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第1部 剣聖 羽鳴由佳
90 ダークヒーローズ
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カプセルから出た小さな影がグググ、と大きくなる。
あれ、こんなの仲間にいたっけ……。
どんよりした目に、てっぺんが寝グセでビコーンとはねたグレーの長髪。ヨレヨレの白衣。
何よりその不機嫌そうな顔……ああ、思い出した。《神医》日之影宵子だ。
これは……残念だがハズレだ。どうせなら戦闘タイプの願望者が良かった。
腕のたつ医者には間違いないが……わたしには美少年好きの変態女医としか印象がない。
「なんなのよ、連れさらわれたと思ったら、いきなりこんなとこ……あ、アンタはたしか」
わたしを見つけると、ズカズカと大股で近づいてきながら文句を飛ばす。
「まったく、迷惑もいいとこだわ。アンタ達を治療したばっかりに……これだから願望者の依頼は受けたくなかったのよ。しかもヤバいヤツらに仲間だと思われてる」
そんな近くでキイキイ言わないでくれ。頭が痛い。
ズガァン、と足元の地面に穴が空いた。
クレイグの銃口から煙が出ている。なに、なんなのコイツ。信じられないことしやがる……。
「ぎゃあぎゃあ喚くな。閉じ込められてたのを助けてやったんだ。文句があるならここで死ねよ」
言うことも容赦ない。日之影宵子はまったく怖じ気づく様子はなく、今度はクレイグに近づく。
「そんなんで脅してるつもり? これだから願望者ってキライ。力ずくでなんでも思い通りになると思ってる。アンタ、リアルな中身は子供でしょ」
「……このババア──」
クレイグの銃口が宵子の眉間へ。ガチリと撃鉄を起こす。それでも宵子は顔色ひとつ変えない。
「ちょっと、こんなところで騒ぎを起こさないでよ。せっかくのティータイムが台無しだわ。ねえ、サイラス」
「は、粗末な彼らには理解できぬでしょう。この優雅なひとときを」
いつの間にか用意したテーブル。セプティミアは椅子に腰かけ、ティーカップを口に近づけている。
傍らではサイラスが日傘を差し、無表情で突っ立っていた。
「ち、シラケたぜ……」
クレイグは拳銃をクルクル回し、腰のホルスターに突っ込んだ。
「由佳っち、こんなことしてる場合じゃないだろ。わたしも志求磨君とナギサ君が心配だ。早く追わないと」
日之影宵子がほらほらと急かす。
由佳っちって、わたしのことか……。アンタは助手の筋肉ダルマを心配しろよ。
「わたしもその医者に賛成。天塚志求磨がアイツらに始末されたら、ここまで協力した意味がないもの」
セプティミアが立ち上がり、サイラスが手早くテーブルや椅子を片付ける。
「で、アンタはどうすんの?」
セプティミアの問いにクレイグはレザーハットを押さえながらククク、と笑った。
「俺も行くぜ。お前らについていけば、退屈しないですみそうだ」
わけの分からん理由だが……クレイグを加え、わたし達六人は馬車に乗り、旧王都へと向かった。
あの町で間宮京一は新たな車となるようなモノを見つけているだろう。今頃はすでに到着しているかもしれない。
「あとどれくらいで着きそうだ」
「もうじきね。案外早く着きそうだわ」
わたしが聞くと、セプティミアが頬杖をつきながら答える。
「お姉さま~、なんか知らないうちに人が増えてんだけど、コイツら大丈夫なの?」
黒由佳。体調は良くなったようだ。わたしも日之影宵子にもらった薬で頭痛はおさまった。
「へえ、由佳っちに双子の妹がいたなんてねえ。ん? 願望者だから、そういう設定ってこと?」
日之影宵子が興味深そうに黒由佳の顔をまじまじと見つめる。
「いや、妹なわけない。こんな野蛮でアホみたいなヤツ……」
説明するのも面倒だし、本当に妹なんて思われたらイヤだ。性格が全然違うだろ。おしとやかで可憐なわたしと……。
「あら、でも頭が悪そうなとことか、下品な振る舞いは瓜二つ。ねえ、あなたもそう思うでしょ」
セプティミアが客車の前面の窓から御者台に話しかける。
客車は四人までなので、クレイグはサイラスと並んで御者台に座っている。
窓から覗きこむようにクレイグが答えた。
「どうでもいいな。クソ女とゲロ女だろ。どっちも似たようなもんだ」
このクサレガンマン……ヒドイこと言いやがる。あとで覚えとけよ。
「お姉さま、コイツら生意気だよねえ。性格ワルいし。フュージョンしてやっちまおうか」
それには同意見だが、志求磨たちを助け出すまでの辛抱だ。それまでは利用させてもらおう。それにフュージョンって言うな。
しかしこのメンバー……イカれたわたしのコピー、ドS高飛車歌姫とその従者。戦闘狂毒舌ガンマン、通報寸前ショタコン女医……わたし以外、まともなのがいない。
こんなダークサイドなヤツらと一緒にいたら、わたしの清純な心まで汚れそうでコワイ。
あれ、こんなの仲間にいたっけ……。
どんよりした目に、てっぺんが寝グセでビコーンとはねたグレーの長髪。ヨレヨレの白衣。
何よりその不機嫌そうな顔……ああ、思い出した。《神医》日之影宵子だ。
これは……残念だがハズレだ。どうせなら戦闘タイプの願望者が良かった。
腕のたつ医者には間違いないが……わたしには美少年好きの変態女医としか印象がない。
「なんなのよ、連れさらわれたと思ったら、いきなりこんなとこ……あ、アンタはたしか」
わたしを見つけると、ズカズカと大股で近づいてきながら文句を飛ばす。
「まったく、迷惑もいいとこだわ。アンタ達を治療したばっかりに……これだから願望者の依頼は受けたくなかったのよ。しかもヤバいヤツらに仲間だと思われてる」
そんな近くでキイキイ言わないでくれ。頭が痛い。
ズガァン、と足元の地面に穴が空いた。
クレイグの銃口から煙が出ている。なに、なんなのコイツ。信じられないことしやがる……。
「ぎゃあぎゃあ喚くな。閉じ込められてたのを助けてやったんだ。文句があるならここで死ねよ」
言うことも容赦ない。日之影宵子はまったく怖じ気づく様子はなく、今度はクレイグに近づく。
「そんなんで脅してるつもり? これだから願望者ってキライ。力ずくでなんでも思い通りになると思ってる。アンタ、リアルな中身は子供でしょ」
「……このババア──」
クレイグの銃口が宵子の眉間へ。ガチリと撃鉄を起こす。それでも宵子は顔色ひとつ変えない。
「ちょっと、こんなところで騒ぎを起こさないでよ。せっかくのティータイムが台無しだわ。ねえ、サイラス」
「は、粗末な彼らには理解できぬでしょう。この優雅なひとときを」
いつの間にか用意したテーブル。セプティミアは椅子に腰かけ、ティーカップを口に近づけている。
傍らではサイラスが日傘を差し、無表情で突っ立っていた。
「ち、シラケたぜ……」
クレイグは拳銃をクルクル回し、腰のホルスターに突っ込んだ。
「由佳っち、こんなことしてる場合じゃないだろ。わたしも志求磨君とナギサ君が心配だ。早く追わないと」
日之影宵子がほらほらと急かす。
由佳っちって、わたしのことか……。アンタは助手の筋肉ダルマを心配しろよ。
「わたしもその医者に賛成。天塚志求磨がアイツらに始末されたら、ここまで協力した意味がないもの」
セプティミアが立ち上がり、サイラスが手早くテーブルや椅子を片付ける。
「で、アンタはどうすんの?」
セプティミアの問いにクレイグはレザーハットを押さえながらククク、と笑った。
「俺も行くぜ。お前らについていけば、退屈しないですみそうだ」
わけの分からん理由だが……クレイグを加え、わたし達六人は馬車に乗り、旧王都へと向かった。
あの町で間宮京一は新たな車となるようなモノを見つけているだろう。今頃はすでに到着しているかもしれない。
「あとどれくらいで着きそうだ」
「もうじきね。案外早く着きそうだわ」
わたしが聞くと、セプティミアが頬杖をつきながら答える。
「お姉さま~、なんか知らないうちに人が増えてんだけど、コイツら大丈夫なの?」
黒由佳。体調は良くなったようだ。わたしも日之影宵子にもらった薬で頭痛はおさまった。
「へえ、由佳っちに双子の妹がいたなんてねえ。ん? 願望者だから、そういう設定ってこと?」
日之影宵子が興味深そうに黒由佳の顔をまじまじと見つめる。
「いや、妹なわけない。こんな野蛮でアホみたいなヤツ……」
説明するのも面倒だし、本当に妹なんて思われたらイヤだ。性格が全然違うだろ。おしとやかで可憐なわたしと……。
「あら、でも頭が悪そうなとことか、下品な振る舞いは瓜二つ。ねえ、あなたもそう思うでしょ」
セプティミアが客車の前面の窓から御者台に話しかける。
客車は四人までなので、クレイグはサイラスと並んで御者台に座っている。
窓から覗きこむようにクレイグが答えた。
「どうでもいいな。クソ女とゲロ女だろ。どっちも似たようなもんだ」
このクサレガンマン……ヒドイこと言いやがる。あとで覚えとけよ。
「お姉さま、コイツら生意気だよねえ。性格ワルいし。フュージョンしてやっちまおうか」
それには同意見だが、志求磨たちを助け出すまでの辛抱だ。それまでは利用させてもらおう。それにフュージョンって言うな。
しかしこのメンバー……イカれたわたしのコピー、ドS高飛車歌姫とその従者。戦闘狂毒舌ガンマン、通報寸前ショタコン女医……わたし以外、まともなのがいない。
こんなダークサイドなヤツらと一緒にいたら、わたしの清純な心まで汚れそうでコワイ。
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