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第1部 剣聖 羽鳴由佳
29 魔擶鬼手
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会議といっても簡単な状況説明だった。
王都まで近付いていた反乱軍の先遣隊はレオニードがあらかた壊滅。その本隊を追撃したところ、この砦に立て籠ったらしい。
敵の援軍が集結する前にここを落とさなければならないが、堅牢なこの砦を攻めあぐね、今は膠着状態であった。
「それと、問題はもうひとつ。その砦を守っている願望者だ。守護神とか呼ばれているヤツなんだが……まあ、見たほうが早い」
レオニードが先頭に立ち、砦の見える崖の上まで来た。たしかに砦の左側には深い谷、右側には切り立った崖。正面には堀。跳ね橋で渡るのだろうが、当然橋は上げられている。
「見ろよ、砦の入り口。あそこに陣取っているアホが守護神とか言われている願望者だ」
この崖上から左下方向に砦の入り口が見えるが、その正面にひとりの男。まわりの背景から見て、ものすごく違和感のある格好だった。
「あれって……」
どう見てもサッカーのゴールキーパーだ。ア○ィダスの帽子を被り、手にはグローブ。こちらが見ていることに気付き、バンバンと手の平と拳を打ち合わせている。
「待て、あいつ──藤田だ」
バカな。あいつはカーラの料理を食べて再起不能になったはず。こんな場所でピンピンしているはずはないのだが……あのヘンなコスプレ感は間違いない。
「なんだ、知ってんのなら話は早ぇな。入り口横にレバーが見えるだろ。あれが跳ね橋を下ろす仕掛けだ。跳ね橋さえ下ろせりゃあ、あんな砦簡単に落とせる。俺の弓であのレバーに当てるか、橋を吊っている綱を切ればいいわけだが」
そう言いながらレオニードは部下から大弓を受け取った。長身のレオニードの1、5倍はあり、形状や装飾がゴテゴテしてて重そうだ。
おいおい、狩ゲーに出てきそうなこんなゴツい弓、その細腕で引けるのか。
わたしが疑問の眼差しを向けていると、レオニードの両腕がバキバキバキと願望の力で硬質化。鋭利な爪と頑強な皮膚を持つ、魔物の手のような形になった。
矢をつがえ弦を引くと、あの固そうな大弓がグググとしなる。
わたしは以前、アルマに聞いたことを思い出した。五禍将のひとりは弓使いで、そいつが放つ矢は魔擶と呼ばれていると。
ビュオッ、と矢が放たれた。
矢の軌道は──入り口横のレバーだ。あの速さと勢い。これは間違いなく命中する。
「むぅんっ!」
命中する寸前で、横っ飛びにダイビングした藤田が片手でキャッチ。一回転し、華麗に立ち上がる。
「ウソだろ……」
距離はあるが、あの速度の矢を捉えるのはわたしでも難しそうだ。それをまさか掴み取るとは。
藤田は誇らしげにその矢をバキッとへし折り、捨てた。
「バカめ、このSGGK藤田林遠造はペナルティエリアの外からは絶対に決めさせん」
相変わらずアホなことを言っているので藤田確定だ。しかし登場する度に強くなってないか、アイツ。
「ったくよ、あんなんに俺の魔擶が止められてんだぜ。さて、どうする? 助っ人さんよ」
レオニードがヘラヘラ笑いながら聞いてくる。
わたしの太刀風では射程外。真・太刀風では正確な狙いはつけられないし、跳ね橋そのものを壊しかねない。
「まあ、分かったろ。ここを落とすにはまず、あいつをどうにかしねーとな。でもよ、今日はおまえも来たばっかだからもう明日にしよーぜ」
適当な男だ。かといって何か策があるわけでもない。大人しく幕舎に戻ることにした。
形ばかりの会議を終わらせ、すぐに夜営の準備。夕食の時間となり、幕舎の外でわたしや王都からの兵を歓待するための豪勢なバーベキュー大会が開かれた。
金属製のビールジョッキ両手にレオニードがグイグイ近付いてくるので、わたしは全ての指の間に肉付きの串を挟めながら逃げまわっていた。
食べながら逃げ、食べながら逃げしていたが、ついに幕舎と幕舎の間に追い詰められる。
「おい、新入りはコイツを飲むしきたりだ」
赤い顔でレオニードがじりじりと近付く。わたしもじりじりと後退。どん、と背中に木が当たった。
「未成年だから酒は飲めない」
「バカ。この世界で、んなの関係あるか。オラ、飲めよ」
片手ではゴクゴクとビールを流し込み、片手ではズズイ、とこちらに差し出してくる。わたしは乱暴に払いのけた。
地面にジョッキが落ち、ビールがぶちまかれる。
「テメ、何しやがるっ」
もうひとつのジョッキも投げ捨て、つかみかかってきた。両腕を掴まれ、わたしは振りほどこうと暴れる。
ズルッと足を滑らせてわたしは仰向けに倒れ、レオニードがのしかかってくる。思わず叫んだ。
「このバカッ! おい、酔っぱらい、どこ触っている! 変態、痴漢、警察呼ぶぞっ!」
レオニードは酒臭い顔を近付けて真剣な顔になった。
「おまえ、よく見たらスゲーいい女だな」
「はぁ?」
「おまえ、俺の女になれよ。その気の強そうな顔、ゾクゾクするぜ……うごっ!」
わたしは股関を膝で蹴り上げ、レオニードを押し退けた。うずくまるレオニードを飛び越えて、兵たちが多くいる広場へと走る。
酒も飲んでないのに、顔が真っ赤になっていた。
王都まで近付いていた反乱軍の先遣隊はレオニードがあらかた壊滅。その本隊を追撃したところ、この砦に立て籠ったらしい。
敵の援軍が集結する前にここを落とさなければならないが、堅牢なこの砦を攻めあぐね、今は膠着状態であった。
「それと、問題はもうひとつ。その砦を守っている願望者だ。守護神とか呼ばれているヤツなんだが……まあ、見たほうが早い」
レオニードが先頭に立ち、砦の見える崖の上まで来た。たしかに砦の左側には深い谷、右側には切り立った崖。正面には堀。跳ね橋で渡るのだろうが、当然橋は上げられている。
「見ろよ、砦の入り口。あそこに陣取っているアホが守護神とか言われている願望者だ」
この崖上から左下方向に砦の入り口が見えるが、その正面にひとりの男。まわりの背景から見て、ものすごく違和感のある格好だった。
「あれって……」
どう見てもサッカーのゴールキーパーだ。ア○ィダスの帽子を被り、手にはグローブ。こちらが見ていることに気付き、バンバンと手の平と拳を打ち合わせている。
「待て、あいつ──藤田だ」
バカな。あいつはカーラの料理を食べて再起不能になったはず。こんな場所でピンピンしているはずはないのだが……あのヘンなコスプレ感は間違いない。
「なんだ、知ってんのなら話は早ぇな。入り口横にレバーが見えるだろ。あれが跳ね橋を下ろす仕掛けだ。跳ね橋さえ下ろせりゃあ、あんな砦簡単に落とせる。俺の弓であのレバーに当てるか、橋を吊っている綱を切ればいいわけだが」
そう言いながらレオニードは部下から大弓を受け取った。長身のレオニードの1、5倍はあり、形状や装飾がゴテゴテしてて重そうだ。
おいおい、狩ゲーに出てきそうなこんなゴツい弓、その細腕で引けるのか。
わたしが疑問の眼差しを向けていると、レオニードの両腕がバキバキバキと願望の力で硬質化。鋭利な爪と頑強な皮膚を持つ、魔物の手のような形になった。
矢をつがえ弦を引くと、あの固そうな大弓がグググとしなる。
わたしは以前、アルマに聞いたことを思い出した。五禍将のひとりは弓使いで、そいつが放つ矢は魔擶と呼ばれていると。
ビュオッ、と矢が放たれた。
矢の軌道は──入り口横のレバーだ。あの速さと勢い。これは間違いなく命中する。
「むぅんっ!」
命中する寸前で、横っ飛びにダイビングした藤田が片手でキャッチ。一回転し、華麗に立ち上がる。
「ウソだろ……」
距離はあるが、あの速度の矢を捉えるのはわたしでも難しそうだ。それをまさか掴み取るとは。
藤田は誇らしげにその矢をバキッとへし折り、捨てた。
「バカめ、このSGGK藤田林遠造はペナルティエリアの外からは絶対に決めさせん」
相変わらずアホなことを言っているので藤田確定だ。しかし登場する度に強くなってないか、アイツ。
「ったくよ、あんなんに俺の魔擶が止められてんだぜ。さて、どうする? 助っ人さんよ」
レオニードがヘラヘラ笑いながら聞いてくる。
わたしの太刀風では射程外。真・太刀風では正確な狙いはつけられないし、跳ね橋そのものを壊しかねない。
「まあ、分かったろ。ここを落とすにはまず、あいつをどうにかしねーとな。でもよ、今日はおまえも来たばっかだからもう明日にしよーぜ」
適当な男だ。かといって何か策があるわけでもない。大人しく幕舎に戻ることにした。
形ばかりの会議を終わらせ、すぐに夜営の準備。夕食の時間となり、幕舎の外でわたしや王都からの兵を歓待するための豪勢なバーベキュー大会が開かれた。
金属製のビールジョッキ両手にレオニードがグイグイ近付いてくるので、わたしは全ての指の間に肉付きの串を挟めながら逃げまわっていた。
食べながら逃げ、食べながら逃げしていたが、ついに幕舎と幕舎の間に追い詰められる。
「おい、新入りはコイツを飲むしきたりだ」
赤い顔でレオニードがじりじりと近付く。わたしもじりじりと後退。どん、と背中に木が当たった。
「未成年だから酒は飲めない」
「バカ。この世界で、んなの関係あるか。オラ、飲めよ」
片手ではゴクゴクとビールを流し込み、片手ではズズイ、とこちらに差し出してくる。わたしは乱暴に払いのけた。
地面にジョッキが落ち、ビールがぶちまかれる。
「テメ、何しやがるっ」
もうひとつのジョッキも投げ捨て、つかみかかってきた。両腕を掴まれ、わたしは振りほどこうと暴れる。
ズルッと足を滑らせてわたしは仰向けに倒れ、レオニードがのしかかってくる。思わず叫んだ。
「このバカッ! おい、酔っぱらい、どこ触っている! 変態、痴漢、警察呼ぶぞっ!」
レオニードは酒臭い顔を近付けて真剣な顔になった。
「おまえ、よく見たらスゲーいい女だな」
「はぁ?」
「おまえ、俺の女になれよ。その気の強そうな顔、ゾクゾクするぜ……うごっ!」
わたしは股関を膝で蹴り上げ、レオニードを押し退けた。うずくまるレオニードを飛び越えて、兵たちが多くいる広場へと走る。
酒も飲んでないのに、顔が真っ赤になっていた。
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