異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

63 神託者

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 黒由佳の二刀。一太刀入ればそこから怒濤の連続斬りがはじまるが──ヨハンの分身であるクシエルの身体は相当硬いようだ。
 ギィン、ギィンと黒由佳の二刀がことごとく弾かれる。

 弾かれて距離が空くと、クシエルの鞭が飛んでくる。
 黒由佳は右、左と跳ねたり転がったりとうまくかわしているが、これではらちがあかない。

「やっぱ本体を叩かないとダメっぽい~」

 かわしながら黒由佳がぼやく。だから言ったのに。

 黒由佳は両刀を逆手に持ちかえ、ギャッ、と投げつける。
 狙いはヨハン。だが瞬間移動したようにクシエルの身体がそれを防いだ。スピードも相当なようだ。
 弾かれた二刀は空中でパッと消えた。

 クシエルの鞭がしなる。パァンッ、とついに黒由佳にヒットした。

「いでえぇぇっ!」

 叫び、のたうちまわる黒由佳。ダメージはどのくらいか分からないが、願望の力で修復した服がまたボロボロに。

「他愛のない……。終いにしましょうか」

 ヨハンが言い、クシエルがトドメの鞭を構え──いや、鞭の先端が戻ってこない。
 黒由佳だ。腰に巻き付けていた上着をほどき、鞭にからませていた。

「へへへ、さっきの本体狙うってのはウソ。まずはそのセミのロボットみたいなヤツから」

 ゴロッ、と前転してから走る。両手に黒い刃の刀が現れた。
 跳躍し、一回転。そこから強烈な斬撃をクシエルに叩き込んだ。ガクガクッ、と震え、鞭を落とすクシエル。
 今度は弾かれない。二本の刀はクシエルの両肩にめり込んでいる。

「やっぱかってえなあっ、コイツよぉッ!」

 めり込んだ刀をそのままに、さらに跳躍。空中で回転し、今度は両刀の峰を乱暴に踏みつけた。

 ズゴッ、とさらに食い込む刀。クシエルがグオオオッ、と叫んだ。
 げ。アレ、叫んだりするんだ……。
 
「アッハハ! 死ね、死ね、シネ~ッ!」

 叫び声を聞いて上機嫌の黒由佳。刀に乗ったまま、何回も踊るように踏みつける。
 あいかわらずイカれた戦い方だ。可憐な美少女である、わたしのコピーだとはとても思えない。
 
 ビキッ、ビキッ、とクシエルの白い身体に亀裂が入った。着地した黒由佳が稲妻のようなかかと落とし。
 
 バカァッ、とクシエルの身体が手、足、首などの部分ごとにバラバラに砕け散った。おお、分身といえ……ムゴイ。

「さあて、次はアンタがこうなる番」

 二刀を拾い上げ、黒由佳がニタリと笑う。
 足元に転がったクシエルの手を見つめながらヨハンはやれやれと溜め息をついた。

「神の御使いに対し、なんたる暴挙……どこの世界にもいるものですな。身の程を知らずして神の御意志に逆らう愚か者が」

「かみかみうるせーよ。死にたくなかったら、さっさとギブアップしなよ。メンドクセーから」

 刀で肩を叩きながら黒由佳がギブアップを勧める。 
 ヨハンは祭服の埃を払い、丸メガネを中指でクイと上げた。

「……まさか、キミごときにこの姿を見せることになるとはね。後悔するがいい……」

 ヨハンから異様な願望の力が溢れ出る。
 散らばったクシエルの身体のパーツが宙に浮いた。
 それはぐるぐるとヨハンの周りを飛び回り、次第にヨハンの身体に吸い寄せられていく。

「な、なにィッ!」

 わたしは思わず叫んだ。
 吸い寄せられた各パーツは、変形してヨハンの身体を覆っていく。まるで鎧のように。その装着音がまたカッコいい。
 ガイン、ゴワン、ゴッ、ゴッ。ガシィ~ンッ。

 そして白かったクシエルのパーツは、黄金色に輝きだした。
 ま、眩しい。これはもしやアレではないのか。
 ギリシャのとある聖域の、長ったらしい階段の先にある宮殿に待ち構えているアレでは……。

 黄金色の鎧をまとったヨハン。ものすごい願望の力を感じる。そしてその威容。これはさすがの黒由佳も驚いたか。

「うおー、金ピカになった! おもしれー!」

…………ゲラゲラ笑っている。上機嫌でなによりだが、相手の力量が分かってんのか?

「最後に聞いておきましょう。《魔剣士》羽鳴由佳。キミが戦う理由はなんなのですか? 元の世界でも、シエラ=イデアルの人間でもない。いわばキミは、神の意図に反して生まれ落ちた異端児……誰にも与せず、誰とも相容れず……ほら、いま仲間面している連中も、この大会が終われば用済みなんでしょう。そんなキミは、この先どこへ行き着こうとしているのです」
 
 ヨハンが憐れむような口調で問う。
 黒由佳は目をぱちくりさせながら答えた。

「さっきのヤツにも言ったけどさあ。生きるのって、そんなに理由がいんの? 腹へッたら食う、楽しかったら笑う。ムカついたら殺す。そんなんでいいと思うけどなあ」

「理知あってこそ人。目標や目的があってこそ人生。そして我ら願望者デザイアは人としての可能性を無限に広げることの出来る選ばれた存在。ああ、失礼。キミは人ですらなかったな……」

「よく喋るね、アンタ。ウチはイケメンでもお喋りはキライ」

 二刀をだらりと下げたまま、黒由佳が走った。
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