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第2部 消えた志求磨
26 最終戦ダンス対決
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「このままじゃ終われない。またわたしが出る」
ゆらりと前に出る。次こそは不埒なネット民にわたしのスゴさを見せつけてやるのだ。
「待て、羽鳴由佳。もうあとがないんだぞ。お前は2敗してる。もうヤメておいたほうがいい」
楊が止めようとする。
アルマもうんうんと頷いている。コイツら……。
「でもダンス対決なんだぞ。わたしは地元で賞を取ったことがあるんだ。わたしが出るしかないだろ」
「賞ってなんの賞なんだ。生半可な腕前じゃ、あのヒグマアイのいいねの数は超えられないぞ」
楊の質問にわたしはよくぞ聞いたと胸を張って答える。
「聞いて驚くなよ。わたしの地元で400年の歴史をほこる盆踊り大会で優秀賞をもらったんだ。町内会長に絶賛されたんだぞ。こう腕をぐるぐる回しながら腰をくねらせる動きはわたし以上の者を見たことがないってな……」
わたしはその場で動きを再現してみせる。
楊が頭を抱え、アルマも由佳やめて、恥ずかしいと顔を覆った。なんだ、この素晴らしい動きが分からんのか。
「やっぱりダメだ、羽鳴由佳。お前の為でもある。これ以上ネットに恥をさらすな」
「なっ、なんだその言い方! それはわたしと地元の伝統ある盆踊りを侮辱したことになるぞ」
「由佳、落ち着いて。あたしが……出るから」
楊に詰め寄るわたしを止めながらアルマがもにょもにょと言った。驚いた。あの恥ずかしがりやのアルマがみんなの前でダンスだと……。
「ねえ、まだ決まんないの~? まだならこっちからはじめちゃうよ~☆ ミュージックスタートッ☆」
しびれを切らしたヒグマアイがモニター内で合図。
テンポの良いヒップホップが流れ出した。
ぬう、今流行りの曲か。バーチャルなのにキレッキレな動き、リズム。敵ながら見事。
うお、CGならではの演出か。背景が変わったり花火が上がったり。エフェクトというやつか。なんかアレずるくね?
「みんな~、応援ありがとー☆」
最後の決めポーズ。画面にはヒグマアイを褒め称えるコメントが流れっぱなしだ。
「くそ、アイツのいいねは1万5千以上だ。あれを超えるなんて出来るのか、アルマ。やはりわたしが出たほうが……」
「いや、ここはアルマに任せたほうがいい。羽鳴由佳、この勝負は笑いを取る戦いじゃないんだぞ」
……楊め、コイツはわたしをお笑いキャラかなんかと勘違いしているんじゃないのか。この美少女をつかまえてなんて言いぐさだ。
「由佳、大丈夫。あたし、頑張るから……」
おいおい、本当に大丈夫なのか、アルマ。カメラの前に立ったのはいいが、もう顔は真っ赤だし手足をくねらせてモジモジしている。
「由佳、ほら……朝の番組で踊ったことあるアレ……あの曲流して」
朝の……ああ、子供番組で今人気の曲だ。学校に行く前に一緒に踊ったことがある。あんな幼稚なので勝てるのか。
考えてもしょうがない。わたしはアルマを信じてパソコンを操作──曲を流す。曲名は【アフリカ】。
テレビでは5人くらいの子供がライオンやシマウマの被り物で踊り狂うなんともシュールな映像なのだが……おお、なんともかわいらしい動きだ。恥ずかしがりながらもしっかり踊っている。
最後の『不安はないさぁ~』のところもうまく踊れた。よくやった、アルマ。だが……だがやはりこの程度では勝てない。おそらくいいねの数はいっても10ぐらいだろう。わたしは目をつむって観念する。この勝負、わたし達の負けだ。
「スゴい! 見てみろ羽鳴由佳。このいいねの数を!」
興奮した楊の声に目を開ける。いいねの数……このわたしが1桁だったんだ。万が一、100程度でも全然足りない……ええっ!?
いいねの数は2万を超えていた。いや、まだまだ増えている。画面に流れるコメントもずっと止まらない。
『なに、この子超カワイイ』
『恥ずかしそうにしてるところがたまらん』
『特定班、早急にこの美少女の正体求む』
『最初のヤツがヒドかったから余計に良く見えるWW』
わたしはパソコンの席からずり落ち、モニター内のヒグマアイが悲痛な声をあげた。
「ま、まさかわたしが負けるなんて……はっ、もしかしたらはじめの2戦はわざとかませ犬をしかけ、最後に秘密兵器を出してそのギャップでいいねの数を稼ごうという戦略だったの? ……流石ね。わたしの完全な負けだわ。でも覚えてなさい。あなた達は団長には絶対に勝てない」
ヒグマアイの映っているモニターにザザッ、ザーとノイズが走り、ブツンと切れて真っ暗になった。
テンプルナイツ兵達はモニターをガラガラと押しながら、あっという間に逃げていった。
勝った……勝ったのだが、わたしはなんかひどく負けた気がする。
わたしの肩にポン、と楊が手を置く。ヤメて。なんか泣きそう。
ゆらりと前に出る。次こそは不埒なネット民にわたしのスゴさを見せつけてやるのだ。
「待て、羽鳴由佳。もうあとがないんだぞ。お前は2敗してる。もうヤメておいたほうがいい」
楊が止めようとする。
アルマもうんうんと頷いている。コイツら……。
「でもダンス対決なんだぞ。わたしは地元で賞を取ったことがあるんだ。わたしが出るしかないだろ」
「賞ってなんの賞なんだ。生半可な腕前じゃ、あのヒグマアイのいいねの数は超えられないぞ」
楊の質問にわたしはよくぞ聞いたと胸を張って答える。
「聞いて驚くなよ。わたしの地元で400年の歴史をほこる盆踊り大会で優秀賞をもらったんだ。町内会長に絶賛されたんだぞ。こう腕をぐるぐる回しながら腰をくねらせる動きはわたし以上の者を見たことがないってな……」
わたしはその場で動きを再現してみせる。
楊が頭を抱え、アルマも由佳やめて、恥ずかしいと顔を覆った。なんだ、この素晴らしい動きが分からんのか。
「やっぱりダメだ、羽鳴由佳。お前の為でもある。これ以上ネットに恥をさらすな」
「なっ、なんだその言い方! それはわたしと地元の伝統ある盆踊りを侮辱したことになるぞ」
「由佳、落ち着いて。あたしが……出るから」
楊に詰め寄るわたしを止めながらアルマがもにょもにょと言った。驚いた。あの恥ずかしがりやのアルマがみんなの前でダンスだと……。
「ねえ、まだ決まんないの~? まだならこっちからはじめちゃうよ~☆ ミュージックスタートッ☆」
しびれを切らしたヒグマアイがモニター内で合図。
テンポの良いヒップホップが流れ出した。
ぬう、今流行りの曲か。バーチャルなのにキレッキレな動き、リズム。敵ながら見事。
うお、CGならではの演出か。背景が変わったり花火が上がったり。エフェクトというやつか。なんかアレずるくね?
「みんな~、応援ありがとー☆」
最後の決めポーズ。画面にはヒグマアイを褒め称えるコメントが流れっぱなしだ。
「くそ、アイツのいいねは1万5千以上だ。あれを超えるなんて出来るのか、アルマ。やはりわたしが出たほうが……」
「いや、ここはアルマに任せたほうがいい。羽鳴由佳、この勝負は笑いを取る戦いじゃないんだぞ」
……楊め、コイツはわたしをお笑いキャラかなんかと勘違いしているんじゃないのか。この美少女をつかまえてなんて言いぐさだ。
「由佳、大丈夫。あたし、頑張るから……」
おいおい、本当に大丈夫なのか、アルマ。カメラの前に立ったのはいいが、もう顔は真っ赤だし手足をくねらせてモジモジしている。
「由佳、ほら……朝の番組で踊ったことあるアレ……あの曲流して」
朝の……ああ、子供番組で今人気の曲だ。学校に行く前に一緒に踊ったことがある。あんな幼稚なので勝てるのか。
考えてもしょうがない。わたしはアルマを信じてパソコンを操作──曲を流す。曲名は【アフリカ】。
テレビでは5人くらいの子供がライオンやシマウマの被り物で踊り狂うなんともシュールな映像なのだが……おお、なんともかわいらしい動きだ。恥ずかしがりながらもしっかり踊っている。
最後の『不安はないさぁ~』のところもうまく踊れた。よくやった、アルマ。だが……だがやはりこの程度では勝てない。おそらくいいねの数はいっても10ぐらいだろう。わたしは目をつむって観念する。この勝負、わたし達の負けだ。
「スゴい! 見てみろ羽鳴由佳。このいいねの数を!」
興奮した楊の声に目を開ける。いいねの数……このわたしが1桁だったんだ。万が一、100程度でも全然足りない……ええっ!?
いいねの数は2万を超えていた。いや、まだまだ増えている。画面に流れるコメントもずっと止まらない。
『なに、この子超カワイイ』
『恥ずかしそうにしてるところがたまらん』
『特定班、早急にこの美少女の正体求む』
『最初のヤツがヒドかったから余計に良く見えるWW』
わたしはパソコンの席からずり落ち、モニター内のヒグマアイが悲痛な声をあげた。
「ま、まさかわたしが負けるなんて……はっ、もしかしたらはじめの2戦はわざとかませ犬をしかけ、最後に秘密兵器を出してそのギャップでいいねの数を稼ごうという戦略だったの? ……流石ね。わたしの完全な負けだわ。でも覚えてなさい。あなた達は団長には絶対に勝てない」
ヒグマアイの映っているモニターにザザッ、ザーとノイズが走り、ブツンと切れて真っ暗になった。
テンプルナイツ兵達はモニターをガラガラと押しながら、あっという間に逃げていった。
勝った……勝ったのだが、わたしはなんかひどく負けた気がする。
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