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68 勇者無双
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何も無い真っ白な空間に放り出された。
魔王はドガアッッ、と轟音を響かせて着地。先ほど与えたダメージはすでに再生しているようだ。
俺は飛翔を発動したまま、魔王を見下ろす。
「このままこの場所に置き去りにすれば、解決ってわけにはいかないんスか」
「魔王の力をナメんなっ、こんな異空間なんて簡単に抜け出せるんだ。だからここで完全に仕留めなきゃいけない」
「わかったっスよ。このまま空中から攻撃するっス。魔王は対空性能は無いみたいっスから」
そう言ってるそばから、魔王の黒い背中からボコボコボコッ、と不気味な突起がいくつも出現。
そこからボボボボッ、と回転する光弾が発射された。
「ありゃ、やっぱそう簡単にはいかないみたいっスね」
「ありゃ、じゃねーーよっ! シエラがいるんだからさっ、絶対に攻撃を受けるんじゃねーぞっ!」
背にいるシエラがポカポカと頭を叩く。
わかったっスよ、と飛びながら光弾をかわす。光弾のスピードはさほどでもない。
だが、避けた方向に光弾が次々と集まる。どうやら追尾するタイプの攻撃らしい。
「問題ないっス。こいつで相殺っスよ」
両手の指から炎弾を発射。ドガガガッ、と光弾に当たると眩い光を放ち──大爆発。
「うおっ」
その爆風で吹き飛ばされる。
多少驚いたが問題はない。体勢を立て直し、低空を飛ぶ。
魔王が突っ込んできた。八本の脚でドドドド、と近づく様はさすがに迫力がある。
俺は上空には逃げずにそのまま着地。シエラを背から降ろす。
「ど、どうするつもりだ、溢忌」
「面倒なんで一気にカタをつけるっス。大丈夫、シエラは守り切るっスよ」
スキル、分身を使う。願望の力をかなり集中──36体もの俺の分身が出現した。
3体の分身はシエラを守りつつ、後方へ。
10体の分身が素手で魔王の前進を止めた。
止めながら、様々なステータス低下、ステータス異常を魔王へ付与。減速、防御力低下、攻撃力低下、毒、麻痺、石化、即死、どれが効いてどれが効かないなど関係ない。とにかくあるだけ、連続でぶち込む。
12体の分身が跳躍。魔王の巨大な背を狙い、遠距離攻撃──炎弾、雷光の矢、氷飛槍、疾風刃、思いつく限りの属性攻撃。こちらも雨あられと撃ち込む。
魔王の脚や腹部、頭部に攻撃するのは本体の俺と残り11体の分身。
剣を抜いた数体が次々と脚を斬り飛ばしていく。
素手の数体は腹の下へ潜り込み、上へ向けて怒涛の拳打。上からの魔法攻撃とのサンドイッチで魔王の巨体がみるみる崩れていく。
「魔王っていっても図体がデカイだけっスね。ちょっと拍子抜けっスよ」
残すは頭部。八つの目玉からビカアッ、と光線が放たれた。
すぐに分身数体が盾になり、消滅。
「最期の悪あがきっスか。当たってもどうってことないんスけど」
バチンッ、と鍔鳴りの音。
スキル、紫電一閃──。
魔王の頭部は真っ二つになり、地面へボトリと落ちた。
魔王の残骸はゾゾゾ、と一ヶ所に集まりつつある。だが、先ほどよりずっとスピードは遅い。
「シエラッ、いまっスよ!」
「わかってるよっ! うううぅぅ~っっ!」
シエラの全身から光が放たれ、真っ白な上空へ。
そこで光はグルグルと渦を巻き、カッ、と魔王の四方へと落ちる。
地面に魔法陣のような紋様が浮かび上がった。
魔王がギシャアアアァァ、と断末魔の叫び。
ボロボロの巨体は再生する事なく、その魔法陣の中で沈んでいく。
大地に還るのか……この世界も魔王も魔物も、元はシエラが生み出した物だと聞いた。
願望の叶う世界……何度かその魔王によって危機に陥り、その度に《女神》シエラは勇者とともに世界を救ったという。
これがこの世界の存続する試練みたいなものなのだろうか。
あの長い赤髪の少女《女神》シエラ・イデアルを見て、なんとなくそう思った。
「シエラ、終わったっスよ」
魔王は完全に消滅し、俺は肩で息をしているシエラに話しかける。
「はあっ、はあっ、つ、疲れた。これでやっと世界の危機は回避できた。魔王は倒したから、あと何十年かは世界は無事だ。溢忌、よくやった。お前は歴代の勇者の中でもまさに最強といってもいい強さだった」
「あとは帰るだけっスね。みんなも待ってるっスよ」
「ちょっと待って……しばらく休憩してから。溢忌、そこ座れ」
俺は分身のスキルを解除してその場にあぐらをかく。
シエラは息を整えてから、俺の正面にちょこんと正座した。なんだろうか、赤くなっていつもと様子が違う。
「魔王も倒しちゃったし、溢忌はもうシエラから自由になるわけなんだけど……」
「まあ、そういうことになるっスね」
「シエラも、もうすぐまた休眠期に入っちゃうんだ。次の世界の危機に備えて力を蓄えるんだ」
「そうなんスね。短い間だったっスけど、楽しかったっスよ」
ここでシエラはうつむいてブルブル震えている。え……もしかして泣いてるのか?
「シエラ……またこの何にもない所でひとりぼっちなんだ……だから、それまで……シエラが完全に眠ってしまうまで、一緒にいてほしいんだ」
両手をぎゅうっ、と握りしめて声を絞り出している。俺はその頭を撫で、抱きしめる。
「なんだ、そんな事っスか。もちろんいいっスよ。次に目を覚ますまで待ってるっスから」
「バカ……お前、バカ……何十年も待ってるヤツなんているか。でも……シエラうれしい」
魔王はドガアッッ、と轟音を響かせて着地。先ほど与えたダメージはすでに再生しているようだ。
俺は飛翔を発動したまま、魔王を見下ろす。
「このままこの場所に置き去りにすれば、解決ってわけにはいかないんスか」
「魔王の力をナメんなっ、こんな異空間なんて簡単に抜け出せるんだ。だからここで完全に仕留めなきゃいけない」
「わかったっスよ。このまま空中から攻撃するっス。魔王は対空性能は無いみたいっスから」
そう言ってるそばから、魔王の黒い背中からボコボコボコッ、と不気味な突起がいくつも出現。
そこからボボボボッ、と回転する光弾が発射された。
「ありゃ、やっぱそう簡単にはいかないみたいっスね」
「ありゃ、じゃねーーよっ! シエラがいるんだからさっ、絶対に攻撃を受けるんじゃねーぞっ!」
背にいるシエラがポカポカと頭を叩く。
わかったっスよ、と飛びながら光弾をかわす。光弾のスピードはさほどでもない。
だが、避けた方向に光弾が次々と集まる。どうやら追尾するタイプの攻撃らしい。
「問題ないっス。こいつで相殺っスよ」
両手の指から炎弾を発射。ドガガガッ、と光弾に当たると眩い光を放ち──大爆発。
「うおっ」
その爆風で吹き飛ばされる。
多少驚いたが問題はない。体勢を立て直し、低空を飛ぶ。
魔王が突っ込んできた。八本の脚でドドドド、と近づく様はさすがに迫力がある。
俺は上空には逃げずにそのまま着地。シエラを背から降ろす。
「ど、どうするつもりだ、溢忌」
「面倒なんで一気にカタをつけるっス。大丈夫、シエラは守り切るっスよ」
スキル、分身を使う。願望の力をかなり集中──36体もの俺の分身が出現した。
3体の分身はシエラを守りつつ、後方へ。
10体の分身が素手で魔王の前進を止めた。
止めながら、様々なステータス低下、ステータス異常を魔王へ付与。減速、防御力低下、攻撃力低下、毒、麻痺、石化、即死、どれが効いてどれが効かないなど関係ない。とにかくあるだけ、連続でぶち込む。
12体の分身が跳躍。魔王の巨大な背を狙い、遠距離攻撃──炎弾、雷光の矢、氷飛槍、疾風刃、思いつく限りの属性攻撃。こちらも雨あられと撃ち込む。
魔王の脚や腹部、頭部に攻撃するのは本体の俺と残り11体の分身。
剣を抜いた数体が次々と脚を斬り飛ばしていく。
素手の数体は腹の下へ潜り込み、上へ向けて怒涛の拳打。上からの魔法攻撃とのサンドイッチで魔王の巨体がみるみる崩れていく。
「魔王っていっても図体がデカイだけっスね。ちょっと拍子抜けっスよ」
残すは頭部。八つの目玉からビカアッ、と光線が放たれた。
すぐに分身数体が盾になり、消滅。
「最期の悪あがきっスか。当たってもどうってことないんスけど」
バチンッ、と鍔鳴りの音。
スキル、紫電一閃──。
魔王の頭部は真っ二つになり、地面へボトリと落ちた。
魔王の残骸はゾゾゾ、と一ヶ所に集まりつつある。だが、先ほどよりずっとスピードは遅い。
「シエラッ、いまっスよ!」
「わかってるよっ! うううぅぅ~っっ!」
シエラの全身から光が放たれ、真っ白な上空へ。
そこで光はグルグルと渦を巻き、カッ、と魔王の四方へと落ちる。
地面に魔法陣のような紋様が浮かび上がった。
魔王がギシャアアアァァ、と断末魔の叫び。
ボロボロの巨体は再生する事なく、その魔法陣の中で沈んでいく。
大地に還るのか……この世界も魔王も魔物も、元はシエラが生み出した物だと聞いた。
願望の叶う世界……何度かその魔王によって危機に陥り、その度に《女神》シエラは勇者とともに世界を救ったという。
これがこの世界の存続する試練みたいなものなのだろうか。
あの長い赤髪の少女《女神》シエラ・イデアルを見て、なんとなくそう思った。
「シエラ、終わったっスよ」
魔王は完全に消滅し、俺は肩で息をしているシエラに話しかける。
「はあっ、はあっ、つ、疲れた。これでやっと世界の危機は回避できた。魔王は倒したから、あと何十年かは世界は無事だ。溢忌、よくやった。お前は歴代の勇者の中でもまさに最強といってもいい強さだった」
「あとは帰るだけっスね。みんなも待ってるっスよ」
「ちょっと待って……しばらく休憩してから。溢忌、そこ座れ」
俺は分身のスキルを解除してその場にあぐらをかく。
シエラは息を整えてから、俺の正面にちょこんと正座した。なんだろうか、赤くなっていつもと様子が違う。
「魔王も倒しちゃったし、溢忌はもうシエラから自由になるわけなんだけど……」
「まあ、そういうことになるっスね」
「シエラも、もうすぐまた休眠期に入っちゃうんだ。次の世界の危機に備えて力を蓄えるんだ」
「そうなんスね。短い間だったっスけど、楽しかったっスよ」
ここでシエラはうつむいてブルブル震えている。え……もしかして泣いてるのか?
「シエラ……またこの何にもない所でひとりぼっちなんだ……だから、それまで……シエラが完全に眠ってしまうまで、一緒にいてほしいんだ」
両手をぎゅうっ、と握りしめて声を絞り出している。俺はその頭を撫で、抱きしめる。
「なんだ、そんな事っスか。もちろんいいっスよ。次に目を覚ますまで待ってるっスから」
「バカ……お前、バカ……何十年も待ってるヤツなんているか。でも……シエラうれしい」
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