異世界の餓狼系男子

みくもっち

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67 魔王討伐戦

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 全身を現した魔王。
 禍々まがまがしく、おぞましいその巨体にまだ大きな動きはない。
 八つの目玉がギロッ、ギロッ、とこちらを観察するように光っている。

「動かないっスね。なんか警戒してんスかね」

「気を付けろよ……魔王の力はハンパないし、何するか分かんないから。しっかし、あんなデカイのは今までで一番かも」

 シエラが俺の袖をつかむ。その手は震えていた。

 突然、魔王の巨体がガタガタッ、と揺れ出した。
 同じように大地も振動。
 魔王の腹の下からバラバラと黒い塊が落ちてくる。かなりの数だ。それは地面に触れると、バババ、と広がりながらこちらへ向かってくる。

 あれは──小さな蜘蛛だ。小さいといっても軽自動車ぐらいはある。
 真っ黒い津波のような小蜘蛛の大軍。
 あんなものに飲み込まれたら村や街どころではない。国自体、あっという間に滅ぼされる。
 
 ドゴオオォッッ、と炎をまとったドクロが横切り、正面の小蜘蛛の大軍に激突。数十匹を吹っ飛ばした。

「仕方ねーな。ザコは俺らが片付けてやるよ。だけど勘違いすんなよ。先生に言われて手伝うだけだからな」

「そう。勝手にギルドを抜けたアンタらを許したわけじゃないんだから。勘違いしないでよ」

 俺の左右を通り抜けていくのは──ブルーデモンズ所属の双子の願望者デザイア《バーニングサン》ヒューゴと《ファントムムーン》ネヴィア。
 俺がスキルゲートから喚び出した仲間たちだ──。

 さらにふたつの人影。左から迫る小蜘蛛の大軍に斬り込んでいく。《鬼姫》千景と《人斬り》伊能九十朗だ。
 
「次から次へといくさに事欠かぬ奴よの。ある意味うらやましいわ」

「あ~、やっぱり戦わねぇとダメかよ。面倒な事になっちまったな」

 雷撃と斬撃で小蜘蛛どもを焼き、切り刻む。

 左からの小蜘蛛の大軍。こちらには対応が遅れた。
 ぐわっ、と飛びかかる小蜘蛛ども。シエラをかばいながら俺は身構え──。

 バチイッ、と光る壁と大きな盾が現れ、小蜘蛛どもを弾き飛ばす。
《神算司書》ミリアム・エーベンハルトと《聖騎士》マックス・ロックウッド。

「溢忌様、露払いは我らにお任せを。どうか魔王を討ち滅ぼし、この世界を救って下さい」

「仇敵ではあるが、世界を救うのならば話は別だ。《聖騎士》としての務めを果たそう」

 さらに押し寄せる小蜘蛛の大軍。
 シトライゼ、楊永順ヤンヨンシュン、そしてイルネージュも攻撃に加わり、小蜘蛛どもを蹴散らしていく。

「すごい数ね、キリがないわ。待ってて、いま道を開くから」

 カーラが指揮棒タクトを振ると、ギイィラララッッ、と凶悪な光を放つエネルギー体が出現。
 さらに指揮棒タクトを振る。そのエネルギー体は凄まじい熱線と化して一直線に魔王のもとへ。
 その直線上にいた小蜘蛛を焼き払い、魔王本体の左側の脚を全て切断した。

「すっげえっスね。俺の出番なんてねぇっスよ、これは」

「感心してる場合かっ! 今のうちに魔王のとこに急げっ」
 
 シエラに蹴られ、走りだす。
 ブスブスと焼け焦げた道の上。俺を先頭に、シエラが後ろへぴったりとくっついている。その周囲は八つの分身でかためた。

 あと少し。あと少しで魔王の元まで。直接攻撃を叩き込むことが出来る。

 だが魔王の脚は再生し、それに合わせるようにまたバラバラと小蜘蛛が降ってくる。
 たちまちおぞましい化け物どもに囲まれた。

 八つの分身が炎や電撃で攻撃。
 爆音とともに小蜘蛛の脚や頭、内臓が飛び散る──が、まだまだ小蜘蛛は押し寄せてくる。その勢いに潰されそうになるが、分身が身体を張ってそれを押し止めた。 

 衝撃で八つの分身は消えた。再び小蜘蛛の奔流に飲み込まれそうになる。

 ズゴオッ、バガアッ、と十字型のエネルギー波が炸裂。この技は──。

「盟友と《女神》の危機に駆けつけましたよ。今度こそ魔王討伐に参加した我が名を覚えておいて下さい」

 黄金の鎧をまとった《神託者》ヨハン・ランメルツ。昨日ブッ飛ばしたばかりで顔の包帯が痛々しい。一応ゲートで喚び出したのだが、本当に協力してくれるかどうかは賭けだった。

 そしてさらに、ドガガガガッ、と複数の小蜘蛛を粉砕する影。かなりのスピードだ。

「テメー、こんな場所にいきなり喚び出しやがって……あとでブチ殺してやる」
 
 ゲートで最後に現れたのは──犯罪組織死灰蟲しかいちゅうのリーダー、《黒蜂》李秀雅イ・スアだ。

「溢忌っ、お前、なんちゅーヤツを喚び出してんだっ! アレ、敵じゃん! 100パー敵じゃんかっ!」

「いやぁ、強い人って思いついたのが、あの人だったんスよ。あ、ついに魔王に近づいたっスよ。これからどうするんスか」

「まずある程度ダメージを与えるんだっ! そしたらシエラが魔王を深淵に送り込むっ! そうやって浄化しないとすぐに再生しちゃうんだ。そこで勇者のお前がトドメを刺すんだっ!」

「深淵って、俺とシエラが最初に会った所っスよね。そんじゃ、魔王の真上まで飛ぶっスよ。しっかりつかまってて下さいっス」
 
 スキル飛翔レイヴンを使い、魔王の真上へ。改めて魔王のデカさに驚く。野球場ぐらいはあるのではないか。

 空中。そこからまずは強重力グラビトンを放つ。魔王の腹が地面にズシン、とついた。
 まずは動きを封じた。そこから──指先から炎弾を雨あられと撃ち込み、さらに雷光の矢ライトニングアロー、そして男の拳アイアンフィストを連続で叩き込んだ。

 魔王の巨体が上下に揺れ、頭部や腹部、脚が損傷。いける。俺の力は魔王に十分通用する……いや、シエラの言った通りだ。ダメージを受けたそばから再生をはじめている。

「ううぅ~、むむむ~っ、ふぐうぅぅ……」

 背中でシエラがうんうん唸っている。

「どうしたんスか、トイレっスか? 大きいほうっスね!」

「バカ、お前バカ! 願望の力を集中してるんだよっ! いくぞ、溢忌っ、最終決戦だっ!」

 シエラから放たれた光が魔王へと降り注ぐ。あの魔王の巨体が点滅するように消え、俺とシエラの姿も──。
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