意志でわたし達から離れたんだ」
「由佳は……それでいいの?」
「……今のところは、だ。アイツらの目的もよく分からないし、やっぱり頼りになるのはカーラさんだ。天罪の塔へ急ごう」
天罪の塔は旧王都の近く。ナギサとも和解したいし、ミリアムなら力になってくれそうだ。
味方だと思っていた華叉丸が何やら企んでいるのは意外だったが……。
わたしとアルマはその後、自力で旧王都まで向かう隊商と交渉──なんとか同行させてもらうことに成功した。
運よく隊商のほうも用心棒を探していたらしい。
あまり旅慣れていなさそうな若い商人たちだ。もしかしたら願望者が魔物を呼び寄せやすい事とか知らないのかも……ここは黙っておこう。
その日のうちにセペノイアを出発。
サーブルの砂漠を旅した隊商と比べれば随分規模が小さい。6人の商人と荷馬車が3台。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
一番後ろの荷馬車の中で、荷物と一緒にガタゴト揺られながらうつらうつらしていた時だった。
ガタガタッ、と馬車が急停止。上から荷物が落ちてくる。
わたしの頭に命中。いたたた、と呻いている間にアルマは馬車から飛び出す。
わたしも遅れて馬車から降りた。
ガシャッ、ボキッ、と硬いものが折れるような音。
「由佳、気を付けて。魔物が襲ってきた」
すでに日が落ちていた。暗い──御者台から伸びた棒の先にランタンの灯りがあるはずだが、火が消えているのか真っ暗だ。
商人たちはどこかへ逃げたのか。無事ならいいが。
暗がりから争う音。アルマだろうか。《アサシン》というだけあって夜間の戦いは得意なようだ。
夜目がきくのは魔物も同じだ。わたしは刀の柄に手をかけ、警戒する。
ガシャガシャと何かが近づいてくる。
まずい、見えない。むやみに刀を振り回したらアルマを傷つけかねない。
名刀変化。
脇差──名刀燕雀。そして飛剣。
鞘から放たれた刀がわたしの周りを飛ぶ。
とにかく防御に徹する。ガガッ、ガキッ、と間近で剣戟の音。相手は武器を持った魔物か。
「由佳っ、これで見えるようにするから」
アルマの声──上からだ。ヒュバババッ、といくつもの赤い軌跡を描きながら降りそそぐのはアルマの投げナイフ。赤く光っているのは炎属性を付与しているからか。
その光に照らされ、辺りの様子が見えるようになった。
わたしを囲んでいたのはガイコツの魔物が10数体。ガシャガシャと骨だらけの身体で手には剣。
姿さえ見えれば脅威ではない。ギャッ、と戻ってきた刀をキャッチして斬りかかる。
ガガガガガッ、とスピードに乗って腕やあばらの骨を砕いた。しかしガイコツどもは怯まず向かってくる。
このフォームではガイコツどもには相性が悪そうだ。ならば──再度名刀変化。
大太刀──鋼牙。
背丈以上の刀身を肩に担ぐように構える。ガイコツどもが一斉に斬りかかってきた。
「──フッ!」
力まかせに振り下ろした一撃。パガアッッ、とガイコツどもをまとめて粉砕。
あとはアルマの手助けをしなければ──と思ったがそれは無用の心配だった。
アルマの両手には白く光り輝くダガー。
ガイコツどもの弱点の光属性か。そのダガーに斬られたガイコツは次々とボロボロに崩壊していく。
さすがは元五禍将。こんな魔物なんてはじめから相手にならない。
魔物どもを残らず倒した頃、商人たちがランタンを提げ、へらへらした顔で戻ってきた。
魔物から襲われたときに、馬車を捨てて一目散に岩陰に飛び込んだらしい。
コイツら……いや、そもそも危険な夜に移動するもんじゃない。
普通は町や村までの移動時間を計算して野宿は避けるものだし、やむなくそうするとしても日が暮れる前に安全な野営場所を確保するべきだ。
まったく、旅慣れていない新人商人め。
わたしは自分達が魔物を誘き寄せたかも、ということは棚にあげて商人たちに説教する。
とにかく、これ以上夜間に進むのは危険だ。
野営は慣れているアルマが適切に指示。その夜は無事に過ごすことができた。
翌朝──。旧王都までの日程はアルマが管理することになった。
宿場町までの距離や馬車の速度、魔物の遭遇を予測しながら移動。
特にトラブルもなく、あと1日程で旧王都へと近付いたときだった。
わたしとアルマは並んで御者台に座っていた。
荒野地帯にさしかかる。なんだろう、やたら高い岩山がたくさんある。
どこかで見たことある風景だ。どこだったか……と考えているうちに、空のほうから聞いたことのあるBGMが流れてきた。
こ、これは……アニメドラゴ○ボールのあらすじのBGMじゃないのか。なんだかものすごくイヤな予感がする。
わたしの予感は的中。ひとつの岩山のてっぺんからハッハッハ、と笑い声が聞こえてきた。
アルマが走りだそうとしたのでその腕をつかんだ。
「いや、追わなくていい。楊は……洗脳されてるとか、そんな感じじゃなかった。アイツの意志でわたし達から離れたんだ」
「由佳は……それでいいの?」
「……今のところは、だ。アイツらの目的もよく分からないし、やっぱり頼りになるのはカーラさんだ。天罪の塔へ急ごう」
天罪の塔は旧王都の近く。ナギサとも和解したいし、ミリアムなら力になってくれそうだ。
味方だと思っていた華叉丸が何やら企んでいるのは意外だったが……。
わたしとアルマはその後、自力で旧王都まで向かう隊商と交渉──なんとか同行させてもらうことに成功した。
運よく隊商のほうも用心棒を探していたらしい。
あまり旅慣れていなさそうな若い商人たちだ。もしかしたら願望者が魔物を呼び寄せやすい事とか知らないのかも……ここは黙っておこう。
その日のうちにセペノイアを出発。
サーブルの砂漠を旅した隊商と比べれば随分規模が小さい。6人の商人と荷馬車が3台。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
一番後ろの荷馬車の中で、荷物と一緒にガタゴト揺られながらうつらうつらしていた時だった。
ガタガタッ、と馬車が急停止。上から荷物が落ちてくる。
わたしの頭に命中。いたたた、と呻いている間にアルマは馬車から飛び出す。
わたしも遅れて馬車から降りた。
ガシャッ、ボキッ、と硬いものが折れるような音。
「由佳、気を付けて。魔物が襲ってきた」
すでに日が落ちていた。暗い──御者台から伸びた棒の先にランタンの灯りがあるはずだが、火が消えているのか真っ暗だ。
商人たちはどこかへ逃げたのか。無事ならいいが。
暗がりから争う音。アルマだろうか。《アサシン》というだけあって夜間の戦いは得意なようだ。
夜目がきくのは魔物も同じだ。わたしは刀の柄に手をかけ、警戒する。
ガシャガシャと何かが近づいてくる。
まずい、見えない。むやみに刀を振り回したらアルマを傷つけかねない。
名刀変化。
脇差──名刀燕雀。そして飛剣。
鞘から放たれた刀がわたしの周りを飛ぶ。
とにかく防御に徹する。ガガッ、ガキッ、と間近で剣戟の音。相手は武器を持った魔物か。
「由佳っ、これで見えるようにするから」
アルマの声──上からだ。ヒュバババッ、といくつもの赤い軌跡を描きながら降りそそぐのはアルマの投げナイフ。赤く光っているのは炎属性を付与しているからか。
その光に照らされ、辺りの様子が見えるようになった。
わたしを囲んでいたのはガイコツの魔物が10数体。ガシャガシャと骨だらけの身体で手には剣。
姿さえ見えれば脅威ではない。ギャッ、と戻ってきた刀をキャッチして斬りかかる。
ガガガガガッ、とスピードに乗って腕やあばらの骨を砕いた。しかしガイコツどもは怯まず向かってくる。
このフォームではガイコツどもには相性が悪そうだ。ならば──再度名刀変化。
大太刀──鋼牙。
背丈以上の刀身を肩に担ぐように構える。ガイコツどもが一斉に斬りかかってきた。
「──フッ!」
力まかせに振り下ろした一撃。パガアッッ、とガイコツどもをまとめて粉砕。
あとはアルマの手助けをしなければ──と思ったがそれは無用の心配だった。
アルマの両手には白く光り輝くダガー。
ガイコツどもの弱点の光属性か。そのダガーに斬られたガイコツは次々とボロボロに崩壊していく。
さすがは元五禍将。こんな魔物なんてはじめから相手にならない。
魔物どもを残らず倒した頃、商人たちがランタンを提げ、へらへらした顔で戻ってきた。
魔物から襲われたときに、馬車を捨てて一目散に岩陰に飛び込んだらしい。
コイツら……いや、そもそも危険な夜に移動するもんじゃない。
普通は町や村までの移動時間を計算して野宿は避けるものだし、やむなくそうするとしても日が暮れる前に安全な野営場所を確保するべきだ。
まったく、旅慣れていない新人商人め。
わたしは自分達が魔物を誘き寄せたかも、ということは棚にあげて商人たちに説教する。
とにかく、これ以上夜間に進むのは危険だ。
野営は慣れているアルマが適切に指示。その夜は無事に過ごすことができた。
翌朝──。旧王都までの日程はアルマが管理することになった。
宿場町までの距離や馬車の速度、魔物の遭遇を予測しながら移動。
特にトラブルもなく、あと1日程で旧王都へと近付いたときだった。
わたしとアルマは並んで御者台に座っていた。
荒野地帯にさしかかる。なんだろう、やたら高い岩山がたくさんある。
どこかで見たことある風景だ。どこだったか……と考えているうちに、空のほうから聞いたことのあるBGMが流れてきた。
こ、これは……アニメドラゴ○ボールのあらすじのBGMじゃないのか。なんだかものすごくイヤな予感がする。
わたしの予感は的中。ひとつの岩山のてっぺんからハッハッハ、と笑い声が聞こえてきた。
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