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53 真実?
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シエラとイルネージュ……無事だったのか。いや、様子がおかしい。何の反応も示さない。俺には気付いているはずなのにこちらを見てもいない。
虚ろな視線、ぼうっとした表情。そもそも、その黒ずくめの修道服、ヨハンと同じ首からさげたロザリオ……ひどく違和感のある格好だ。
「シエラ、説明してくださいっスよ。俺が本物の勇者だってことを。イルネージュもなんかおかしいっスよ」
呼びかけてみる。シエラはギ、ギギ、と首だけをこちらに向けて口を開いた。
「本物の勇者はアンタじゃなかった……こっちの荒木賀地男が真の勇者。アンタのほうが偶然巻き込まれたの。チートスキルを得られるのも巻き込まれた影響に過ぎない。アンタは偽者、紛い物……」
「ちょ、何言ってるんスか。今まで一緒に旅してきたじゃないっスか。シエラが言ったんスよ、俺が世界を救う勇者だって」
「しつこい。《女神》のシエラさんがそう言ってるんだから、間違いないのに。ここにいる誰もがあなたなんか認めてないのに、まだ自分が勇者だなんて……気持ち悪い」
イルネージュから信じられない言葉が飛び出す。俺が驚きで口ごもっている間にヨハンが荒木の横まで近づいていた。
「真実とは残酷なもの。これ以上傷つく前にこの国を去りなさい。それがキミにとって最良の選択だと思うがね」
「惨めなモンだな。ボコボコにしてやろうと思ったが、そんな気も失せたぜ。こっちのデカチチは俺の女にしてやるからよ。テメーは安心してどこへでも行けよ」
荒木が見下ろしながら笑う──俺は剣を抜いた。
願望の力はまだ戻っていないが、この神器練精で作った武器ならば、今の俺でも高威力の攻撃が出せるはず。
俺を捕らえた時点で装備を外していなかったそっちがマヌケなのだ。
荒木を袈裟懸けに斬り落と──ガチイッ、と拳で弾かれた。
バカな、このガラティーンを素手の拳で……。
「バカが。武器を奪ってねえのは、ハナから通じねえからだよ。この俺の男の拳にはなぁ」
荒木が拳を振り下ろす。盾で受け止めるが──長椅子をいくつも破壊しながら俺は吹っ飛んでいた。
床に叩きつけられる前になんとか体勢を立て直し、着地。だが、荒木も目の前に迫っている。
大振りのアッパー。これも盾でなんとか防ぐ。いや、鈍い音とともに盾が割れた。
「テメーのチンケなスキルなんぞいらねぇが、歯向かうんならやっちまうぞ、コラァッッ!」
前蹴りが飛んでくる。屈んでかわし、剣で反撃。
「オラアッッ!」
荒木に触れていないのに衝撃。扉をぶち破り、俺は城の外まで吹き飛ばされた。こいつは……気合いだけで攻撃してきたのか。
「どうだ、俺のメンチ切りはよォ。テメーはどの世界でも同じだ。俺に痛めつけられるだけな無力な存在なんだよ」
くそ……ダメージがある。基本的な能力値も低くなっているのか。回復もしない。
ステータスウインドウすら開く事ができない。あの瞬間移動のスキル……やはり慎重に使わなくてはいけなかった。
「これでシメーだっ! くたばりやがれェッ!」
荒木が跳躍。闘気を全身にまとい、そのまま体当たりするつもりだ。
だが、空中の荒木にドドッ、ドンッ、と何かが飛んできて爆発する。
荒木は煙を出しながら落下。唖然とする俺の襟首を誰かが掴む。
「えっ、な、誰っスか」
振り向く間もなくズザアアアーッ、と引きずられてその場を離れた。
──乱っ、暴っ、だっ。
俺の身体は地面のデコボコや石にしこたま打ちつけられる。
それから10分ほども疾走。城からだいぶ離れたところでようやく解放された。その時も物を放り投げるようなぞんざいな扱いだが。
「なんなんスか、いったい……」
ムカッとしながら振り向くと、そこにいたのは──ちょいとえっちいアニメに出てきそうな、ムッチムチの赤いハイレグのボディスーツに身を包んだ女性。
オレンジ色のおかっぱ頭に、海外の近未来SFに出てきそうな、ちと濃い顔。
俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《願望式人型戦闘兵器》シトライゼ。
シトライゼは尻餅ついている俺を見下ろしながら言った。
「葉桜溢忌様ですね。我がマスター、カーラの命によりあなたを助け出しました」
感情のこもっていない棒読みセリフ……いや、それより……カーラの名が出た。もしやギルド【ブルーデモンズ】のメンバーか。
「もしかして遠方に行っていたメンバーのひとりって、アンタのことっスか」
ブルーデモンズには5人のチートスキル所持者がいた。
ヒューゴにネヴィア、伊能。まだ能力の分かっていない楊永順。そしてもうひとりが──このシトライゼか。
「そうです。このクロワの情勢と、あの新たに勇者だと名乗る男、荒木の事を調べていました」
「でも、俺は伊能の口車に乗ってブクリエの領主になっちまったんスよ。カーラは怒ってないんスか」
シトライゼは首を横に振りながら、いいえ、全然と答えた。
シトライゼの右腕がギュルルルと回転。バカッ、と外れて中身は──機械。まさか、ロボットの願望者とでもいうのか。
外した腕の中に小型のロケット弾を装填している。さっき荒木に打ち込んだヤツか。
この異世界でこんな戦闘ロボットみたいなのは認識されにくいはずだ。
かなりの願望の力の持ち主ということになる。
虚ろな視線、ぼうっとした表情。そもそも、その黒ずくめの修道服、ヨハンと同じ首からさげたロザリオ……ひどく違和感のある格好だ。
「シエラ、説明してくださいっスよ。俺が本物の勇者だってことを。イルネージュもなんかおかしいっスよ」
呼びかけてみる。シエラはギ、ギギ、と首だけをこちらに向けて口を開いた。
「本物の勇者はアンタじゃなかった……こっちの荒木賀地男が真の勇者。アンタのほうが偶然巻き込まれたの。チートスキルを得られるのも巻き込まれた影響に過ぎない。アンタは偽者、紛い物……」
「ちょ、何言ってるんスか。今まで一緒に旅してきたじゃないっスか。シエラが言ったんスよ、俺が世界を救う勇者だって」
「しつこい。《女神》のシエラさんがそう言ってるんだから、間違いないのに。ここにいる誰もがあなたなんか認めてないのに、まだ自分が勇者だなんて……気持ち悪い」
イルネージュから信じられない言葉が飛び出す。俺が驚きで口ごもっている間にヨハンが荒木の横まで近づいていた。
「真実とは残酷なもの。これ以上傷つく前にこの国を去りなさい。それがキミにとって最良の選択だと思うがね」
「惨めなモンだな。ボコボコにしてやろうと思ったが、そんな気も失せたぜ。こっちのデカチチは俺の女にしてやるからよ。テメーは安心してどこへでも行けよ」
荒木が見下ろしながら笑う──俺は剣を抜いた。
願望の力はまだ戻っていないが、この神器練精で作った武器ならば、今の俺でも高威力の攻撃が出せるはず。
俺を捕らえた時点で装備を外していなかったそっちがマヌケなのだ。
荒木を袈裟懸けに斬り落と──ガチイッ、と拳で弾かれた。
バカな、このガラティーンを素手の拳で……。
「バカが。武器を奪ってねえのは、ハナから通じねえからだよ。この俺の男の拳にはなぁ」
荒木が拳を振り下ろす。盾で受け止めるが──長椅子をいくつも破壊しながら俺は吹っ飛んでいた。
床に叩きつけられる前になんとか体勢を立て直し、着地。だが、荒木も目の前に迫っている。
大振りのアッパー。これも盾でなんとか防ぐ。いや、鈍い音とともに盾が割れた。
「テメーのチンケなスキルなんぞいらねぇが、歯向かうんならやっちまうぞ、コラァッッ!」
前蹴りが飛んでくる。屈んでかわし、剣で反撃。
「オラアッッ!」
荒木に触れていないのに衝撃。扉をぶち破り、俺は城の外まで吹き飛ばされた。こいつは……気合いだけで攻撃してきたのか。
「どうだ、俺のメンチ切りはよォ。テメーはどの世界でも同じだ。俺に痛めつけられるだけな無力な存在なんだよ」
くそ……ダメージがある。基本的な能力値も低くなっているのか。回復もしない。
ステータスウインドウすら開く事ができない。あの瞬間移動のスキル……やはり慎重に使わなくてはいけなかった。
「これでシメーだっ! くたばりやがれェッ!」
荒木が跳躍。闘気を全身にまとい、そのまま体当たりするつもりだ。
だが、空中の荒木にドドッ、ドンッ、と何かが飛んできて爆発する。
荒木は煙を出しながら落下。唖然とする俺の襟首を誰かが掴む。
「えっ、な、誰っスか」
振り向く間もなくズザアアアーッ、と引きずられてその場を離れた。
──乱っ、暴っ、だっ。
俺の身体は地面のデコボコや石にしこたま打ちつけられる。
それから10分ほども疾走。城からだいぶ離れたところでようやく解放された。その時も物を放り投げるようなぞんざいな扱いだが。
「なんなんスか、いったい……」
ムカッとしながら振り向くと、そこにいたのは──ちょいとえっちいアニメに出てきそうな、ムッチムチの赤いハイレグのボディスーツに身を包んだ女性。
オレンジ色のおかっぱ頭に、海外の近未来SFに出てきそうな、ちと濃い顔。
俺の頭の中にダダダダ、と文字が打ち込まれた。
《願望式人型戦闘兵器》シトライゼ。
シトライゼは尻餅ついている俺を見下ろしながら言った。
「葉桜溢忌様ですね。我がマスター、カーラの命によりあなたを助け出しました」
感情のこもっていない棒読みセリフ……いや、それより……カーラの名が出た。もしやギルド【ブルーデモンズ】のメンバーか。
「もしかして遠方に行っていたメンバーのひとりって、アンタのことっスか」
ブルーデモンズには5人のチートスキル所持者がいた。
ヒューゴにネヴィア、伊能。まだ能力の分かっていない楊永順。そしてもうひとりが──このシトライゼか。
「そうです。このクロワの情勢と、あの新たに勇者だと名乗る男、荒木の事を調べていました」
「でも、俺は伊能の口車に乗ってブクリエの領主になっちまったんスよ。カーラは怒ってないんスか」
シトライゼは首を横に振りながら、いいえ、全然と答えた。
シトライゼの右腕がギュルルルと回転。バカッ、と外れて中身は──機械。まさか、ロボットの願望者とでもいうのか。
外した腕の中に小型のロケット弾を装填している。さっき荒木に打ち込んだヤツか。
この異世界でこんな戦闘ロボットみたいなのは認識されにくいはずだ。
かなりの願望の力の持ち主ということになる。
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