138 / 185
第2部 消えた志求磨
30 旧王都への道
しおりを挟む
「由佳、今ならまだあたしの追跡のスキルで追いつけるかも」
アルマが走りだそうとしたのでその腕をつかんだ。
「いや、追わなくていい。楊は……洗脳されてるとか、そんな感じじゃなかった。アイツの意志でわたし達から離れたんだ」
「由佳は……それでいいの?」
「……今のところは、だ。アイツらの目的もよく分からないし、やっぱり頼りになるのはカーラさんだ。天罪の塔へ急ごう」
天罪の塔は旧王都の近く。ナギサとも和解したいし、ミリアムなら力になってくれそうだ。
味方だと思っていた華叉丸が何やら企んでいるのは意外だったが……。
わたしとアルマはその後、自力で旧王都まで向かう隊商と交渉──なんとか同行させてもらうことに成功した。
運よく隊商のほうも用心棒を探していたらしい。
あまり旅慣れていなさそうな若い商人たちだ。もしかしたら願望者が魔物を呼び寄せやすい事とか知らないのかも……ここは黙っておこう。
その日のうちにセペノイアを出発。
サーブルの砂漠を旅した隊商と比べれば随分規模が小さい。6人の商人と荷馬車が3台。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
一番後ろの荷馬車の中で、荷物と一緒にガタゴト揺られながらうつらうつらしていた時だった。
ガタガタッ、と馬車が急停止。上から荷物が落ちてくる。
わたしの頭に命中。いたたた、と呻いている間にアルマは馬車から飛び出す。
わたしも遅れて馬車から降りた。
ガシャッ、ボキッ、と硬いものが折れるような音。
「由佳、気を付けて。魔物が襲ってきた」
すでに日が落ちていた。暗い──御者台から伸びた棒の先にランタンの灯りがあるはずだが、火が消えているのか真っ暗だ。
商人たちはどこかへ逃げたのか。無事ならいいが。
暗がりから争う音。アルマだろうか。《アサシン》というだけあって夜間の戦いは得意なようだ。
夜目がきくのは魔物も同じだ。わたしは刀の柄に手をかけ、警戒する。
ガシャガシャと何かが近づいてくる。
まずい、見えない。むやみに刀を振り回したらアルマを傷つけかねない。
名刀変化。
脇差──名刀燕雀。そして飛剣。
鞘から放たれた刀がわたしの周りを飛ぶ。
とにかく防御に徹する。ガガッ、ガキッ、と間近で剣戟の音。相手は武器を持った魔物か。
「由佳っ、これで見えるようにするから」
アルマの声──上からだ。ヒュバババッ、といくつもの赤い軌跡を描きながら降りそそぐのはアルマの投げナイフ。赤く光っているのは炎属性を付与しているからか。
その光に照らされ、辺りの様子が見えるようになった。
わたしを囲んでいたのはガイコツの魔物が10数体。ガシャガシャと骨だらけの身体で手には剣。
姿さえ見えれば脅威ではない。ギャッ、と戻ってきた刀をキャッチして斬りかかる。
ガガガガガッ、とスピードに乗って腕やあばらの骨を砕いた。しかしガイコツどもは怯まず向かってくる。
このフォームではガイコツどもには相性が悪そうだ。ならば──再度名刀変化。
大太刀──鋼牙。
背丈以上の刀身を肩に担ぐように構える。ガイコツどもが一斉に斬りかかってきた。
「──フッ!」
力まかせに振り下ろした一撃。パガアッッ、とガイコツどもをまとめて粉砕。
あとはアルマの手助けをしなければ──と思ったがそれは無用の心配だった。
アルマの両手には白く光り輝くダガー。
ガイコツどもの弱点の光属性か。そのダガーに斬られたガイコツは次々とボロボロに崩壊していく。
さすがは元五禍将。こんな魔物なんてはじめから相手にならない。
魔物どもを残らず倒した頃、商人たちがランタンを提げ、へらへらした顔で戻ってきた。
魔物から襲われたときに、馬車を捨てて一目散に岩陰に飛び込んだらしい。
コイツら……いや、そもそも危険な夜に移動するもんじゃない。
普通は町や村までの移動時間を計算して野宿は避けるものだし、やむなくそうするとしても日が暮れる前に安全な野営場所を確保するべきだ。
まったく、旅慣れていない新人商人め。
わたしは自分達が魔物を誘き寄せたかも、ということは棚にあげて商人たちに説教する。
とにかく、これ以上夜間に進むのは危険だ。
野営は慣れているアルマが適切に指示。その夜は無事に過ごすことができた。
翌朝──。旧王都までの日程はアルマが管理することになった。
宿場町までの距離や馬車の速度、魔物の遭遇を予測しながら移動。
特にトラブルもなく、あと1日程で旧王都へと近付いたときだった。
わたしとアルマは並んで御者台に座っていた。
荒野地帯にさしかかる。なんだろう、やたら高い岩山がたくさんある。
どこかで見たことある風景だ。どこだったか……と考えているうちに、空のほうから聞いたことのあるBGMが流れてきた。
こ、これは……アニメドラゴ○ボールのあらすじのBGMじゃないのか。なんだかものすごくイヤな予感がする。
わたしの予感は的中。ひとつの岩山のてっぺんからハッハッハ、と笑い声が聞こえてきた。
アルマが走りだそうとしたのでその腕をつかんだ。
「いや、追わなくていい。楊は……洗脳されてるとか、そんな感じじゃなかった。アイツの意志でわたし達から離れたんだ」
「由佳は……それでいいの?」
「……今のところは、だ。アイツらの目的もよく分からないし、やっぱり頼りになるのはカーラさんだ。天罪の塔へ急ごう」
天罪の塔は旧王都の近く。ナギサとも和解したいし、ミリアムなら力になってくれそうだ。
味方だと思っていた華叉丸が何やら企んでいるのは意外だったが……。
わたしとアルマはその後、自力で旧王都まで向かう隊商と交渉──なんとか同行させてもらうことに成功した。
運よく隊商のほうも用心棒を探していたらしい。
あまり旅慣れていなさそうな若い商人たちだ。もしかしたら願望者が魔物を呼び寄せやすい事とか知らないのかも……ここは黙っておこう。
その日のうちにセペノイアを出発。
サーブルの砂漠を旅した隊商と比べれば随分規模が小さい。6人の商人と荷馬車が3台。
どれぐらいの時間が経ったのだろうか。
一番後ろの荷馬車の中で、荷物と一緒にガタゴト揺られながらうつらうつらしていた時だった。
ガタガタッ、と馬車が急停止。上から荷物が落ちてくる。
わたしの頭に命中。いたたた、と呻いている間にアルマは馬車から飛び出す。
わたしも遅れて馬車から降りた。
ガシャッ、ボキッ、と硬いものが折れるような音。
「由佳、気を付けて。魔物が襲ってきた」
すでに日が落ちていた。暗い──御者台から伸びた棒の先にランタンの灯りがあるはずだが、火が消えているのか真っ暗だ。
商人たちはどこかへ逃げたのか。無事ならいいが。
暗がりから争う音。アルマだろうか。《アサシン》というだけあって夜間の戦いは得意なようだ。
夜目がきくのは魔物も同じだ。わたしは刀の柄に手をかけ、警戒する。
ガシャガシャと何かが近づいてくる。
まずい、見えない。むやみに刀を振り回したらアルマを傷つけかねない。
名刀変化。
脇差──名刀燕雀。そして飛剣。
鞘から放たれた刀がわたしの周りを飛ぶ。
とにかく防御に徹する。ガガッ、ガキッ、と間近で剣戟の音。相手は武器を持った魔物か。
「由佳っ、これで見えるようにするから」
アルマの声──上からだ。ヒュバババッ、といくつもの赤い軌跡を描きながら降りそそぐのはアルマの投げナイフ。赤く光っているのは炎属性を付与しているからか。
その光に照らされ、辺りの様子が見えるようになった。
わたしを囲んでいたのはガイコツの魔物が10数体。ガシャガシャと骨だらけの身体で手には剣。
姿さえ見えれば脅威ではない。ギャッ、と戻ってきた刀をキャッチして斬りかかる。
ガガガガガッ、とスピードに乗って腕やあばらの骨を砕いた。しかしガイコツどもは怯まず向かってくる。
このフォームではガイコツどもには相性が悪そうだ。ならば──再度名刀変化。
大太刀──鋼牙。
背丈以上の刀身を肩に担ぐように構える。ガイコツどもが一斉に斬りかかってきた。
「──フッ!」
力まかせに振り下ろした一撃。パガアッッ、とガイコツどもをまとめて粉砕。
あとはアルマの手助けをしなければ──と思ったがそれは無用の心配だった。
アルマの両手には白く光り輝くダガー。
ガイコツどもの弱点の光属性か。そのダガーに斬られたガイコツは次々とボロボロに崩壊していく。
さすがは元五禍将。こんな魔物なんてはじめから相手にならない。
魔物どもを残らず倒した頃、商人たちがランタンを提げ、へらへらした顔で戻ってきた。
魔物から襲われたときに、馬車を捨てて一目散に岩陰に飛び込んだらしい。
コイツら……いや、そもそも危険な夜に移動するもんじゃない。
普通は町や村までの移動時間を計算して野宿は避けるものだし、やむなくそうするとしても日が暮れる前に安全な野営場所を確保するべきだ。
まったく、旅慣れていない新人商人め。
わたしは自分達が魔物を誘き寄せたかも、ということは棚にあげて商人たちに説教する。
とにかく、これ以上夜間に進むのは危険だ。
野営は慣れているアルマが適切に指示。その夜は無事に過ごすことができた。
翌朝──。旧王都までの日程はアルマが管理することになった。
宿場町までの距離や馬車の速度、魔物の遭遇を予測しながら移動。
特にトラブルもなく、あと1日程で旧王都へと近付いたときだった。
わたしとアルマは並んで御者台に座っていた。
荒野地帯にさしかかる。なんだろう、やたら高い岩山がたくさんある。
どこかで見たことある風景だ。どこだったか……と考えているうちに、空のほうから聞いたことのあるBGMが流れてきた。
こ、これは……アニメドラゴ○ボールのあらすじのBGMじゃないのか。なんだかものすごくイヤな予感がする。
わたしの予感は的中。ひとつの岩山のてっぺんからハッハッハ、と笑い声が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
追放された最強剣士〜役立たずと追放された雑用係は最強の美少女達と一緒に再スタートします。奴隷としてならパーティに戻してやる?お断りです〜
妄想屋さん
ファンタジー
「出ていけ!お前はもうここにいる資格はない!」
有名パーティで奴隷のようにこき使われていた主人公(アーリス)は、ある日あらぬ誤解を受けてパーティを追放されてしまう。
寒空の中、途方に暮れていたアーリスだったかが、剣士育成学校に所属していた時の同級生であり、現在、騎士団で最強ランクの実力を持つ(エルミス)と再開する。
エルミスは自信を無くしてしまったアーリスをなんとか立ち直らせようと決闘を申し込み、わざと負けようとしていたのだが――
「早くなってるし、威力も上がってるけど、その動きはもう、初めて君と剣を混じえた時に学習済みだ!」
アーリスはエルミスの予想を遥かに超える天才だった。
✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿
4月3日
1章、2章のタイトルを変更致しました。
俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~
つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。
このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。
しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。
地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。
今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~
一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。
彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。
全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。
「──イオを勧誘しにきたんだ」
ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。
ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。
そして心機一転。
「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」
今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。
これは、そんな英雄譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる