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第1部 剣聖 羽鳴由佳
10 分岐
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わたしと志求磨はさらに3日かけ、ヴァーグという街についた。王都に一番近い街で、海に隣接している港街だ。王都から運ばれてきた物資や商品がここから船で様々な都市に運ばれていく。
王都はこのまま東へ進み、鋼竜山を山越えするルートと大きく迂回して街道を進むルートがある。
当然シティガールなわたしは山越えなんてするわけない。街道を行き交う隊商の荷馬車にでも乗せてもらい、優雅に旅をするつもりだ。金はないが、こんな美少女が一声かければチョロイもんだろう。
「あの~、すいません」
荷下ろしが終わり、王都に帰るであろう隊商のひとつに声をかける。
「わたしたち、王都まで行きたいんですけど……よかったら乗せて行ってもらえませんか?」
──答えはノーだった。理由はやはり願望者だから。願望者は魔物を寄せ付ける。護衛はするからと懇願したが、並みの魔物ならただの傭兵で十分らしい。
くそ、ここは作戦を変えなければ。ほかの隊商で再挑戦だ。
「あんのぉ~、わたしぃ~、困っててぇ~。マジ、ヤバいってゆーかー、王都って遠いからぁ~、乗せてってもらえたら超ウレシイんだけど~」
上目遣いで瞳を潤ませ、腰をグネグネさせながら頼む。あれ、逃げた。何故だ。照れているのか? この世界の男性は皆ウブなのか?
「由佳、街道からのルートはダメだ。山越えしよう」
志求磨が提案する。アホか。たとえ隊商に同行できなくても街道を歩いて行ったほうが楽に決まっている。距離的に近いとでも思っているのか。これだからお子ちゃまは……。
「俺さ、《覇王》はよく知ってるんだけどさ、部下たちには良く思われてないんだ」
突然、何を言い出すんだ。それが山越えと何の関係があるのか。
「街道の途中には関所がある。俺たちみたいな願望者は厳しく調べられるんだけど、そこは《覇王》直属の願望者が管理してるんだ」
「なんだ、通れないってのか」
「多分。それだけじゃない、嫌がらせ受けるかも。最悪なのは五禍将と戦いになった場合」
「ごかしょう……なんか聞いたことある」
「それが《覇王》直属の願望者さ。あいつらと争えば国中に指名手配される。《覇王》も立場上、かばってくれないだろうし」
じゃあ、あの山を登れと……ここからでも険しそうなのが一目で分かる。山頂にぜったい雪、積もっている。
わたしがアルピニストの野○建の願望者なら喜んで登るが……あいにく今のわたしはか弱い美少女なので遠慮したい。
「無理。ムリムリムリ。山登りなんて」
「じゃあ、しょうがない。二手に分かれよう。由佳一人なら関所も通れるはずだよ」
「えっ……」
そういう展開になるとは思わなかった。戸惑っている間に志求磨は他の隊商に銀貨を渡し、交渉を手早く済ましていた。
「ほら、ここの隊商なら大丈夫。乗せてってくれるって」
「おまえ、金持ってるのか」
「由佳にお金見せるとさぁ、すぐに使っちゃうだろ? いざというときのために隠し持ってたんだ」
こいつ、わたしの浪費癖まで知っている。ほんとにストーカーかも。
「おまえ、本当に山から行くのか」
「うん」
「なんでそこまでして……」
「《覇王》に用があるからさ。ほら、早くしないと出発しちゃうよ。次会うときは王都だ」
「ま、待て、うわ」
荷台に押し込まれ、慌てて振り向く。荷馬車が走り出した。
志求磨は能天気に手を振って見送っていた。そんな光景に、わたしの耳にドナドナが流れてくる。
「なんだ、あいつ。さみしいとか、心細いとかないのか」
まだ志求磨に出会って、数日旅をしただけだ。なのになんだかこう、離れるとなると急に胸が──なんだろ。ギュウッてなる。このシエラ=イデアルに来て半年間、ずっと一人で平気だったのに。
ガタガタ、ゴトゴト、荷馬車が揺れ、わたしは半べそかきながらドナドナを口ずさんでいた。
どれほど時間が過ぎたのだろうか。幌の中からでは分からない。
ガタンッ、と荷馬車が大きく揺れた。魔物の襲来か、とわたしはいつでも外に飛び出る態勢を取るが──どうやら違うようだ。
外で話し声が聞こえる。聞き耳をたてていると、軍の関係者か何かが積み荷を調べると言っているようだ。あれ、おかしい。関所はまだまだ先のはずだ。
ザッ、ザッ、と入り口に足音が近づいてくる。別にやましいことはないのだが、願望者とバレたら面倒だ。わたしはそこらにあった毛布にくるまり、隅に寝転がった。
バサッと入り口が開けられ、人が覗きこむ気配。
「……出てきて」
──秒でバレた。わたしは観念して毛布を脱ぎ捨て、荷馬車の外へと出る。
外は薄暗くなっていた。5騎の騎兵が荷馬車の後ろで待機している。
その中央の少女を見て、頭の中ダダダダ、が始まった。《アサシン》アルマ・イルハム。願望者だ。しかもド直球な二つ名。え、わたし殺されるの?
荷馬車はわたしを置いてドドドド、と走り去った。薄情者、金返せ。
みるみる離れていく荷馬車を見送るわたしの耳には、再びドナドナが流れていた。
王都はこのまま東へ進み、鋼竜山を山越えするルートと大きく迂回して街道を進むルートがある。
当然シティガールなわたしは山越えなんてするわけない。街道を行き交う隊商の荷馬車にでも乗せてもらい、優雅に旅をするつもりだ。金はないが、こんな美少女が一声かければチョロイもんだろう。
「あの~、すいません」
荷下ろしが終わり、王都に帰るであろう隊商のひとつに声をかける。
「わたしたち、王都まで行きたいんですけど……よかったら乗せて行ってもらえませんか?」
──答えはノーだった。理由はやはり願望者だから。願望者は魔物を寄せ付ける。護衛はするからと懇願したが、並みの魔物ならただの傭兵で十分らしい。
くそ、ここは作戦を変えなければ。ほかの隊商で再挑戦だ。
「あんのぉ~、わたしぃ~、困っててぇ~。マジ、ヤバいってゆーかー、王都って遠いからぁ~、乗せてってもらえたら超ウレシイんだけど~」
上目遣いで瞳を潤ませ、腰をグネグネさせながら頼む。あれ、逃げた。何故だ。照れているのか? この世界の男性は皆ウブなのか?
「由佳、街道からのルートはダメだ。山越えしよう」
志求磨が提案する。アホか。たとえ隊商に同行できなくても街道を歩いて行ったほうが楽に決まっている。距離的に近いとでも思っているのか。これだからお子ちゃまは……。
「俺さ、《覇王》はよく知ってるんだけどさ、部下たちには良く思われてないんだ」
突然、何を言い出すんだ。それが山越えと何の関係があるのか。
「街道の途中には関所がある。俺たちみたいな願望者は厳しく調べられるんだけど、そこは《覇王》直属の願望者が管理してるんだ」
「なんだ、通れないってのか」
「多分。それだけじゃない、嫌がらせ受けるかも。最悪なのは五禍将と戦いになった場合」
「ごかしょう……なんか聞いたことある」
「それが《覇王》直属の願望者さ。あいつらと争えば国中に指名手配される。《覇王》も立場上、かばってくれないだろうし」
じゃあ、あの山を登れと……ここからでも険しそうなのが一目で分かる。山頂にぜったい雪、積もっている。
わたしがアルピニストの野○建の願望者なら喜んで登るが……あいにく今のわたしはか弱い美少女なので遠慮したい。
「無理。ムリムリムリ。山登りなんて」
「じゃあ、しょうがない。二手に分かれよう。由佳一人なら関所も通れるはずだよ」
「えっ……」
そういう展開になるとは思わなかった。戸惑っている間に志求磨は他の隊商に銀貨を渡し、交渉を手早く済ましていた。
「ほら、ここの隊商なら大丈夫。乗せてってくれるって」
「おまえ、金持ってるのか」
「由佳にお金見せるとさぁ、すぐに使っちゃうだろ? いざというときのために隠し持ってたんだ」
こいつ、わたしの浪費癖まで知っている。ほんとにストーカーかも。
「おまえ、本当に山から行くのか」
「うん」
「なんでそこまでして……」
「《覇王》に用があるからさ。ほら、早くしないと出発しちゃうよ。次会うときは王都だ」
「ま、待て、うわ」
荷台に押し込まれ、慌てて振り向く。荷馬車が走り出した。
志求磨は能天気に手を振って見送っていた。そんな光景に、わたしの耳にドナドナが流れてくる。
「なんだ、あいつ。さみしいとか、心細いとかないのか」
まだ志求磨に出会って、数日旅をしただけだ。なのになんだかこう、離れるとなると急に胸が──なんだろ。ギュウッてなる。このシエラ=イデアルに来て半年間、ずっと一人で平気だったのに。
ガタガタ、ゴトゴト、荷馬車が揺れ、わたしは半べそかきながらドナドナを口ずさんでいた。
どれほど時間が過ぎたのだろうか。幌の中からでは分からない。
ガタンッ、と荷馬車が大きく揺れた。魔物の襲来か、とわたしはいつでも外に飛び出る態勢を取るが──どうやら違うようだ。
外で話し声が聞こえる。聞き耳をたてていると、軍の関係者か何かが積み荷を調べると言っているようだ。あれ、おかしい。関所はまだまだ先のはずだ。
ザッ、ザッ、と入り口に足音が近づいてくる。別にやましいことはないのだが、願望者とバレたら面倒だ。わたしはそこらにあった毛布にくるまり、隅に寝転がった。
バサッと入り口が開けられ、人が覗きこむ気配。
「……出てきて」
──秒でバレた。わたしは観念して毛布を脱ぎ捨て、荷馬車の外へと出る。
外は薄暗くなっていた。5騎の騎兵が荷馬車の後ろで待機している。
その中央の少女を見て、頭の中ダダダダ、が始まった。《アサシン》アルマ・イルハム。願望者だ。しかもド直球な二つ名。え、わたし殺されるの?
荷馬車はわたしを置いてドドドド、と走り去った。薄情者、金返せ。
みるみる離れていく荷馬車を見送るわたしの耳には、再びドナドナが流れていた。
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