異世界の剣聖女子

みくもっち

文字の大きさ
上 下
7 / 185
第1部 剣聖 羽鳴由佳

7 カヴェルヌの街

しおりを挟む
 セプティミアとの戦いのあと、わたしはカヴェルヌという小さな街に滞在していた。

 シティガールなわたしはセペノイアみたいな都会のホテルに泊まりたかったのだが……金が無い。
 あのクソったれガンマンと野盗たちを倒した報酬は、《青の魔女》カーラに治療代としてほとんど取られてしまった。きっと《強欲》とか《守銭奴》とかいう二つ名もあるに違いない。そんなことを考えながら振り向く。
 
「で、お前はなんでついてくるんだ」

 5メートルうしろからつかず離れず志求磨がついてくる。
 わたしとしてはカーラの言っていたとおりに《解放の騎士》に会ったのだから、もう用はない。むしろこれ以上関わりたくない。

 あの消失ロストの能力……願望の力を弱め、強制的に元の世界へと送り返す、おっかねぇ能力だ。なにかのきっかけで、わたしも消失ロストさせられるかもしれない。

 カーラは多分、わたしに元の世界に戻れる術があることと、選択肢を示したのだと思う。
 元の世界に特別不満があるわけではない。だけど、この容姿と力を手放すにはまだちょっと惜しい。よほどのことがない限り、むこうに帰るつもりはなかった。
 
「由佳ってさ、なんか危なっかしくてほっとけないんだよね。たしかに強いんだけどさぁ、すぐ突っ込んでいくクセあるじゃん?  それに初見の相手見てカーッ、てなるのも慣れてくる頃だと思うんだけどなぁ」

 大きなお世話である。とはいえ、こいつには(不本意ながら)助けてもらっている。
 むこうからは言ってこないが、ロクデナシガンマンを消失ロストしたのはこいつだろうし、それだとカーラの青い館まで運んでくれたのもこいつだ。
 なんだかたくさん借りを作ってしまったようで、腹が立つ。いや、セプティミアとの戦いではわたしがボコられている間があったから勝てたのだ。いいとこだけもっていかれた気がして腹が立つ。
 
「最初の頃はほんとヒドかったよね。鏡見るたびにグヘグヘ笑ってたし、『ステータスオープン!』とか叫んで不審者扱いだし、魔物倒して『ドロップアイテムがねぇっ』てキレてたし」

「な、な、なんでおまえが」

 わたしがシエラ=イデアルに来たばかりの頃の黒歴史を……そんなときからわたしを知っているのか。

「お、おまえ、ストーカーだな? いくらこのわたしが美少女だからって……警察呼ぶぞ、警察」

「は? ケーサツいねーし。由佳、俺の好みじゃねーし」

「こ、こいつ、クチわるっ。親の顔が見てみたいわ」

 街の道端でギャーギャーやりあっていると、一人の老人が近づいてきた。

「あ、あの~、お取り込みの最中、すいません」

 杖をついた、いかにも長老ってかんじの老人だ。わたしと志求磨はいったん言い争いをやめ、話を聞くことにした。



 何のことはない。いつものことだ。この老人はカヴェルヌの代表者で、住人たちからの苦情を伝えにきたのだった。

 一目で分かる願望者デザイア二人。それが言い争っている現場はたしかに物騒だ。それと、カヴェルヌの近くには洞窟があり、わたしたちが来たと同時期にその近辺で魔物の目撃例が増えているというのだ。
 ようするに早く出ていってくれということだ。小さな街ではよくある。カーラのように定住している願望者デザイアはごく稀だ。

 それは構わないのだ。その気になれば野宿も慣れている。ただ気にくわないのはこの街の住人だ。
 こんな老人に危険かもしれない願望者デザイアのもとに一人で行かせ、自分たちは物陰から見ているだけなのだろう。
 わたしの険しい表情に、老人は慌てて頭を下げる。

「も、申し訳ない。この街は十年前の覇王大戦で願望者デザイア同士の戦いに巻き込まれ、多くの死傷者を出した過去があるのです。あなた方に対して、ひときわ恐怖感を持っております」

 覇王大戦……《覇王》と呼ばれる願望者デザイアが大小いくつもの国に分かれていたシエラ=イデアルを統一するために起こした戦争だ。
 ある国で《覇王》は、願望者デザイアたちを力で屈伏させ配下にし、一国を乗っ取った。そこから近隣諸国に次々に侵攻。十年足らずで世界を統一し、シエラ=イデアルの王となった。

 ここまでが、わたしが《覇王》や覇王大戦に関する知識だ。当時のことはよく分からないが、国同士の戦争に願望者デザイアが加わっていたのは普通の兵士や市民にとっては悪夢以外のなにものでもなかっただろう。
 


 わたしと志求磨は街を出て王都に続く街道をとぼとぼと歩く。
 近くに街や村はない。慣れているとはいえ、野宿確定というのは結構ヘコむ。2日分ぐらいの食料はあるが、この先集落がなければ雨風を防げる場所を探し、食料を探し、水を確保しなければならない。
 こればかりは願望者デザイアの能力でもどうにもならない。満腹だー、食べ物ー、と望んでも満腹にはならないし、石ころがパンに変わるわけではない。これは不死や無限増殖などのチートが使えないのと共通の現象だと思われる。
 
「あ! あれ見てよ。由佳」

 人が考え事しているときに、なんだコノヤロウと志求磨を見ると、街道から外れた林の中、山肌がむき出しになった部分に大きな空洞。そこを指さしている。

「カヴェルヌの老人が言っていた洞窟か。噂じゃ魔物がでるらしいが」

「誰か入っていくのを見たんだ。間違いないよ」

「ウソつけ。あんな薄気味悪いところに入っていくなんて、稲○淳二ぐらいのもんだ。おまえの見間違いだ」

「ほんとだって。俺、すごく目がいいし。ちょっと行ってくる」

 志求磨はそう言って林の中をズンズン進んで行く。
 ふん、知ったことか。あんなところ、ジメジメしてそうだし、コウモリやら虫がいるだろうし、変なにおいもするかもしれない。わたしのような可憐な美少女が行くところではないのだ。
 
 わたしは志求磨を放って先を急ぐことにした。目指すは王都。《覇王》のいる場所へ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...