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第1部 剣聖 羽鳴由佳
97 集結
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本棚モニターの画面は真っ黒だった。あの後、どうなったのか。
ミリアムはアルマを優しく抱きしめ、すぐに突き放してドドドッ、と指で身体の数ヶ所を突く。
楊の点穴技だ。ゆっくりと倒れこむアルマ。
「ミリアムッ」
立ち上がりながら手を伸ばす。殴るとみせかけて狙いは──襟。そこをつかむ。
反対の手で袖もつかみ、ギュオッ、と身体を潜り込ませるような体勢からブン投げた。
投げ技には反応が鈍い。かろうじて受け身をとったが、起き上がろうとしてよたついている。
いまだ──。追撃を加えようとしたが、ミリアムはすでにページを引き破っていた。
床からグオッ、と複数の黒い手が伸びてわたしに巻きつく。ものすごい力だ。
なすすべもなく、床に押さえつけられる。
ミリアムは魔物全書から複数のページを引き破り、わたしを見下ろしながら言った。
「このページをあなたに植えつけたらどうなると思いますか? ……身体のあちこちを魔物に食い破られて死ぬのですよ。決着を望んだのはあなた。わたくしは何度も逃げられる機会を与えたのに……」
ミリアムの目……本気だ。
ページを持つ右手に黒い願望のオーラが渦を巻く。それを打ち込もうと構える。
「やめてぇっ、ミリアム!」
アルマの悲痛な声。ミリアムの動きがわずかだが硬直したその時──。
バゴオッ、と横の壁が崩れた。
同時にヒュオッ、と飛んできた何かがミリアムの右手に吸い込まれるように──。
「ぐっ……!」
ページごと矢に射ぬかれていた。
崩れた壁からは意外な面々が飛び込んでくる。
「気翔拳!」
飛来した気弾が黒い手を吹き飛ばす。
すかさずわたしは起き上がり、ミリアムに体当たり。
ミリアムはよろめきながら手の矢を抜く。アルマのストールを乱暴につかんで引き寄せ、その首にダガーの刃を押し当てた。
「ミリアム、もうやめとけ」
弓を担いだ《魔擶鬼手》レオニードが諭すように言う。
「ああ、もう勝ち目はない。これ以上、見苦しいマネはよせ」
《拳聖》ショウ。その声には憐れむような感情がこもっていた。
どうしてこの二人がここに……。その後からはモニターに映っていたナギサたちが現れた。全員無事だ。
あの部屋とここは壁ひとつ隔てた先で繋がっていたのか。
「由佳っ、大丈夫?」
あっ、志求磨と御手洗剛志、日之影宵子もいる。これは……?
志求磨が簡単に説明する。
部屋に入った瞬間、別の場所に飛ばされた志求磨たちはレオニードとショウに偶然出会ったらしい。
あちこち壁をぶち抜きながら進んでいるうち、ピンチのナギサたちの部屋へと行きつき、敵を倒して危機を救ったというのだ。
「でも、なんでレオニードとショウが……」
レオニードもショウも、葉桜溢忌とは戦わないと言っていたはずなのに。
「あ~、この格闘バカに誘われたからかな? めずらしいこともあるもんだと思ってよ」
レオニードは照れたように鼻をかいてごまかしている。ショウは無言のまま、そっぽを向いた。
理由なんてどうでもいい。とにかくありがたい。
わたしはミリアムにアルマを放すよう説得する。
「この人数相手にもうどうしようもないだろ。アルマを……放せ」
「……ええ。分かっています。こんな事をしてもなんの意味もない。だけど、わたくしはあの方の……溢忌さまのお役に立ちたかった……」
ミリアムは自嘲気味に笑うと、アルマをこちらにドン、と押した。
わたしが受け止める。
ミリアムはダガーを落とし、その場に座り込んだ。
「世界を……救うとか、魔物を滅ぼすとか……そんなのはすべて言い訳……わたくしは、あの方のそばにいたかっただけ……」
「由佳、ミリアムを……責めないで」
アルマが泣きながら訴える。わたしはともかくあの娘、いや、あの男が納得するか。
ミリアムの目の前に巨大斧がズシンとそびえ立つ。
ナギサだ。険しい表情でミリアムを見下ろしていたが、腰をかがめて同じ目線で口を開いた。
「オヤジのことを許すわけにはいかない。だけど……この世界には、まだお前の力が必要だろう。償う方法は自分で考えるんだな」
立ち上がり、背を向けた。
ミリアムの目から涙がこぼれ落ちた。
ミリアムが部屋の奥の扉を自ら開けた。
この先の通路は雰囲気が違う。見た目は変わらないが──何か圧力を感じる。
「あなたが、あなた方が決断した事。もう止めません。どのような結果になろうとも……わたくしはここで待ちます。その時が来るのを」
ミリアムが覚悟しているのは葉桜溢忌の消滅か、この世界の滅亡か。
わたしはあえて聞かなかった。仲間とともに通路を歩く。
この先にとうとう、あの男が……《餓狼系主人公》葉桜溢忌が待ち構えている。
ミリアムはアルマを優しく抱きしめ、すぐに突き放してドドドッ、と指で身体の数ヶ所を突く。
楊の点穴技だ。ゆっくりと倒れこむアルマ。
「ミリアムッ」
立ち上がりながら手を伸ばす。殴るとみせかけて狙いは──襟。そこをつかむ。
反対の手で袖もつかみ、ギュオッ、と身体を潜り込ませるような体勢からブン投げた。
投げ技には反応が鈍い。かろうじて受け身をとったが、起き上がろうとしてよたついている。
いまだ──。追撃を加えようとしたが、ミリアムはすでにページを引き破っていた。
床からグオッ、と複数の黒い手が伸びてわたしに巻きつく。ものすごい力だ。
なすすべもなく、床に押さえつけられる。
ミリアムは魔物全書から複数のページを引き破り、わたしを見下ろしながら言った。
「このページをあなたに植えつけたらどうなると思いますか? ……身体のあちこちを魔物に食い破られて死ぬのですよ。決着を望んだのはあなた。わたくしは何度も逃げられる機会を与えたのに……」
ミリアムの目……本気だ。
ページを持つ右手に黒い願望のオーラが渦を巻く。それを打ち込もうと構える。
「やめてぇっ、ミリアム!」
アルマの悲痛な声。ミリアムの動きがわずかだが硬直したその時──。
バゴオッ、と横の壁が崩れた。
同時にヒュオッ、と飛んできた何かがミリアムの右手に吸い込まれるように──。
「ぐっ……!」
ページごと矢に射ぬかれていた。
崩れた壁からは意外な面々が飛び込んでくる。
「気翔拳!」
飛来した気弾が黒い手を吹き飛ばす。
すかさずわたしは起き上がり、ミリアムに体当たり。
ミリアムはよろめきながら手の矢を抜く。アルマのストールを乱暴につかんで引き寄せ、その首にダガーの刃を押し当てた。
「ミリアム、もうやめとけ」
弓を担いだ《魔擶鬼手》レオニードが諭すように言う。
「ああ、もう勝ち目はない。これ以上、見苦しいマネはよせ」
《拳聖》ショウ。その声には憐れむような感情がこもっていた。
どうしてこの二人がここに……。その後からはモニターに映っていたナギサたちが現れた。全員無事だ。
あの部屋とここは壁ひとつ隔てた先で繋がっていたのか。
「由佳っ、大丈夫?」
あっ、志求磨と御手洗剛志、日之影宵子もいる。これは……?
志求磨が簡単に説明する。
部屋に入った瞬間、別の場所に飛ばされた志求磨たちはレオニードとショウに偶然出会ったらしい。
あちこち壁をぶち抜きながら進んでいるうち、ピンチのナギサたちの部屋へと行きつき、敵を倒して危機を救ったというのだ。
「でも、なんでレオニードとショウが……」
レオニードもショウも、葉桜溢忌とは戦わないと言っていたはずなのに。
「あ~、この格闘バカに誘われたからかな? めずらしいこともあるもんだと思ってよ」
レオニードは照れたように鼻をかいてごまかしている。ショウは無言のまま、そっぽを向いた。
理由なんてどうでもいい。とにかくありがたい。
わたしはミリアムにアルマを放すよう説得する。
「この人数相手にもうどうしようもないだろ。アルマを……放せ」
「……ええ。分かっています。こんな事をしてもなんの意味もない。だけど、わたくしはあの方の……溢忌さまのお役に立ちたかった……」
ミリアムは自嘲気味に笑うと、アルマをこちらにドン、と押した。
わたしが受け止める。
ミリアムはダガーを落とし、その場に座り込んだ。
「世界を……救うとか、魔物を滅ぼすとか……そんなのはすべて言い訳……わたくしは、あの方のそばにいたかっただけ……」
「由佳、ミリアムを……責めないで」
アルマが泣きながら訴える。わたしはともかくあの娘、いや、あの男が納得するか。
ミリアムの目の前に巨大斧がズシンとそびえ立つ。
ナギサだ。険しい表情でミリアムを見下ろしていたが、腰をかがめて同じ目線で口を開いた。
「オヤジのことを許すわけにはいかない。だけど……この世界には、まだお前の力が必要だろう。償う方法は自分で考えるんだな」
立ち上がり、背を向けた。
ミリアムの目から涙がこぼれ落ちた。
ミリアムが部屋の奥の扉を自ら開けた。
この先の通路は雰囲気が違う。見た目は変わらないが──何か圧力を感じる。
「あなたが、あなた方が決断した事。もう止めません。どのような結果になろうとも……わたくしはここで待ちます。その時が来るのを」
ミリアムが覚悟しているのは葉桜溢忌の消滅か、この世界の滅亡か。
わたしはあえて聞かなかった。仲間とともに通路を歩く。
この先にとうとう、あの男が……《餓狼系主人公》葉桜溢忌が待ち構えている。
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