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18 冤罪
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自室に閉じ込められたまま翌朝を迎えた。
ジェシカも近づけないような処置を受けているようだ。
油断していた。
計画書を盗み出すくらいだから、こちらの持ち物に細工するなんて造作もないだろう。
アレックス王に渡す当日にちゃんと確認しておけば良かったのだ。
「王妃殿下、ご無事ですか⁉」
ドアの向こうから少女の声。召使いのハリエットだ。
「城の中はもう大騒ぎで。わたし心配になって……」
ハリエットとわたしが仲良くしていたのはジェシカぐらいしか知らない。
ノーマークだからここまで近づけたのだろう。でもこんなところを誰かに見られるわけにはいかない。
「ありがとう。でもあなたもここにいては罰せられるかもしれません。今すぐここから離れて」
「でも、わたしに何かできることないかって」
「大丈夫です。わたしよりジェシカの側についてあげてください。彼女は監禁されているわけではないのでしょう?」
「は、はい。侍女から召使いに降格されて。今は城外の仕事に就いてます」
「良かった。それなら彼女に伝えておいてください。わたしのことは心配しなくていいと。それから、もうこれ以上わたしに関わらないほうがいいと」
「で、でも」
「いいですか。頼みましたよ」
「わ、わかりました。あ、誰か来ました。もう行きます」
「気をつけて」
走り去っていくハリエットと入れ替わるように複数の足音。
ガチャガチャと鍵が開けられ、兵士たちが入ってくる。
「王妃殿下、陛下がお呼びです。ご同行願えますか」
「…………」
乱暴に連れ出したりはしない。まだ王妃としての立場はあるようだった。
だがそれもこちらが拒否すればどうなるかわからない。
わたしは無言でそれに従う。
兵士に囲まれながら行く先は謁見の間。
昨日と同じくアレックス王と並んで座ることは許されない。
階下でひざまずき、すぐ後ろには兵士が控えている。
「ここに呼ばれた理由はわかっているだろうな」
アレックス王が不快な表情を隠さずにそう言った。
わたしは弁明をしようと口を開くが、背後の兵士がすぐにそれを注意してきた。
「王妃殿下。この場であなたの発言は許されていません。許可を得ず発言されますと処罰の対象となります」
言いながら剣の柄に手をかける。
これは弁明どころではない。すでに何かが決定している。
アレックス王が続けてこう言った。
「昨日の鞄に入っていた薬剤。あれはすべて調べた。ブラウン医師のリストに載っていないものがひとつ混じっていたな」
「…………」
「貴様が持っていた瓶の薬剤だ。しかも薬などではない。猛毒の粉末が入っていたと判明した」
謁見の間にどよめきが起こる。
毒……。やはりアレックス王に危害を加えようと考えていた者の仕業か。
だけどその疑いはわたしにかけられている。
この場で否定しようにも出来ない。
「あの医術書や薬剤は余自らが研究し、ダラムに役立てようとしていたものだ。それに毒物を混ぜるなどと。明らかな反逆ではないか」
「…………」
「そうなのか、そうでないのか返答することは許そう。あれは貴様が計画したものか」
「違います」
臆せずはっきりとそう言った。
アレックス王は口の端を歪めて笑いながらさらに聞く。
「では誰か別の者の仕業だというのか」
「はい」
「それをこの場で証明できる方法は」
「ありません。今のところ」
「ほう、時間があれば可能か」
「はい」
「ならば」
アレックス王は玉座からわたしを指さす。
「3日だ。3日の猶予をやる。それまでに自分が無実だと証明してみせろ。それ以上は待たん」
「わかりました」
「それまでは城内を自由に移動することは許可してやる。無論、監視はつけるが」
「はい」
とりあえずあの場で刑が確定されることは避けられた。
真犯人が別にいるとすれば暗殺の脅威は消えないから? アレックス王の気まぐれにしろ、助かったのには変わりない。
監視されながらもわたしは自室のほうへ。戻るその途中だった。
「レイラッ!」
急に呼び止められ、わたしはハッとする。
振り返るとジェシカの姿が。
泥だらけの顔にメイド服。外で力仕事でもさせられていたのだろうか。
ジェシカは駆け寄ってきてわたしに飛びつく。
泣きじゃくりながらわたしを揺さぶった。
「心配……心配したんだからっ……! 急に閉じ込められてわたしも侍女じゃなくなって! さっき呼び出されたって聞いて、どうなっちゃうのかって」
「ごめんなさい、ジェシカ。ああ、みんな見ていますよ。落ち着いて」
「関係ないっ! いっつもあんただけ冷静でなんでもひとりで決めて! あんたがいなくなったら、わたし……」
「大丈夫ですよ。とにかくわたしの部屋まで戻りましょう。陛下から時間は与えられています」
なんとかなだめながら自室の中へ。
中までは監視の兵も入ってこない。
ジェシカがなんとか落ち着いたところで薬剤のことと謁見の間で起きたことを説明。
せっかく落ち着いたジェシカだったが、話の内容を聞くとまた泣きそうな顔になる。
「そんな疑いかけられてたなんて。それでたった3日のうちに真犯人見つけるって……そんなの無理に決まってるじゃん!」
「いえ、そのことなんですが」
わたしは声をひそめながらジェシカに話す。
「実はもう犯人はわかっているのです」
「えっ、それってどういう……」
「静かに。でもそれを公表することもジェシカに話すこともできないのです」
「ど、どうして? このままじゃレイラが処刑されちゃうかもしれないのに!」
「わかっていますが、どうしようもないのです。ただ3日の猶予をもらったのは幸いでした。このうちにジェシカだけは逃げる用意を」
「だめ、そんなの絶対! 逃げるならレイラも一緒に」
「わたしには厳しい監視がついているので無理です。でもジェシカひとりなら。この部屋にあるお金になりそうな物をまとめましょう」
「そんなのイヤ! レイラひとりを置いていけるわけないじゃない! バカなこと言わないでっ!」
ジェシカは頑としてわたしの提案を受け入れない。
「レイラが残るんならわたしも残る。絶対に」
「困りましたね」
「犯人がわかってるなら、突き出しちゃえばいいじゃない。なんでそんなに隠す必要があるの」
「ごめんなさい。それも言えなくて」
「ああっ、もう! だったらどうすればいいのよ」
「3日の猶予を与えたのも、犯人探しをしろと言ったのもアレックス王自身に迷いがあると思うのです」
「? レイラが犯人だって確証がないから?」
「それもありますが、アレックス王の目的はわたしが心から屈服して助けを乞うこと。まだその機会を狙っているのだと思います」
「本気で処刑しようとは思ってないってこと?」
「廷臣たちの手前、厳罰を与えようとはするでしょう。ただその迷いにわたしが生き残る道がありそうです」
「どっちにしろ賭けみたいなものじゃない。そんなのに自分の命運を任せるなんて」
「ええ。だからジェシカだけはもうわたしに関わらないほうがいいと」
「またそんなこと言う。友達を放っておけるわけないじゃん。アンタが最後まで戦うってなら、わたしだって」
腕まくりしながらジェシカが言う。
この城に来たばかりの頃は怯えていたのに、ずいぶんと逞しくなったように思える。
ジェシカの気持ちは嬉しいけれど、あまり親しくしすぎるとジェシカにまで危害が及ぶ可能性がある。
だからこそ3日の間に彼女だけでも逃げる準備をしてほしかった。
こちらの説得を聞きそうにないので、改めて3日後に切り抜けられる方法を考えないといけない。
ジェシカも近づけないような処置を受けているようだ。
油断していた。
計画書を盗み出すくらいだから、こちらの持ち物に細工するなんて造作もないだろう。
アレックス王に渡す当日にちゃんと確認しておけば良かったのだ。
「王妃殿下、ご無事ですか⁉」
ドアの向こうから少女の声。召使いのハリエットだ。
「城の中はもう大騒ぎで。わたし心配になって……」
ハリエットとわたしが仲良くしていたのはジェシカぐらいしか知らない。
ノーマークだからここまで近づけたのだろう。でもこんなところを誰かに見られるわけにはいかない。
「ありがとう。でもあなたもここにいては罰せられるかもしれません。今すぐここから離れて」
「でも、わたしに何かできることないかって」
「大丈夫です。わたしよりジェシカの側についてあげてください。彼女は監禁されているわけではないのでしょう?」
「は、はい。侍女から召使いに降格されて。今は城外の仕事に就いてます」
「良かった。それなら彼女に伝えておいてください。わたしのことは心配しなくていいと。それから、もうこれ以上わたしに関わらないほうがいいと」
「で、でも」
「いいですか。頼みましたよ」
「わ、わかりました。あ、誰か来ました。もう行きます」
「気をつけて」
走り去っていくハリエットと入れ替わるように複数の足音。
ガチャガチャと鍵が開けられ、兵士たちが入ってくる。
「王妃殿下、陛下がお呼びです。ご同行願えますか」
「…………」
乱暴に連れ出したりはしない。まだ王妃としての立場はあるようだった。
だがそれもこちらが拒否すればどうなるかわからない。
わたしは無言でそれに従う。
兵士に囲まれながら行く先は謁見の間。
昨日と同じくアレックス王と並んで座ることは許されない。
階下でひざまずき、すぐ後ろには兵士が控えている。
「ここに呼ばれた理由はわかっているだろうな」
アレックス王が不快な表情を隠さずにそう言った。
わたしは弁明をしようと口を開くが、背後の兵士がすぐにそれを注意してきた。
「王妃殿下。この場であなたの発言は許されていません。許可を得ず発言されますと処罰の対象となります」
言いながら剣の柄に手をかける。
これは弁明どころではない。すでに何かが決定している。
アレックス王が続けてこう言った。
「昨日の鞄に入っていた薬剤。あれはすべて調べた。ブラウン医師のリストに載っていないものがひとつ混じっていたな」
「…………」
「貴様が持っていた瓶の薬剤だ。しかも薬などではない。猛毒の粉末が入っていたと判明した」
謁見の間にどよめきが起こる。
毒……。やはりアレックス王に危害を加えようと考えていた者の仕業か。
だけどその疑いはわたしにかけられている。
この場で否定しようにも出来ない。
「あの医術書や薬剤は余自らが研究し、ダラムに役立てようとしていたものだ。それに毒物を混ぜるなどと。明らかな反逆ではないか」
「…………」
「そうなのか、そうでないのか返答することは許そう。あれは貴様が計画したものか」
「違います」
臆せずはっきりとそう言った。
アレックス王は口の端を歪めて笑いながらさらに聞く。
「では誰か別の者の仕業だというのか」
「はい」
「それをこの場で証明できる方法は」
「ありません。今のところ」
「ほう、時間があれば可能か」
「はい」
「ならば」
アレックス王は玉座からわたしを指さす。
「3日だ。3日の猶予をやる。それまでに自分が無実だと証明してみせろ。それ以上は待たん」
「わかりました」
「それまでは城内を自由に移動することは許可してやる。無論、監視はつけるが」
「はい」
とりあえずあの場で刑が確定されることは避けられた。
真犯人が別にいるとすれば暗殺の脅威は消えないから? アレックス王の気まぐれにしろ、助かったのには変わりない。
監視されながらもわたしは自室のほうへ。戻るその途中だった。
「レイラッ!」
急に呼び止められ、わたしはハッとする。
振り返るとジェシカの姿が。
泥だらけの顔にメイド服。外で力仕事でもさせられていたのだろうか。
ジェシカは駆け寄ってきてわたしに飛びつく。
泣きじゃくりながらわたしを揺さぶった。
「心配……心配したんだからっ……! 急に閉じ込められてわたしも侍女じゃなくなって! さっき呼び出されたって聞いて、どうなっちゃうのかって」
「ごめんなさい、ジェシカ。ああ、みんな見ていますよ。落ち着いて」
「関係ないっ! いっつもあんただけ冷静でなんでもひとりで決めて! あんたがいなくなったら、わたし……」
「大丈夫ですよ。とにかくわたしの部屋まで戻りましょう。陛下から時間は与えられています」
なんとかなだめながら自室の中へ。
中までは監視の兵も入ってこない。
ジェシカがなんとか落ち着いたところで薬剤のことと謁見の間で起きたことを説明。
せっかく落ち着いたジェシカだったが、話の内容を聞くとまた泣きそうな顔になる。
「そんな疑いかけられてたなんて。それでたった3日のうちに真犯人見つけるって……そんなの無理に決まってるじゃん!」
「いえ、そのことなんですが」
わたしは声をひそめながらジェシカに話す。
「実はもう犯人はわかっているのです」
「えっ、それってどういう……」
「静かに。でもそれを公表することもジェシカに話すこともできないのです」
「ど、どうして? このままじゃレイラが処刑されちゃうかもしれないのに!」
「わかっていますが、どうしようもないのです。ただ3日の猶予をもらったのは幸いでした。このうちにジェシカだけは逃げる用意を」
「だめ、そんなの絶対! 逃げるならレイラも一緒に」
「わたしには厳しい監視がついているので無理です。でもジェシカひとりなら。この部屋にあるお金になりそうな物をまとめましょう」
「そんなのイヤ! レイラひとりを置いていけるわけないじゃない! バカなこと言わないでっ!」
ジェシカは頑としてわたしの提案を受け入れない。
「レイラが残るんならわたしも残る。絶対に」
「困りましたね」
「犯人がわかってるなら、突き出しちゃえばいいじゃない。なんでそんなに隠す必要があるの」
「ごめんなさい。それも言えなくて」
「ああっ、もう! だったらどうすればいいのよ」
「3日の猶予を与えたのも、犯人探しをしろと言ったのもアレックス王自身に迷いがあると思うのです」
「? レイラが犯人だって確証がないから?」
「それもありますが、アレックス王の目的はわたしが心から屈服して助けを乞うこと。まだその機会を狙っているのだと思います」
「本気で処刑しようとは思ってないってこと?」
「廷臣たちの手前、厳罰を与えようとはするでしょう。ただその迷いにわたしが生き残る道がありそうです」
「どっちにしろ賭けみたいなものじゃない。そんなのに自分の命運を任せるなんて」
「ええ。だからジェシカだけはもうわたしに関わらないほうがいいと」
「またそんなこと言う。友達を放っておけるわけないじゃん。アンタが最後まで戦うってなら、わたしだって」
腕まくりしながらジェシカが言う。
この城に来たばかりの頃は怯えていたのに、ずいぶんと逞しくなったように思える。
ジェシカの気持ちは嬉しいけれど、あまり親しくしすぎるとジェシカにまで危害が及ぶ可能性がある。
だからこそ3日の間に彼女だけでも逃げる準備をしてほしかった。
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