異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

98 最後の護衛

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 通路を進む途中で仲間たちが話しかけてきたり、各々の会話が聞こえてくる。

「いよいよだな。敵の首領を倒し、悪の組織を壊滅させる時がきた」

 御手洗剛志。いろいろと思い込みの激しい、勘違い中年。こんな殺伐とした中で、この男の存在はひとつの希望にも見えるから不思議だ。

「わたしがこの世界の支配者になるには、ジャマな存在のようね。その葉桜溢忌とかいうヤツ」

「は、きっとセプティミアさまの美しさと強さの前にひれ伏すでしょう」

 セプティミアとサイラス。あいかわらずの高飛車歌姫に従順な執事。だがこんなときは頼もしく思える。

「ち、早くそいつをブッ殺して俺らのケリをつけるぞ」

 クレイグ。物騒なことを言っているが、どうも本心かどうか分からない。どちらにしろこんな所まで付き合ってもらって感謝している。

「由佳、これが終わったら今度こそ酒に付き合えよ。ああ、この格闘バカもついでに誘おう」
 
「俺は飲めん……いや、今回は付き合おう。少しだがな」

 レオニードがチャラい感じで言い、堅物のショウが意外にも笑顔で返した。

「まずは楊くんを探さなきゃ。そんで志求磨くんとナギサくんも一緒に拉致ろう。この戦いの後、治療するって言って、麻酔で昏睡させるんだ」

「……先生、法に触れるような事だけはくれぐれもなさらないで下さい」

 日之影宵子の危険発言にビノッコが慌てている。よし、この戦いが終わったら通報しよう。

「オヤジ、見ていてくれ。僕が必ず……」

 ナギサ。周りの会話も聞こえてない。通路の先にある一点を見つめている。
 復讐心ではない。純粋な《覇王》の意志の継承者としての決意がそこにはあった。

「……由佳はわたしが守る。ううん、みんなも守りたい。大事な仲間だから……」

 アルマ。あとはもにょもにょと何を言っている
か分からないが……わたしも同じ気持ちだ。

「行こう、由佳。これで俺たちの旅も……異世界での暮らしも終わるのかな」

 志求磨。そうだ。これでわたしたちの旅も、戦いも終わるのか。
 終わる? 本当に? 終わらせていいのか。終わることを望んでいるのか──。

 わたしは首をブンブンと横に振る。今さら何を。葉桜溢忌を倒し、世界を救う。迷いなど無い。

 おや、そういえばひとり足りない……。とても重要なヤツ。そう──黒由佳だ。

 こんな肝心なときに……アイツだけ別の場所に飛ばされたのか?
 アイツがいないと、《断ち斬る者》になれないが……いや、このメンバーで勝てないわけがない。このまま進むぞ。

「あ、あれ見て」

 志求磨が指さす。通路の突き当たりが見えた。今までより豪勢で大きな扉。
 そしてその前にひとりの女性。
《ヴァルキリー》ラーズグリーズだ。
 いかん、また槍に変形したレーヴァテインを構え、レーザー光線をブッ放そうとしている。
 この狭い通路にこの人数……全滅必至だ。

「溢忌さまのもとへは誰一人として通さん……!」

 槍の先端にキュイィィィ、と光が集まる。ラーズグリーズの背にブワッ、と青白い炎の翼が現れた。
 これまでにないほどの最大出力で放つつもりだ。

「俺にまかせて」

 志求磨も願望の力を溜めていた。全身を白銀色の光が包む。

 キュドォッ、と放たれた光線。志求磨が腕を交差しながら突っ込んだ。

「っああああ!」

 光線を押し戻すように前進。ラーズグリーズはさらに出力を高める。
 通路の壁にビキビキとひびが入る。
 志求磨を覆う光も呼応したように輝きを増す。

 ボンッ、と爆発したような志求磨のダッシュ。
 光線をすべて打ち消し、そのままラーズグリーズに激突した。

 扉に叩きつけられるラーズグリーズ。
 床に倒れ、呻きながら起き上がろうとするが……その身体からはシュウシュウと白い煙が出てきている。

「その扉の向こうにいるんだな、葉桜溢忌が」

 志求磨の手が扉に触れた。
 白い煙を出しながらラーズグリーズは志求磨の足を掴む。

「行かせない、溢忌さまの元へは……わたしがここで止めると誓ったのだ」

「……もう無理だよ。アンタはじきに消える。この世界から」

 ラーズグリーズの姿は──真面目そうなメガネに三つ編みの少女に変わっていた。

 自身の変化に気づいたラーズグリーズは怒りを露にして志求磨の首に手をかける。

「なんでっ、わたしがっ! 溢忌さまについてさえいれば、華やかな人生を約束されていたのにっ! あんな惨めでつまらない世界に戻るなんて絶対に──」

 ギリギリと志求磨の首を締め上げる。わたしが止めようとしたが、その前に少女の姿は消えていた。
 ラーズグリーズは消失ロストしたのだ。

 剣の形状に戻った神器レーヴァテインだけが残されている。
 志求磨がそれを拾い、わたしに投げる。

 受けとったわたしはそれに願望の力を込めた。
 両刃のまっすぐな剣から、片刃の反りのある刀へグググと変化。
 その周りを黒塗りに螺鈿模様らでんもようの施された鞘が覆う。

 刀を腰に差し、感触を確かめるように居合いの構え。
 そこから──抜刀。扉を斬り飛ばした。

 
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