異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
50 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

50 武道大会開始

しおりを挟む
 会場内では、選手の控え室は前回の反省を活かしてチームごとに分けられていた。
 試合中も他チーム同士の戦いは見られない。実際に舞台の上に立つまでは、どんな相手か分からないというわけだ。

 係員が呼びに来る。移動中もフード付きのローブを身にまとい、舞台下で仲間を応援する時もこれを被ったままだ。
 暑苦しいが、こうなった原因はわたしにあるので何も言えない。

 舞台上で審判が名前を呼ぶ。そうしてはじめてローブを脱ぎ捨てて戦いに臨むわけだ。

 ルールは前回と同じ。出場者は願望者デザイアのみ。武器は使用可能だが、相手を殺したらその場で失格。後の試合にも出られなくなる。
 相手の戦闘不能、ギブアップ、場外で勝敗が決まる。時間制限なし。
 そして五人チーム戦独特のルール。一度の戦いで、一人一回しか戦えない。つまり一人が次々と勝ち抜いていくことは出来ないようだ。
 先に三勝したチームの勝ちとなる。

 わたし達は危なげなく一回戦、二回戦を勝ち進んだ。もちろん誰も一度も負けることなく、三連勝している。
 三回戦では黒由佳のアホが相手を殺しかけたのだが、なんとか相手が場外へと逃げたので助かった。
 
 こうして、次はもう準決勝。
 今日の試合はここまでで、準決勝、決勝は明日行われる。
 今日は会場近くの宿舎で泊まることになった。
 会場から宿舎まで移動。大会規定により、この間に街へ繰り出すことは出来ないようだ。
 夜間も同じ。もし外をうろついているのがバレたらすぐに失格処分となる。

 宿舎内で簡単な食事を取り、各自部屋で休む時間となった。

 部屋割りは二名づつで、まず志求磨とナギサが同室。見た目は男と女だが、願望者デザイアとしての性別は二人とも男なのでヨシとしよう。

 レオニードは無理やり一人だけ部屋に押し込んだ。問題はコイツ。黒由佳だ。
 
 夜に絶対、抜け出して外を出歩くに決まっている。
 それで盗みとか放火とか辻斬りとかするに違いない。
 わたしが同室となり、一晩中見張らねば。
 
 わたしの見通しは甘かった。
 黒由佳はわたしより先におとなしく寝たまでは良かった。しかし──そのイビキ。
 二段ベッドの下から魔物の咆哮かと思わせるような凄まじい騒音。
 とても寝られたものではない。
 のんきにイビキをかいている黒由佳を尻目に、仕方なく部屋の外へ。ロビーで何か飲み物でも飲むか。

 ロビーのソファーにはすでに先客が。
 志求磨だ。コーヒーカップ片手に何やら考え事をしている。

「志求磨……眠れないのか?」

「ん……由佳。ちょっとね」

 志求磨は立ち上がって給湯室へ向かうと、わたしの分のコーヒーを持ってきてくれた。

 わたしはそれを受け取り、向かい側に座る。
 志求磨は相変わらず世界名作劇場に出てきそうな男の子みたいな顔だが、最近はなんだか少し大人びた感じがする。
 
《解放の騎士》天塚志求磨。その正体はわたしの親友の比嘉綾ひがあやだった。
 わたしはあえて綾ではなく、志求磨として以前のように接するようにしている。
 綾もそれをそれを望んでいるようだ。
  
 綾はわたしを追ってこの異世界へ。そこで《覇王》黄武迅に会い、この世界の事や願望の力の使い方を教わり、その理想に共鳴して力を貸していた。
 
 黄武迅の死後、その意志は強くなったと思う。あの男が命を懸けて守ろうとした、この世界。
 そしてわたし達がここにこうしていられるのは、黄武迅と岩秀のおかげなのだから。

「《覇王》のこと、考えていたのか?」

「うん。結局、あの人に何もしてやれなかったって」

 時折、志求磨は一人で考え込んでいるような時がある。もしかしたら、あの時助けてやれなかった自責の念があるのかもしれない。

「でも、息子がいるって分かって少し安心したよ。変わってるけど、悪いヤツじゃなさそうだ。彼女……じゃなかった。彼なら、《覇王》の意志を継ぐのにふさわしい」

 笑っているが、どこか寂しげだ。どう言っていいか分からず、コーヒーをズズズ、とすする。
 
「あ、由佳。さっき部屋でナギサと話したんだけどさ、正式なチーム名決めたんだって。今まではチームナギサだったけど、微乳特戦隊にしようって」

 わたしはコーヒーを吹き出した。
 なんて自虐的な。たしかにこのメンバーにアルマがいれば完璧だが……ミジメすぎる。
 わたしは断固、それには反対した。



 朝になり、会場へ。
 黒由佳はおとなしく? 寝ていてくれたが、おかげでわたしは眠れなかった。
 わたしの殺人的イビキを律儀にコピーしやがって。もっとつつましさとか、はかなげな所とか、おしとやかで可愛らしい所をコピーしてもらいたいものだ。

 控え室からでも、もう観客の歓声が聞こえる。
 たいへんな賑わいのようだ。
 わたし達はローブに身を包み、呼び出されるのを待つ。

「チームナギサの皆さん、時間がきました。試合場へお願いします」

 係員が呼びに来た。良かった。チーム名が微乳特戦隊だったら、恥ずかしくて出られなかった。

 通路を通り、試合場へ向かう。その途中でお尻をペロンと撫でられた。

「ひあっ!……だ、誰だ? レオニードか、殺すぞ」

「お、俺じゃねえよ……」

 一斉にフードを外す。犯人が分かった。
 ナギサだ。鼻血を出しながらフフフ、と笑っている。なんなんだ、コイツは。

「あ、なんか緊張してるかなと思って。ほぐしてあげたのさ」

「ふざけるな、警察呼ぶぞ、セクハラだっ!」

 ぎゃあぎゃあ言い合いになったが、係員に注意され、フードを被って試合場へ。
 歓声を一気に全身に浴びた。相手チームはすでに到着している。
 わたし達と同じく頭からすっぽりとローブをまとっているので、どんなヤツらかは分からない。

「それでは準決勝、チームナギサ対、フジターズ・ファイブの試合を開始する!」

 審判の声。相手チームの名前を聞いて、もうイヤな予感しかしなかった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

追放された最強剣士〜役立たずと追放された雑用係は最強の美少女達と一緒に再スタートします。奴隷としてならパーティに戻してやる?お断りです〜

妄想屋さん
ファンタジー
「出ていけ!お前はもうここにいる資格はない!」  有名パーティで奴隷のようにこき使われていた主人公(アーリス)は、ある日あらぬ誤解を受けてパーティを追放されてしまう。  寒空の中、途方に暮れていたアーリスだったかが、剣士育成学校に所属していた時の同級生であり、現在、騎士団で最強ランクの実力を持つ(エルミス)と再開する。  エルミスは自信を無くしてしまったアーリスをなんとか立ち直らせようと決闘を申し込み、わざと負けようとしていたのだが―― 「早くなってるし、威力も上がってるけど、その動きはもう、初めて君と剣を混じえた時に学習済みだ!」  アーリスはエルミスの予想を遥かに超える天才だった。 ✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿✿ 4月3日 1章、2章のタイトルを変更致しました。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

処理中です...