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第1部 剣聖 羽鳴由佳
17 藤田
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決勝戦は大勢の観客が見守る闘技場で行われる。
円形の石造りの舞台。学校の中庭ほどの広さだろうか。その上で戦うらしい。わたしとアルマが控え室から出ただけで、会場がわっ、と沸いた。
残る二人も闘技場へ現れ、会場の興奮はさらに高まった。そのうち一人の男を見て、アルマがもにょもにょと耳打ちする。
「……あいつ、強いから気を付けて。五禍将のひとり、ショウ」
ボロボロの武道着を着た短髪の男だった。あれ、どこかで見たことある……あ、人気格闘ゲームの主人公だ。わたしも以前、やり込んだことがあるのですぐにわかった。
予選の一斉ダダダダで二つ名は不明だが、一応警戒しておこう。
この四人でくじ引きをおこない、対戦相手を決める。幸いなことにアルマとは当たらなかった。わたしの相手は藤田という男だった。
日本人の姓だが、舞台の上に登場したのは──重力におもいきり逆らったツンツン頭。ゴーグルを装着し、どこかで見たような戦闘スーツ。偉そうに腕組みし、ニタリと笑っている。
「フン、貴様も運がないヤツだ。人数が減って優勝が狙えると思っていた矢先、この俺が相手とはな」
あ、超有名なアニメの人気キャラだ。しかし、なにか違和感がある。さっきのショウの場合はサマになっていたのだが、この男の場合、コスプレで失敗した人みたいになっている。
「ククク……恐怖で声も出ないようだな。無理もない。この激闘民族《マサカ人の王子》フジータと戦う者は皆そうなる」
いや、おまえフジータじゃなくて藤田だろ。それよりアニメじゃ地球とか吹っ飛ばすような強さだったが、願望の力でそこまで出来るのだろうか。
「藤田さん、藤田さん。もうすぐ試合開始です。開始線まで進んで下さい」
「藤田じゃない! フジータだ! まったく下等民族め」
審判に促され、舞台の中央へ。わたしもそこまで進み、藤田と対峙する。
歓声の中、試合開始の太鼓が打ち鳴らされた。
「フフフ、このゴーグルが気になるようだな。これは相手の激闘力を計測できる装置なのだ。どれ、戦う前に貴様のゴミのような激闘力を測ってやろう」
いやいや、気になってないし。激闘力ってなんだ。
藤田はゴーグルの横のスイッチを押す。ピピピピ、と計測を始めたようだ。
「ほう、2000か。地球人にしてはなかなかだな……む、なんだ、上昇している? 貴様、もしや激闘力をコントロール出来るのか……!」
なんだ、勝手に動揺し始めたぞ。藤田はわなわなと震えながらゴーグルの数値を読み上げる。
「4000……8000……10000……バカな!」
なんか一人で盛り上がっている。その鬼気迫る表情に、声をかけづらい。
「16000……18000……うおっ!」
突然ゴーグルがボンッと音を立てて爆発する。衝撃で藤田はその場に倒れこんだ。
「この俺の激闘力を超えるとは……まさか、こんな下級戦士にエリート戦士の俺が。ちくしょおっ」
いや、わたし何もしてないんですけど。勝手にそっちが一人で倒れたんですけど。
「まさか、貴様はまさか、あの伝説の超……ぐはっ」
藤田はそのまま気を失ってしまった。試合終了の太鼓が打ち鳴らされる。
終わってしまった。わたし、何もしてないのに。会場中にものすごいブーイングが巻き起こり、舞台にいろんな物が投げ込まれる。ちょっと、いまの戦いはわたしのせいじゃない。
わたしは慌てて舞台を降り、控え室へと戻った。
戦いの様子を見ていたアルマとショウも戻ってくる。この混乱で一時休憩となったようだ。
「……由佳、おめでとう。次勝てば優勝だよ」
アルマが言い、わたしはいやぁ、と頭をかく。
「まるで茶番だな」
壁にもたれかかりながらのショウの言葉に、わたしはムッとする。
「王都じゃ、えらい騒ぎらしいな。あんた幹部なんだろ? こんなところで遊んでていいのか」
「俺は魔物に興味はない。俺が求めるのは人間の強者との戦い、力と技のぶつかり合いだ。噂に名高い《剣聖》……おまえとの戦いを楽しみにしていたのだがな」
「……ショウ、おまえは由佳とは戦えない。あたしに倒されるから」
めずらしくアルマが会話に割って入った。
ショウは鋭い視線をアルマに向ける。
「俺に勝てると思っているのか?」
「……由佳は傷つけさせない。次の試合で絶対に倒す」
おお、あのもにょっ娘が燃えている。いいぞ、そいつをやっつけてわたしに楽をさせてくれ。
アルマとショウがバチバチ火花を散らしていると、運営委員の一人が二人を呼びにきた。
会場の混乱が収まったようだ。次の試合が始まる。
アルマ対ショウ。五禍将同士の戦いだ。
円形の石造りの舞台。学校の中庭ほどの広さだろうか。その上で戦うらしい。わたしとアルマが控え室から出ただけで、会場がわっ、と沸いた。
残る二人も闘技場へ現れ、会場の興奮はさらに高まった。そのうち一人の男を見て、アルマがもにょもにょと耳打ちする。
「……あいつ、強いから気を付けて。五禍将のひとり、ショウ」
ボロボロの武道着を着た短髪の男だった。あれ、どこかで見たことある……あ、人気格闘ゲームの主人公だ。わたしも以前、やり込んだことがあるのですぐにわかった。
予選の一斉ダダダダで二つ名は不明だが、一応警戒しておこう。
この四人でくじ引きをおこない、対戦相手を決める。幸いなことにアルマとは当たらなかった。わたしの相手は藤田という男だった。
日本人の姓だが、舞台の上に登場したのは──重力におもいきり逆らったツンツン頭。ゴーグルを装着し、どこかで見たような戦闘スーツ。偉そうに腕組みし、ニタリと笑っている。
「フン、貴様も運がないヤツだ。人数が減って優勝が狙えると思っていた矢先、この俺が相手とはな」
あ、超有名なアニメの人気キャラだ。しかし、なにか違和感がある。さっきのショウの場合はサマになっていたのだが、この男の場合、コスプレで失敗した人みたいになっている。
「ククク……恐怖で声も出ないようだな。無理もない。この激闘民族《マサカ人の王子》フジータと戦う者は皆そうなる」
いや、おまえフジータじゃなくて藤田だろ。それよりアニメじゃ地球とか吹っ飛ばすような強さだったが、願望の力でそこまで出来るのだろうか。
「藤田さん、藤田さん。もうすぐ試合開始です。開始線まで進んで下さい」
「藤田じゃない! フジータだ! まったく下等民族め」
審判に促され、舞台の中央へ。わたしもそこまで進み、藤田と対峙する。
歓声の中、試合開始の太鼓が打ち鳴らされた。
「フフフ、このゴーグルが気になるようだな。これは相手の激闘力を計測できる装置なのだ。どれ、戦う前に貴様のゴミのような激闘力を測ってやろう」
いやいや、気になってないし。激闘力ってなんだ。
藤田はゴーグルの横のスイッチを押す。ピピピピ、と計測を始めたようだ。
「ほう、2000か。地球人にしてはなかなかだな……む、なんだ、上昇している? 貴様、もしや激闘力をコントロール出来るのか……!」
なんだ、勝手に動揺し始めたぞ。藤田はわなわなと震えながらゴーグルの数値を読み上げる。
「4000……8000……10000……バカな!」
なんか一人で盛り上がっている。その鬼気迫る表情に、声をかけづらい。
「16000……18000……うおっ!」
突然ゴーグルがボンッと音を立てて爆発する。衝撃で藤田はその場に倒れこんだ。
「この俺の激闘力を超えるとは……まさか、こんな下級戦士にエリート戦士の俺が。ちくしょおっ」
いや、わたし何もしてないんですけど。勝手にそっちが一人で倒れたんですけど。
「まさか、貴様はまさか、あの伝説の超……ぐはっ」
藤田はそのまま気を失ってしまった。試合終了の太鼓が打ち鳴らされる。
終わってしまった。わたし、何もしてないのに。会場中にものすごいブーイングが巻き起こり、舞台にいろんな物が投げ込まれる。ちょっと、いまの戦いはわたしのせいじゃない。
わたしは慌てて舞台を降り、控え室へと戻った。
戦いの様子を見ていたアルマとショウも戻ってくる。この混乱で一時休憩となったようだ。
「……由佳、おめでとう。次勝てば優勝だよ」
アルマが言い、わたしはいやぁ、と頭をかく。
「まるで茶番だな」
壁にもたれかかりながらのショウの言葉に、わたしはムッとする。
「王都じゃ、えらい騒ぎらしいな。あんた幹部なんだろ? こんなところで遊んでていいのか」
「俺は魔物に興味はない。俺が求めるのは人間の強者との戦い、力と技のぶつかり合いだ。噂に名高い《剣聖》……おまえとの戦いを楽しみにしていたのだがな」
「……ショウ、おまえは由佳とは戦えない。あたしに倒されるから」
めずらしくアルマが会話に割って入った。
ショウは鋭い視線をアルマに向ける。
「俺に勝てると思っているのか?」
「……由佳は傷つけさせない。次の試合で絶対に倒す」
おお、あのもにょっ娘が燃えている。いいぞ、そいつをやっつけてわたしに楽をさせてくれ。
アルマとショウがバチバチ火花を散らしていると、運営委員の一人が二人を呼びにきた。
会場の混乱が収まったようだ。次の試合が始まる。
アルマ対ショウ。五禍将同士の戦いだ。
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