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第1部 剣聖 羽鳴由佳
7 カヴェルヌの街
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セプティミアとの戦いのあと、わたしはカヴェルヌという小さな街に滞在していた。
シティガールなわたしはセペノイアみたいな都会のホテルに泊まりたかったのだが……金が無い。
あのクソったれガンマンと野盗たちを倒した報酬は、《青の魔女》カーラに治療代としてほとんど取られてしまった。きっと《強欲》とか《守銭奴》とかいう二つ名もあるに違いない。そんなことを考えながら振り向く。
「で、お前はなんでついてくるんだ」
5メートルうしろからつかず離れず志求磨がついてくる。
わたしとしてはカーラの言っていたとおりに《解放の騎士》に会ったのだから、もう用はない。むしろこれ以上関わりたくない。
あの消失の能力……願望の力を弱め、強制的に元の世界へと送り返す、おっかねぇ能力だ。なにかのきっかけで、わたしも消失させられるかもしれない。
カーラは多分、わたしに元の世界に戻れる術があることと、選択肢を示したのだと思う。
元の世界に特別不満があるわけではない。だけど、この容姿と力を手放すにはまだちょっと惜しい。よほどのことがない限り、むこうに帰るつもりはなかった。
「由佳ってさ、なんか危なっかしくてほっとけないんだよね。たしかに強いんだけどさぁ、すぐ突っ込んでいくクセあるじゃん? それに初見の相手見てカーッ、てなるのも慣れてくる頃だと思うんだけどなぁ」
大きなお世話である。とはいえ、こいつには(不本意ながら)助けてもらっている。
むこうからは言ってこないが、ロクデナシガンマンを消失したのはこいつだろうし、それだとカーラの青い館まで運んでくれたのもこいつだ。
なんだかたくさん借りを作ってしまったようで、腹が立つ。いや、セプティミアとの戦いではわたしがボコられている間があったから勝てたのだ。いいとこだけもっていかれた気がして腹が立つ。
「最初の頃はほんとヒドかったよね。鏡見るたびにグヘグヘ笑ってたし、『ステータスオープン!』とか叫んで不審者扱いだし、魔物倒して『ドロップアイテムがねぇっ』てキレてたし」
「な、な、なんでおまえが」
わたしがシエラ=イデアルに来たばかりの頃の黒歴史を……そんなときからわたしを知っているのか。
「お、おまえ、ストーカーだな? いくらこのわたしが美少女だからって……警察呼ぶぞ、警察」
「は? ケーサツいねーし。由佳、俺の好みじゃねーし」
「こ、こいつ、クチわるっ。親の顔が見てみたいわ」
街の道端でギャーギャーやりあっていると、一人の老人が近づいてきた。
「あ、あの~、お取り込みの最中、すいません」
杖をついた、いかにも長老ってかんじの老人だ。わたしと志求磨はいったん言い争いをやめ、話を聞くことにした。
何のことはない。いつものことだ。この老人はカヴェルヌの代表者で、住人たちからの苦情を伝えにきたのだった。
一目で分かる願望者二人。それが言い争っている現場はたしかに物騒だ。それと、カヴェルヌの近くには洞窟があり、わたしたちが来たと同時期にその近辺で魔物の目撃例が増えているというのだ。
ようするに早く出ていってくれということだ。小さな街ではよくある。カーラのように定住している願望者はごく稀だ。
それは構わないのだ。その気になれば野宿も慣れている。ただ気にくわないのはこの街の住人だ。
こんな老人に危険かもしれない願望者のもとに一人で行かせ、自分たちは物陰から見ているだけなのだろう。
わたしの険しい表情に、老人は慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ない。この街は十年前の覇王大戦で願望者同士の戦いに巻き込まれ、多くの死傷者を出した過去があるのです。あなた方に対して、ひときわ恐怖感を持っております」
覇王大戦……《覇王》と呼ばれる願望者が大小いくつもの国に分かれていたシエラ=イデアルを統一するために起こした戦争だ。
ある国で《覇王》は、願望者たちを力で屈伏させ配下にし、一国を乗っ取った。そこから近隣諸国に次々に侵攻。十年足らずで世界を統一し、シエラ=イデアルの王となった。
ここまでが、わたしが《覇王》や覇王大戦に関する知識だ。当時のことはよく分からないが、国同士の戦争に願望者が加わっていたのは普通の兵士や市民にとっては悪夢以外のなにものでもなかっただろう。
わたしと志求磨は街を出て王都に続く街道をとぼとぼと歩く。
近くに街や村はない。慣れているとはいえ、野宿確定というのは結構ヘコむ。2日分ぐらいの食料はあるが、この先集落がなければ雨風を防げる場所を探し、食料を探し、水を確保しなければならない。
こればかりは願望者の能力でもどうにもならない。満腹だー、食べ物ー、と望んでも満腹にはならないし、石ころがパンに変わるわけではない。これは不死や無限増殖などのチートが使えないのと共通の現象だと思われる。
「あ! あれ見てよ。由佳」
人が考え事しているときに、なんだコノヤロウと志求磨を見ると、街道から外れた林の中、山肌がむき出しになった部分に大きな空洞。そこを指さしている。
「カヴェルヌの老人が言っていた洞窟か。噂じゃ魔物がでるらしいが」
「誰か入っていくのを見たんだ。間違いないよ」
「ウソつけ。あんな薄気味悪いところに入っていくなんて、稲○淳二ぐらいのもんだ。おまえの見間違いだ」
「ほんとだって。俺、すごく目がいいし。ちょっと行ってくる」
志求磨はそう言って林の中をズンズン進んで行く。
ふん、知ったことか。あんなところ、ジメジメしてそうだし、コウモリやら虫がいるだろうし、変なにおいもするかもしれない。わたしのような可憐な美少女が行くところではないのだ。
わたしは志求磨を放って先を急ぐことにした。目指すは王都。《覇王》のいる場所へ。
シティガールなわたしはセペノイアみたいな都会のホテルに泊まりたかったのだが……金が無い。
あのクソったれガンマンと野盗たちを倒した報酬は、《青の魔女》カーラに治療代としてほとんど取られてしまった。きっと《強欲》とか《守銭奴》とかいう二つ名もあるに違いない。そんなことを考えながら振り向く。
「で、お前はなんでついてくるんだ」
5メートルうしろからつかず離れず志求磨がついてくる。
わたしとしてはカーラの言っていたとおりに《解放の騎士》に会ったのだから、もう用はない。むしろこれ以上関わりたくない。
あの消失の能力……願望の力を弱め、強制的に元の世界へと送り返す、おっかねぇ能力だ。なにかのきっかけで、わたしも消失させられるかもしれない。
カーラは多分、わたしに元の世界に戻れる術があることと、選択肢を示したのだと思う。
元の世界に特別不満があるわけではない。だけど、この容姿と力を手放すにはまだちょっと惜しい。よほどのことがない限り、むこうに帰るつもりはなかった。
「由佳ってさ、なんか危なっかしくてほっとけないんだよね。たしかに強いんだけどさぁ、すぐ突っ込んでいくクセあるじゃん? それに初見の相手見てカーッ、てなるのも慣れてくる頃だと思うんだけどなぁ」
大きなお世話である。とはいえ、こいつには(不本意ながら)助けてもらっている。
むこうからは言ってこないが、ロクデナシガンマンを消失したのはこいつだろうし、それだとカーラの青い館まで運んでくれたのもこいつだ。
なんだかたくさん借りを作ってしまったようで、腹が立つ。いや、セプティミアとの戦いではわたしがボコられている間があったから勝てたのだ。いいとこだけもっていかれた気がして腹が立つ。
「最初の頃はほんとヒドかったよね。鏡見るたびにグヘグヘ笑ってたし、『ステータスオープン!』とか叫んで不審者扱いだし、魔物倒して『ドロップアイテムがねぇっ』てキレてたし」
「な、な、なんでおまえが」
わたしがシエラ=イデアルに来たばかりの頃の黒歴史を……そんなときからわたしを知っているのか。
「お、おまえ、ストーカーだな? いくらこのわたしが美少女だからって……警察呼ぶぞ、警察」
「は? ケーサツいねーし。由佳、俺の好みじゃねーし」
「こ、こいつ、クチわるっ。親の顔が見てみたいわ」
街の道端でギャーギャーやりあっていると、一人の老人が近づいてきた。
「あ、あの~、お取り込みの最中、すいません」
杖をついた、いかにも長老ってかんじの老人だ。わたしと志求磨はいったん言い争いをやめ、話を聞くことにした。
何のことはない。いつものことだ。この老人はカヴェルヌの代表者で、住人たちからの苦情を伝えにきたのだった。
一目で分かる願望者二人。それが言い争っている現場はたしかに物騒だ。それと、カヴェルヌの近くには洞窟があり、わたしたちが来たと同時期にその近辺で魔物の目撃例が増えているというのだ。
ようするに早く出ていってくれということだ。小さな街ではよくある。カーラのように定住している願望者はごく稀だ。
それは構わないのだ。その気になれば野宿も慣れている。ただ気にくわないのはこの街の住人だ。
こんな老人に危険かもしれない願望者のもとに一人で行かせ、自分たちは物陰から見ているだけなのだろう。
わたしの険しい表情に、老人は慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ない。この街は十年前の覇王大戦で願望者同士の戦いに巻き込まれ、多くの死傷者を出した過去があるのです。あなた方に対して、ひときわ恐怖感を持っております」
覇王大戦……《覇王》と呼ばれる願望者が大小いくつもの国に分かれていたシエラ=イデアルを統一するために起こした戦争だ。
ある国で《覇王》は、願望者たちを力で屈伏させ配下にし、一国を乗っ取った。そこから近隣諸国に次々に侵攻。十年足らずで世界を統一し、シエラ=イデアルの王となった。
ここまでが、わたしが《覇王》や覇王大戦に関する知識だ。当時のことはよく分からないが、国同士の戦争に願望者が加わっていたのは普通の兵士や市民にとっては悪夢以外のなにものでもなかっただろう。
わたしと志求磨は街を出て王都に続く街道をとぼとぼと歩く。
近くに街や村はない。慣れているとはいえ、野宿確定というのは結構ヘコむ。2日分ぐらいの食料はあるが、この先集落がなければ雨風を防げる場所を探し、食料を探し、水を確保しなければならない。
こればかりは願望者の能力でもどうにもならない。満腹だー、食べ物ー、と望んでも満腹にはならないし、石ころがパンに変わるわけではない。これは不死や無限増殖などのチートが使えないのと共通の現象だと思われる。
「あ! あれ見てよ。由佳」
人が考え事しているときに、なんだコノヤロウと志求磨を見ると、街道から外れた林の中、山肌がむき出しになった部分に大きな空洞。そこを指さしている。
「カヴェルヌの老人が言っていた洞窟か。噂じゃ魔物がでるらしいが」
「誰か入っていくのを見たんだ。間違いないよ」
「ウソつけ。あんな薄気味悪いところに入っていくなんて、稲○淳二ぐらいのもんだ。おまえの見間違いだ」
「ほんとだって。俺、すごく目がいいし。ちょっと行ってくる」
志求磨はそう言って林の中をズンズン進んで行く。
ふん、知ったことか。あんなところ、ジメジメしてそうだし、コウモリやら虫がいるだろうし、変なにおいもするかもしれない。わたしのような可憐な美少女が行くところではないのだ。
わたしは志求磨を放って先を急ぐことにした。目指すは王都。《覇王》のいる場所へ。
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