異世界の剣聖女子

みくもっち

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第1部 剣聖 羽鳴由佳

40 終息

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 わたしのターン。ドローし、手札を改めて確認。
 そこから一枚、バトルゾーンに出した。
 人虎ワータイガー人狼ワーウルフよりは強いが、大サソリに比べればだいぶ劣る。
 そして人狼ワーウルフでゴブリンを攻撃、破壊した。
 ここでターン終了。

「フフ、そこまでか。ならばここから俺が一気に攻めてやる」

 藤田の背景がまた変わった。今度はドドドド、と具現化した擬音がそこら中に散らばる。

 また違うマンガの演出を……。
 そのドドドドやめろ。わたしの顔まで劇画調の濃い顔になる。

 大げさなポーズを取りながら、藤田はカードに触れる。

「俺は引く! 引いてみせる、切り札をっ! ぬ、ぬぬぬぬ~っ」

 ズギャアアアン、と派手な擬音が飛び出し、藤田はカードを引いて台に叩きつけた。
 
「きたぁ~っ! 俺の切り札、豪天!」

 ミリアムとのバトルで出したレジェンドカードか。マズイ、あれが出たということは──。
 ゴブリンが復活し、わたしのシールドを一枚破壊。さらにリザードマンがもう一枚破壊。
 わたしのシールドは残り一枚になってしまった。

「ターン終了。どうだ、後がないぞ。貴様に引けるか、俺のような切り札が」

 たしかに、次ターンで手を打たねば負けてしまう。
 ドローし、カードを確認。なんの変哲もないノーマルカードだが、わたしの切り札はすでに手の内にある。

 わたしの出したカードに藤田は目を丸くする。
 
「そ、それはまさか……!」

 驚くのも無理はない。わたしが出したカードは、先ほど勝負に負けてカード化したミリアムだ。
 その能力は──次ターン、敵の動きを全て封じる。
 ここでわたしのターンは終了。
 
「ちい、小細工を……だが一ターン寿命が伸びただけだ。たかだかスーパーレアのそんなカード……」

 動けない藤田はそのままターン終了。
 すぐにわたしの番だ。

「ふ、貴様のバトルゾーンにあるカードで総攻撃したとしても、俺には一手届かない。ムダなあがきだったな」

 すでに勝利を確信している藤田に、わたしはミリアムのカードを指し示す。
 
「見逃しているのか。このカードにはさらなる能力がある」

  コピー能力。行動時に、敵モンスターのスキルをひとつだけ行使できる。

「なにっ、そんなバカな!」

「そう……レジェンドカードが裏目に出たな。その豪天のスキル、トリプルアタッカーを頂く」

 ミリアムのカードを横向きにし、攻撃。
 一気に三枚のシールドを破壊した。これで藤田は丸裸だ。
 そして──人虎ワータイガーの攻撃。カードから飛び出した幻影が藤田に襲いかかる。

「バ、バカなっ、もしや、最初の女が負けることも計算していたのかっ。この切藤躍田きりふじやったが負けるなんて。この俺が、この俺がぁ~っ!」
 
 断末魔とともに藤田はカードに変化。中央の台と周りの赤い壁が消えた。
 そして、ボボン、とカードの中からミリアム、志求磨、アルマの三人が飛び出した。



 三人を救い出し、わたし達四人は王城へと急いだ。途中、トレントに遭遇することもなかった。
 あれからだいぶ時間が経っているが、無事だろうか。ドンドンいっていた、あの大きな音も聞こえない。

 志求磨とはケンカ別れみたいになっていたので、なんだか気まずい。ちらちらと視線は合うが、わたしはごまかすようにミリアムにばかり話かけていた。

「あんたの能力、スゴいんだな。他の願望者デザイアの力を使えるなんて」

「いえ、各能力はほんのわずかな時間しか使えませんし、一度使った能力は丸一日使用できません。威力はあくまでもわたくしの願望の力の範囲内。王の能力を使っても、王のように強くなれるわけではありません」

 それでも状況や敵に対して多彩な技が使えるというのはかなりの強みだ。もし敵になっていれば、相当厄介な相手だ。

「……見えた、王城」

 先頭を走っていたアルマが指差し、わたし達は言葉を失った。
 
《覇王》らしい武骨な飾り気のない王城。
 半分以上が崩壊している。あの巨大な城が……。

「王……まさか……」

 ミリアムが青ざめた顔で走る。もしや、あの男が負けてしまったのか。

 城に入ってすぐに二つの影。
 瓦礫だらけの廃墟。中央にそれはいた。

 なんだ、ガハハハと笑い声が聞こえる。
 近づくと、《覇王》黄武迅と《憤怒僧》岩秀が胡座をかいて二人で酒を酌み交わしている。

「王、これはいったい……」

 ミリアムが困惑した様子で聞くと、泥だらけ痣だらけの顔で黄武迅が答える。

「ああ、クソ坊主のカン違いだったんだよ。ん? こっちの手違いだったか? あれだ、リヴィエールの異常な増税、仏教の布教禁止。こんな命令出した覚えねぇからな。すぐに取り消したってわけだ」

 笑いながら酒を杯に注ぎ、それを岩秀が飲み干す。

「いや、わしも気が短いのが災いした。確かめもせずに兵を動かし、そちらに目を向けさせた上で単身乗り込むなどと」

 岩秀も僧衣はボロボロ、顔は赤く腫れ上がっている。

「少し考えれば分かるようなものを。この男がわしを貶めるのに、そのような回りくどい手を使うはずはない。まあ、何発かぶん殴って気も晴れたわ」

「この坊主、怪我人の俺に遠慮しねぇんだぜ。おいミリアム。シエラ=イデアル正史に、クソ坊主の乱って記録しとけよ」

 二人はまた豪快にガハハハと笑った。なんなんだ、まったく。
 二人は古い友人だとは聞いていたが、それだけではない、気心の知れた仲なのだろう。この様子を見ればよく分かる。

 しかし、それだけに岩秀に反乱を決意させるほどの出来事とはなんだったのだろうか。その増税とか布教禁止とかの誤った命令が原因なのか。

 わたしは横目でミリアムを見た。
 彼女は──ひどく冷淡な顔で二人を見下ろしていた。
 わたしが寒気を覚えるほど。 
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