異世界の餓狼系男子

みくもっち

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56 再戦

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 対する俺はゆっくりと歩きだす。
 戦棍メイスを振り下ろす騎士。俺の脳天に命中したが、戦棍メイスのほうが砕けた。コイツらの力は大体分かった。もう避けるのも面倒だ。

 手刀で心臓を貫く。倒れる騎士の腰から短剣を奪い、投げつけた。
 弓を引き絞っていた騎士の胸に突き刺さる。鎧をやすやすと貫通し、背中から飛び出した。

 火球が飛んでくる。バスケットボール大のヤツがいくつも。
 かまわず飛び込んだ。ボボボボッ、と火だるまになりながら腕を伸ばし、杖を持った騎士の首を掴み、押し倒す。
 トドメを──と思ったが、すでに首がおかしな方向に曲がっていた。

 ギャッ、と背中を斬りつけられた。  
 衝撃はあるが、すでに物理無効、魔法無効のスキルを持っている俺にダメージを与えることは出来ない。願望の力はそこまで回復した。
 
 残るはふたり。どちらも剣を持っている。ひとりは袈裟懸けに。もうひとりは心臓に刺突。どちらもまともに入るが──蚊に刺された程も感じない。
 ボッ、と二発の拳打で済んだ。
 ひとりの胸を鎧ごと砕く。もうひとりは頭部だけ吹っ飛んでいった。

 これで敵の指揮官は全員倒した。残るは兵士のみだが……。
 すでに軍勢は退却をはじめていた。追撃して全滅させるのは簡単だが、そこまでする必要はない。

「お見事です、溢忌様。たったひとりでクロワ軍を撃退するとは。しかも敵の指揮官だけを倒し、犠牲を最小限に留めた。わたしが持っていたデータ以上の能力です。アップデートしておきます」

 シトライゼが無表情で拍手している。全然褒められている気がしない……。

「それよりこれからどうするんスか。あんな軍なんかより荒木とか、術にかけられたシエラ達を助けるほうが厄介っスよ」

「相手は今の敗戦で浮き足だっています。領主のヨハンもあなたがそこまで力を取り戻しているとは思ってないでしょう。攻めるなら今です。荒木の力はまだ未知数ですが、今のあなたなら必ず勝てます」

 シトライゼの脚がカシャカシャと変形。
 足の底がローラーブレードの形に。

「つかまってください」

 返事を待たず、シトライゼは俺を抱えあげて急発進。

「ちょい待っ──さっき城から逃げてきたばかり──」

 ゴッ、と爆発的な推進力。まるでロケットにくくりつけられているようだ。

 先程の軍勢。退却途中の兵士たちにもう追いついた。
 兵士たちが驚いて軍勢がふたつに割れる。その中を突っ切っていく。

 クロワの城が見えた。用意はいいですか、とシトライゼが聞いてくる。はぁ? と聞き返してる間に両手で持ち上げられた。

「距離、放物線軌道計算完了。スピードは……OK。これでいきます」

 イヤな予感しかしない──シトライゼは俺を丸太のように放り投げた。
 
 マジか。まさか砲弾がわりにするとは。以前、シエラを人間魚雷にした覚えがあるが、まさか自分が同じ目にあうとは思わなかった。
 
 ドゴオォッ、と城の正面門をブチ破る。中にいた数人の兵が吹き飛んだ。

「テメエッ、逃げたと思ったら、わざわざやられに戻ってくるとはなぁっ!」
 
 目の前には荒木。ちょうどいい。ここで決着をつけてやる。
 俺と荒木の拳が炸裂。ゴゴオッ、と床と周りの壁に亀裂が入る。

 互いの両手をガシィと握り、手四つ状態。
 その横を滑るようにシトライゼが通り抜けた。

「あのふたりの姿が見えません。城の中を探してきます」

 シエラとイルネージュのことだ。たしかにここはシトライゼに任せたほうがいい。

「任せたっスよ。俺はコイツをどうにかするっス」

「ある程度は力が回復したみてぇだな。だがなあ、テメーがベストな状態だろうと、俺が負けるわけはねえっ!」

 荒木はシトライゼを無視。さらに両手に力を込めてくる。

 壁の亀裂は天井まで達し、石片がパラパラと落ちてくる。このままでは崩壊しかねない。
 俺はズッ、と体勢を沈め、巴投げの要領で荒木を投げ飛ばした。

 外へ飛び出した荒木に向け、ドドドドッ、と炎弾を放つ。
 さらにスキル超加速アクセルを発動。
 宙に浮いた状態の荒木に炎弾が連続で命中している。

 そこへ──拳打。顔面にまともに入った。背後へまわり、蹴り。超高速で動く俺に荒木はなす術もない。
 トドメとばかりに肘を打ち下ろ──頭に衝撃。凄まじい勢いで地面に叩きつけられたのは、俺のほうだった。

 バカな……ダメージもある。物理無効をしている。なんらかのスキル効果か。

「テメーのクソスキルは通用しねーっつっただろうが。試してみろよ、全部まとめて潰してやるからよ」

 荒木は空中に静止したままリーゼントを整えている。
 俺は減速スローを放ったあと、再び超加速アクセルを使った。これなら手も足もだせないはず──。

 だが、吹っ飛んでいたのは俺のほうだ。
 何度も地面をバウンドし、ゴロゴロと転がる。

 減速スローはかなり強めにかけた。あれは個体ではなくまわりの空間に干渉しているから、たとえ相手が状態異常無効の能力を持っていても通じるのに……。
 超加速アクセルもまったく通用していない。視認する事すら出来ないはずだ。

「ムダだぜ。俺がいくつチートスキル持ってると思ってんだ。しかもテメーのより強力だぜっ!」

 地上に降りた荒木が一直線に向かってきた。
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