異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
35 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

35 アライグマッスルVS藤田

しおりを挟む
 獲物を狙う猫のような跳躍でキマイラの前足の爪が迫る。
 神速で滑るように後退、キマイラの爪は空を切った。
 すぐにライオンの頭部が噛みつこうと牙を剥く。
 
「シッ!」

 太刀風。飛ぶ斬撃で攻撃。
 ギァッ、と怯んだところを、近付いて斬りつけようとしたが、尾の毒蛇がしなる鞭のように伸びてきた。
 跳躍してかわすが、ヤバイ。空中には──。

 グリフォンの巨大な鉤爪が待ち受けていた。
 掴まれる直前に身体を回転させながら斬る。
 ガチッ、と弾かれた。爪の部分は硬い。落下しながら納刀。次は下でキマイラ。胴体の山羊がブツブツと何か唱えている。

「な……にっ」

 急激な眠気。魔法か何かか。居合いで斬るつもりだったが、着地するのがやっとだ。
 キマイラの前足。かわせない。まともに喰らい、地面を転がる。
 眠気は一発で吹っ飛んだが……いってぇ。マズイ、左足をくじいた。

 グリフォンの鉤爪が上空から襲いかかる。
 なめやがって、この化け物ども。

 錬気。願望の力を一気に攻撃力へ。二体同時の攻撃が迫る。
 くじいてない右足を軸に、抜刀しながら回転。
 竜巻に巻き込まれたように、二体を弾き飛ばした。

「うお、なんか新技でた」

 自分でも驚いたが、一時的に凌いだだけだ。
 グリフォンとキマイラは体勢を立て直してまた向かってくる。

「まあぁてぇぇぇい!」

 砦の城壁上から突然の声。いかん、この声はヤツだ。ややこしい事になる。

 振り返り見上げると、勘違い中年、御手洗剛志がポーズを取りながらこちらを見下ろしている。

「やめるんだ! それ以上の争いはわたしが許さん!」

 ああ、やめろ。変身するな。
 わたしの願いも虚しく、御手洗剛志は雄叫びを上げながらジャンプ。
 空中でマスクを装着し、眩い閃光が放たれる。

 着地点にはいつの間にかアライグマシーンが待機していた。
 それに跨がるやいなや、フルスロットルで発進、バイクごとキマイラに体当たり。そこからジャンプ、グリフォンに必殺キックを見舞う。

 華麗に宙返りし、アライグマシーンに再び跨がる《アライグマッスル》。
 ダメだ、そんな攻撃が上級魔物に通じるはずは……。

 ところが、二体の魔物は急に大人しくなる。
 グリフォンは空で大きく旋回し、いずこかへ飛び去った。
 キマイラも背を向けて走り去っていった。そんなバカな。
 
「見たまえ。魔物といえど心が通じるのだ。いや、これは大自然の使者、《アライグマッスル》だからこそ可能なのかもしれない……!」

 拳をぐぐぐと握りしめ、何か自分で感動しているようだが……忘れていた。コイツの能力。
 本人は無意識なのだろうが、魔物を鎮静化させる能力を持っている。まさか上級魔物にも効果があるとは。

「く、くそおっ! お前達、かかれぇっ」

 藤田が号令し、残りの魔物達が襲いかかる。
 
「むうぅんっ、オォスカーッル!」

 うわ、かけ声をいきなり間違えた。
 アライグマシーンに乗ったまま、《アライグマッスル》は魔物の群れの中へ。

 次々と飛びかかる人狼ワーウルフ人虎ワータイガーを蹴散らす。
 魔物達の中心でバイクを飛び降り、バイクはそのままミノタウロスへ突っ込んでいった。

「いくぞ、ラスカールッ!」
 
 アライグマのシッポ、いや、アライグマッシャーを引き抜いた《アライグマッスル》は縦横無尽に暴れまわり、魔物達を残らず打ち倒した。
 一度倒れた魔物達は、しばらくして起き上がると何事もなかったようにその場を去っていく。
 もはや藤田の命令も聞かない。

「くっ、どうなってるんだ。どうして俺の言うことを聞かない」

 動揺する藤田に向かい、《アライグマッスル》は勝ち誇ったように語る。

「まだ分からんのか。わたしの拳は魔物さえ改心させる。貴様のように仲間と称して生き物を利用するヤツは許さん」

 シッポを元に戻し、藤田ににじりよる《アライグマッスル》。
  藤田はわなわなと震える手でボールを取り出した。

「こうなったら……お前だけが頼りだ。出てこい、俺の相棒、ケガチューッ!」

 ボールからビビビと出てきたのは……おお、やはりアニメやゲームで大人気のマモノン。
 毛ガニとネズミが合体したというシュールでキモい見た目だが、かえってそれがキモかわいいとの評判だ。
 シエラ=イデアルにあんな魔物はいないから、願望で作り出したのだろうか。

「ケ~ガ~チュウ」

 可愛らしい声(見た目はキモい)で鳴きながら《アライグマッスル》に近付くケガチュー。
《アライグマッスル》はうろたえて後ずさる。

「ぐっ、卑怯な! こんな可愛らしい魔物をけしかけるとは……わたしには攻撃できない」
 
 あんだけ暴れといて何をいまさら……攻撃できないなら、わたしがやってやると片足を引きずりながら、あっと気付いた。

 今、この一帯は《アライグマッスル》の能力が支配しているからお互いにダメージを与えられない。
 ここはあのアライグマ男に任せるほかないのか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

平凡なオレは、成長チート【残機無限】を授かってダンジョン最強に! でも美少女なのだがニートの幼馴染みに、将来性目当てで言い寄られて困る……

佐々木直也
ファンタジー
交通事故で死んだオレが授かった特殊能力は──『怠け者でもラクして最強になれる、わずか3つの裏ワザ』だった。 まるで、くっそ怪しい情報商材か何かの煽り文句のようだったが、これがまったくもって本当だった。 特に、自分を無制限に複製できる【残機無限】によって、転生後、オレはとてつもない成長を遂げる。 だがそれを間近で見ていた幼馴染みは、才能の違いを感じてヤル気をなくしたらしく、怠け者で引きこもりで、学校卒業後は間違いなくニートになるであろう性格になってしまった……美少女だというのに。 しかも、将来有望なオレに「わたしを養って?」とその身を差し出してくる有様……! ということでオレは、そんなニート幼馴染みに頭を悩ませながらも、最強の冒険者として、ダンジョン攻略もしなくちゃならなくて……まるで戦闘しながら子育てをしているような気分になり、なかなかに困った生活を送っています。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

カラスに襲われているトカゲを助けたらドラゴンだった。

克全
ファンタジー
爬虫類は嫌いだったが、カラスに襲われているのを見かけたら助けずにはいられなかった。

処理中です...