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26 新たな味方

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 騎士団からまともな協力が得られないのは予想していたけれど、まさかグレイソン騎士団長があんな行為に及ぶなんて。

 アレックス王が来てくれなかったらどうなっていただろうか。思い出しただけでもゾッとする。

 そのアレックス王にわたしの危機を知らせたのは、どうやらウィリアムだったようだ。

 グレイソンの性格がよく分かっていたからこそ、急な会議と聞いて機転を利かせてくれたのだろう。
 表立ってわたしに協力できないぶん、そうやって助けてくれたのには本当に感謝する。



 ウィンダミアまでの行軍の予定や現地での船の手配、整備、漕ぎ手の確保。兵三千人分の糧食。
 それをすべてわたしが計画。

 書庫で兵法書や軍船、海戦についての書物も詰め込むように読破。
 それと同時に海賊の情報をかき集めた。

「ちょ、ちょっとレイラ。今回はいつにもまして鬼気迫る勢いっていうか、忙しすぎじゃない? そんなんじゃいつか倒れちゃうわよ」

 せわしなく動き回るわたしを見て、ジェシカが心配そうに声をかけてくる。

 もちろん自分でも分かっているが、とにかく時間がない。
 アレックス王より特に期限が決められているわけではないが、今も海賊の被害は出続けているだろうし、三千もの兵をいつまでもわたしに預けているわけがなかった。

 それにわたし自身、腹が立っていた。
 今まではどんな目に遭っても冷静でいられたが、まさかあんな城の中で欲望を剥き出しにして襲われるなんて思ってもいなかった。

 女性というものを本当に道具としか考えていない。
 自身の権力を楯に、相手の弱みにつけこむような行為。絶対に許せない。

 押し付けられた任務で、騎士団にも遠慮があったけれど……大成功させてあのグレイソンの鼻を明かそうという気になっていた。


 ✳ ✳ ✳


 兵三千を率い、ウィンダミアへ向けて移動。
 問題は早くも起きた。

 行軍速度が異常に遅い。
 わたしがどんなに急かしても、兵も騎士もヘラヘラと笑って急ごうとしない。

 もともと士気が高いはずもない。兵も騎士もあのグレイソンの配下だ。何か言われているのは明白だった。

「なにコイツら! レイラの履いている剣が見えないのかしら? 陛下から預かってる剣なのよ? いわば陛下の代行者に対してその態度っ」

 ジェシカが怒るけれども、兵たちはどこふく風。
 勝手に隊列を乱したり休憩を取ったり、やりたい放題だった。

「困りましたね。これでは現地に着くのに倍以上の日程がかかってしまいます」
「かまわないわ、レイラ。その剣でバッサリいっちゃいなさいよ! 命令不服従は死罪だ~って!」
「いえ、それはさすがに……おや、あれは」

 わたしたちの後方から砂埃。
 よく見れば二騎の騎馬が駆けてくる。その一人はわたしたちのよく知っている人物。

 ジェシカが嬉しそうな声をあげた。

「ウィリアム! あれはウィリアムよ!」

 甲冑に身を包んだウィリアムはわたしの横へ来て下馬し、素早くひざまずく。
 もう一騎の人物もそれに続いた。その常人離れした体躯には見覚えがある。
 そう、咎人の儀でわたしと決闘した──。

「あなたは……フロスト。フロストではありませんか。あなたまでどうしてここに」

 わたしが驚いていると、フロストの代わりにウィリアムが答えた。

「正式に認可が降りるのが時間がかかりました。不肖ウィリアム、本日より騎士団から王妃殿下直属の騎士となりました故、急いで駆けつけました。このフロストも護衛の兵士として志願してきたので連れてきました」
「それは……良いのですか? 本当に?」

 王妃直属の騎士。聞こえはいいが、わたしの立場から考えれば本来の出世コースからは外れてしまうだろう。
 フロストにしても同じだ。騎士の地位を剥奪されたとはいえ、これからの活躍によっては復帰できる可能性は十分にある。

 わざわざそれを遠ざけるような行動。グレイソンからも睨まれるに違いなかった。それでもわたしに力を貸してくれるのだろうか。

「もうすでに自分で決めたことなので。それより王妃殿下。この事態をまずはなんとかしましょう……フロスト」

 ウィリアムはそう言い、隣のフロストに命じた。
 フロストはやにわに立ち上がり、例の戦鎚を片手に獣のように吼えた。

「貴様らぁっ! 王妃殿下の命に逆らい、いたずらに行軍を遅らせるような真似はこのフロストが許さんぞ! 文句のある奴は前に出ろっ! この戦鎚で頭を打ち砕いてくれる」

 これには兵士だけでなく、統率する立場の騎士たちも震え上がった。
 たちまち隊列を整え、行軍のスピードを上げた。

「これはすごい……わたしの命令などまったく聞かなかった兵たちが」
「フロストの恐ろしさはダラム兵ならば誰しもが知っているので。この者が後方より睨みを利かせていれば、遅れることはないでしょう」

 ウィリアムがそう説明し、フロストは行軍の最後尾に移動した。

 それを見ながらジェシカがからかうような調子でウィリアムに話しかける。

「まさかあの大男までレイラの味方になるなんてね。まあ、優秀で麗しき王女様に恋するのは騎士の宿命みたいなものかもね。誰かさんみたいに」

「なっ……俺は、わたしは……自らの騎士の信条に従ったまで。そこにやましい気持ちなどない」

 赤くなりながらウィリアムは逃げるように先頭の方へ向かっていった。
 
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