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72 虐殺
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数ヶ所の出口に重臣たちが殺到する。
だが、そこには面で顔を隠した者たちが行く手を遮る。
狐やおかめ、般若、祭りの出店で売ってるような魔法少女の面……重臣たちは怯えて動けなくなった。
この面をつけた者たちは、俺が昨日《召喚者》のスキルで喚び出した者だ。
俺には《召喚者》の適正があったようだ。元の世界から人間を任意の場所に願望者として喚び出すことが出来た。
そしてあの面は俺の念を込めた物。
スキル洗脳で意のままに動く親衛隊を作り上げたのだ。
俺はこいつらを【餓狼衆】と名付けた。
騒ぎの中、飛び出してくる影がひとつ。
《斉天大聖》楊永順だ。
「溢忌さんっ、どうして! どうして伊能さんをっ!」
泣きそうな顔で棒を構える。
俺はゆっくりと近づく。手には中国の京劇で使うような猿の面。
「そういや《斉天大聖》って、西遊記の孫悟空のことっスよね。だったらこいつがお似合いっスよ」
「な、なにを……」
楊は攻撃してこない。別にスキルは使ってないのだが、恐怖なのか、躊躇しているのか。
楊の顔に猿面を着ける。楊は棒をカランと落とし、その場に膝をついてガクンとうなだれた。
「アンタはどうするんスか、ミリアムさん」
《神算司書》ミリアムは跪き、震える声で答えた。
「わたくしは──溢忌様に従います。すぐに兵を召集し、戦の準備を進めます」
「さすが賢明っスね。それと、アンタは全ての願望者の情報が分かるんスよね。その能力で解呪に優れた願望者と、深淵に行く方法を調べてほしいっス」
「……はっ。わたくしの願望者全書にお任せ下さい。必ずや溢忌様のご期待に応えてみせます」
「頼むっスよ。ここにいる連中がヘンな気を起こさないように……まとめ役っスね。戦争の準備が整ったら、また報せてほしいっス」
俺はそう言ってミリアムの肩に手を置いた。
ミリアムは歯をガチガチ震わせる程に怯えていた。
戦争の準備はミリアムによって急ピッチで進められ、一週間後には3万の軍勢が編成された。
戦争の事はよく分からないが、この世界ではかなり大規模な数のようだ。
まずは隣接するいくつかの小国に攻め込んだ。
普段から警戒されている軍事国家ブクリエの侵略行為。
各国の対応も早かったようだが、ブクリエ軍の数と精強さの敵ではなかったようだ。
一方的な虐殺。敵兵の捕虜など必要ない。
抵抗しようが、降伏しようがおかまいなしに殺戮を命じた。
そして占領した街や村では女、子供、老人……関係ない。すべて殺した。焼き殺し、首を晒し、生き埋めにした。
一般兵では太刀打ち出来ない願望者は餓狼衆や俺が相手をした。
こちらははじめ生け捕りにする。イルネージュを元に戻せそうな能力者と、深淵に行けそうな能力者。それを見つける為だが……なかなかそうはいない。
用済みの願望者はやはり殺すが、腕の立つ者や少しでも解呪に役立ちそうな奴であれば洗脳して餓狼衆に加えた。
俺の思惑通り、瞬く間に俺の悪名はシエラ=イデアル中に広まった。
全世界に恐怖と絶望を撒き散らした。人々からあの魔王の事すら忘れさせるほどに。
ほどなくして俺は新たな二つ名──《勇者の成れの果て》を手に入れた。
一ヶ月が過ぎた頃、快進撃を続けていたブクリエ軍の進軍はピタリと止まる。
各国が手を結び、ブクリエの軍に頑強に抵抗しだしたのが原因だが、特に北東の雄、黄武迅の率いる軍が少数にも関わらず、こちらを押し返すほどの活躍を見せているという。
それですら俺が前線に出ればすぐに解決する話だが……俺はもうこの戦争自体、どうでもよくなっていた。
新たな二つ名も得て、認識によるパワーアップはもう十分だ。目的は果たした。何千、何万人死んだか知らないが……。
魔王の……イルネージュの動向は随時調べさせてある。
世界のあちこちに出現して、たまに街や村を凍らせているようだが、ブクリエ軍や俺の殺した数に比べれば微々たるものだ。
現在いる場所も捕捉してある。戦争中に解呪が得意だという願望者も100人近く揃えられた。
ついに──準備は出来た。
国の事はミリアム。戦争の事は餓狼衆に任せ、俺は再びイルネージュに挑む。
第二次魔王討伐戦。今度は俺と、その解呪の能力者達だけで戦う。
だが、そこには面で顔を隠した者たちが行く手を遮る。
狐やおかめ、般若、祭りの出店で売ってるような魔法少女の面……重臣たちは怯えて動けなくなった。
この面をつけた者たちは、俺が昨日《召喚者》のスキルで喚び出した者だ。
俺には《召喚者》の適正があったようだ。元の世界から人間を任意の場所に願望者として喚び出すことが出来た。
そしてあの面は俺の念を込めた物。
スキル洗脳で意のままに動く親衛隊を作り上げたのだ。
俺はこいつらを【餓狼衆】と名付けた。
騒ぎの中、飛び出してくる影がひとつ。
《斉天大聖》楊永順だ。
「溢忌さんっ、どうして! どうして伊能さんをっ!」
泣きそうな顔で棒を構える。
俺はゆっくりと近づく。手には中国の京劇で使うような猿の面。
「そういや《斉天大聖》って、西遊記の孫悟空のことっスよね。だったらこいつがお似合いっスよ」
「な、なにを……」
楊は攻撃してこない。別にスキルは使ってないのだが、恐怖なのか、躊躇しているのか。
楊の顔に猿面を着ける。楊は棒をカランと落とし、その場に膝をついてガクンとうなだれた。
「アンタはどうするんスか、ミリアムさん」
《神算司書》ミリアムは跪き、震える声で答えた。
「わたくしは──溢忌様に従います。すぐに兵を召集し、戦の準備を進めます」
「さすが賢明っスね。それと、アンタは全ての願望者の情報が分かるんスよね。その能力で解呪に優れた願望者と、深淵に行く方法を調べてほしいっス」
「……はっ。わたくしの願望者全書にお任せ下さい。必ずや溢忌様のご期待に応えてみせます」
「頼むっスよ。ここにいる連中がヘンな気を起こさないように……まとめ役っスね。戦争の準備が整ったら、また報せてほしいっス」
俺はそう言ってミリアムの肩に手を置いた。
ミリアムは歯をガチガチ震わせる程に怯えていた。
戦争の準備はミリアムによって急ピッチで進められ、一週間後には3万の軍勢が編成された。
戦争の事はよく分からないが、この世界ではかなり大規模な数のようだ。
まずは隣接するいくつかの小国に攻め込んだ。
普段から警戒されている軍事国家ブクリエの侵略行為。
各国の対応も早かったようだが、ブクリエ軍の数と精強さの敵ではなかったようだ。
一方的な虐殺。敵兵の捕虜など必要ない。
抵抗しようが、降伏しようがおかまいなしに殺戮を命じた。
そして占領した街や村では女、子供、老人……関係ない。すべて殺した。焼き殺し、首を晒し、生き埋めにした。
一般兵では太刀打ち出来ない願望者は餓狼衆や俺が相手をした。
こちらははじめ生け捕りにする。イルネージュを元に戻せそうな能力者と、深淵に行けそうな能力者。それを見つける為だが……なかなかそうはいない。
用済みの願望者はやはり殺すが、腕の立つ者や少しでも解呪に役立ちそうな奴であれば洗脳して餓狼衆に加えた。
俺の思惑通り、瞬く間に俺の悪名はシエラ=イデアル中に広まった。
全世界に恐怖と絶望を撒き散らした。人々からあの魔王の事すら忘れさせるほどに。
ほどなくして俺は新たな二つ名──《勇者の成れの果て》を手に入れた。
一ヶ月が過ぎた頃、快進撃を続けていたブクリエ軍の進軍はピタリと止まる。
各国が手を結び、ブクリエの軍に頑強に抵抗しだしたのが原因だが、特に北東の雄、黄武迅の率いる軍が少数にも関わらず、こちらを押し返すほどの活躍を見せているという。
それですら俺が前線に出ればすぐに解決する話だが……俺はもうこの戦争自体、どうでもよくなっていた。
新たな二つ名も得て、認識によるパワーアップはもう十分だ。目的は果たした。何千、何万人死んだか知らないが……。
魔王の……イルネージュの動向は随時調べさせてある。
世界のあちこちに出現して、たまに街や村を凍らせているようだが、ブクリエ軍や俺の殺した数に比べれば微々たるものだ。
現在いる場所も捕捉してある。戦争中に解呪が得意だという願望者も100人近く揃えられた。
ついに──準備は出来た。
国の事はミリアム。戦争の事は餓狼衆に任せ、俺は再びイルネージュに挑む。
第二次魔王討伐戦。今度は俺と、その解呪の能力者達だけで戦う。
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