異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
117 / 185
第2部 消えた志求磨

9 橋本君

しおりを挟む
「フ、それじゃあ早速、僕からいくぞっ」

 橋本君のサーブ。
 鋭くわたしのコートにボールが飛び込んでくる。
 速い。だが対応できないほどではない。
 わたしは素早く打ち返した──と思ったらボールはあさっての方向へビヨーンと飛んでいった。

 ああ……そういえば卓球の打球って回転がかかっているんだった。それに合わせて適切に打ち返さないとまっすぐ返っていかない……。

「ッッチョリッソオオオオォーーッッ!」

……びっくりした。橋本君の突然の雄叫び。
 なに、コイツ。渾身のガッツポーズをきめているが、そんな叫ばなくても。

 再び橋本君のサーブ。
 よし、今度はうまくレシーブできた。
 だが橋本君の目がギラリと光る。

「甘いっ!」

 強烈なスマッシュ。これは──ダメだ。反応するのがやっとで、まともに打ち返せない。

「ッッチョリッッソオオオオォーーッッ!」

 また雄叫び。空気がビリビリと震え、わたしはたまらず耳をふさぐ。この声……セプティミア並みの音響攻撃じゃないのか。

 わたしのサーブの番。よし、なんとかミスせずに相手コートに入った。
 橋本君のレシーブ。速い──がなんとか追いついた。打ち返すのに成功。
 おお、なんとかラリーが続いている、と喜んだのもつかの間。鋭いバックハンドの打ち込みに空振り。また橋本君にポイントが入る。

「ッッチョリイイィッソオオオウゥゥーーッッ!」

 身をよじらせ、血走った目で絶叫する橋本君。大丈夫なのか、コイツ……。
 
 その後も連続してポイントは橋本君に。たしか卓球の1ゲームって11点だった。あと2点取られたらわたしの負けだ。
 
「フフ、手も足も出ないようだね……このまま勝負をつけさせてもらうよ」

 肩でゼエゼエと息をしながら橋本君が笑う。
 いや、そんなに疲れるならその絶叫ヤメろよ……。
 
 だがたしかにこのままでは負けてしまう。  
 あの球速……この姿では連続で返すのは難しい。

 わたしは願望の力を集中し、新たな名刀変化フォームチェンジ
 刀はグググと長さが変化。いつもの刀より4分の3ほどの長さに。

 脇差──名刀燕雀えんじゃく
 鞘と柄の部分が青藍の色になる。

「フッ、そんな刀の長さと色が変わったぐらいでどうなったっていうんだ」

 橋本君のサーブ。速いが──この程度、余裕だ。
 この燕雀のフォームはスピード強化。攻撃力は下がるが小回りが効き、連撃に優れる。
 橋本君の打球を次々と打ち返す。
 打ち合いはカカカカカカッ、と常人の目には捉えられない程の速さに達する。

「やるなっ、だがこれはどうだっ!」

 強烈なバックハンドの打球。今までより速い──わたしのラケットは空を切った。
 
「ッッチョリッ、ッチョリッッソアァオオォーーイイィヤアァッッ!」

 つばをまき散らしながら叫ぶ橋本君。

「ハハハハッ、少しはやるようになったが、僕の本気の球にはついてこれないようだね」

 くっ……あと1点。次に点を入れられたら負けてしまう。この燕雀のフォームでも橋本君の本気の打球には追いつけないのか。

 わたしは慎重にサーブを打つ。橋本君のドライブ回転のかかった高速レシーブ。
 なんとか返し、ここからラリー。
 打ち返すたびに速度が増していき──先ほどと同じ展開だ。
 少しでも甘い球を返すと──きた。バックハンドの強烈な打球。

「決まったあっ!」

 わたしの空振りを見て勝利を確信した橋本君。ガッツポーズをとり、雄叫びをあげる為に大きく息を吸い込む。
 だがカツ、カツン……と橋本君のコートに落ちるボールの音。
 橋本君は固まる。信じられないといった表情で。

「バ、バカなっ。僕の打球をお前は……間違いなく空振りしたはず。なんでここにボールがっ」
 
 わなわなと震え、ラケットを落とす。卓球台がバカアッ、と割れた。
 華叉丸を囲んでいた半透明の赤い壁が消えた。
 すかさず飛び出した華叉丸の手刀に打たれ、橋本君はその場に倒れる。

「さすが由佳殿。新しい力を使ってテンプルナイツを倒すとは」

 華叉丸には見えていたようだ。
 そう、わたしのラケットはたしかに空振りをしていた。

 しかし、この燕雀のフォーム独自の技【飛剣】を使って球を打ち返したのだ。
 燕雀のフォームはやはり太刀風たちかぜは使えないが、この刀自身をわたしの周囲に飛ばすことができる。
 
 さっきのボールを打ち返したのは、この刀だったのだ。普通の卓球のルールなら反則だろうが……。

「さっきの鎧野郎といい、テンプルなんとかってどういう意味だ」
 
「テンプルナイツ……葉桜溢忌はざくらいつきの残党や法を犯した願望者デザイアを捕らえるための特務機関。2年ほど前にナギサ公が作ったものだ」
 
「2年前……じゃあ、葉桜溢忌との戦いから今は2年以上も経っていたのか。元の世界じゃ一週間しか経っていなかったのに」

 以前も一時的に行ったり来たりしたときに時間のズレが生じた。綾……志求磨しぐまはこっちでは無事なのだろうか。

 森の奥からガサガサと誰か近づいてくる。
 わたしと華叉丸が身構えると、そこに現れたのは頭巾と布で顔を隠した男。《斉天大聖》楊永順ヤンヨンシュンだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

追放された最強剣士〜役立たずと追放された雑用係は最強の美少女達と一緒に再スタートします。奴隷としてならパーティに戻してやる?お断りです〜

妄想屋さん
ファンタジー
「出ていけ!お前はもうここにいる資格はない!」  有名パーティで奴隷のようにこき使われていた主人公(アーリス)は、ある日あらぬ誤解を受けてパーティを追放されてしまう。  寒空の中、途方に暮れていたアーリスだったかが、剣士育成学校に所属していた時の同級生であり、現在、騎士団で最強ランクの実力を持つ(エルミス)と再開する。  エルミスは自信を無くしてしまったアーリスをなんとか立ち直らせようと決闘を申し込み、わざと負けようとしていたのだが―― 「早くなってるし、威力も上がってるけど、その動きはもう、初めて君と剣を混じえた時に学習済みだ!」  アーリスはエルミスの予想を遥かに超える天才だった。 ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿ 4月3日 1章、2章のタイトルを変更致しました。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

処理中です...