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第1部 剣聖 羽鳴由佳
16 秘蒼石
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黄武迅の軍の協力もあって、志求磨の石板をセペノイアの青い館へ運ぶまでにそこまで日数はかからなかった。
志求磨の顔色は悪くないように見える。ひとまずはこれで安心だ。《奇跡の癒し手》とも呼ばれるカーラならば、この石板化した志求磨を元に戻すことが出来るだろう。
「鋼竜のブレスによる状態変化……ずいぶん久しぶりに見るわね。そしてあなたも」
カーラの紅い瞳が黄武迅に向けられる。
「ワリィが、旧交を温めているヒマはねぇぞ。そいつに死なれてもらっちゃ困るんでな」
どこかきまりが悪そうな黄武迅が頭をぼりぼりかいている。
どうやら旧知の仲らしいが、いまはそんなことはどうでもいい。
「カーラさん、早いとこお願いします。こいつ、治せるんでしょう?」
そのまま飛びつきそうなわたしの問いに、カーラは親指の爪をカリッと噛んでから答えた。
「ええ……そうね。過去に治したこともあるわ。でも、ごめんなさい。いまはムリなの」
「ど、どうして!」
「わたしの願望の力だけでは足りないわ。特殊なアイテムが必要なの。秘蒼石といって、とても希少なもの。いまここには無いの」
わたしは黄武迅を見る。全世界の王なら持っているはずだ。持ってなくても情報ぐらいは……。
「すまねぇ、聞いたこともねぇ」
この役立たずの中国歴史マニアの二日酔いオヤジめ。わたしは頭を抱えた。
そのとき、アルマが近くに来てなにかもにょもにょ言い出した。なんだ、こんなときに。
「……これ、山から帰る途中で拾った……」
一枚のチラシ。それがどうした。なに、シエラ=イデアル武道大会だと? だからそれが……!
アルマが指差す先に書かれていたのは──優勝商品【秘蒼石】。こ、こんな偶然が。
「やった! これで志求磨のやつを元に戻せる!」
わたしは嬉しさのあまりアルマを思い切り抱き締め、アルマは一言、むぎぅ、と呻いた。
シエラ=イデアル武道大会。しかも開催地はこのセペノイアの街だ。こんな幸運が重なるなんて。
さっそく、黄武迅とアルマとともに会場へと向かう。その間にチラシに書かれた規約でも読んでおこう。
なになに、参加者は願望者に限られる。武器の使用は可能だが、相手は殺してはならない。勝敗は相手の戦闘不能、ギブアップ、場外によって決まる。時間制限なし。
わははは、そんなの関係ない。こっちには最強の《覇王》がいるのだ。鋼竜を倒したあの無双っぷりを発揮してもらえば優勝間違いナシ。わたしが昼寝でもしている間に秘蒼石は手に入る。
「おまえ、俺を大会に出そうと思ってるだろ? 一応俺、王だぜ。それが民間主催の大会によぉ、それに賭けもやってるぜ、この大会。俺、取り締まる側なんだがなぁ」
いまさら王様ぶってなにを言っているのだ。あんたが出てもらわないと困る。わたしに優勝できる自信はあるが、万が一ということもある。とにかく志求磨の命がかかっているのだ。
「偽名使って覆面被ってでも出てもらう。もとはといえば、あんたが倒しそこねた鋼竜が原因なんだから」
すでに大にぎわいの会場。受付を済ませ入ろうとしたとき、早馬が駆けつけてきた。
「陛下、大変です! 早く王都へお戻りください!」
馬から転げ落ちながら早馬の使者が告げる。その内容は、王都の近くにギガオーガとかいう、鋼竜に匹敵する超級魔物が現れたというのだ。現在は《神算司書》ミリアムが迎撃に向かったという。
「くそっ、あいつ一人じゃ無理だ。他の五禍将は?」
「そ、それが同時間帯にリヴィエールで反乱が勃発。レオニード様はその対応に。ショウ様は相変わらず行方知れずで」
「どういうタイミングだ! ちぃっ、王都へは俺が向かう。由佳、志求磨のことは任せたぞ。アルマを置いていくから協力して事にあたれ」
黄武迅は使者が用意したもう一頭の馬にまたがり、風のように去っていった。
え、予定が違うんですけど。わたしとこの、もにょっ娘だけで出場して優勝しろと。どうだろう。なんか自信が無くなってきた。
わたしの不安をよそに、すでに大会は進行し始めていた。まず各ブロックごとに出場者が分けられ、予選を勝ち抜かなけねばならない。だがその前に問題があった。
集まった願望者たち。ほとんどが初見だ。ということはあのダダダダが一気に、何十個もわたしの頭の中に打ち込まれる。会場の願望者たちはベテランが多いのだろう。さして動揺は見られない──が、わたしはそうはいかなかった。
「う、う、うゥ、うううゥゥ」
このあとの記憶がない。あとからアルマに聞いた話だが、わたしは完全に狂戦士化し、暴風のごとく暴れまくったらしい。ほとんどの出場者が怪我を負い、出場不可能。そうでない者も棄権したようだ。死者が出なかったのは奇跡的だった。
それでも残った選手は、わたしとアルマを含んだ4人。この4人で決勝戦を行うことになった。なんだか主催者に申し訳ない。
志求磨の顔色は悪くないように見える。ひとまずはこれで安心だ。《奇跡の癒し手》とも呼ばれるカーラならば、この石板化した志求磨を元に戻すことが出来るだろう。
「鋼竜のブレスによる状態変化……ずいぶん久しぶりに見るわね。そしてあなたも」
カーラの紅い瞳が黄武迅に向けられる。
「ワリィが、旧交を温めているヒマはねぇぞ。そいつに死なれてもらっちゃ困るんでな」
どこかきまりが悪そうな黄武迅が頭をぼりぼりかいている。
どうやら旧知の仲らしいが、いまはそんなことはどうでもいい。
「カーラさん、早いとこお願いします。こいつ、治せるんでしょう?」
そのまま飛びつきそうなわたしの問いに、カーラは親指の爪をカリッと噛んでから答えた。
「ええ……そうね。過去に治したこともあるわ。でも、ごめんなさい。いまはムリなの」
「ど、どうして!」
「わたしの願望の力だけでは足りないわ。特殊なアイテムが必要なの。秘蒼石といって、とても希少なもの。いまここには無いの」
わたしは黄武迅を見る。全世界の王なら持っているはずだ。持ってなくても情報ぐらいは……。
「すまねぇ、聞いたこともねぇ」
この役立たずの中国歴史マニアの二日酔いオヤジめ。わたしは頭を抱えた。
そのとき、アルマが近くに来てなにかもにょもにょ言い出した。なんだ、こんなときに。
「……これ、山から帰る途中で拾った……」
一枚のチラシ。それがどうした。なに、シエラ=イデアル武道大会だと? だからそれが……!
アルマが指差す先に書かれていたのは──優勝商品【秘蒼石】。こ、こんな偶然が。
「やった! これで志求磨のやつを元に戻せる!」
わたしは嬉しさのあまりアルマを思い切り抱き締め、アルマは一言、むぎぅ、と呻いた。
シエラ=イデアル武道大会。しかも開催地はこのセペノイアの街だ。こんな幸運が重なるなんて。
さっそく、黄武迅とアルマとともに会場へと向かう。その間にチラシに書かれた規約でも読んでおこう。
なになに、参加者は願望者に限られる。武器の使用は可能だが、相手は殺してはならない。勝敗は相手の戦闘不能、ギブアップ、場外によって決まる。時間制限なし。
わははは、そんなの関係ない。こっちには最強の《覇王》がいるのだ。鋼竜を倒したあの無双っぷりを発揮してもらえば優勝間違いナシ。わたしが昼寝でもしている間に秘蒼石は手に入る。
「おまえ、俺を大会に出そうと思ってるだろ? 一応俺、王だぜ。それが民間主催の大会によぉ、それに賭けもやってるぜ、この大会。俺、取り締まる側なんだがなぁ」
いまさら王様ぶってなにを言っているのだ。あんたが出てもらわないと困る。わたしに優勝できる自信はあるが、万が一ということもある。とにかく志求磨の命がかかっているのだ。
「偽名使って覆面被ってでも出てもらう。もとはといえば、あんたが倒しそこねた鋼竜が原因なんだから」
すでに大にぎわいの会場。受付を済ませ入ろうとしたとき、早馬が駆けつけてきた。
「陛下、大変です! 早く王都へお戻りください!」
馬から転げ落ちながら早馬の使者が告げる。その内容は、王都の近くにギガオーガとかいう、鋼竜に匹敵する超級魔物が現れたというのだ。現在は《神算司書》ミリアムが迎撃に向かったという。
「くそっ、あいつ一人じゃ無理だ。他の五禍将は?」
「そ、それが同時間帯にリヴィエールで反乱が勃発。レオニード様はその対応に。ショウ様は相変わらず行方知れずで」
「どういうタイミングだ! ちぃっ、王都へは俺が向かう。由佳、志求磨のことは任せたぞ。アルマを置いていくから協力して事にあたれ」
黄武迅は使者が用意したもう一頭の馬にまたがり、風のように去っていった。
え、予定が違うんですけど。わたしとこの、もにょっ娘だけで出場して優勝しろと。どうだろう。なんか自信が無くなってきた。
わたしの不安をよそに、すでに大会は進行し始めていた。まず各ブロックごとに出場者が分けられ、予選を勝ち抜かなけねばならない。だがその前に問題があった。
集まった願望者たち。ほとんどが初見だ。ということはあのダダダダが一気に、何十個もわたしの頭の中に打ち込まれる。会場の願望者たちはベテランが多いのだろう。さして動揺は見られない──が、わたしはそうはいかなかった。
「う、う、うゥ、うううゥゥ」
このあとの記憶がない。あとからアルマに聞いた話だが、わたしは完全に狂戦士化し、暴風のごとく暴れまくったらしい。ほとんどの出場者が怪我を負い、出場不可能。そうでない者も棄権したようだ。死者が出なかったのは奇跡的だった。
それでも残った選手は、わたしとアルマを含んだ4人。この4人で決勝戦を行うことになった。なんだか主催者に申し訳ない。
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