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第2部 消えた志求磨
3 再び異世界へ
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「羽鳴……お前、A組の比嘉綾と親しかったよな。なんか最近、様子がおかしいところとかなかったか? 悩み事がありそうだとか」
蛯原の質問。綾……やっぱりただの欠席じゃなかったんだ。
だとしたら間違いない。異世界に行ったっきり帰ってきてないんだ。あっちで何かトラブルがあったのか。
「羽鳴、聞いてるのか」
「うるさい、黙ってろ」
それどころじゃない。綾を──志求磨を助けに行かなくては。わたしは席を立つ。
「お前っ、なんて口の利き方だっ」
体育教師の松中が近づいて手を伸ばす。
おい、その毛むくじゃらの手でわたしに少しでも触れてみろ。タダじゃ済まない──。
わたしは異世界の《剣聖》になったつもりで殺気を飛ばす。
松中はピタリと動きを止め、汗をだらだらと流している。蛯原が怪訝な顔で聞いた。
「ま、松中先生? どうしたんですか?」
「蛯原先生……とんだところでわたしの護身は完成してしまったようだ。真の達人は危機が訪れる前にそれを回避してしまう。わたしは気付いてしまったのだよ。この羽鳴……到底わたしの手に負える相手ではない」
松中はそのままペタンと尻もちをつく。
今度は社会科の教師、佐保が躍り出る。
「惑わされないでっ! すべては悪霊が原因なのです! わたしにははっきりと見える。羽鳴に取り憑いている子供の霊の姿がっ──」
わなわなとアルマを指さしながら叫ぶ。
いや、見えてるも何も実在してるから。座敷わらしと言ったのはわたしだが、マジで信じてるのか?
佐保はふにゃらむにゃらと呪文を唱えながらわたしの後ろへ回り込む。
「迷える魂よっ、この者から出ていくのですっ! 悪霊退散っ、ぃええいっ! ええいっ!」
バシバシとわたしの首や背中を叩く。
痛っ……ムカつくなぁ、このオバハン。
追い払おうとしているアルマは目の前にいるのに、なんでわたしをブッ叩くんだ。
佐保を押し退け、アルマの手を引いて生徒指導室を飛び出した。
「羽鳴っ、待てっ!」
蛯原の呼び止める声が聞こえたが、無視。
廊下を走り抜け、下駄箱で急いで靴を履き替えて校舎の外へ。
帰りのバス停。
いまかいまかとバスを待つ。
以前はバスに乗ろうとしたタイミングで異世界に行けた。なんらかの法則なのか──他に方法が分からないから、試すしかない。
まず、わたしが強く願うこと。それは綾のことを助けようと強く想ってるから問題ないはず。
あとは異世界の《召喚者》と波長が合えば──向こうもわたしを喚ぼうとしているなら、成功するはずだ。ナギサ、頼んだぞ。
バスが到着した。あ、その前にアルマにも確認しないと。
「アルマ。わたしはシエラ=イデアルに綾を探しにいくけど、アルマはどうする? 家で待っておく?」
両親なら何も言わずアルマの面倒を見てくれるだろう。アルマ自身も年齢の割にはかなりしっかりしているので、心配はない。
だがアルマは首をブンブンと横に振る。由佳と一緒に行く、とぎゅっと手に力を入れた。
「うん。分かったよ、アルマ。またわたしに力を貸してくれ」
わたしはアルマの頭を撫で、ふたりでバスに乗り込む。さあ、行くぞ、異世界シエラ=イデアルへ──。
…………………何も起こらない。乗降口で固まっているわたしに、運転手がどうしました? と話しかけてくる。
わたしはいえ、別に……とギクシャクした動きでいつものうしろの席へ向かう。
「おかしい。強く願ったのに。向こうでナギサがサボってんのか……」
綾(志求磨)はこっちの世界と異世界を行き来するのにナギサの《召喚者》の力を利用していた。
もし、綾の身に何かあれば知らないはずはない。
わたしにもどうにかして報せようとするし、そちらに喚ぼうともするはずだ。
「もしかしたら、ナギサにも何かあったのかも……」
アルマが不安げな眼差しで見上げてきた。
その可能性もある。だとしたら、わたしが異世界に行ける方法が無いという事になる。
どうしようかと思案しているうちに、家の近くのバス停まで着いてしまった。
降りるときも試してみたが、やはり同じだ。何も起きない。
家に帰る途中で綾に何度か電話をかけてみる……ダメだ。朝と同じく繋がらない。
「大丈夫、何か方法があるはず」
自分に言い聞かせ、アルマとともに家の中へ。そうだ、帰りに綾の家に行くつもりだったんだ。とりあえず荷物を置いてから行こう。
二階の自分の部屋へ。ドアを開けてから、フッ、と足元から落ちる感覚。
「由佳っ!」
アルマの声。手を伸ばすが──届かない。
周囲が闇に包まれ、一瞬のうちにトンネルを抜けるように光が見えた。
飛び出した先は──今にも雨が降りだしそうな薄暗い空。
草木が少なく地肌が見えた平地。
そして──ドドドド、とこちらに近づいてくる音。
大勢の兵士だ。鎧を身にまとい、槍や剣を手にこちらへ突進してくる。
ここはまさか……戦場か!
蛯原の質問。綾……やっぱりただの欠席じゃなかったんだ。
だとしたら間違いない。異世界に行ったっきり帰ってきてないんだ。あっちで何かトラブルがあったのか。
「羽鳴、聞いてるのか」
「うるさい、黙ってろ」
それどころじゃない。綾を──志求磨を助けに行かなくては。わたしは席を立つ。
「お前っ、なんて口の利き方だっ」
体育教師の松中が近づいて手を伸ばす。
おい、その毛むくじゃらの手でわたしに少しでも触れてみろ。タダじゃ済まない──。
わたしは異世界の《剣聖》になったつもりで殺気を飛ばす。
松中はピタリと動きを止め、汗をだらだらと流している。蛯原が怪訝な顔で聞いた。
「ま、松中先生? どうしたんですか?」
「蛯原先生……とんだところでわたしの護身は完成してしまったようだ。真の達人は危機が訪れる前にそれを回避してしまう。わたしは気付いてしまったのだよ。この羽鳴……到底わたしの手に負える相手ではない」
松中はそのままペタンと尻もちをつく。
今度は社会科の教師、佐保が躍り出る。
「惑わされないでっ! すべては悪霊が原因なのです! わたしにははっきりと見える。羽鳴に取り憑いている子供の霊の姿がっ──」
わなわなとアルマを指さしながら叫ぶ。
いや、見えてるも何も実在してるから。座敷わらしと言ったのはわたしだが、マジで信じてるのか?
佐保はふにゃらむにゃらと呪文を唱えながらわたしの後ろへ回り込む。
「迷える魂よっ、この者から出ていくのですっ! 悪霊退散っ、ぃええいっ! ええいっ!」
バシバシとわたしの首や背中を叩く。
痛っ……ムカつくなぁ、このオバハン。
追い払おうとしているアルマは目の前にいるのに、なんでわたしをブッ叩くんだ。
佐保を押し退け、アルマの手を引いて生徒指導室を飛び出した。
「羽鳴っ、待てっ!」
蛯原の呼び止める声が聞こえたが、無視。
廊下を走り抜け、下駄箱で急いで靴を履き替えて校舎の外へ。
帰りのバス停。
いまかいまかとバスを待つ。
以前はバスに乗ろうとしたタイミングで異世界に行けた。なんらかの法則なのか──他に方法が分からないから、試すしかない。
まず、わたしが強く願うこと。それは綾のことを助けようと強く想ってるから問題ないはず。
あとは異世界の《召喚者》と波長が合えば──向こうもわたしを喚ぼうとしているなら、成功するはずだ。ナギサ、頼んだぞ。
バスが到着した。あ、その前にアルマにも確認しないと。
「アルマ。わたしはシエラ=イデアルに綾を探しにいくけど、アルマはどうする? 家で待っておく?」
両親なら何も言わずアルマの面倒を見てくれるだろう。アルマ自身も年齢の割にはかなりしっかりしているので、心配はない。
だがアルマは首をブンブンと横に振る。由佳と一緒に行く、とぎゅっと手に力を入れた。
「うん。分かったよ、アルマ。またわたしに力を貸してくれ」
わたしはアルマの頭を撫で、ふたりでバスに乗り込む。さあ、行くぞ、異世界シエラ=イデアルへ──。
…………………何も起こらない。乗降口で固まっているわたしに、運転手がどうしました? と話しかけてくる。
わたしはいえ、別に……とギクシャクした動きでいつものうしろの席へ向かう。
「おかしい。強く願ったのに。向こうでナギサがサボってんのか……」
綾(志求磨)はこっちの世界と異世界を行き来するのにナギサの《召喚者》の力を利用していた。
もし、綾の身に何かあれば知らないはずはない。
わたしにもどうにかして報せようとするし、そちらに喚ぼうともするはずだ。
「もしかしたら、ナギサにも何かあったのかも……」
アルマが不安げな眼差しで見上げてきた。
その可能性もある。だとしたら、わたしが異世界に行ける方法が無いという事になる。
どうしようかと思案しているうちに、家の近くのバス停まで着いてしまった。
降りるときも試してみたが、やはり同じだ。何も起きない。
家に帰る途中で綾に何度か電話をかけてみる……ダメだ。朝と同じく繋がらない。
「大丈夫、何か方法があるはず」
自分に言い聞かせ、アルマとともに家の中へ。そうだ、帰りに綾の家に行くつもりだったんだ。とりあえず荷物を置いてから行こう。
二階の自分の部屋へ。ドアを開けてから、フッ、と足元から落ちる感覚。
「由佳っ!」
アルマの声。手を伸ばすが──届かない。
周囲が闇に包まれ、一瞬のうちにトンネルを抜けるように光が見えた。
飛び出した先は──今にも雨が降りだしそうな薄暗い空。
草木が少なく地肌が見えた平地。
そして──ドドドド、とこちらに近づいてくる音。
大勢の兵士だ。鎧を身にまとい、槍や剣を手にこちらへ突進してくる。
ここはまさか……戦場か!
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