人質王女が王妃に昇格⁉ レイラのすれ違い王妃生活

みくもっち

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31 失踪

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 城の中を探し回ったり、兵や使用人たちに聞いてみるけどジェシカは見つからない。
 
 わたしが息を切らしながら城の中を駆け回っていると、先ほど別れたウィリアムが声をかけてきた。

「王妃殿下、何があったのですか? 問題が発生したならこのウィリアムにご相談ください」
「ああ……ウィリアム、実は」

 王妃直属の騎士ウィリアム。彼に真っ先に頼るべきだった。
 彼ならわたしより城の中に詳しいし、すぐに人員を動かせる。

 わたしはジェシカがいなくなったことを説明した。
 その理由までは伝えてないが、ウィリアムはそこに触れることはなく兵の一人にすぐ指示を出した。

「ご安心下さい。兵を手配して城の中をくまなく探します。城の外までは出られないでしょうから、すぐに見つかるでしょう」
「ええ、助かります……」

 安心してその場にへたりこんでしまった。
 ウィリアムが遠慮がちに手を差し伸べてくる。

「あとは我々に任せて王妃殿下は自室にてお休みください。見つかればすぐに報告しますので」

 ウィリアムの手を取って立ち上がり、改めて礼を言う。
 ウィリアムは目を逸しながら自分も探してきますと足早に去っていった。

 彼らに任せておけば大丈夫だとわたしは部屋に戻る。



 どれくらいの時間が経っただろうか。
 まだウィリアムは報告に来ない。

 わたしはいてもたってもいられず再び部屋の外へ。
 アレックス王の様子も見ておかなければならなかった。また発作でも起こしていないか心配だった。

 兵に見つからないよう、様子をうかがいながら王の部屋へ。
 ドアを少しだけ開けて中を見てみると、アレックス王はわたしの言いつけ通りに早めに就寝したようだ。落ち着いた寝息が聞こえている。
 
 安心してそこを離れ、わたしは城の中の捜索を再開した。
 すれ違う兵たちに状況を聞いてみるけれど、やはりジェシカは見つかっていない。

 あの短時間で完全に姿を消すなんて考えられない。
 もしかしたら城の外にまで飛び出していったのかも。
 不安に駆られ城門の門兵たちに話を聞くが、誰も城の外には出ていないとのことだった。

 冷静に考えればわかることなのに、わたしは完全に自分を見失っていた。
 今までどんな試練を与えられても心を乱すことはなかった。
 落ち着いて判断することが出来た。それなのに今は──。

 ジェシカの存在がどれだけ自分にとって心強かったのかがわかる。
 アレックス王のことも話すべきだった。
 
 そうすれば今ごろこんなことには。
 後悔しても遅い。だけど考えずにはいられなかった。

 結局、その夜はジェシカは見つからなかった。
 さすがにこれはアレックス王に報告しなければならない。

 わたしは一睡もしてない状態でアレックス王の部屋へ。

「なんだ、こんな時間にめずらしいな。何かあったのか」

 早朝に訪れたことでアレックス王は驚いていた。
 体調に問題はないようだった。

「実は、わたしの侍女のジェシカが城の中でいなくなって……ウィリアムや兵たちに捜索してもらいましたが、見つかっていません」
「お前の侍女……あのやかましい女か。どこにいても目立ちそうなものだがな。おい、なんてツラをしている。大丈夫か」

 一晩中城の中を歩き回ったので、さすがに疲れている。
 それ以上にジェシカがいないことがさみしく、悲しい。もし二度と会えないようなことになったら。

「しっかりしろ。捜索の範囲を城の外まで広げるよう指示を出す。城下の市民に聞き込みもしよう。念の為にブリジェンドへ使者も出す」
「しかし、それは」

 ブリジェンド……ジェシカの祖国だ。
 ジェシカは城を抜け出してブリジェンドへ戻ろうとしている?
 可能性はゼロではないけど、かなり無理がある行動だ。

 そしてジェシカが行方不明なんてことが知られれば、ブリジェンドの反感を買うのでは?
 
「かまわん。お前のそんなツラを見るよりマシだ。おい、王として命じる。あとは余に任せて休め。いいか、部屋から出るなよ」
「いえ、陛下は今から評議会が……」
「そんなものは後回しだ。いいか、余が休めと言ったら休め」
「外へ探しに行くのならわたしも。それに陛下に無理をさせるわけには」
「今日は体調が良いから心配無用だ。それよりお前だ。今にも死にそうな顔をしているぞ。絶対に休め、寝ろ」



 たしかにアレックス王なら多くの兵を動かせる。
 わたしがどうこうするよりジェシカが見つかる可能性は高い。

 おとなしくまた部屋に戻って報告を待つことにした。それにジェシカがひょっこり戻ってきそうな気もする。

 疲れているけれど眠る気にはならない。
 窓から外を見たり、時々ドアを開けて通路の様子をうかがったりしていた。

 一、二時間経った頃だろうか。
 ドアの外からウィリアムの声。

「王妃殿下、よろしいでしょうか」
「ウィリアム! ジェシカは!」

 飛びつくようにドアを開け、ウィリアムを中に入れる。
 ウィリアムはひざまずいて首を横に振る。

「いえ、まだ見つかっておりません。しかし、城の使用人の一人がこれを拾ったと」

 ウィリアムが見せてきたのは手紙。わたしはそれを受け取る。

「これは?」
「表に王妃殿下宛に名が書かれています。もしかしたらジェシカ殿からのものかと」

 わたしは急いで封を切り、手紙の内容を読んでみる。
 読みながら途中で手がブルブルと震えてきた。

「お、王妃殿下? どうされました」
「これは……ロージアンの残党からです。ジェシカを預かっていると。無事に返して欲しかったら、わたし一人で指定の場所に来いと書いてあります」

 ロージアンの残党。
 あのハリエットの仲間たちだ。

 オークニーの使節団を襲ったり、薬品に毒を混ぜるなど反ダラムの活動を行ってきた集団。

 しかしウィリアムらとの戦闘で多くの仲間が死に、ハリエットが城を去ってからはその活動も鎮静化したと思っていた。

「このタイミングでどうして……それになぜジェシカを」
「まず陛下に報せるべきです。絶対に王妃殿下一人で行ってはなりません」

 強い口調でウィリアムがそう言ってきた。
 わたしが今にも部屋を飛び出しそうに見えたのだろう。

「いえ、他の者に報せればジェシカの命は保証しないとも書いてあります。今、このことを知っているのはわたしとあなただけ。あなたさえ黙っていてくれれば」
「無理です。それは罠に決まっています。もし行けば殺されるか捕らわれて新たな人質とされるか。どちらにしろ最悪な結果を招くでしょう」

 ウィリアムのほうがよっぽど冷静だ。
 言っていることはわたしにも理解できた。でも──。

「陛下は今どちらに?」
「捜索隊を指揮して城下か郊外に。今ならすぐに報せることができます」
「ならばお任せしてもよろしいですか」
「もちろんです。その前に、残党が待ち構えている場所はどこでしょうか?」
「そう遠くない西の廃教会です。そこで待っていると」
「わかりました。急ぎましょう」

 立ち上がり、背を向けたウィリアム。
 その後頭部に向けてわたしは椅子を持ち上げて振り下ろしていた。

 椅子は砕け散り、ウィリアムは床に倒れる。
 つい力を入れすぎてしまったかと心配したけれど、うまく気絶しただけのようだ。

「ごめんなさい。でもわたし一人で行かないと」

 ウィリアムを革のベルトで拘束し、ハンカチでさるぐつわをする。
 さらに表からカギをかければ目を覚ましたとしても時間は稼げるはず。
 
 わたしはなに食わぬ顔で城門へと向かい、開門を命じる。
 戸惑っている門兵だったが、陛下に火急の用有りと告げるとすぐに開けてくれた。

 厩でも同じ手を使って馬を入手。
 ドレス姿でまたがり、あっけにとられている厩番を尻目に駆け出した。

 外門ではさすがに止められ、アレックス王に確認しないと通せないと言われたけれど一喝し、強引に突破。
 止めようとする兵士らを蹴散らし、わたしは西へ向かった。
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