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47 決闘前夜
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その日は街に戻る事なく、城の一室に泊まる事になった。
俺は部屋に入ると同時に伊能を問い詰める。
「どういうことっスか。いきなり俺が新しい領主だなんて……あのミリアムとかいう人もおかしいっスよ」
「ああ、お前さんが思っている通り……ミリアムは俺の計画の協力者だ。ヤツを通じて城の人間にはほとんど俺の……いや、お前さんの味方だ。心配するこたぁねえ」
「心配とかじゃなくて、俺なんか領主なんてムリっスよ。わけ分かんないっスね。普通、あのアドンの兄弟とか親戚とかが候補に挙がるもんっスよね」
「いやあ、この世界はそこまで血縁にこだわりはねえしな。特に願望者は子供が作れねえ。まあ、アドンは普通の人間だが。アイツは領主になる前からジャマな兄弟やら近縁の者は始末したり追放したりしてるんだぜ。俺はその頃から目を付けてたってわけさ」
「この国を乗っ取るつもりっスか。でも、どうやってあのミリアムを味方につけたんスか」
「楊っ、ていたろ。俺の部下の猫耳のヤツ。アイツを潜入させてまあ、いろいろとな。アドンが領主になってまだ安定していない時期に接触して揺さぶりをかけたわけさ。このままじゃブクリエはヤベエってな。それから時間はかかったが……あとは新たに担ぎ上げる人物だけという段階まではこぎ着けた」
「それで俺に目をつけたってわけっスか」
「そうさ。世界を救うと言われている勇者……これ以上担ぎ上げるのに便利な人間はいねえだろ。いや、悪い意味じゃねえぜ。お前さんなら民衆も納得するし、諸国もうかつには手を出せねえだろう」
「……ちょっと待つっス。あの楊って少年はこの国が軍事行動起こしそうなんで調査員として潜入したんスよね。それで行方不明になったんじゃなかったんスか。なんか、この国を混乱させる為の工作員に聞こえるんスけど」
「ん、そうさ。はじめから方便だよ。行方不明ってのも、俺がここに来る為のウソさ」
しれっと答える伊能。それなら──ギルド長、カーラはこの事を知っているのか。
「この計画は俺が独断で進めてた事だ。カーラも知らねえ。詳しく知ってんのは楊とミリアム。あとはミリアムの直属の部下数人ってところか。無論、この計画がうまくいけば俺と楊はギルドを抜ける。いや、失敗したとしてもか。こんな事、知られたらあの魔女に殺されちまう。勇者殿、いざっつー時は守ってくれよな」
「アンタ……ギルドを裏切るつもりっスか。なんでそこまでして……」
聞くと伊能は俺の襟首を掴み、グイッ、と顔の近くまで引き寄せる。
「笑うなよ……。この世界の為だよ。この世界に王はいねえ。有象無象の国が乱立している世界じゃあ争いは無くならねえし、魔物を倒すための協力も出来やしねえ。だからだ。王が必要なんだよ、この世界には。絶対的な力を持ったな」
「それが俺だっていうんスか」
「そうだ……お前さんは王になるにふさわしい力を持っている。時間はかかるし、人も大勢死ぬだろう……だが、俺は手段は選ばねえ。お前さんを必ず王にする」
買いかぶりだ。たしかに他の願望者に比べ、ケタ違いの力を持ってはいるが……領主とか王の資質は自分にはないと思う。
俺が否定しようとする前に伊能は手を離し、部屋の出口へ向かった。
「今日はもう休みな。明日は見せてくれよな。格の違いってヤツを」
次の日の朝──街の広場では、すでに大勢の人々が集まっていた。
円を描くようにぐるりと柵で囲み、外側では兵士達が等間隔で立っている。
特設の観客席が高い土台の上に造られており、そこにはミリアムと数人の高官の姿。
「じゃあな、俺はあそこで見てるからよ。ああ、問題はねえとは思うが……一応用心しなよ。あのマックス……お前さんを相手にあの落ち着きよう。あの顔は自棄になったヤツの顔じゃねえ」
伊能が顔を近づけて囁く。マックスはすでに柵の中。前に見た白い鎧に身を包んだ姿。もうケガは癒えたのだろうか。
たしかにその表情には余裕を感じられる。
「アイツはたしかに超級魔物には歯が立たなかったが、対人戦では負け知らずだ。何か秘策があるかもしれねえ。頼むぜ、勇者殿。万が一にもここでつまずくわけにはいかねえからな」
伊能が背中をバンと叩く。俺はやれやれと前に進んだ。
多くの観衆の中を兵士が先導して道を開けさせる。領主様、溢忌様、と声援が投げかけられる。
なんだか妙な気分だ。本来なら伊能と共謀して領主を殺した──と言われても仕方のない立場なのだが。
その前領主の国を守ろうとしている忠臣マックスが逆に罵声を浴びせられている。役立たず、引っ込め、新領主様に逆らうな、と。
柵の入り口が開けられ中へ入ろうとした時、ゴスン、と脇腹をなぐられた。
「溢忌~、シエラが知らない間に急展開迎えやがって。まあいいけど。やるからには勝てよ!」
赤髪の少女──《女神》シエラだ。すぐ後ろには心配顔のイルネージュ。何か喋ろうとしてわたわたしているが……。
「あっ、あの……よく分からないですけど、が、頑張ってください!」
俺は頷き、柵の中へ。周りの観衆がワアアア、と歓声をあげる。
ミリアムが人々に向けて改めて決闘をする事になったいきさつを説明。俺が勝てば新領主誕生だと宣言した。
決闘場の中央で俺とマックスは睨み合う。相手は背が高いので俺は見上げるような状態だが。
手を伸ばせば触れそうな位置。あとは……試合開始の合図を待つだけだ。
俺は部屋に入ると同時に伊能を問い詰める。
「どういうことっスか。いきなり俺が新しい領主だなんて……あのミリアムとかいう人もおかしいっスよ」
「ああ、お前さんが思っている通り……ミリアムは俺の計画の協力者だ。ヤツを通じて城の人間にはほとんど俺の……いや、お前さんの味方だ。心配するこたぁねえ」
「心配とかじゃなくて、俺なんか領主なんてムリっスよ。わけ分かんないっスね。普通、あのアドンの兄弟とか親戚とかが候補に挙がるもんっスよね」
「いやあ、この世界はそこまで血縁にこだわりはねえしな。特に願望者は子供が作れねえ。まあ、アドンは普通の人間だが。アイツは領主になる前からジャマな兄弟やら近縁の者は始末したり追放したりしてるんだぜ。俺はその頃から目を付けてたってわけさ」
「この国を乗っ取るつもりっスか。でも、どうやってあのミリアムを味方につけたんスか」
「楊っ、ていたろ。俺の部下の猫耳のヤツ。アイツを潜入させてまあ、いろいろとな。アドンが領主になってまだ安定していない時期に接触して揺さぶりをかけたわけさ。このままじゃブクリエはヤベエってな。それから時間はかかったが……あとは新たに担ぎ上げる人物だけという段階まではこぎ着けた」
「それで俺に目をつけたってわけっスか」
「そうさ。世界を救うと言われている勇者……これ以上担ぎ上げるのに便利な人間はいねえだろ。いや、悪い意味じゃねえぜ。お前さんなら民衆も納得するし、諸国もうかつには手を出せねえだろう」
「……ちょっと待つっス。あの楊って少年はこの国が軍事行動起こしそうなんで調査員として潜入したんスよね。それで行方不明になったんじゃなかったんスか。なんか、この国を混乱させる為の工作員に聞こえるんスけど」
「ん、そうさ。はじめから方便だよ。行方不明ってのも、俺がここに来る為のウソさ」
しれっと答える伊能。それなら──ギルド長、カーラはこの事を知っているのか。
「この計画は俺が独断で進めてた事だ。カーラも知らねえ。詳しく知ってんのは楊とミリアム。あとはミリアムの直属の部下数人ってところか。無論、この計画がうまくいけば俺と楊はギルドを抜ける。いや、失敗したとしてもか。こんな事、知られたらあの魔女に殺されちまう。勇者殿、いざっつー時は守ってくれよな」
「アンタ……ギルドを裏切るつもりっスか。なんでそこまでして……」
聞くと伊能は俺の襟首を掴み、グイッ、と顔の近くまで引き寄せる。
「笑うなよ……。この世界の為だよ。この世界に王はいねえ。有象無象の国が乱立している世界じゃあ争いは無くならねえし、魔物を倒すための協力も出来やしねえ。だからだ。王が必要なんだよ、この世界には。絶対的な力を持ったな」
「それが俺だっていうんスか」
「そうだ……お前さんは王になるにふさわしい力を持っている。時間はかかるし、人も大勢死ぬだろう……だが、俺は手段は選ばねえ。お前さんを必ず王にする」
買いかぶりだ。たしかに他の願望者に比べ、ケタ違いの力を持ってはいるが……領主とか王の資質は自分にはないと思う。
俺が否定しようとする前に伊能は手を離し、部屋の出口へ向かった。
「今日はもう休みな。明日は見せてくれよな。格の違いってヤツを」
次の日の朝──街の広場では、すでに大勢の人々が集まっていた。
円を描くようにぐるりと柵で囲み、外側では兵士達が等間隔で立っている。
特設の観客席が高い土台の上に造られており、そこにはミリアムと数人の高官の姿。
「じゃあな、俺はあそこで見てるからよ。ああ、問題はねえとは思うが……一応用心しなよ。あのマックス……お前さんを相手にあの落ち着きよう。あの顔は自棄になったヤツの顔じゃねえ」
伊能が顔を近づけて囁く。マックスはすでに柵の中。前に見た白い鎧に身を包んだ姿。もうケガは癒えたのだろうか。
たしかにその表情には余裕を感じられる。
「アイツはたしかに超級魔物には歯が立たなかったが、対人戦では負け知らずだ。何か秘策があるかもしれねえ。頼むぜ、勇者殿。万が一にもここでつまずくわけにはいかねえからな」
伊能が背中をバンと叩く。俺はやれやれと前に進んだ。
多くの観衆の中を兵士が先導して道を開けさせる。領主様、溢忌様、と声援が投げかけられる。
なんだか妙な気分だ。本来なら伊能と共謀して領主を殺した──と言われても仕方のない立場なのだが。
その前領主の国を守ろうとしている忠臣マックスが逆に罵声を浴びせられている。役立たず、引っ込め、新領主様に逆らうな、と。
柵の入り口が開けられ中へ入ろうとした時、ゴスン、と脇腹をなぐられた。
「溢忌~、シエラが知らない間に急展開迎えやがって。まあいいけど。やるからには勝てよ!」
赤髪の少女──《女神》シエラだ。すぐ後ろには心配顔のイルネージュ。何か喋ろうとしてわたわたしているが……。
「あっ、あの……よく分からないですけど、が、頑張ってください!」
俺は頷き、柵の中へ。周りの観衆がワアアア、と歓声をあげる。
ミリアムが人々に向けて改めて決闘をする事になったいきさつを説明。俺が勝てば新領主誕生だと宣言した。
決闘場の中央で俺とマックスは睨み合う。相手は背が高いので俺は見上げるような状態だが。
手を伸ばせば触れそうな位置。あとは……試合開始の合図を待つだけだ。
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