77 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳
77 取り立て
しおりを挟む
「そもそもさあ、願望者から受けたキズって治しにくいんだよね。相手の傷つけたい、壊したいって願望がこもってるから。それを傷口からひとつひとつ取り除いてるんだから手間がかかるのなんのって。中には魔法みたいな力で一気に治す化け物みたいなのもいるみたいだけど、わたしのはアナログで手作業だから。ちょっとやそっとの金じゃ、払えないと思うなあ」
日之影宵子はもったいぶったように、なかなか金額を言わない。
仕方ないなあ、と白衣のポケットから一枚の紙切れを取り出す。
「これはね、今までに治療代を踏み倒した願望者のリスト。ざっと30件はあるかな。これをうまく回収できたら、手術代はチャラにするわ」
突然の提案にわたしは考え込む。チャラになるのはいいが、すごく手間がかかりそうだ。
そんな取り立てみたいな事、したことないし……いや待てよ。
取り立てといえば、ある男を思い出した。
「ごめんやっしゃああああッ!」
ドガアッ、とドアを蹴飛ばして入ってきたのは──わたしから黒由佳の借金を取り立てた男。
《セペノイアの帝王》神田敏次郎。どうしてここに。
「ふん、そない驚くことやないで。銭の匂いや。銭の匂いがするところにワシは引き寄せられるんや」
なに言ってるんだコイツ、と思ったがちょうどいい。この取り立てのプロを利用すれば、この回収もうまくいくのではないか。
わたしは神田敏次郎に事情を話し、この踏み倒された治療代の回収を手伝ってほしいと頼んだ。
神田敏次郎はリストの名にざっと目を通す。
「なるほどなあ。事情はよおわかったで。しかもこのリストに載っとるヤツらの大半は、ワシからも銭を借りて返済が滞っとる。これは都合がええ。危険な願望者の場合は由佳はん、アンタの剣でいわしてやったらええんや」
ふむ、わたしには取立ての知識。神田敏次郎には腕っぷし。互いに足りないところを補って協力するというわけだな。これならいけそうだ。
「そやけどなあ、そっちの回収分の半分は手数料としてもらいまっせ。これを呑まんかったら、この話はナシや」
神田敏次郎の図々しい要求に、宵子はいいよ、とあっさり承諾した。だろうな。この人の目的はなんか別のところにありそうだ……。
「わたしも条件。回収が終わるまでは人質を預からせてもらうよ。志求磨君とナギサ君ね。キミたちはわたしの家に来てもらうから」
「ええっ!」
露骨にイヤな顔をする志求磨とナギサ。
やはりな。彼女の狙いはあの二人。二人には悪いが──ここは尊い犠牲となってくれ。
わたしは合掌して二人の無事を祈るばかりだ。
私掠船団のアジトよりも、宵子の家のほうが敵に襲われにくいだろう。御手洗剛志もそこでのほうがゆっくり養生できるはずだ。
御手洗剛志を担いだビノッコ。早くも興奮して鼻血が垂れている日之影宵子。
死んだような目の志求磨とナギサ。
この五人に別れを告げ、わたしとアルマ、神田敏次郎は旅立つ。目的は踏み倒された医療代の回収だ。
二日ほどかけて、とある街に到着。
そこでまず向かったのは服屋だった。
「ワシらはまず見た目からナメられたらアカン。ここは知り合いの願望者がやっとる服屋や。アンタら、ワシが選んだ服に着替えてや」
わたしたち願望者は見た目の服装は体型と同じく初期願望のものが固定されている。
これが便利なのは破れたり汚れたりしても、願望の力で修復できる点だ。
どうしても着替えたい場合は、いったん解除して普通の服を着るしかない。
わたしはチョークストライプ柄のパンツスーツ。髪は後ろでひとつに束ね、サングラスをかける。ヒールなんてはじめて履くな。
アルマはシンプルにグレーのスーツ。おお、あのもにょっ娘がデキる女に見える。
「ほう、よう似合うやんけ。ほな、さっそくキリトリ開始といくで。まずはこの街におるヤツからや」
この回収の困難な点は、定住している願望者が少ないということだ。
たいがいの願望者は街や村を渡り歩いて用心棒やら魔物討伐やらの仕事を請け負って生活している。
助かるのは、そのリストの人物のことを神田敏次郎が正確に把握していることか。
「当たり前や。命の次に大事な銭を貸すんやで。その相手の事はどんな些細な事も知らんとあかん」
この街に滞在していそうな人物はすでに目星がついているようだ。
街の住人に聞き込みをし、街の一角にある安下宿にいる事がわかった。
「ごめんやっしゃああああッ!」
下宿の二階。ドアを蹴破って部屋に踏み込む。
部屋にいた若い戦士ふうの男が飛び起きた。
「ひいっ、神田さん! こんなところまでっ」
「こんガキャアッ、借りた銭、返さんかいッ!」
胸ぐらを掴まれた男は慌てて弁明する。
「もう少し待ってください。必ず返しますから。もう少ししたらデカイ仕事が入るんですよ」
「このガキ……前も同じこと抜かしおったぞ、オドレは。仕事はええ。こっちでキッツイ現場を用意しとるからのぉ」
「ひい、それだけはご勘弁を……」
土下座する若い戦士。その手の下に武器を隠し持っているのをわたしは見逃さなかった。
ばっ、と起き上がりながらナイフを突き出す男。居合いで叩き落とす。
ぐっ、と呻きながら窓へ突っ込む男。
飛び降りて逃げる気だ。しかし、飛び降りた先には──アルマが待ちかまえていた。
華麗な体術で取り押さえるアルマ。
男は観念し、抵抗するのを諦めたようだった。
日之影宵子はもったいぶったように、なかなか金額を言わない。
仕方ないなあ、と白衣のポケットから一枚の紙切れを取り出す。
「これはね、今までに治療代を踏み倒した願望者のリスト。ざっと30件はあるかな。これをうまく回収できたら、手術代はチャラにするわ」
突然の提案にわたしは考え込む。チャラになるのはいいが、すごく手間がかかりそうだ。
そんな取り立てみたいな事、したことないし……いや待てよ。
取り立てといえば、ある男を思い出した。
「ごめんやっしゃああああッ!」
ドガアッ、とドアを蹴飛ばして入ってきたのは──わたしから黒由佳の借金を取り立てた男。
《セペノイアの帝王》神田敏次郎。どうしてここに。
「ふん、そない驚くことやないで。銭の匂いや。銭の匂いがするところにワシは引き寄せられるんや」
なに言ってるんだコイツ、と思ったがちょうどいい。この取り立てのプロを利用すれば、この回収もうまくいくのではないか。
わたしは神田敏次郎に事情を話し、この踏み倒された治療代の回収を手伝ってほしいと頼んだ。
神田敏次郎はリストの名にざっと目を通す。
「なるほどなあ。事情はよおわかったで。しかもこのリストに載っとるヤツらの大半は、ワシからも銭を借りて返済が滞っとる。これは都合がええ。危険な願望者の場合は由佳はん、アンタの剣でいわしてやったらええんや」
ふむ、わたしには取立ての知識。神田敏次郎には腕っぷし。互いに足りないところを補って協力するというわけだな。これならいけそうだ。
「そやけどなあ、そっちの回収分の半分は手数料としてもらいまっせ。これを呑まんかったら、この話はナシや」
神田敏次郎の図々しい要求に、宵子はいいよ、とあっさり承諾した。だろうな。この人の目的はなんか別のところにありそうだ……。
「わたしも条件。回収が終わるまでは人質を預からせてもらうよ。志求磨君とナギサ君ね。キミたちはわたしの家に来てもらうから」
「ええっ!」
露骨にイヤな顔をする志求磨とナギサ。
やはりな。彼女の狙いはあの二人。二人には悪いが──ここは尊い犠牲となってくれ。
わたしは合掌して二人の無事を祈るばかりだ。
私掠船団のアジトよりも、宵子の家のほうが敵に襲われにくいだろう。御手洗剛志もそこでのほうがゆっくり養生できるはずだ。
御手洗剛志を担いだビノッコ。早くも興奮して鼻血が垂れている日之影宵子。
死んだような目の志求磨とナギサ。
この五人に別れを告げ、わたしとアルマ、神田敏次郎は旅立つ。目的は踏み倒された医療代の回収だ。
二日ほどかけて、とある街に到着。
そこでまず向かったのは服屋だった。
「ワシらはまず見た目からナメられたらアカン。ここは知り合いの願望者がやっとる服屋や。アンタら、ワシが選んだ服に着替えてや」
わたしたち願望者は見た目の服装は体型と同じく初期願望のものが固定されている。
これが便利なのは破れたり汚れたりしても、願望の力で修復できる点だ。
どうしても着替えたい場合は、いったん解除して普通の服を着るしかない。
わたしはチョークストライプ柄のパンツスーツ。髪は後ろでひとつに束ね、サングラスをかける。ヒールなんてはじめて履くな。
アルマはシンプルにグレーのスーツ。おお、あのもにょっ娘がデキる女に見える。
「ほう、よう似合うやんけ。ほな、さっそくキリトリ開始といくで。まずはこの街におるヤツからや」
この回収の困難な点は、定住している願望者が少ないということだ。
たいがいの願望者は街や村を渡り歩いて用心棒やら魔物討伐やらの仕事を請け負って生活している。
助かるのは、そのリストの人物のことを神田敏次郎が正確に把握していることか。
「当たり前や。命の次に大事な銭を貸すんやで。その相手の事はどんな些細な事も知らんとあかん」
この街に滞在していそうな人物はすでに目星がついているようだ。
街の住人に聞き込みをし、街の一角にある安下宿にいる事がわかった。
「ごめんやっしゃああああッ!」
下宿の二階。ドアを蹴破って部屋に踏み込む。
部屋にいた若い戦士ふうの男が飛び起きた。
「ひいっ、神田さん! こんなところまでっ」
「こんガキャアッ、借りた銭、返さんかいッ!」
胸ぐらを掴まれた男は慌てて弁明する。
「もう少し待ってください。必ず返しますから。もう少ししたらデカイ仕事が入るんですよ」
「このガキ……前も同じこと抜かしおったぞ、オドレは。仕事はええ。こっちでキッツイ現場を用意しとるからのぉ」
「ひい、それだけはご勘弁を……」
土下座する若い戦士。その手の下に武器を隠し持っているのをわたしは見逃さなかった。
ばっ、と起き上がりながらナイフを突き出す男。居合いで叩き落とす。
ぐっ、と呻きながら窓へ突っ込む男。
飛び降りて逃げる気だ。しかし、飛び降りた先には──アルマが待ちかまえていた。
華麗な体術で取り押さえるアルマ。
男は観念し、抵抗するのを諦めたようだった。
0
お気に入りに追加
153
あなたにおすすめの小説
里子の恋愛
星 陽月
恋愛
娘の里子が1ヶ月後に結婚式を控え、宗太郎は幸せを願いながらも内心では寂しさを募らせていた。
そんな父親の気持ちなど知らずに、里子は結婚に素直に踏み切れないものを感じて始めていた。
婚約者の倉田に、これといった不満があるわけでもなく、幸せになれるとも思っているのだが、何かが欠けているような気がしてならないのだった。
その思いが拭いきれない里子は、倉田との結婚式を延期することを決意する。
渋々ながら結婚式の延期を同意した倉田だったが、ある日、里子と待ち合わせの場所で倉田が口にしたのは、「結婚を白紙にもどしてほしい」という言葉だった。
その倉田が結婚を白紙にした理由とは……
物語は、里子を中心に、登場人物が様々な展開を見せながら進んでいく。
女海賊グレイスの大冒険
(笑)
恋愛
あらすじ
海賊として名を馳せるグレイスは、海上で数々の冒険と戦いを繰り広げる中、さらなる野望を抱いていく。彼女は巧みな戦術と大胆な行動で次々と敵を打ち破り、勢力を拡大していく。仲間たちと共に、彼女が狙う次なる目標は一体何か。そして、海賊としての栄光を追い求める彼女の行く先には、どのような運命が待ち受けているのか。
「彼を殺して私も死ぬわ!」と叫んだ瞬間、前世を思い出しました~あれ? こんな人別にどうでも良くない? ~
雨野六月(まるめろ)
恋愛
伯爵令嬢クローディアは婚約者のアレクサンダーを熱愛していたが、彼は他の女性に夢中でクローディアを毛嫌いしており、「お前を見ていると虫唾が走る。結婚しても生涯お前を愛することはない」とクローディアに言い放つ。
絶望したクローディアは「アレク様を殺して私も死ぬわ!」と絶叫するが、その瞬間に前世の記憶が戻り、ここが前世で好きだった少女漫画の世界であること、自分が悪役令嬢クローディアであることに気が付いた。「私ったら、なんであんな屑が好きだったのかしら」
アレクサンダーへの恋心をすっかり失ったクローディアは、自らの幸せのために動き出す。
愛しいあなたが、婚約破棄を望むなら、私は喜んで受け入れます。不幸せになっても、恨まないでくださいね?
珠宮さくら
ファンタジー
妖精王の孫娘のクリティアは、美しいモノをこよなく愛する妖精。両親の死で心が一度壊れかけてしまい暴走しかけたことが、きっかけで先祖返りして加護の力が、他の妖精よりとても強くなっている。彼女の困ったところは、婚約者となる者に加護を与えすぎてしまうことだ。
そんなこと知らない婚約者のアキントスは、それまで尽くしていたクリティアを捨てて、家柄のいいアンテリナと婚約したいと一方的に破棄をする。
愛している者の望みが破棄を望むならと喜んで別れて、自国へと帰り妖精らしく暮らすことになる。
アキントスは、すっかり加護を失くして、昔の冴えない男へと戻り、何もかもが上手くいかなくなり、不幸へとまっしぐらに突き進んでいく。
※全5話。予約投稿済。
吟遊詩人は好敵手
にわ冬莉
ファンタジー
パーティーを追い出されたシュリは、張り出された「ドラゴン討伐」の張り紙を見、ギルドに足を向けた。
そこには、どうしても懸賞金を手に入れたいと出向いた十六歳の双子、トビーとリリーナ、それに伝説とまで言われたテイマーであるアシルの姿もあった。
それぞれが問題を抱える中、ひょんなことからパーティーを組むことになったのだ。
しかし、テイムしている魔獣がいないテイマー。
駆け出しの青二才である剣士トビーと魔法使いリリーナ。
吟遊詩人というスキルしかないシュリ。
ちぐはぐなメンバーでのドラゴン討伐。
シュリを追放した前パーティーもまた、討伐に参加している。
先の見えない戦いに挑む四人であったが、どうもおかしい。
このドラゴン討伐には隠された第三者の思惑が絡んでおり……。
リベンジを誓うテイマーのアシル。
村を護りたいトビーとリリーナ。
そして口男の異名を持つシュリの、隠された裏の顔とは?
今、ここに彼らの戦いが始まる。
現代に蘇ってしまった大魔王
根鳥 泰造
ファンタジー
ファンタジーというよりは、ラブコメ要素の多い作品。
異世界の大魔王バーンが、蘇生術の失敗により、この地球の現代に不完全な形、幼児の姿で蘇生してしまう。魔力の源となる魔素がないこの世界では、大魔王と言えども魔法が使えない。偶然出会った妻ミユイと瓜二つな山口美唯に保護されながら、現世を生きていくことになる。
偶然、魔素溜まりを見つけ、魔力を取り戻し、大人のバーンになり、美唯も昔の記憶を取り戻す。だが、今度は、変身能力者として、謎の組織に狙われてる。
貧寒伯爵と偏屈令嬢 〜放っておいてくださいませと伝えたのに、なぜか心穏やかなおじさま伯爵に溺愛されています〜
汐瀬うに
恋愛
計10回のお見合いを緊張のせいでふいにし、恥ずかしがりなせいで口走った言葉によって「偏屈令嬢」と噂されるマリアリーゼ。父が11回目のお見合い相手として持ってきたのは「貧寒伯爵」と噂されるひとまわり以上年上の伯爵様。屋敷へ赴いてみれば、噂通り美しいとは言えない屋敷で驚くも、貧寒とは程遠い彼の温かさにマリアリーゼは惹かれるようになり、少しずつ心を開いていく。
7.31〜連載スタート!
( * ) 序盤からおじさまに愛されるほっこり系作品です
( * ) 本編は8万文字ほどの中編を予定しています
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。
今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる